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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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45 ドラゴンブレスユー

「散々な目にあいましたね」

 カラコさんはギルド併設の安食堂で昼からステーキを食べている。


「次は北に行こう。もう西はこりごりだ」

 昼なのに昼休憩にしようとか2人とも言いださないことが廃人の利点だな。


「ちょっと昼ログアウトしてきます。少し待っててくれますか?」

 な、何だと?


 いや、カラコさんは俺のような本格的に終わった廃人ではない。リアルでもキチンと食べないと成長しないだろう。

 是非とも沢山食べて成長して欲しいものだ。というよりカラコさんは何歳なんだろう。中学生かな?


「30分ほどで戻ってきます」

「じゃあ、30分後にギルドで会おう」

 食べ終わるとカラコさんはログアウトしていった。

 女性特有の血祭りの日という可能性もあるな。俺は詳しくは知らないので何もわからないが。


 あと少ししたらヴィルゴさんがログインしてくるはず。そしたら北へ向かおう。

 問題はそれまでの時間何をして時間を潰すか、だ。

 ポーションを作るためのヤク草はもうない。そして東に採取に行くこともできない。

 アイテム欄にやたらあるのがドク草。

 後スライムの粘液もある。

 そしてルーカスさんから貰った店の住所の紙もある。

 たぶんNPCとの友好度をここまで上げたのは俺だけだろう。

 何かスキルが取れれば良いのだが。

 というかどんな店なのかも知らない。ゴブリン肉が調理できる所って言ってたな。顔だけ出しておこうか。30分で行って帰るぐらいでき……ないな。

 俺のことだからズルズルいって迷惑かけそうだ。イベント終わってからにしよ。


 しかしそうなると暇だ。


「すみません。魔法を試し撃ち出来る場所ってありませんか?」

『冒険者様の


階級

ランク

はFなので有料となりますが』

「結構です」

 何が悲しくてわざわざフィールドに出れば試せることを金を払ってまでしなければならないのだろうか。狩人ギルドでは教官役までいてタダなのに。


 どうするか 暇になった この時間 ただ空を見て ため息ばかり


 もしかしたら俺って才能あるかもしれない。短歌っていうスキルないのかな。効果は……作った短歌を……思いつかないな。


 そんなことを考えていると俺の足元に1匹のウサギが……ウサギってこんなに筋肉あったっけ?


「暇そうだな。カラコちゃんはどうした」

 ヴィルゴさんがログインしてきた。


「少しログアウトするって。というかラビってこんなに大きかったっけ?」

 俺の足に体をこすりつけてくる猫みたいなことをしているラビは二本足で立ったら小さな子供ぐらいの身長になっていた。筋肉ももちろんある。特に足が凄い。

 そして筋肉を触ろうとしたらその手をすり抜けてヴィルゴさんの元へと行く。猫か、お前は。ウサギだったら大人しく触らせろよ。

 俺が大人しく触らせろとか言うとセクハラしてるように聞こえる? 残念ラビは雄だ。確認したわけではないけどこの精悍な顔立ちは雄にしか見えない。

 雌だったらごめんなさい。


「最近バトルラビットになってな。蹴りを主体とした戦い方をするようだ」

 少し見ないうちに……いつ変化したんだろう。


 カラコちゃんがログアウトしてるならシノブもログアウトしろよ……というヴィルゴさんの言葉は聞こえなかった。あーあー、聞こえないー。



 わかってる。わかってるんだよ。本当はログアウトして何か食べた方がいいってことは。


 しかしできない。やろうとしないのが廃人の恐ろしさだ。普通なら2時間に1回は休憩とか何だけどな。俺のパーティーマジスパルタ。てか廃人。まさか全員トイレに行かなくて良い環境とかなのか!?



「カラコさんが新しい武器を手に入れたとかで西に行ったんだけどこれが散々でさ……」


 ヴィルゴさんに西のことを話す。

 すると重要なことがわかった。



 種族によって暑さ寒さの感じ方が違う。

「私は暑いのにも寒いのにも耐えれるけどな」


 モフモフで暑苦しそうだがライオンっぽいから大丈夫なのだろう。


 俺は木だけど……どうなのだろう。カラコさんみたいな機械は熱に弱そうな感じはする。充電しようとして電子レンジに入れたら爆発しそうな感じだな。

 俺でも爆発するか。



 まあ、それは置いといて。

「短歌ってスキル知ってるか?」

「知らないな。取得できたのか?」

「聞いてみただけだ」

 やはりないのか。運営は俺みたいな風流な人のために作った方が良いと思う。次回のアップデート期待してます。



 ヴィルゴさんと話しているうちにカラコさんが帰ってきた。1日の48分の1が終わったわけだ。速いな。



「お待たせしました」

「大丈夫だ。私も来たばかりだからな」

 全然来たばかりじゃないと思うがこういうものも気配りなのだろう。気配りというより待ち合わせテンプレかな?


「じゃあ、どこに行きましょうか」

「北1択」

「私もそれでいいぞ」



 恒例のカニ討伐のクエストを受けて出発する。甲殻と鋏と肉がまた溜まっていくな。



 山を登っていくとあるところに凄い大きさのクレーターができてるのを見て申し訳なく思う。小さな魔法のクレーターなどは直ぐに戻ってしまうがこのぐらいの大きさだと中々元には戻らないだろう。


 カニが出た。

「私1人でやってみます。危なくなったら介入してください」

 カラコさんはそう言うとカニめがけて走り出した。


 カニは2匹。

 カラコさんなら余裕で倒せるはず。危険察知で後ろに回られても寸前に気づくことができる。

 というよりブレスを手から出すってどんなのか凄い気になる。手のひらからビームを出すみたいになるのかな。


 カニがカラコさんに気づき、鋏を上げて威嚇をしてくる。

 カラコさんは刀を出さずに両手を2匹のカニに向ける。

 二の腕の部分が変形し、砲身が出てくる。

 カニ達が迫るよりも早くカラコさんの腕の部分から紫色のドラゴンブレスが出てくる。


 大蜥蜴の毒ブレスはカニのHPをゴリゴリ削りとっていく。



 なんというか。凄い笑える。

 スピードタイプのカラコさんが突っ立って腕を上げているだけ。

 遠見があるから見えるが本人もコレジャナイって顔をしている。


「スピードタイプのカラコちゃんと継続ダメージのドラゴンブレスは相性が悪いな」

 ヴィルゴさんの言う通りだ。カラコさんには素早いものが合うだろう。


 ドラゴンブレスが終わった時には2匹のカニは瀕死状態になっており、カラコさんが回避しているうちに毒状態で死亡した。

 威力は申し分ないな。



「刀が効きにくい時のサブウェポンとして使うつもりでしたが……無理ですね。今度改良してもらいます」

 それがいい。



「俺も新しい呪文があるんだ」

「火魔法ですか?」

 何でわかったの怖い。

 二分の一の確率で当たるから適当と言ってしまえばそれまでだが、カラコさんなら俺がどのレベルぐらいなのか予想をつけていてもおかしくない。


「次のカニが出た時にもしかして俺でもわからない呪文を発動させるから、俺の補助がなくなるかもしれない。それを先に言っとく」

 ここは魔法を使える俺がいないと厳しいフィールドだ。

 俺がいなくてもカニぐらいならこの2人でどうにかできそうだが、ゴーレムとか来たらキツイだろう。


 ファイアソードで回復や補助だったら運営に物申したい。



「お、カニがいるぞ」

 ヴィルゴさんに先に見つけられたが、ここは張り合えない。俺は視野に入らなければ見つけられないが、ラビは音でわかるのだ。モフモフしていたラビは今は昔。二本足で歩く筋肉質なウサギになってしまっている。カラコさんが一歩引くほどだ。態度が変わらないヴィルゴさんが凄い。可愛いって言えば可愛いけどさ。


 カニは4匹。こんだけいれば一気にやられず、他に呼び寄せてくれるだろう。


 ヴィルゴさんが盾を構え、カラコさんとラビが前線に走っていく。

 カラコさんは回避主体で関節部分狙い。ラビは……甲羅にヒビ入れてる。何それ怖い。


 さて、新魔法。ファイアソードを試してみるか。


「ファイアソード!」

 俺の手に炎の剣が現れる。

 何これ。

 何で近距離でしか使えないような魔法なの? 魔法戦士優遇かよ! 俺みたいなやつには使えない。


 対多数の新しい魔法かと思ったのに。

 いや、対多数はエクスプロージョンがあるか。俺が欲しいのは地雷型の魔法だな。まず最初にそれを放ち、その地雷を壁にして弓を放つ。俺の近くまで来たとしても弓のダメージと魔法で死亡。

 火魔法で将来取れそう。土魔法かもしれないが。


 今はカニに集中すべきだな。

 思ったよりラビが強い。カラコさんとの連携攻撃でもう1匹が沈んでいる。相手の鋏のなぎ払いを蹴りで相殺してたりするのだ。もちろんダメージは負っているが。減ったHPは減った端からヴィルゴさんに回復されている。


 カラコさんは斬れ味が高く折れやすい刀を使っているからカニの甲羅を破れない。ラビは上手く自らの体を大剣のように扱っている。


 開いていた弓を構える。

「装填、破壊、ファイアショット!」

 それほど距離も離れているわけでもないので、避けられることはないだろうしな。

 1匹の甲羅を貫通する。一体破壊は何を増やすのだろうか。破壊力?


 もちろん一撃死だ。

 加速はわかりやすいんだけどな。

 付加は魔法の威力を高めて、破壊は物理的な矢の攻撃力を上げるといのが妥当かな。


「装填、付加、ファイアショット」

 矢がカニに突き刺さり爆発を起こす。もちろんカニは爆死を遂げた。

 雑魚などもう俺の敵ではないな。



「シノブさん、1匹は残しておいてください!」

 言われなくともわかっているよ。

 カニは地面を叩き始め、新たに2匹が追加される。



 2匹を俺が仕留め、1匹をラビが倒した。



「新しい呪文。どうでしたか?」

「炎の剣を作る。近接戦闘向きだな。よほど近づかれない限り使わないだろう」

 狙撃手ならば使うことなどないはずだ。


 本当は狙撃手らしくパーティーの目にも入らないところで、ピンチになった時に弓でサポートしたい。でも移動時間が1人っていうのは暇だからな。



「じゃあ、行けるところまで上に行きましょうか」


 俺達はカニやカメを薙ぎ払いながら上へと進む。



《戦闘行動により【狙撃Lv10】になりました》

《戦闘行動により【遠見Lv10】になりました》


 カンストかな? それともインフォに何もでないからカンストでも何でもないのだろうか。

 スキルごとにカンストが違うとしても早すぎるからな。



「ゴーレムです!」

 岩でできたゴーレムが俺達の前に現れた。


 物理攻撃無効なゴーレム。俺の出番だな。

「ウッドバインド! グロウアップ!」

 ゴーレムの足に木が絡み、それが腰の辺りまで伸びる。


「串刺しになってろ! バンブースピア!」

 足から頭まで竹がゴーレムを貫通した。

 ゴーレムはずるずると体の一部をボロボロとこぼしながら、木と竹の拘束を抜けだそうとしている。なぜ俺が弓で爆散させなかったのか。


「ファイアソード」

 男なら剣を使ってみたいじゃん。しかも燃える剣だぜ? カッコイイにもほどがあるって。男には剣で燃える人と銃で燃える人がいるらしいが俺は断然剣派だ。

 剣道をしたことがあるわけでもなく、運動ができるわけでもない。しかしやってみたいのはやってみたい。


「シノブさん。危ないですよ!」

「カラコさん、止めるな! これは男と男の魂をかけた戦いなんだ!」

「意味がわかりません。ゴーレムに性別はありませんよ」

 そう言うカラコさんをヴィルゴさんがそっと手で押しとどめた。


「女には馬鹿をしているように見えるがな。男っていうものは馬鹿な生き物なんだよ」

 何か良いこと言ってるみたいだけど。男は馬鹿って言ってるだけ。何のフォローにもなってない!


「は、はぁ」

 ほら、カラコさんも、何いってんの? って顔してるし。



 そんなやりとりをしている間にも俺は走り、ゴーレムの背後にまわる。顔がないのでどちらが後ろかはわからないが、関節から見て後ろだろうと思うところへまわった。

 後ろからめったやたらに斬り付ける。


「オラオラオラオラオラオラオラァ!!」

 やべー、気持ちいい。


「馬鹿ですね」

「言っただろ?」


 外野2人は黙っていて欲しい。

 剣を振るう度にえぐれるゴーレムの体。ストレスの発散に調度良い。

 ゴーレムがこちらを向く前にHPを削りきった。中々威力は高いようだ。ちなみにカラコさんは持てなかった。この威力で持てたら強すぎるか。


 ゴーレムにストレス解消の手段としては使えるかな。MP消費もそれほどではないし。


「男と男の魂をかけた戦いはどうでしたか?」

「ああ、心が通じ合えたような気がするよ」

 ドロップは……鉄鉱石か。レアとかでも何でもないな。


「MPをそれほど消費していないなら休まず行きましょう」


 この道は一体どこまで続いているのだろうか。線路はどこまでも続いてても便利なだけだが、フィールドが永遠に広がっているというわけでもない。

 標高が高くなってきたからか、周りに生える草木が少なく、道が険しくなってきた。


「これって道を外れたらどうなるんでしょうか」

 それは気になっていた。空を飛んでショートカットとかできそうだ。うねる山道を歩くよりもそっちのほうが絶対に楽だ。


「足場の悪いところで大量のモンスターに襲われるんじゃないか?」

 そういうものなのか。ヨツキちゃんとか、わざと道から外れて大量のモンスターに囲まれて経験値稼ぎしている気がする。


「俺も気になったけど空を飛んでいたらどうなるんだ?」

「それは空にいるモンスターに襲われるだろう。どちらにしろ山を越えなければならないことには変わらないからな」

 上を見ると大きな鳥が舞っているのが見えた。あの背景みたいなものが空中専用モンスターか。前カラコさんが斬り伏せたやつだな。ここから届くかもしれない。


「展開、装填、加速、ファイアショット」

 遠すぎて当たらないな。器用が足りないのだろうか。あそこまで高位置の相手を狙うことはないだろうから、もう上げるつもりはないが。


「カメがいませんね」

 草が少なくなったらから草食のカメの姿がない。

 そしてその代わりに白と黒のうずらみたいな鳥が出てきた。


「ライチョウ……?」

 そう、それ。今までのはどれも固そうで、物理攻撃が効きませんよって感じだったけど、このライチョウはふわふわしている。


 ライチョウは可愛らしくこちらを見つめ。


「グァァアアアアア!!」

 まるで可愛らしくない声をあげて突進してきた。


 体全体に雷を纏ってい、近くの地面へと放電している。


「ハァアアアアア!」

 ヴィルゴさんが前に出て、盾で受け止める。バチバチと音を立てるライチョウは盾に思いっきり衝突してヴィルゴさんを少し押した。

 重装備つけてるヴィルゴさんを動かすってどんなのだよ。

 未見のモンスターだ。ここは足止めをして特性を見極めたほうがいいだろう。魔法があまり効かなくても弓でなら一撃で葬り去ってしまいそうだ。


「ウッドバインド!」

 それほど大きくないライチョウの体を木の根が絡む。

 その隙に合わせてカラコさんが漆黒の刀を振るい、ラビが回し蹴りを食らわせる。


「キャッ!」

「ピィイ!」

 2人の攻撃がライチョウに当たった瞬間強い放電が走り、2人は吹き飛ばされた。ダメージはそこそこ喰らっている。こいつボスとかじゃないよね?


 その時の放電で木の根も焼け焦げてしまった。

 ガツンガツンと音を立てながらヴィルゴさんの盾を攻撃していくライチョウ。ヴィルゴさんは吹き飛ばされた2人のHPを回復させながらも、盾で攻撃をさばいている。

 ここは特性を見極める暇はないだろう。こいつは強敵だ。ボスっぽい。


「展開、装填、加速、破壊、付加、ダブルアロー、チェイスアロー、ファイアショット!」

 俺の全力を受けやがれ!

 放たれた2本の光はそのままライチョウの元へと走り……爆発した。


「やったか?! 装填、加速、破壊、付加」

 爆発と言っても視界阻害効果とかもないからHPバー見えるんだよね。いわゆるお約束というやつだ。爆発が起きたらやったかと叫ぶのは。俺もいつも叫ぶわけではないけどな。FPSで一々手榴弾が爆発する度に叫んでいたらやっていられない。

 ライチョウのHPはほとんど減っていなかった。


 煙が山の風に吹き飛ばされたところには両の翼を雷を纏わせながらクロスさせているライチョウの姿があった。


 遠距離攻撃は防御されて、近距離では感電。これって詰みでしょ。

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