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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
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44 砂漠の迷宮 解決編

「前回のあらすじ。俺達は砂漠の中のオアシスに閉じ込められてしまった。しかし機転を利かせた俺の魔法により、オアシスは真の正体を現した。オアシスは巨大なモンスターの体の一部だった。モンスターは体を分裂させて襲いかかってきた! 一体どうなる!?」

「その展開なら良かったんですけどね……」

「嘘から出た真って言うだろ?」

 実際は出る手かがりになるようなものも見つかっていない。その場に腰を降ろして話し合っているだけだ。

 周りに木しかない脱出ゲームだなんて駄作にもほどがある。


「新しくできたフィールドに行く人のことを人身御供というのは知っていましたが、本当になるとは思いませんでした」

 出てくるモンスターの傾向がわからないからそう呼ばれるのだろう。これで死に戻るか、強制ログアウトした人が報告して、西は危険だということになるのだろう。


「上に火矢でも放ってみてください。もしかしたら誰か来るかもしれません」

 まさか俺達だけではなく、他の人も道連れにしようかと言うのか。


「ここからの抜け方を知っている人がいるかもしれません。私達より先にここに入った人がいるはずですから」

 そういえばこの厄介なオアシスの存在を教えてくれた人がいたな。


「展開、装填、加速、ファイアショット」

 俺の真上に1本の赤い線が出る。本当に速すぎて矢だとは思えないぐらいだ。


「でも、森の中だと基本空見えなくね?」

 カラコさんは無言だった。

 その人がたまたま空が見える場所にいるか、木登りでもしてない限りは無理だろうな。


 木登り……木登りをしたら何かわかるかもしれない。


「でも特に私は木に登れるスキルを持っていませんよ。それにどれも下の方に枝がありません」

「俺がいるじゃないか!」

「いや、シノブさんは半分だけしか木じゃないでしょう……」

 カラコさんはわかっていないな。いや、半分だけが木というのはあっているけど。


「俺が土台となってカラコさんを上に放り投げる。それにあわせてカラコさんが上に飛べばいい。そしたらこの低い位置にいるより何かわかることはあるだろう」

「それは確かにそうですけど……ここでいても死に戻りするだけですからね」


 カラコさんが俺の体に手をかける。


 お、ハラスメント警告が出てる。GMに通報しますか。だって。

 触られたほうに警告が出るのか。もちろん通報するつもりはない。しかしいざとなればGMを呼んでこの状況を訴えることも可能だろう。


 女の子に体を触られたことなんて何年ぶりだろうか。

 学校では女の子と話せるというだけで、俺は勝ち組だったがな。話せるだけだが。


「……やっぱり降りてもいいですか?」

 器用に俺の肩の上に乗っているカラコさんがそんなことを聞いてくるが、なぜだ。


「上に放り投げるって足をつかむんですよね」

「そこ以外にどこをつかめと言うんだ」


「いや、私としてもこう男性の方に体を触られるというのは……」

 カラコさんにそんな貞操観念があったとは。厄介なことだ。天然系の子なら重くないですかぁ? とか聞いてくれるだろうに。

「ゲームのアバターだろ?」

「触られたという事実は変わらないので。それにこのアバターは私の現実の体を基準にして作られています。私からしたら本当の体とあまり変わらないんですよ」

 カラコさんは俺の肩から華麗に宙返りして、地面に降り立つ。

 そして衝撃の事実。


「まさか……嘘だ! こんなにゲームに入り浸っている人が敬語を使えてしっかりしている。しょうがないですね系のウサ耳美少女なんているはずはない!」

「信じるか信じないかはシノブさん次第ですよ」

 なんということだ。俺はまたカラコさんに翻弄されているのか。

 カラコさんが地面でもだえ苦しむ俺を見て笑っている。ちくしょう、本当なのか、それとも嘘なのか。


「……ということは課金しているのか」

 俺は考えることをやめた。どうせ現実では会えないのだ。というより俺が会いたくない。

 俺もリアル基準で顔を作っているのならともかくただのアバターなのだ。


「そうですね。黒髪に黒い目のキャラはあまりいないでしょう。和風っぽさを出したかったですし」

 刀も持っているし、黒髪黒目だし確かに和風だ。職業も侍だしな。


「俺は何もアバター変更してないなー。見た目も完全にランダム。背の高さは現実より少し高いかな」

「背が高いって良いですねー」

「高いところのものが取りやすいのが便利だな」


 こんな風に俺達が駄弁っているとガサガサ頭上の木が動く音がした。

 カラコさんは刀を構え、俺は魔法を用意する。


 木の葉の間から出てきたのはカラコさんと同じように全身黒色。黒の皮鎧を着て、赤く長いマフラーをつけている男。忍者だった。


「火矢を見てきたのでござるが……」

「あれで火矢って気づいたんだ」

 そしてござる口調。これも課金アイテムだったりするのだろうか。


「拙者も1人では攻略しがたいと思い途方に暮れていたのでござるよ。拙者の名前はシノブでござる」

「「Oh……」」

 まさかの。


「どうかしたでござるか?」

 忍者は目をぱちくりとしている。


「いや、俺の名前もシノブなんだが……」

「偶然でござるな。なら拙者のことは黒と呼んでくれて構わないでござるよ」

 相手が譲歩してくれたか。黒色の装備だから、黒か。カラコさんもほとんどが黒だけど結構露出している部分が多いからな。それと違い忍者は顔以外の全てが装備で覆われている。


「私はカラコです。侍のスピードタイプ。こちらの人はパーティーメンバーのシノブさんです。弓使いですね」

「おなごと2人きりで狩りとは羨ましいでござるな」

 青田買いというやつだ。情けは人のためならず。善い行いをしていたら自然と女の子がパーティーに入っているのさ。


「それで黒さん。ここの攻略の方法を知っているんですか?」

「知っていなかったら入らないでござるよ」

 ごもっともな意見です。


「オアシスの所々にある泉。それが転送装置になっていて、そこからモンスターが出る部屋に飛ばされるのでござる。そしてここの難しいところが完全ランダムなのでござるよ。ソロだからと言ってソロ向けのモンスターが出てくるわけではないのでござる」

 俺とカラコさんを目を合わせてため息をついた。あの時保留しなければ遭難することはなかったのだ。


「まだ使われていない泉の場所は拙者が把握済みでござる。どうかパーティーに入れて欲しいでござる」

 そりゃ、この人がいないとどこに泉があるのかもわからないし。

 カラコさんも頷く。

「こちらこそよろしくお願いします」

 黒が俺達のパーティーに入ることになった。


「雪魔法というと種族は雪人ですか」

 さっきから何か話しているが、俺にはよくわからないことだ。雪魔法? 氷魔法と何が違うの? てかキャラメイキングの時にそんなの見た覚えない。


「種族ごとに覚えられる特別な魔法を知らないんですか?」

「知らない。樹人にはそんなものなかった」

 木魔法がもしかしてそうなのだろうか。


「精霊魔法は精霊と心を通わせることができる種族しか取得できないし、古龍魔法は龍の血を引くものしか使えません。雪魔法は雪人という種族だけが使える魔法です」

 へー。ハーフだとどうなんだろう。

「雪魔法は氷魔法より補助向きでござるな。状態異常にする魔法が主でござる」

 氷魔法とかもカッコイイよな。炎と氷とか。取得条件を満たしていないが、いつかは取りたい。

 氷魔法というと水魔法の派生かな。固体を操るという点では土魔法と共通していて、温度を操るという点では火まほうと同じだ。風魔法は……涼しいという所で共通しているな。

 火魔法カンストしたら氷魔法が派生で取れるようになるワンチャン。


 忍者は速い魔法戦士らしい。高い敏捷値で相手の攻撃をかわしながら攻撃を叩き込む。大きな隙を見せたら巨大な魔法を放つ。中々器用さが必要な職業だな。


 そんなことを話しているうちに俺たちは1つの泉に着いた。

「1人で入ると1人で飛ばされるから要注意でござるよ」

 カラコさんの危険察知が反応したのも行った先にモンスターがいるならわかる話だ。


「じゃあ、行きましょう」

 3人でタイミングを合わせて足を踏み込む。泉が光ったと思うと俺たちは巨大な部屋にいた。小学校の体育館ぐらいの大きさだが、俺にはまだ足りない。


「展開、装填」

 モンスターの姿は見えないが準備をする。

 その数秒後。地面に魔法陣が現れ、中から、1匹の巨大な虎が出てきた。

 緑色の体に黒色の縞模様。そう、スイカだ。


「未だここらでは出ていないモンスターであろう」

 スイカタイガーだろうか。いや、ウォーターメロンタイガーかな。


「加速、ファイアショット」

 不意打ち気味に放ったその一撃はかわされた。

 まさか避けられるとは思ってもいなかった。どんな敏捷と反射神経してんだよ。


 黒とカラコさんが走り出す。黒は短剣を構えて、カラコさんは邪眼と蛇の目を発動させているが、麻痺にはなっていないようだ。

 即死効果のある暴食の刀と毒刀を持って、虎の爪の攻撃をかわしているが、思ったより敏捷値が高く、中々攻撃のチャンスが見いだせていないようである。


「装填、加速、ファイアショット!」

 今度は胴体に当たったと同時に俺にターゲットが移る。

 その巨躯から信じられない速さで俺の方へ走ってくる。


「行かせないでござる。忍法、雪月花」

 黒から放たれた魔法は虎の周りに雪を降らせるものだった。

 虎の速さが見るからに落ちる。


「飛斬!」

 カラコさんの両方の剣から2本の斬撃が飛ぶ。いつの間に手に入れたスキルなのだろうか。

 2つの攻撃を受けて、虎はターゲットをまた2人に変えた。やっぱり威力が高すぎて盾役がいないとすぐターゲット奪っちゃうな。


 黒の魔法の効果で少し遅くなった虎は徐々にダメージを蓄積させている。

 俺がやっていることといえば。

「ウッドバインド! グロウアップ!」


 もう既にダメージディーラーは2人もいる。俺はそのダメージを与える機会を増やした方が良い。

 ウッドバインドも2秒もしないで破られる。しかし引きちぎられる前にグロウアップを使うことでもう一度引きちぎるための動作が必要になる。

 5人で拘束魔法を永遠とかけ続けて、残った1人が攻撃とかではめ殺しはできないのだろうか。


「ファイアフライ!」


 ウッドバインドをしすぎてターゲットが俺に移った時には、ファイアフライを使い、高火力の技を放ってもらう。

 ファイアフライは即発動ができるわけではないが意外とよく効く。



 雪魔法は今の所3種類見ている。

 攻撃を受けた瞬間、雪の身代わりにダメージを受けさせて自分は後ろに下がる魔法。

 ファイアフライの雪バージョン。

 短剣に雪をまとわせて切る。効果は知らない。


 確かに攻撃系の魔法はないな。俺が把握したところで取得できるわけじゃないが。



 俺は最後までサポートに回って行動をしていた。やはりHPを回復させる魔法はヘイトを稼ぎやすいな。毒を食らっていたことが何度かあったのでリフレッシュを所々で使ったが、その度にターゲットが移っていた。俺の他は全て手数で攻める派だからというのもあるのだろうが。



《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが2増えました》

《戦闘行動により【弓術Lv12】になりました》

《戦闘行動により【火魔法Lv15】になりました》

《レベルアップによりスキル【ファイアソード】を取得しました》

《戦闘行動により【木魔法Lv12】になりました》



種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv24

称号:神弓の射手

スキルポイント:14


 体力:90(-35)

 筋力:25

 耐久力:40

 魔力 :65(+58)(+5)

 精神力:70(+49)

 敏捷 :20

 器用 :80(+12)


パッシブスキル

【弓術Lv12】

【狙撃Lv9】【隠密Lv7】

【火魔法Lv15】【木魔法Lv12】

【マゾヒストLv6】

【遠見Lv9】【発見Lv7】

【精密操作Lv3】



 戦闘に直接使うのは全て上がったな。良いことだ。そして火魔法の新しい魔法。ファイアソードか。炎の剣を相手に投げつけるとかかな。

 火魔法は5の倍数で1つの魔法。そして8のつくレベルで魔法を2つ覚えるみたいだな。

 木魔法は5の倍数につき2つの魔法だ。

 消費ポイント数によって得られる魔法の数とかが違うのだろう。


「1匹なのに中々手強かったですね」

「いやー、助かったでござる。拙者1人でいたら死亡は確実だったでござるよ」


 ドロップアイテムは何だろう。

 ポイズンタイガーの毒牙

 物騒なものだ。神が俺に抽出を使って毒を取り出せと言っているのだろうか。毒使いになれと。


「ドロップアイテムはポイズンタイガーの皮ですね」

 絨毯にできそうだ。

「拙者は毒腺でござるな」

 毒腺も気になるな。抽出するなら毒腺の方が良いかもしれない。


「俺は毒牙だったけど、毒腺と交換してくれない?」

「おお、良いのでござるか?!」

 カラコさんが物欲しそうな顔で見ていたが、この牙で刀でも作ろうとしてたのか?


 ポイズンタイガーが消えたところに魔法陣が出ていた。


「これに乗ればオアシスの外に出られるでござる」

 あの暑さを思い出すと嫌気がさす。それに結局カラコさん、ブレス使ってない。毒攻撃をする相手に毒は無意味だとは確かに思うが。


 魔法陣に乗ったところで思ったのだが。この忍者はオアシスのことを知っていてどうして1人で入ろうとしたのだろうか。1人じゃ攻略できないと思ったらそもそも入らないのでは? 最初から誰かと一緒に入ろうと思っていたということか。


 魔法陣に乗ると風景が切り替わり砂漠の暑い中へと放り出された。

「まだ見ぬモンスターの素材とかは気になりますけど……この暑さでは来る気になりませんね」

 カラコさんもぐったりしている。

 全身真っ黒な忍者は平気そうだ。

「拙者は耐暑付きの装備を着ているから平気なのでござる。では拙者はまたオアシスに戻るでござる。また、会おう! でござる」

 忍者はジャンプしてオアシスに飛び込んでいった。


「雪人って暑さ苦手そうだよな」

「寒さには強そうです」


 俺たちは暑さにやられながら、街へと戻る道を歩いて行った。

 さすがに街が見えるのに迷わない。

 フラグではない。

 ないったらない。

ありがとうございました。謎の男の正体については後々出る。かも知れません。

シノブが暇だったらもう一回出てくるかも。

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