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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
38/166

37 対ハエ戦

少し送れてしまい申し訳ありません。

「空中戦か、私は苦手なんだよなー」

 ヴィルゴさんと竜人兄がそれぞれ盾と大剣を構える。


 俺は一刻も早く離れた所に行きたいが、カラコさんが貼り付いてるので動けない。

「大丈夫か?」

「大丈夫です。邪眼と蛇の目はまだ使えますから」

 メンテナンスはさっき使っちゃったもんね。

「大丈夫です。ただの脳に入ってくる情報ですから。大丈夫。大丈夫」

 カラコさんは小走りで前線へ向かっていったが本当に大丈夫なのだろうか。動きが硬いぞ。


 戦闘の始まりはハエの闇球(仮称)から始まった。

 ヴィルゴさんが盾でそれを受け止める。

 竜人弟がまた風魔法を放つ。

 2人ともさっき戦ったばかりなのにMPが回復しているとは何かのスキルかな。前回の戦闘では全て使い切っていたように見えるけど。


 俺は少し離れた所にある木の後ろに隠れる。

「展開」

 カラコさんは邪眼と蛇の目を使っているが、まだ一撃も打ちこめていない。

 これは何かきっかけがないとダメだな。


「装填、加速、破壊、付加、ダブルアロー、チェイスアロー、ファイアショット」

 名前からしてチェイスアローは命中率の補正かな。未だ器用が低い弓使いのためだろう。

 飛んでいく2本の弓はハエの体を貫いた。

 うわ、こっち見た。

 こちらに向かって闇球を放とうとしているが、それは竜人兄の大剣によってかき消され、俺の方へ向けた意識は大きな攻撃のチャンスになっていた。

 1回でターゲットが俺になるのか。あいつが基本的に遠距離だったから良かったが、突進とかしてくるようだったら終わってたな。

 やはり俺は雑魚相手にヘッドショットしているのが良い。気づかれないように狙い、近寄られる前に殺る。それが狙撃手のやることだ。


 さっきも言っていたが補助用の魔法を覚えたりした方がいいのだろうか。矢に補助魔法を乗せて味方に放つとか。それでダメージを負ったら元も子もないが。


 とりあえず俺はダメージ過剰で1発で注意を引いてしまうこの弓以外の何かを持つべきだろう。

 多人数戦闘。ゴブリンの侵攻で全力出して雑魚殲滅しました。前線の人でも挑発が足りないぐらいヘイト稼ぎました。後衛に突っ込んできて壊滅。

 なんてことになる可能性は大いにある。



 とは言っても今更弓以外の物を使うという訳にもいかないし。困ったものだ。


「展開、装填、加速、ウッドショット」

 この程度なら注目は引かない。前衛の過剰な戦力にハエは大忙しだ。

 カラコさんは麻痺が効いた時だけできるだけ離れて刺突を繰り返すということをしている。そんなに近づきたくないのか。カラコさんには慣れてもらわなきゃならないのに。


 順調に俺たちはハエの体力を削っていっている。先ほどと違う所はヴィルゴさんの存在だろう。

 噛みつき攻撃や、頭突きなどの攻撃を全て受け止めている。時々来る羽を動かして広範囲に衝撃波を発生させる攻撃も竜人兄が直前でスキルを叩き込み羽を潰すことで封じ込み、ハエの攻撃は完封されていた。


 竜人兄は魔法攻撃を補助として使い、大剣の重い攻撃を打ち込みやすくしている。

 逆に竜人弟は魔法の攻撃の合間に両手剣で少しでもダメージを稼ぐようにしている。


 魔法剣士というのはいつ見てもかっこいいな。

 カラコさんは種族的に魔法を使えないから、魔法剣士にはなれないが俺とヴィルゴさんは魔法と物理、両方使える。

 俺はさしずめ魔法弓士といったところが。


 あまりかっこよくないな。




 カラコさんが乗り気でなくても、ハエのHPは削れていき、ようやくHPバーが残りわずかになった時、ハエはまた動きを変えた。


『ギギギ、この姿の僕でも遅れをとるようなやつがいるなんて』

 ハエ体型から人間形態に戻っていく。

 ボーナスタイムだ。



「装填、加速、破壊、付加、ファイアショット!」

「一刀両断!」

「はぁーっ、粉砕撃!」

「エアハンマー!」


 何か話しているが、爆発音やスキル発動の音がうるさくて聞こえない。

 怒涛の攻撃が収まった後、ハエは汚い肉片へと姿を変えていた。


 HPはない。しかしレベルアップもしてないということはこれから何かあるのだろう。


 ズブズブと肉片が集まっていき、1番最初の人間形態となる。


『お腹空いたな……』

 何やら放心状態だ。もう昼時は過ぎたぞ。


 徐々に体が黒くなっていき……ハエになって爆散した。

 ヴィルゴさんはカラコさんに抱きつかれて幸せそうな顔をしている。

 そこを代わってほしい。

 というより2人の間に挟まれたい。



「兄者、やりましたね」

「うむ。中々の強敵であった」


 体感時間では何時間も戦っていたように思える。



《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが3増えました》

《戦闘行動により【弓術Lv11】になりました》

《戦闘行動により【火魔法Lv13】になりました》

《戦闘行動により【木魔法Lv9】になりました》

《戦闘行動により【狙撃Lv9】になりました》

《戦闘行動により【遠見Lv9】になりました》

《戦闘行動により【隠密Lv7】になりました》


種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv23

称号:神弓の射手

スキルポイント:20


 体力:90(-35)

 筋力:25

 耐久力:40

 魔力 :60(+5)(+50)

 精神力:70(+45)

 敏捷 :20

 器用 :80(+8)


パッシブスキル

【弓術Lv11】

【狙撃Lv9】【隠密Lv7】

【火魔法Lv13】【木魔法Lv9】

【闇耐性Lv8】【マゾヒストLv4】

【遠見Lv9】【暗視Lv5】

【精密操作Lv2】



 大分スキルも上がったな。それにしても木魔法の伸びが悪い。伸びが悪いから使いにくいし、使いにくいから更に伸びない。ゴブリンのイベントが終わったら採集でグロウアップ連発して木魔法を鍛えるのもいいな。

 しかし弓の射程と魔法の射程が全然合わないからな。今のところ木魔法は近づかれた時の拘束用としてしか役に立たなさそうだ。


 ポイントが23もある。

 抽出スキル取ってもいいよね?


《スキル【抽出】を取得しました。残りスキルポイントは10です。スキル欄が限界なので控えに回されました》



 わーい取っちゃったー。

 新しいスキルを取るとテンションが上がるな。

 抽出というと色々な成分を抽出できるはずだ。確かヴィルゴさんはポーションの性能を上げるために使われると言っていたな。



 そんなことをしている間にフィールドの様子は変化していった。

 木々が砂となって積もっていく。


「兄者、これは……」

「おそらくさっきのハエのせいでフィールドが変化していたという設定だろうな。出てきたモンスターもスライムとハエしかいなかった。良い稼ぎ場だったが」


 ハエはボスの体みたいなもの、スライムも人工生物っぽいしな。

 良い稼ぎ場。魔法と剣の両方を使えるものにとってはここは経験値を稼ぎやすい場所だろう。スライムはほとんど動かないし、虫もそこまで厄介というわけではない。

 俺達は魔法職がいないから苦労したけどな。



「ヴィルゴさん次の職業につけるのはレベル20からでしたよね」

 そういえばそんな話もあったな。

 俺は一体何に就職しようか。就職という違和感はあるが、職に就くのだからあっているはず。


「うん? あ、ああ。そうだな。βテスターは全てのレベルが20で止められていたからな。そうかも知れないというだけだ。それに第二職業に就くには神殿に行かなければいけない。この街に神殿はないからな。また別の街にあるのだろう」



 職業は様々な条件を満たすことによって、幅が広がるらしい。しかしあまりスキルを身につけていない方がレベルが5の倍数の時に得られる恩恵が多い。

 俺は狙撃手だから、隠密、狙撃、遠見、暗視と隠れる系、見る系のスキルを覚えられた。

調合師とかに就ても得られるのは既に得たものばかりだろう。

 調合と抽出と……鑑定とか? 調合師って何が取れるのだろう。まさか2つしか取れないというわけではないだろう。


 それは置いておいて俺が取るべきは、あまり力を入れていない分野の職業。



 魔法使い系か、暗殺者系だな。


 魔法使いになれば魔法の補助スキルが手に入るはず。暗殺者というのは狙撃手と被っていることもあるが、見つかりにくくなるのは大歓迎だ。透明になれるスキルとかないのだろうか。

 ある。このスキルの豊富さでないというのはない。


 今考えても実際どんなのが出るかはわからないからな。

 その時になってから考えよう。



《【暴食の王】が追い払われました。サルディス西側マップが本来の姿に戻りました》

《スキルポイントが2増えました》





 スキルポイントと天国だな。

 もうこれで俺もトッププレイヤーの1人と言っていいのだろうか。

 姿を隠してゲームを始めたばかりの女の子……いや、それだと下心が見えすぎてカラコさんかヴィルゴさんに殺されるから。

 そうだな。初心者姉弟の2人を良いところで助けて、弟子にするみたいな。

 あるある。


 そしてある時、全員でピンチに巻き込まれて俺が本気を出して救い、女の子が俺に惚れると。

 あるある。


 ……あるのか?


 都合よく初心者が困っているところに出くわすとは思わないが積極的にフラグは立てていかないとな。

 できればエルフか人間、機械人間の特性がぺったんこというわけではないのなら、機械人間でも良し。耳と尻尾だけしかついていないなら獣人でもありだな。


 今はうさ耳をつけているカラコさんだが、猫耳の方が似合いそうな気がするんだがなー。俺が猫耳の方が好きということもあるが。

 とりあえず頭装備はなるべく今のままでいてほしい。

 だって可愛いから。

 性能なんて関係ない。可愛ければいいんだ。



 俺が脳内でカラコさんの頭に猫耳を投影していると、何やら操作していたカラコさんが俺に気づいた。


「シノブさんは何のアイテムが出ましたか?」

 すっかり忘れていた。

 レベルアップばかりが気になって、ドロップアイテムを確認してないとは。


 えー、何があるかな。


 暴食の結晶。

 暴食の弓。


 やはりベルゼブブ。七つの大罪だな。

 暴食暴食と言っているが一体どういう効果なのだろう。


「全員その人のメイン武器と結晶ですね。ここに鑑定持ちがいないので性能は確認できませんが」

 カラコさんが剣を具現化させる。

 鞘から刀身まで何から何まで真っ黒。そして金属光沢がない。

 同じ黒だが光に当たると紫色に輝く毒刀と比べても、こう……悪って感じがする。

 毒刀は少しゴツめだが、それに比べて少し細くて短い。


 カラコさんは剣を持ち、様々な構えをしてみせた後に腰に剣をさした。


 まさか……。

「三刀流か!?」

 このロマンを追求するやつめ。二刀流以上なんて最強にロマンじゃないか。多刀流カッコいい。


「できれば良いんですけどね。こんな大きいもの口の中に入りません」

 確かに。

 こんなに小さい人が片手で刀を持ててるのが俺には不思議でたまらないのに、口になんか……いや、試してみるべきだろう。


「百聞は一見に如かずというじゃないか。1回やってみなよ」

「意味がわかりません」

 最近の子供は……百聞は一見に如かずの意味を知っているとは。難しい言葉でカラコさんを混乱させることはできないようだ。


「できるかどうかやってみなよ」

「こんな大きいもの入りませんよ」

「いやいや、大丈夫だって」

「何をそこまでシノブさんを駆り立てるのかはわかりませんが、やってみましょうか」

「ならその暴食の刀を口に……」


 その時俺の後頭部に重い衝撃が加わり、俺はそのまま頭から砂の中にダイブした。


「兄者……彼女はやはり」

「凄まじい回し蹴りだな」


 ちくしょう。回し蹴りとか人が死ぬレベルじゃねえか。


「女の子になんてもの咥えさせようとしてんだ!」

 手加減……手加減を覚えよう。HP減ったから。



《行動により【マゾヒストLv5】になりました》



 っておい。レベルアップすんなよ。喜んでないから。


 口の中に入った砂を吐き出し、起き上がる。

 コブはできていないが。痛い。


 何でこんなに痛いんだ?

 健全な人は俺がなんで殴られたかわかってないぞ。カラコさんも首をかしげてるし。


「シノブの妄想力には恐ろしいものを感じるな。それを1人で消耗するのは構わない。しかし他の人を巻き込むな」

「はーい」

 全く俺にはどうして蹴られたのかさっぱりわからない。

 ただ黒い刀の柄をカラコさんに咥えさせようとしただけなのに。

 全くどっちが妄想力盛んなんだか。


「なんか文句あるのか?」

「ありません。すみません」

 怖いな。これが殺気というやつか。

 未遂なんだからそこまで怒らなくたっていいじゃないか。

 こんなふざけたことを続けてるとワイズさんみたいに虫けら並みの扱いを受けることになるから、気をつけなければ。



「ドロップアイテムの分配は全員武器と結晶だったので、特に問題はないですね」

 臨時パーティーを開いたときにはそんな配慮も必要なのか。


「ボスドロップの武器なんて良いものが出ました。問題なんてありませんよね、兄者」

「うむ」


 竜人弟ってブラコンなのだろうか。上と下って感じができているから良いと思うけど。



「じゃあ、俺たちは街にか……」

 忘れてた……いや、ボス戦だから忘れてたんじゃない。表示が出なかったんだ。

 メール2件。


 ログインしました。


 待ってます。



 ログインしました。のメールが来たときは俺が虫に囲まれてる時だな。案外早くにログインしている。

 待ってます。はボス戦してる時だ。この時点で午前から午後になってる。


 次のアップデートでメールのわかりやすさを。フレンド一覧の横に新着って書いてあるだけじゃわかんねえよ。インフォこいよ!


「どうしたんですか?」

「い、いや……約束を忘れてて……」

 戯れで行った西が刺激的すぎたんだよ。

 素直にギルドで面接しとけばよかった。


 何か今日は負の連鎖が続いているな。


「あ、アオちゃんと合流するとか言ってましたね」

「そうなんだよ……」


 なるべく言い訳にならないように何があったのかを丁寧に説明して、送る。

 怒ってるかな。怒ってるよなー。



「そういえばリュウソウさん、リュウカクさん。どこかギルドに入るつもりはありませんか?」



 カラコさんは立派にマネージャー……いや、サブギルマスとしての自覚があるらしい。

 カラコさんがサブギルドマスターってのは今決めたんだけどな。


「すまないが、今のところはギルドに入るメリットがないのでな。ギルド間のイベント等が出てきたら検討してみるとしよう」

 今は殆どのギルドができたばかりか、計画している途中だ。どんなギルドが上に出てくるか、見極めてから入る人も多いらしい。

 逆に今の少ない時期に入れば幹部とか古参になれる。

 古参とか幹部って心湧き踊るよな。ギルドの酒場のマスターが実はギルドマスターでしたみたいなドッキリをしてみたい。

 俺がギルドマスターになった暁には、ギルドマスター、サブギルドマスター、そしてその下に四天王。四天王の下に更に別々の軍隊を作ろう。


『奴は四天王最弱……』


 とかやりたいもんね。入ってくる人にはそれぞれ試練を与えて、四天王を突破したら入団みたいな。


 ってより、早く行かなければ。アオちゃんが待ってる。


「俺は走って行くぞ。後から歩いてきてくれればいいから」

「あ、シノブさん!」


 カラコさんに呼び止められたが俺は走る。

 アオちゃんいい感じになっていたような気がしたのに!

 もう俺のバカ!

お読みいただきありがとうございました。

夏風邪には皆さんお気をつけ下さい。

うっかり冷えて風邪ひきました。

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