34 ベルゼブブのブブって蝿の羽音?
俺が遠くの木の陰に隠れたところで戦闘は始まった。
『さあ、行け。存分に食っていいぞ』
「兄者、敵は空中位置です。私に任せてください」
「では我は援護に徹するとしよう」
飛ぶのか? 飛ぶのか? 飛んだー!
遠くからでとバッサバッサと羽ばたきが聞こえるように豪快にハエに向かっていく。
「エアーカッター!」
魔法を放つと同時に群れに飛び込んで両の手の剣をふるう。しかし魔法も剣もあまり効いていないようだ。ボスの取り巻きだけあるな。
「地に伏せろ! ハイグラビティ!」
一体のハエが何かに抑えられたかのように地上に降りてくる。そして地面についた瞬間、待ち構えていた竜人兄が一閃。剣がハエの体に叩きつけられ、ハエは消滅した。
凄い攻撃力だな。持ち運びが重そうだ。
てか二人共カッコええー。空を華麗に飛んでハエたちに斬撃と魔法を与える弟。そしてある程度ダメージを負ったハエを地面に引きずりおろし、確実に仕留める兄。
やっぱりドラゴニュートってかっこいい。カラコさんはドラゴンを見て興奮してたけど、俺はドラゴニュートが剣を持って戦っているのが好きだ。
何やら耳元でブンブン音がすると思ったら、小さなハチドリがいた。手の中に収まりそうなサイズだ。これで敵だったら俺はやられていたが、敵対のマーカー表示ではない。恐らくあの2人どちらかの召喚獣だろう。
ゴツいドラゴニュート戦士とハチドリ。凄い絵になる。
ハチドリはブンブン言っているだけで、何もしてないが心なしか俺のことを責めているようにも見える。わかったわかったよ。
MP回復に努めてただけだったて。
毒耐性と弓術スキルを入れ替える。
もうハエの半分が脱落してるけど。
ラスボスの1人っぽいボスの眷属を2人で攻略できそうということは、6人パーティーように作られてるとして、1人で3人分の戦力があるのか。それは凄い。
「展開、装填、加速、破壊、付加」
ハエといっても巨大なので狙いやすい……何なんだよこいつら、動き速すぎんぜ。
上に行ったと思ったら下に行き、予測できない。
こんなんでは後で何なんだとは言われるだろう。仕方ない。
空中で呑気に観戦してる王子様を狙おう。
「ファイアショット」
ビームのように矢が飛んでいく。
避けられた。
避けられただと? この弓で避けられるとか遠距離攻撃絶対当たらないじゃん。どんな無理ゲーだよ。
『ああ、僕を愚弄した者はそこにいたのか。今行くよ』
やばいやばいやばい。何で1発しか射ってないのにターゲット移ってるわけ?
最初逃げたのがダメだったのかよ。
「蝿の王とは笑わせるな。我らから逃げるのか?」
ベルゼブブの動きが止まった。
『どいつもこいつも……本当に僕を不快にしてくれるね。いいだろう。この僕自ら相手してくれグハッ』
よし、当たった。
スナイパーを避けれる実力があるのによそ見してちゃダメだろ。竜人兄には感謝しないとな。
『クククク、ここまで僕を怒らせ、グッ、怒らせる者がいたとは。僕も本気を出さねければいけないようだぁっっ。この屈辱。貴様らの死をもって償ってもらう!』
何だか可哀想になってきた。攻撃してるのは俺だけど。喋ってる間には攻撃無効とかにしてやれよ。
「弟よ。あれをやるぞ」
「兄者、いいのですか?」
「ボス戦だ。使わない理由がなかろう」
お、必殺技が出るか? 楽しみだなー。
『何をしようとこの僕には無意味。さあ、我が僕たちよ。僕の血肉となれ』
ハエたちはベルゼブブの元に集合し始めた。凄いな。HPバー何本出てくるんだ。
『僕の完全体を見て生きて帰った者はいない。貴様らを喰ラッテヤル』
ベルゼブブはハエに似た何かになった。ハエって牙生えてなかったよな。それに羽も2枚だったはず。
変身したあれはハエというよりトンボに近い。
「「ドラゴンブレス!」」
2人の口から緑と赤のブレスが出てくる。凄い威力だ。ベルゼブブの半分のHPが削られている。
『グ、グアアアア。目ガ私ノ目ガァァァアア!!』
サングラスをかけてるわけでもない。あのブレスには目潰しの効果もあったのだろうか。
「地に伏せろ。ハイグラビティ」
「地に伏せろ。ブラスト」
突風が下に向かって吹き、重力が巨体を地面に縛り付ける。
「装填、加速、破壊、付加、ダブルアロー、ウッドショット!」
連射を使わないのはMP消費が半端ないからだ。
地に伏せるハエに2本の矢が飛んでいき突き刺さった。1割削れたか?
「はぁぁああ! 破砕撃!」
「解き放て! 竜の印!」
竜の兄の大剣がスキルによって頭を粉砕し、弟が巨大な竜の体となる。
竜化! 竜化じゃないですか。やべー。俺も竜人選べば良かったかな。スキルは貧弱なものになったかもしれないけどそれ以上の特典だよな。特別なスキルって。
竜となり、ハエと同じぐらいの大きさになった弟が拳を胴体に叩きつける。
よし、HPの1本目が消えた。
あと何本かな。6本はあるな。ハエはシューシューと音を立てながら頭を回復している。脆いけど、回復力が強いのか。羽を燃やすとかは無理そうだな。
暴れ出す巨大バエ。コバエが放っていた闇の球体みたいなものを撃ち出すが、いつの間にか竜の頭に登っていた竜人兄の斬撃によって無効化される。竜はグルグルとハエの上を飛び回りながら時折ブレスを吐いている。
俺の横にいるハチドリは何役なんだろう。索敵かな?
驚くべきことは2人ともまだHPに余裕があることである。ハエとの対戦をしている時は、弟は避けて、兄は被弾していたがほとんど効いていなかった。
これは竜人としての素のステータスなのか。それとも俺みたいにステータスをドーピングしているのか。
それより今は前のボスだな。木属性と火属性の弓を交互に放っているが、徐々に効きが悪くなっているような気がする。ボスの耐性のレベルが上がっているのか。
何か新しい魔法が欲しいな。できれば上位の魔法。重力魔法とか召喚魔法とか取得してみたいけど、一体何をすれば取得可能になるのかはわからないから無理だ。サモンショットとか、グラビティショットとか試してみたかったけどな。
いや、ない可能性もあるか。
まだ弓の技術についても知らないこと多いしな。動きがおかしいハエにはどう当てるかとか。
『シネェ!』
子供の悪口みたいなことを言っているが、死ぬのは君の方だよ。何故ならカラコさんが援軍を呼んでくれているからだ。助けにきてくれるよね。
このままだとジリ貧だ。竜が避けきれない攻撃も増えてきている。俺のMPも少なくなってきた。
誰かすぐに来てくれそうな暇人はいないのか。フレンド一覧を見てもその人数の少なさに涙が出てくる。一人一人は強いけどさ……。戦争では質より数だよ。
そしてついに竜人弟に限界が来た。少し離れた所に降り、竜化を解く。HPもMPもギリギリのようだ。
それにあわせて俺もMPを使い切る覚悟を決める。
「装填、加速、破壊、付加、連射、ファイアショット!」
大量の火の光線がハエの体に突き刺さり爆発を起こす。
「俺のMPが切れた! 俺は逃げるぞ!」
あの2人も逃げれるといいのだが。
やはり回復役がいないと戦闘は厳しい。というより回復役なしでここまでやれたのが奇跡だ。
俺の腕が掴まれ、空に宙ぶらりんになる。ハエはまだ爆発の余波に苦しんでいるし、誰かと思えば竜人弟だった。
「兄者が時間稼ぎをしています。我らは早く逃げましょう」
その横顔は悲壮な覚悟を決めているようにも見えた。
「お兄さんは大丈夫なのか?」
「はは、兄者はあの程度では倒れませんよ」
竜人弟は俺の何倍ものスピードで空を飛ぶ。あっという間に、街の近くまで来た。
「では、私は兄者も回収してきます」
「ちょっと待て。これ持ってけ」
自家製のポーションを竜人弟に渡した。少しもったいない気はするが別にいい。
「俺が作ったポーションだ。あいつの追撃で死なないようにしろよ」
「ありがとうございます」
竜人弟はまた翼を広げ、先ほどの方角へ飛んで行った。
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが5増えました》
《戦闘行動により【弓術Lv10】になりました》
《レベルアップによりスキル【チェイスアロー】を取得しました》
《戦闘行動により【狙撃Lv8】になりました》
《戦闘行動により【隠密Lv6】になりました》
《戦闘行動により【遠見Lv8】になりました》
《戦闘行動により【火魔法Lv12】になりました》
《戦闘行動により【木魔法Lv8】になりました》
種族:半樹人
職業:狙撃手 Lv22
称号:神弓の射手
スキルポイント:20
体力:90(-35)
筋力:25
耐久力:40
魔力 :55(+5)(+50)
精神力:70(+45)
敏捷 :20
器用 :80(+8)
パッシブスキル
【弓術Lv10】
【狙撃Lv8】【隠密Lv6】
【火魔法Lv12】【木魔法Lv8】
【闇耐性Lv8】【マゾヒストLv4】
【遠見Lv8】【暗視Lv5】
【精密操作Lv2】
今のところは魔力一択だな。
疲れた。
何がキーでボス戦が始まったのだろうか。ハエを倒した数?
朝から体中が痛いし、ポーション飲み過ぎて気持ち悪くはなるし、大量のハエに囲まれて精神すり減るし、挙句の果てにはボスまで現れるとは。
ボスがいなかったら死に戻りだったろうし、本物のゲーマーなら色々とレベルが上がったから喜ぶんだろうけど。
あの2人にも感謝しないとな。
色々相談することもあるだろうけど。一旦ログアウトして休もう。
昼ごはん食べてこようかな。
中々進まなくてすみません
ただのレベル上げのはずが……




