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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
33/166

32 森には虫がいる

 南は街道。北は山。東は森。西も森。


 何か違うフィールドが広がっているのかと思いきや、森。

 街は森に囲まれてるから当たり前だな。同じ森でも東の森とは違う。

 東は原生林という感じで巨木が林立しているが、こちらは森と言っても雑木林な感じだ。木が少なく見通しも良い。奇襲はかけられないだろう。


「どんな感じのモンスターがいるんでしょうか。東と同じだったら運営の手抜きさが伺えますね」

 街一つ挟むだけで生態系がガラッと変わっているのもどうかと思うけどな。


 そしてその言葉を言った後、すぐカラコさんは運営を恨むことになるのだが。





「な、なんなんですか、あれ!」

「知らない知らない。文句を言うなら運営に言え! バーナー!」

 俺の手からでる炎が後ろの奴らを燃やしていく。バーナーは手から10秒ほど炎を放つ魔法だ。射程は5メートルほどかな。


 西の森で出てくるモンスター。それは小さな虫とスライムだ。スライムには魔法が効きにくく、虫は魔法が弱点だ。そして問題は両方ともそのビジュアルにある。

 プレイヤーが操るスライムはデフォルメがされていて、気持ち悪くはない。しかしモンスターとしてのスライムはアメーバ状なのだ。

 何かの粘菌だと言われたほうが納得できる。


 虫も問題だ。小さくて黒い虫。フォルムはハエっぽい。一体一体はとても小さいのだが、それが集まって群れになって動いている。背中が痒くなる。

 ただこの虫が物理攻撃をしてくるわけではないのが唯一の幸運だろう。一定の距離を保って何かの魔法を放ってくる。


 スライムが出てきた時にはまだカラコさんが刀で斬るぐらいの余裕はあった。俺もカラコさんがスライムには拘束されないだろうかと思っていたぐらいだ。

 しかし虫。カラコさんが逃げを選択して、俺もそれに同意して逃げ始めたのだが……。



「あー、もう何でついてくるの? 来ないでよ〜」

 逃げれば逃げるほど後ろの塊が大きくなっているような気がする。バーナーで撃墜はしているはずなのにどうしてだろうか。


「シノブさん、何か、魔法で倒してくださいよ〜」

 ダメだ。カラコさんの精神が限界だ。巨大ゴブリンに追いかけられた時の俺よりも絶体絶命の状態だが、カラコさんがこんな調子なので俺は冷静さを保っている。


「ファイアフライが効くかもしれないけど、予備動作に時間がかかるし、その間に俺が死ぬ」

「じゃあ、私が時間を稼げば良いんですね」

 今にも泣きそうだけどできるのか?


「私が合図したら横にそれて隠れてください。頑張りますから」

「任せた」


「メンテナンス」

 おいおい、回数制限あるスキルをここで使うか。っていうか何故?

 カラコさんは増幅された敏捷で一気に前に出た。

 そして追いかけてくる俺の方の方を見る。


「今です!」

 俺はどこかのハンターかのように前転をして木の陰に飛び込む。


「邪眼、蛇の目」

 虫の飛ぶ速度が一気に遅くなった。ぽとぽと落ちているものもいる。というか新しいスキルだよね。それ、もしかして取得しちゃったの?


「ファイアフライ!」


 俺の周りに火の球が現れる。カラコさんを追いかけようとしていた虫はボーッとした様子でその場に落ちて火を見ている。


「よし、効いた!」

「やりましたね!」

 俺たちはハイタッチを交わす。


「ということでこいつらの処理をお願いします」

 カラコさんも冷静になりいつも通りだ。しかし、残念なお知らせがあるんだな。


「魔法の同時発動はできない」

 そういうスキルがあるのかもしれないが、俺はできない。


 カラコさんが断固として拒否したので俺が矢を手に持ち、落ちている虫たちを突き刺している。防御力は低いようで簡単に昇天する。

 これは壁役が抑えている間に全体魔法で攻撃というのがセオリーなんだろうな。

 しかしこの多さには辟易する。逃げまくっていたからトレイン状態になっていたのだろう。



 全て倒し終わった時には俺の強化されたMPでも切れそうになっていたので命が縮む思いだった。

 カラコさんが手伝ってくれればもっと楽だったんだけどね。



《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが4増えました》

《レベルアップによりスキル【暗視】を取得しました》

《戦闘行動により【火魔法Lv11】になりました》

《戦闘行動により【隠密Lv5】になりました》

《戦闘行動により【遠見Lv7】になりました》


名前:シノブ 【ポーション中毒】

種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv21

称号:神弓の射手

スキルポイント:15


 体力:90(-35)

 筋力:25

 耐久力:40

 魔力 :50(+5)(+50)

 精神力:70(+45)

 敏捷 :15(+5)

 器用 :80(+8)


パッシブスキル

【弓術Lv9】

【狙撃Lv7】【隠密Lv5】

【火魔法Lv11】【木魔法Lv7】

【毒耐性Lv3】【火耐性Lv3】

【発見Lv7】【遠見Lv7】

【精密操作Lv2】



 2レベルも上がってしまったし、新しいスキルも手に入れたし、その割にスキルレベルが少ししか上がらなくて。疲れた。敏捷も時々は上げないとね。


「とりあえず虫は無視して街に帰りましょう」

「虫は無視ってダジャレか」

「そんなこと言ってる場合じゃありません!」

 怒られた。虫は無視って言ったのはカラコさんなのに。それほど精神的に参っているんだろう。そっとしておいてあげよう。


「運営は何を考えてるんでしょうね。あんなモンスター。女性プレイヤーがいなくなりますよ」

 確かにそうだ。苦手な人はとことん苦手だろう。接近戦を仕掛けてこないのがまだ親切設計だが、それでも気持ち悪いことには変わりない。


「レベルが2レベル上がったから、いいレベリングになったけどな」

「私もレベル20になりましたよ」

 レベル20だと?

 まさか俺の方がレベルが高いとは。


「じゃあ、ゲーム開始時からどれだけレベルが上がったか、見せ合おうぜ」

「いいですよ」


 俺のレベルを見て驚くがいい。もう足手まといではない。神の武器を持った弓使いなのだ。



名前:カラコ

種族:機械人間

職業:侍 Lv20

称号:無し

スキルポイント:4


 体力:35

 筋力:80(+5)

 耐久力:50(+5)

 魔力 :0

 精神力:30

 敏捷 :110(+10)

 器用 :50


パッシブスキル

【刀術Lv13】【回避術Lv8】

【二刀流Lv11】【必殺Lv10】【跳躍Lv8】【見切りLv5】【下剋上Lv1】

【復活Lv1】

【思考加速Lv13】

【危険察知Lv9】


アクションスキル

【邪眼Lv10】【蛇の目Lv1】

【カスタマイズ】【メンテナンス】

【一刀両断】【破竹】


 ……何故なんだろう。10レベル越えてるスキルが5つもある。


「1レベル負けていましたか。それにしてもスキルレベルが低いですね」

 痛いところをつかれた。

「スキルポイントもあることですし、新しいスキルを取ったらどうですか?」

「そうだな。抽出を取ればもっと品質の高いポーションが」

「戦闘向けスキルです」

 難しいことを言うな。戦闘向けか。15ポイントになったから取れるスキルも増えてるはず。


 先ほどの戦闘ではMP切れと魔法を同時に使えないかが気になったな。

 魔力操作というスキルがそれっぽいけど、外れだった時が怖い。


「今は取りあえず保留にしておくよ」

「戦力向上のためイベント前には取っておいてくださいね」

「わかったわかった」


 20溜まったらまた他のスキルも取れるようになるだろう。



「シノブさん。先ほどから私の危険察知が警鐘を鳴らしてるのですが……」

「奇遇だな。俺もさっきから遠くで飛んでる黒い小さいものが気になっていたんだ」

 俺のMPはもうない。


「走りましょうか」

「だな」

 俺たちは無言で逃走を始める。

 あの虫は群れになるまでは好戦的ではないが、群れとなったとたんに好戦的になる。


「ファイアフライを少しの時間だけならできるようになったが……」

「私はもうできません」

「そうか」

 無言で走る。後ろからの羽音が徐々に近くなっているのを感じながら。

 さっき両方とも敏捷にすればよかった。


 先ほどはバーナーで牽制しながら進めたが、今はもう阻むものはいない。背中に一発の魔法を食らって俺はその場で転んだ。


「シノブさん!」

「俺はいい。先に行け!」

 虫たちは俺を囲むように徐々に集まってくる。

「そんな……シノブさんを置いてなんかいけません!」

「そうやって、自分も死ぬ気か! 俺は死んでも生産してればいい。しかしお前は戦闘しかできないだろ!」

「でもっ!」

「わかった。街に行って救援を頼んできてくれ。俺はそれまで耐える」

「シノブさん……」

「早く行け!」

「はい。絶対……死なないでくださいね」

「当たり前だろ? さあ、行くんだ」

「待っててください」


 そうするとカラコさんは俺を置いて走っていった。

 さて、人生でやってみたいシチュエーション上位の「俺を置いて先に行け」が達成できたな。カラコさんも案外ノリノリで助かった。先に行けって言ったら、はいって言われる可能性もあったしな。


 虫たちは完璧に俺の周囲を囲んで、周りは虫の壁だ。これはトラウマレベルだろ。


 さあ、蹂躙(される)の時間だ。

ありがとうございました。

いつになったらイベントが始まるんでしょうね。

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