29 会議
「1人か2人帰ってくださいー」
「連れないこというなよ、イッカク。今入れてるんだから充分じゃねえか」
いや、充分じゃないと思う。
店に行くとのことでついてきたのだが、そのメンツはワイズさん、ヨツキちゃん、影ことネメシス、ワイズさんの弟子らしいアオ、何でついてきたのかわからないカイザー、よくわからない人。そして俺、カラコさん、ヴィルゴさんにラビだ。この小さな店に10人は少々手狭だ。
何のために集まってきたのだろう。俺がまだ把握していない弓の性能を説明してくれるのだと思っていたが。
「予想より凄い武器になっていたのでびっくりですー」
「……同感だ」
作った本人たちが驚いてどうする。
「は~ははは、製作者も驚く武器だなんてゲームだと思えないなぁ~。俺のことを知らないやつらに自己紹介。ネメシスだ。魔王の友達。って言っても魔王は魔王じゃなくなったらしいな」
ニヤニヤしているという雰囲気が似合うネメシス。
「……称号が無くなっただけだ」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん……」
ワイズさんが膝に座っているヨツキちゃんの頭を撫でるとヨツキちゃんは嬉しそうに目を細めた。ちくしょう、イチャイチャするなら他所でやれ。
場の空気が微妙なものとなる。特にヴィルゴさんの機嫌が悪そうだ。おい、ラビこっち来んな。何で主が機嫌悪そうな時だけ俺を盾にするんだ。おい、離れろ。
「えー、俺の自己紹介もしておこうか。俺はカイザー。βテスターで暴風と呼ばれていた。文字通り風魔法が得意な魔法剣士だ」
カイザーが場の空気を仕切り直そうと自己紹介をする。魔法剣士ね。あのデカイゴブリンの攻撃を小さな盾でいなせるほどの実力者。反射神経がいいのだろう。
「はいはい。全員自己紹介していると、日が暮れてしまうのでー。話を戻しましょうー。シノブさん、この弓の持ち主をどうするかですねー」
どうするか? って何?
「シノブさんは乱用するような人ではないです」
カラコさんが言ってくれた。
「そうだな。空気が読めてないやつに見えるかもしれないが、周りのことは考えている」
ヴィルゴさんも言ってくれた。
お前ら……俺泣いちまうよ。
「乱用するもしないも関係ねえ。遠距離で一方的に殺れる武器があるから問題なんだ。その武器を全く使わないならそれもいいが」
関係ない? カイザーさんの言ってることがよくわかりません。
「そうですねー、シノブさんは早いうちにどこかの組織に所属していた方が良いと思いますー。明日にはギルド加入への勧誘や、パーティーへの勧誘が大量に来るでしょうねー」
そ、そんなことがあるのか。面倒くさい。少し良い武器にグレードダウンしてもらうってのは……。
「……ならばシノブがギルドを作ればよい」
ワイズさん、いつもそんなこと言ってるけど、俺はそんな器じゃないんだよなー。
「それが1番の良策でしょうねー」
イッカクさんまで。
「シノブさんがギルドマスターになれば誰かに使われることもありませんしね」
……カラコさんの言うとおりなんだけどなー。気がのらないなー。
「ギルドは7人以上で設立可能ですが、人はいるのですかー?」
そう、それ。俺達のパーティーとワイズさんは入るとしても4人。後3人足りない。
「……俺は入るぞ」
「お兄ちゃんが入るなら……」
ヨツキちゃんも入って5人。
その場を沈黙が支配した。
「後2人……ですね」
「そうだな」
これはできないという落ちか。
「……アオ、ネメシス。入れ」
出ましたワイズさんの強権発動。
「あ、はい」
「貸1つだぜ?」
二人共了承しなくていいのに……。
「これでギルドメンバーの問題はなくなりましたねー」
「メンバーが過剰戦力だな。そこの刀の嬢ちゃんはわからんが」
確かに。何これ。過剰戦力にもほどがあるよね。ネメシスはわからないけど。ネタプレイっぽいし。なんか巨大な狐を召喚しているアオちゃんに、ワイズさんに、狂戦姫と呼ばれてるヨツキちゃんに。
「では、第一回シノブさんをギルドマスターにする会を始めましょうか」
カラコさん、一体何を……。
「記念すべき1回目を祝って拍手~!」
ネメシスの一言でまばらながら拍手が起きる。
「決めることはギルドの名前ですね。どうしましょうか」
カラコさんが司会進行なのか。それにしてもギルドマスター予定である俺の意見を聞かれないとは一体何故だろう。まさかスキル隠密の効果なのか。
「私達のパーティーの名前は木製人形と書いてデウスエクスマキと読みます」
ここで引く人と、乗る人に分かれたな。カイザーよ、そんな名前なのに引いてるとかないぞ。カイザーとかどう考えても厨二病ネームだろうが。
「別になんでもいいんじゃないですかねー」
何でもよくないと思うぞ。もっとこうセンスがある名前に。
「何か案がある人はいませんか?」
沈黙が再び支配する。
そして最初に口を開いたのはワイズさんだった。
「……シノブさんと愉快な仲間たちとか……はどうだ?」
「却下ですね」
却下だな。愉快な仲間はない。絶対にない。名乗り上げる時に『私はシノブさんと愉快な仲間たちのギルドマスターだぞ!』とか言えるか!
もう半分ギルドマスターになることを受け入れてしまっている自分を見つけた。まあ、頭が無能でも大丈夫だろう。俺はお飾り。カラコさんが影のギルドマスターみたいな。
「もっといい名前あるだろが」
「ではカイザーさんどうぞ」
ロボットみたいな名前してるくせに提案するのか。いや、名前は関係ないか、こいつギルドに入らないのに提案しようとしてることが問題だ。帰れ帰れ。こっちは狭いんだ。
「最後に旅団とか団、隊とかをつけたらどうだ?」
「そうですね」
凄い無難な意見だな。どんな意見を出すかと期待していた俺が馬鹿だった。
「あ、えと。発言いいですか?」
「どうぞ、アオさん」
ほほう、どんな意見を出すのか。
「シノブさんの弓でギルドを作るきっかけになったのですから、弓に関係するものはどうですか?」
「銀の弓……シルバーボウとかはどうだ?」
「ワイズさんの意見はともかく弓に関したものというのは良いですね。……天翔ける蒼銀の射手はどうですか?」
アオちゃんの意見は良かったが、ワイズさんは相変わらずのセンスの無さだし、カラコさんは厨二病だ。『私は天翔ける蒼銀の射手のギルドマスターだ!』
……いいかもしれない。
「……先程から俺の……意見がことごとく却下されているが」
「そりゃあ、魔王。お前にセンスが無いからだぜ? 名前付けなんてしたことのねえ俺でもセンスが悪いってわかるさ」
魔王の体力は0になった。
さっきとは逆にヨツキちゃんに頭を撫でられている。幼女に慰められる大人とは何とも情けないものだ。
「ヴィルゴさんはどう思いますか?」
「うん? 私はいいと思うぞ。他に反対者がいないならそれでいいと思う」
聞いてなかったなこいつ。ラビばっかり相手にしているからそうなるのだ。
「ギルドマスターはどう思いますか?」
「……あ、ああ俺のことか。別に俺は何でもいいぞ」
反応できなかった。話は聞いていたぞ、話は。
サジタリウス……木製人形よりかは短くて言いやすい。天翔ける蒼銀の射手も大概だと思うが。
「天翔ける蒼銀の射手ですか……」
「なんか所属表明するときに恥ずかしいな。こんなんじゃ人増えねえぞ?」
不満の声を漏らしたのはアオちゃんとネメシス。案外まともな感性なのだろうか。
賛成派、カラコさん。
反対派、アオちゃん、ネメシス。
何でもいい、その他。
反対派のほうが多いな。ここはギルドマスターとしてビシッと決めなければ。
「普通に俺の称号名でいいんじゃね?」
神弓の射手。しんきゅうと読むか、かみゆみと読むかはわからないが、この弓のために作られるギルドなのだ。それでいいと思う。
「神弓の射手ですか。シノブさんがそれでいいならいいのですが」
カラコさんも納得してくれた。他の人の反応も上々だと思う。あれ? みんな話聞いてたよね。カイザーとイッカクサンとまだ自己紹介もされてない人はカウンター越しに何やら話し合っているし、ヴィルゴさんは危ない目をしながらラビをモフっている。ヨツキちゃんはワイズさんの膝の上で眠っていて、ワイズさんは何やらウィンドウをいじっているようだ。
聞いているのはアオちゃんとカラコさんだけ。やはり敬語を扱う人はしっかりしているのだろう。
ネメシスは知らない。顔も見えないし、どうなっているのやら。
「では皆さん。ギルド名は神弓の射手になりました。ルビはなんと振りましょうか」
「いや、ルビはいらないだろ」
「……そうですか」
カラコさんよ。それほどまでにルビをつけたかったのか。
「……決まったか。……俺とヨツキは一度ログアウトする。また明日会おう」
「お疲れ様でした」
ヨツキちゃんは最年少……のはずだ。それにあわせてログアウトするのも兄の勤めか。
皆の別れのあいさつを受けて2人はログアウトしていった。
「んじゃあ、俺はレベリングに行ってくるぜ。何かあったら魔王経由で呼んでくれ」
ネメシスは自らの影に身体を沈ませるとドアの隙間から出て行った。
ネメシスとの出会いで大分影魔法に魅力を覚えた。影の中に入れるとか凄いかっこいい。暗殺とかし放題だ。
闇と影の違いとか、重力魔法とか色々気になるものはあるが、今スキルをとれるわけではない。
このゲーム。いかに初期設定で上手く作るかというのにかかっていると思う。
初期でなければ取得できないスキルもたくさんあり、コストも圧倒的に低く作れる。
スキルポイントが有り余っている人でも、初期から取りたいものを取ったほうが明らかに安い。
種族もそうだ。このゲームに転生という機能はあるのだろうか。あれだけ種族があるのだから一種類以外もやってみたい。
後はステータスの振り直し機能だな。
恐らく課金の範囲になると思うが、あったら便利だ。
運営と仲が良いらしいワイズさんに言ってみようか。
その場に残ったのは俺、カラコさん、ヴィルゴさん、アオちゃん、カイザー、イッカクさん、知らない人だけだ。知らない人は何なのか。
「私もあと少ししたら落ちなければいけないのですが……明日の予定は、ギルド設立クエストを受けるということでいいですね」
うん、それぐらいかな。レベリングとか弓の効果を確かめるとか色々あるけど、それはまた別の時でいいだろう。
「では少し早いけど私も落ちます」
「ん? カラコちゃんが落ちるなら私も落ちようかな」
朝から晩までログインしているカラコさん。昼から晩までログインしているヴィルゴさん。その程度のログイン時間なのに称号を得るまで成長させたヴィルゴさんは凄いな。レベルが低くてもプレイヤースキルさえあればどこまででも突き進める。それがVRでゲームをする利点でもあるのだが。俺のような廃人からするとこれだけ時間をかけているのに、プレイヤースキルのみで上位にいる人はズルいと思うが、ズルくとも何ともないだろう。
俺も現実で弓道かアーチェリーしようかな。
逆にゲーム内で得た技術を現実でも使えるようになるというのはよくある話だ。俺が現実でも弓術ができるとは思わないが。
発砲音が聞こえた時、物陰に素早く隠れらる人はゲーマーと言われるが、危機感知能力が高い人は別にゲーマーじゃなくても隠れると思う。
このゲームの場合、異界から魔物が溢れ出してきた時にパニックにならずに済むという所が利点か?
いや、そこまでの廃人となると魔法とかを放とうとして逃げ遅れるか。
カイザーさんと謎の人もログアウトするらしい。結局誰なんだよあんた。
俺も冒険者ギルドに行って生産しようかな。
ゴブリンを大量に始末したせいで魔石が大量だ。すり潰して調合とかできないのだろうか。
「じゃ、おつかれー」
そう言って出て行こうとする俺を呼び止める声がした。
「あ、あの……この後予定とかはありますか?」
アオちゃんとのフラグ立ったな。
素材集めに誘われる。チート武器を使ってかっこいいところを見せる。シノブさんかっこいいです。結婚しましょう!
いや、全然やましいことなんか考えてないよ。垢バンされたくないし。
ゲームの中で好かれてもしょうがないけどな。泣けてくるぜ。
「別に何をする予定もなかったけど?」
アオちゃんがホッとしたような顔をする。可愛らしい。
カラコさんはウサ耳をつけていても、触れたら切れそうな感じがするのに、この子はどうして癒されるのだろう。
「もう閉店なので、話は別の所でしてくださいー」
イッカクさんが俺たちを追い出す。
その前に弓のことお礼を言わなきゃな。
「弓のことありがとうございました」
するとイッカクさんは少し驚いた顔をする。俺が敬語を使ったのが驚いたのか。
「いえいえー、こちらもレベルが大分上がったし、色々構想も得られたので気にしないでくださいー」
そう言ってくれるなら気にしないでおこうかな。
「じゃあ、行こうか。夕食まだだろ? 奢るよ」
「い、いえ。そんなこと……」
「良いって。美味しい店知ってるんだ」
金はない。ルーカスさんと素材で物々交換だ。物々交換できなかったら……つけてもらおう。
ありがとうございました。
ギルドを本格的に作り始めるのはイベントの後になるかと




