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狙撃手の日常  作者: 野兎
神の弓は月の形
28/166

27 試し撃ち……試し?

新キャラがたくさん出てきます。

考えなしに出してしまうのが僕の悪い癖なんです。

 イッカクさんは店の扉に鍵をかけるとついてこいという風に歩き出した。


「お店の方は良いのですか?」

「私の客は少ないですからねー。何かあったらチャットかメールをくれるでしょうー」


 それでいいのかと思うのだが、イッカクさんが店主なのでいいのだろう。



「調度良く的たくさんがあってよかったですねー」


 ん? 的がたくさん?


「イッカクさん、一体俺たちはどこに向かっているんだ?」

「東の森ですよー」

 東の森? 東の森ってもしかしてゴブリン大行進中のあれじゃないですか。


「大丈夫なのか? イッカクの作ったものなら私は信用しているが、大量らしいぞ」

「この弓を作ってくれた人達にも試し打ちをするって伝えましたー」

「なら大丈夫か」

 って大丈夫なの? 生産職の皆さんでしょ?!

 カラコさんも不安そうな顔をしている。死に戻りしたくないのだろう。もちろん俺もだ。


「大丈夫ですよー。このゲーム最強の武器ですからー」

 大丈夫なのか? 武器が最強でも持ち手は最低だぞ。半樹人で弓使ってるようなやつだぞ。



 俺達が東門に着くとそこには沢山の人がいた。

 そして現れた俺たちを見守っている。


「何事ですかー」

 代表してイッカクさんが尋ねる。


「あれって鍛冶師のトップの……」

「イッカクさんじゃねえか」

「イッカクちゃんかわいい抱きしめたい」

「俺も装備作って欲しいなー」


 人混みの中から声が聞こえる。


「そりゃあ、生産職のトップ連中が工房から離れて。東門に集まれば何事かと思ってプレイヤー達も集まるだろが」

 片手剣と小盾を持った男が人混みから出てくる。あまり防具がごつくないところを見ればスピードタイプのアタッカーだろうか。


「あー……、カイザーさんお久しぶりですねー」

 名前忘れられてたんだな。どんまい。


「カイザー?!」

「暴風のカイザーか」

「うほ、カイザー様いい男」

「臨時でいいからパーティーに入って欲しいなー」


 有名なプレイヤーらしいな。

 そのカイザーが来ると俺の周りに続々と人が集まってきた。


「へえ、ワイズが頼み事をしてくると思ったら」

「樹人で弓使いとは……面白い」

「武器は最高なのに防具がいまいちだなぁ~」

「ワイズさんとこの方の関係ってなんなのでしょうか」

「今考えると凄いメンツっすね、ここ」


 俺の周りに集まって弓を眺めたり俺に関して勝手なことを言ってくる。恐らくこの弓を作るのに携わってくれた人たちなのだろう。


 その中でもひときわ目立つ白と黒の二人組がやってきた。

「……中々似合っているぞ」

 ワイズ様! とヨツキちゃん。馬子にも衣装ってやつですか。


「この度は私の弓づくりのためにお力添えをいただけたようで、なんとお礼を申し上げればよいのか……」

 カラコさんよ。俺だって敬語を使えるんだぜ?

 俺のドヤ顔は通じなかったようでカラコさんは首をかしげている。


「……俺が勝手にやったことだ。……気にするな」

 ひゃっほーい、ワイズ様太っ腹ー。って言っても俺は気にするけどな。いつか恩は返そう。



「さっさと行きましょうかー。こんなところで話してても時間の無駄ですー」

 イッカクさんが俺を急かす。人混みに埋もれて大変そうだ。


「イッカクちゃん、私達の紹介ってないの?」

「自らが誰の作った武器を持っているかを気にならないとは」

 生産職の2人が自己紹介を要求してきた。


「そうですねー。じゃあ、皆さん一言でお願いしますー」

 適当だな。イッカクさんはこの人混みに嫌気がさしているようだ。


「私の名前はアメリエール。種族は妖精の付与術師よ。その弓への付与を担当したわ。よろしくね」

 可愛らしい妖精の女性だ。髪は緑色で羽も薄緑。身長は立ったばかりの子供ぐらいの大きさだろうか。俺達の顔の位置ぐらいにふわふわと浮かんでいる。



「俺はガイア。ダークエルフだ。機械技師だ。主にその弓の中を作った」

 褐色肌で髪は灰色。金色の目。表情の変化もすくなく無愛想な感じだ。けど眼力がすごい。金色の目だからだろうか。機械技師だからって機械を持っているわけでもなく、NPCが着ているような服を着ている。初期装備ではない。



「次は俺ね~。俺の名前はショウテイ。ハーフの狼男だ。研磨師やらせてもらってるぜ。その弓に使う矢を更に叩き上げたのが俺ってわけよ。次、アオちゃんどぞ」

 狼男というが普通の人に見える。少し犬歯が鋭いかな? 茶色で少し長めの髪を後ろで縛っている。俺の苦手なタイプだ。鎧を身に纏い剣を持っている。その姿はまるで軽戦士である。そしてドヤ顔をしているが、何をやったのかはわからない。矢もらってないんだけど。



「え? 私ですか、え、えと。アオです。その弓には言霊を使って耐久性上昇を願わせてもらいました」

 慌てる美少女。うん、かわいい。少女だが胸もある。種族は見たままでわかる。額から伸びる2本の角。鬼だろう。アオという名前だが、体は青くなく髪は真っ赤だ。キャラの見た目は自由に設定できないけどね。耐久性上昇とはありがたいことだ。アニメの巫女さんっぽい服装と髪型をしている。



「えーと、俺が最後、かな。コペたろうっす。錬金術師と呪符師っす。その弓では素材による精神力、魔力の強化と呪符による呪いをつけさせてもらいましたっす」

 腰の低い人間の青年だ。赤っぽい茶髪を清潔感がある感じで整えている。あのレベルの狂化をしてくれたのはこの人だったか。そして呪い……呪い?





 えーと、アメリエールさんと、アオちゃん、コペたろう。覚えたぞ。生産職のトップだな。

 俺たちは作ってくださった方々をフレンド登録して


「終わりましたかー。ならさっさと試しに行きましょうかー」


 イッカクさんの歩きにあわせて集団が動き始める。こんなにたくさん固まってて処理落ちしないだろうか。街の中ならともかくフィールドで……遭遇したモンスターは端のほうで切り捨てられるか、魔法によって一瞬で消されている。



「数百メートル先にゴブリンのキャンプはっけーん。弓試すんなら、前に出ないと戦闘始まっちまうぜ」

 俺の足元から黒い影が出てきて報告したかと思うと、またそれは消えていった。一瞬モンスターかと思ってしまったが、マーカーは緑だったのでプレイヤーなのだろう。



「ここらへんですかねー」

 イッカクさんが足を止めた。


「こんなところから届くんっすか?! 凄いっすね」

「全然見えないわよ?」

 そんな風に騒ぐ野次馬を気にした風もなしにワイズが告げる。


「……装填で矢が出る。やってみろ」

 矢が出る?


「装填」

 俺の手に持つ弓にまた青白い矢がつがえられる。


「よぉ、見ろよ。あの弓。ここ最近でも最高の研ぎ具合がだぜ。俺が研いだんだぜ、俺が」

「そうですかー、凄いですねー」

 なるほど、これを作ったというわけか。そしてイッカクさん、棒読みはよくないぞ。


「ちょっとあいつらに撃ちこむの待ってくれやしないか?」

 今日あった人が多すぎて覚えられん。確か……カイザーだな。

「いいですけどー、面倒くさいことはやめてくださいよー」

 イッカクさんの許しを貰ったカイザーは倒れている倒木へと駆け上り、群衆を見渡した。



「皆、今からトップ生産職達が集まって作り上げた最強の武器のお披露目だ! それをあのゴブリン達に今から撃ちこむ! あいつらが来る日に用事があるやつも、無謀に挑んで死に戻りしたやつもいるだろう。しかし周りを見渡せ! 魔王、狂戦姫、影、狂獣に、付与術師アメリエール、陰陽師のアオ、研磨師のショウテイ。そして俺、暴風のカイザーがいる。俺達に負けなど存在しない! さあ、街にいるフレンドありったけ呼んできやがれ! 蹂躙の始まりだ!!」

「「「おおおおおおお!!」」」


 ????何言ってるのこの人。


 魔王はワイズさんで、狂獣がヴィルゴさん。影はさっきの影からでてきた変人だろうけど、狂戦姫って誰だろう。てかアオさんって陰陽師だったのか。式神とか召喚して戦うのかな? 生産職だからそれとも戦わないのか。


「掃討戦ですか。ワクワクしますね。シノブさん」

「あ、ああそうだな」

 やっぱりカラコさん戦闘狂だよ。ワクワクしないよ。てか周りに結構見られてていたたまれないよ。こそこそ火だるま男とかいうのやめて! もう放っておいて!



「んー、何だか面倒くさいことになって来たからさっさとやりましょー。展開で弓を用意、装填で矢をセット。そのまま普通に撃ってもいいんですけどー、カスタマイズがあるんですよー。まず加速、そのままですねー。加速して射程距離を伸ばしますー。次に破壊。これもそのままですねー。威力が上がりますー。後、連射と付加がありますけどー、説明が面倒くさいのでとりあえず使ってみてくださいー」


 何か、凄い機能がついてるな。説明が大雑把すぎてよくわからないが。


「じゃあ、やるか。展開、装填、加速、破壊、連射、付加」

 展開と装填の後に言葉を加えるごとに矢が出る方向の空中へ魔法陣が加えられていく。

 このままいつもどおりにすればいいのかな。


「ダブルアロー、ファイアショット!」


 矢が2つに増えたと思うと、火に包まれ飛んでいった。……んだと思う。

 物凄い勢いで矢が連続で出たかと思うと遠くで爆発音とゴブリン達の悲鳴が聞こえた。

 MPは増えてるはずなのに大分消費している。やばいなこれ。


「野郎共ぉ! 開戦だぁ!!」

「「「うおおおおおお!!」」」


 カイザーさんの一言で軍勢が一斉に動き出した。

 その数は100人は超えるだろうか。その場に残ったのは、俺達のパーティーとワイズさん、ヨツキちゃん。イッカクさん、ガイアだけだった。


「魔王に狂戦姫、それに狂獣。行かなくていいのか」

 ガイアがそう問いかける。

 狂戦姫とはカラコさんのことではなかろう。じゃあヨツキちゃん?


「……俺は生産職だ。戦闘には向いていないが……召喚サモン【カマイタチ】」

 魔法陣と共に3匹のイタチのような生物が現れた。


「……適当に援助してやれ」

 3匹一揃いのイタチは可愛く敬礼をすると一陣の風となって激しい戦闘音のする方向に飛んでいった。


「私も……行く」

 ヨツキちゃんってどう戦うのだろう。

 狂戦姫って……。子供だから戦い方がなってないってことかな?


「……そうか。気をつけろ」

「ありがとう。お兄ちゃん」

 イチャイチャしやがってと思う。ヨツキちゃんはそのままワイズさんの背中によじ登った。おんぶというやつだ。そしてクたっと力が抜けた。意識を失ったのだろうか。


「……経験値は……早い者勝ちだぞ」

 ワイズさんはニヤッと笑い、進んでいった。


「そうでした。このままでは経験値が……経験値が他の人に奪われてしまいます」

 カラコが思い出したのか何やらうろたえている。

「そうか、カラコ行って来い」

「はい! シノブさん、後ろからの援護お願いします」

 そういうとカラコはかけていったが、何のために後ろに残っていたのだろう。


 ヴィルゴさんは何かの葛藤を抱えたように、複雑な顔をして立っていた。

「ヴィルゴさん」

「何だ?」


 イッカクさんが包帯を渡す。


「何もないよりはマシでしょう。頑張ってきてくださいー」

「しかし「今は混戦ですよー。指揮者もいないのにポジションなんて関係ありませんー」」

 何を迷っているんだろう。

「シノブ」

「は、はい!?」

 急に声をかけられたので驚いてしまった。

「今だけだ。盾を捨てていいか?」

 そんなことで悩んでいたのか。元々盾を使っていたわけではなさそうだしな。別に許可なんていらなかったのに。義理堅い人だ。


「ここはゲームだ。楽しんでやればいい」

「ふふっ、ありがとな」


 そういうとヴィルゴさんは鎧の装備を外しものすごい勢いで前線へと向かっていった。

 前線からは剣の斬り合う音、魔法の炸裂音、ゴブリンたちの悲鳴、色々なものが聞こえてくる。


「お前は何を突っ立ている。その手にある弓は飾りか」

 木によっかかってるガイアには言われたくないな。いや、彼は生産職だけど。イッカクさんもその場に座って望遠鏡なんかを取り出して完璧に観戦モードだ。


「さて、行きますか」

 俺は透視ゴーグルをつけると前へ進んだ。

ありがとうございました。

主人公のチート戦が始まるかもしれません。

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