23 俺が欲しかった弓はどうなったのか
ログインしてからカラコさんと今後の方針について話し合う。
「レベル上げと装備の充実は必要ですね」
昨日ゴブリンの軍に特攻をかけた人たちはほとんどが死に戻りをしたらしい。遠距離から魔法を撃って離脱しようとしても、グレイウルフに乗ったゴブリンたちに囲まれるらしい。奇襲をかけられるとしたら暗殺者や忍者などの隠密スキル持ちか、狙撃手などで遠方から狙撃するかなのだが、軍の外側はほとんどがただのゴブリンなので手間とリスクに比べて得られる経験値やアイテムは少ない。
とのことなので今は皆それぞれアイテムの買い占め、経験値稼ぎ、装備を備えるなど忙しく動いている。
「俺はイッカクさんの所に行きたいけどな」
「私も防具と刀を作ってもらいたいです」
今ログインしているフレンドはワイズさん、イッカクさん、ゴールデンマスターだ。
廃人共め。俺より遅くログアウトして、俺より早くログインしているとは何時間寝ているのだろう。
「でも朝から行くのはどうなんでしょうか」
廃人に朝なんてないと思うけどな。
「ログインしているから大丈夫だと思うが」
「なら行きましょうか」
俺たちは依頼ボードを見てから冒険者ギルドを出た。街の中でできるお使いクエストはない。街中にいるNPCに何か困っていることはないかと聞けば特殊なクエストが始まったり、何かを届けて欲しいと頼まれたりする。
マップを頼りに裏道を辿る。相変わらず迷路のようなところにある道だ。外観を見ても他の扉と何の変わりもない。
「おじゃましまーす」
扉を開くと聞き慣れた声が入ってきた。
「このゲームでの中の現象においては全て法則性がある。太陽、植物の成長、モンスターの発生速度など。現実世界の法則を正確に再現しているならともかく現実ではない魔法にも法則というものがある。βの時に解析班の奴と話し合ったことがあったが、自分なりに魔法をアレンジできる魔力操作。これを使えば自らの精神力を全て消費するファイアボールも撃つことができる。その威力はインフェルノをも超える。追加効果という点ではインフェルノには劣るかもしれないが、十分代役になる。魔法の多重起動などもこれと同じことだ。魔力操作を取得しなければ魔法の威力増大や、多重起動はできない。しかしたまにスキルを取得する前に同じようなことが出来てしまう人がいる。そういう人は自動で取得されるのだが、取得した後にまた控えスキルにまわして多重起動をしようとするとできなくなってしまうんだ。不思議だろう?」
「いらっしゃいませー、まだ弓はできてませんよー」
カウンターには椅子に座ったワイズさんとイッカクさんが話し合っていた。
「おはようございます」
「ワイズ、あんな良い調合セットを俺にくれて良かったのか?」
「ああ、おはよう。魔法陣とはこの世界でも最も興味深い研究対象だ。魔法陣の内容にも法則がある。その法則を研究することによって自らの望む結果を作り出すことができる。この世界で魔法陣で出来ないことはないのだよ。材料として高い魔力内封物が必要だがそれもまた問題ない。運営が俺にスキル【グリモワール】を与えたのもこれ以上魔法陣の乱用を防ぐためだろうな。威力は魔法陣を使っていた頃より劣化はしているが、利便性は上昇している。恐らくこれ以上魔法陣を使わせたくないのだろう。他の人はグリモワールの取得条件を探すのに躍起になると思うが魔法陣をレベルだけではなく内容を理解するまで極めなければ「すみません、ワイズさん。マスクつけてください」」
暇つぶしとして聞くには面白い。会話はできないが。
ワイズさんは渋々マスクをつける。
「大体ー弓は骨組みは完成しましたねー、完全物理弓使いが報われるような気がしますー」
うん? 物理弓使いだと?
俺は魔法と弓を使っているのだが。
「いいアイデアをくれたということでー、金属製の弓は負けときますよー。まだ出来てませんがー、魔王さんに目をつけられててヴィルゴのパーティーメンバーだなんて災難ですねー」
災難なのか? 2人には助けられていると思うが。
「……それで……2人は……何しにきたんだ……」
相変わらず嫌そうな顔をしてマスクをつけているな。
「あ、そうです。私は刀と防具を作って欲しくて来たのですが」
「んー、私は刀は作れますけどー、金属鎧しかつくれませんねー。金属鎧は速度低下のデメリットがつくのでよく考えて欲しいですねー」
金属鎧は速度が低下するのか。元々遅い俺には無問題だな。狙撃手で金属鎧というのもおかしな話だが。
「金属鎧ですか……私達には少し合いませんね。では刀の制作をお願いしたいんですが」
遠距離職に金属鎧はやはり必要ないか。俺はローブなどを着たほうがいいのだろうか。狙撃手というとどんな服装が一般的なのだろうか。
「刀ですかー。あいにくイベントが近いのもあって在庫切らしてるんですよー。鉱石系の素材があったら作れるんですけどー」
鉱石系は見たことがないな。一体どこで取れるのだろうか。
「俺が……持っている鉱石を……売ってもいいが……」
「いえ、自分で採取してきます」
俺は収穫スキルを持っているから薬草系は高品質なものを取れるが鉱石系は専門外だな。発見で鉱石が落ちているなら、拾うことができるのだが。
「そうですかー、革防具に関しては『マジカル☆ファイター』って店を訪ねるといいですよー。ファンタジーな防具がたくさん置いてありますよー。私からも言っておくので安くはしてくれると思いますー」
マジカル☆ファイターか……どんな店なんだろう。なんというかコスプレ店みたいな名前だな。
「ありがとうございます。刀の材料を取りに行ったら行ってみます」
俺達は店を辞した。
弓は物理特化というのが少し気になるが、イッカクさんに任せよう。ワイズさんも手伝ってくれたみたいだし、良い物が出来上がるはずだ。
「あ」
店を出て少し出たところでワイズさんの義妹に遭遇する。
「おはよう、ヨツキちゃん」
「お……おはようございます」
ぺこりと頭を下げるとヨツキちゃんは店の方に小走りで歩いて行った。
「イッカクさんとも仲が良さそうだったし、年下の女の子に好かれやすい体質なのでしょうか」
「カラコはワイズさんのことどう思う?」
「私は別に何も思っていませんよ」
幼女か少女に好かれやすい体質なんてやはりロリコ……いや、やめておこう。多分優しいワイズさんの内面が純粋な子供に受けているのだろう。ヴィルゴさんはワイズのことが嫌いなようだが。
「ヴィルゴさんは昼からですが……どうしましょうか。鉱石は北で取れるみたいです」
「なるべく戦闘を回避しながら進んで、ヴィルゴさんがログインするときにまた戻って奥に向えばいい」
「そうですね、じゃあ行きましょうか」
俺達は鉱石を得るために北門へと向かうのだった。
ありがとうございました。




