160 布石
お待たせしました。
気がつくと、拘束されて、ロリの前。
一句作ったのは良いが季語は何だろう。ロリか? 拘束か?
俳句には嗜んだことがないのでわからないが、ロリは春の麗らかさ。拘束は秋のような物悲しさを感じさせる。
「気持ち悪いですねー」
「この鎧を作ったのは誰だ」
幸いロリに襲われる趣味はなく、それが目の前のイッカクさんなら尚更のことだ。このような言い方をしてしまうと俺がイッカクさん以外のロリだったら心を許して拘束されることを喜んで受け入れるという哀れな語彙力の持ち主がいるかもしれない。
しかし俺の名誉のために言っておく。俺は人は見た目では選ばない。心で選ぶ。例えロリだろうと俺を心の底から愛してくれるなら甘んじて受け入れよう。美少女だったら尚良し、大きくなった時に巨乳だと完璧だ!
しかし鎧の上から亀甲縛りとは何の意味があるのだろう。いや、イッカクさんの趣味であろう。
首だけ動かして見るとどこかの地下、俺だけがスポットライトで照らされている。眩しすぎるのでよく見えないが、周りには人がたくさんいる気配がする。
「シノブさんには頼みがあるんですー」
「なんかもう引き受ける気がなくなった」
この人は色々間違えていると思う。変態、いや変人具合で言うとヴィルゴさんに並ぶ……そういや2人は友人だったな。
「シノブさんがマスターを務めるギルド『神弓の射手』は魔法陣の独占販売や闇賭博、傭兵の斡旋などで莫大な利益を上げています」
そうなんだ。浪費するばかりで知らなかったな。というより闇賭博ってなんだよ。
「しかし今回の『ソレイド隠蔽戦争』においてギルドハウスの損傷。また神弓の射手を擁護したギルドへの謝礼。ポーションの配布。魔法陣の譲渡などでギルドの金庫は危機に陥っています。そして今回の事件中、シノブさんの攻撃を食らった人が、『なんか生き残った』『神弓とか言われてるけど大したことなくね?』とか掲示板で色々言われています。このことに関しては神弓の製造方法を最大の秘匿としてきた我々の威光をも覆すもので。威力不足は感じていると思いますので。この依頼を引き受けてくれたら十分な謝礼と神弓のギルドへの資金の融資。新たな神弓の貸与。そしてシノブさんにもメリットがある依頼。これは冒険者ギルドの特別顧問、生産の砦十ニ組問屋の一人受けてくれますかー?」
俺は鎧の下で密かに涙を流していた。引き受けるしかない。俺は……断れない。こんな極悪非道サドロリの言うことを聞いてしまうなんて。どうせ心の奥では全く別の思惑があるのだろう。
「良いだろう。受けてやろう。神弓が威力不足なんて感じたことないけどな。気のせいかな?」
「気のせいですねー。今の主流は筋力と器用を上げた強弓ドワーフが弓界ではテンプレ構成となってますねー。魔法弓エルフは奇襲目的やソロ以外ではほぼ絶滅。細々と状態異常弓が残ってるぐらいですねー。状態異常弓もボスの状態異常耐性増加にともない消えていく運命かとー」
そんなことが弓界隈で起きていたとは、情報収集を怠っていたからわからなかった。
「ファイアショットとかを射るよりも、ファイアボールを撃った方が楽な時代なんですよー。序盤と違いパーティーではMP消費にあまり気を使わなくなりましたしー」
確かに。俺も神弓を使うよりも、ファイアボールを使った方がMP消費は少ない。雑魚にはファイアボールを使った方が効率はよい。
「そこで依頼なんですがー。王都の夜の迷宮と火の迷宮に潜っていただきたいんですー。シノブさん以外は生産者が多くて、シノブさんだけなんですー。なんとかお願いできませんかー?」
「他に誰もいないなら仕方あるまい」
なるほど。雑用を頼まれるのかと思ったが俺にしかできない用事ならば仕方ない。やろう。
「それで潜って何をして来るんだ?」
「そうですねー。単に最下層まで行ってボスを倒して。その後に王都の夜の神殿と火の神殿に行ってくださいー。結果報告に私に会ってくれればそれで依頼完了」
「そんなことなら任せろ!」
「ソロです」
「ソロですか」
ソロかぁー。キッツイなぁ。ソロで二つの迷宮か。ポーション限界まで作ってMPポーションも何とか作り方を入手して。何とかなるだろう。
「別に急いでいるわけではないのでー。そしてこれが私達が作った機械弓。アポロン2ですー」
ここで改めて俺の神弓を見てみると、展開の言葉と共に鎖状の筒が弓の形になり魔力の弦が張られるというものだ。
アポロン2を見てみよう。
「bow!」
これ短い鉄の棒!
弓の原型なくない? 鉄の棒だよ?
どうしたの?
「考えたのは魔法弓を育てていた人の救済ですねー。魔法使いに転職しても上げた器用さは無駄になりますし、戦士になるには筋力が足りない。ということで、筋力がいらなくて、器用さを使ったクリティカルを狙った矢を近接戦闘で使うやり方ですねー」
そんなのありかよ……。
手に取ってみたいが亀甲縛りをされているため身動きがとれない。
「というか、弓使いは体力が低いから近接戦闘なんかできないんじゃないか?」
「だからまだ検討途中なんですよー。長くすると槍扱いになってしまって、太くすると棒になってしまうのでこれが限界ですねー。ブスブス刺してくださいー」
よくよく考えたら体力は有り余ってるんだった。しかしすごくリーチが短い。腕の長さ分しかないし、細く持ちにくそうだ。細いから筋力値がなくても振れるが……そうだ。
「俺、狙撃手」
「転職してくださいー」
タイトル変更! 次週からは貧弱な矢を持ってブスブス刺す人の日常をお送りするぜ!
「ってなわけにはいかない事情がある。詳しいことは言えないが、俺のアイデンティティーは狙撃手であることだ。狙撃手を辞めた瞬間、俺は自意識をなくして廃人になってしまう。話す言葉がが『スナイプ』だけになって幼児退行をした俺が見たいならともかく」
「見たいですねー。でも困りましたねー。狙撃手ですかー」
周りの人たちがザワザワし始める。やはりあのアイデアはダメだったんじゃないか、とかこんな武器が受け入れられるわけがないとかシノブさんかっこいいとか言っている気がする。
「木工部のタケシタだ。イッカクのと俺たちの武器と比べてくれないか?」
バシン、という音と共に1人の人間の男がスポットライトに照らされる。彼がそう言って取り出したのは木製のクロスボウ。随分精密な造りをしている。
「クロスボウなんてそれこそ器用さの無駄振りじゃないですかー」
「それでもあんたのアイデアよりかはましだと思うが。装填に時間がかかるが強弓並みの固定ダメージと魔法攻撃が与えられる。器用による補正はかからないが巨体のボス用と考えたら問題はないだろう」
しかし器用が無駄になるというのはな。少し使いづらいな。
「ふふふふははははは」
またスポットライトが増えて1人の尊大そうに座っている男の姿が光に照らされる。
「ワイズさん?!」
「かたや職業を無視した武器。かたやステータスを無視した武器。いけない。いけないなぁ。全く、イッカク。弓スキルの補正が矢にかかるってとこまでは良かった。まず弓スキルがどこまで適応されるかと言うと矢そのもののみだ。弓が壊れても矢が使えるという救済システム。矢自体の耐久が低すぎて矢を近距離武器に使うことはいささか現実的ではない。リーチが短すぎることも加えてね。そしてクロスボウ! クロスボウを使うぐらいならキャラクターを作り直すかソロでやったほうがマシだってね。クロスボウなんて物理近距離職の使い捨て遠距離武器じゃないか。それを弓魔法使いに進めようなんて! 話を進めようか。弓と矢に補正がかかるというのは全員確信しているところだと思うが、本当に弓に補正がかかっているのか。っていうのを調べた人はあんまりいなかったみたいだね。弓スキルを持った状態と持っていない状態で弓でラビットを殴ってみた。結果、なんら変わりはなかったよ。弓を持って魔法を使っても同じ。結果、弓スキルにおいて弓と名がついていてもスキルにおいて弓は関係なく、弓の性能は副次的なもので魔法の威力、近接攻撃には全く関係ないことがわかった。弓の効果は矢の効果を上げること。ただそれだけだ。事実弓を持っていなくても矢のみで弓スキルは発動している。しかし矢を投げるとこれは投擲スキルの範疇になる。では何故弓で射出した場合だけ弓スキルが発動するか。それは弦を引くという動作に由来している。プレイヤーは矢を投げていたり自らの手で押し出しているわけではない。ただ弦を引いて手を離すだけで矢が自然に飛んでいくだけだ。弓スキルは基本的に接触している時だけ発動しているが、それの唯一の例外が矢を投げなかった場合と言ったところだ」
「それで、何が言いたいんですかー?」
ワイズさん、ノリノリだな。普段見せないこの流暢さ。ギルドでネメシスと2人でこのテンションでいられたら中々うるさいだろう。
「つまりだ。テコを使おうが遠心力を使おうが、何を使ってもそこに投げるという動作が介在していなければ弓の補正はかかる。もちろんこれでもな」
ワイズさんが取り出したのは長い杖のようなスコープ付きの……銃だあれ。
「銃では弓スキルが発動しないことは確認済みですよー?」
「もちろん銃では矢は放てない。これはそこのクロスボウのようなカラクリ仕掛けではなくて魔法仕掛けの武器だ。長い砲身によって矢に様々な効果を付け加えることを可能にした。前みたいに弓に大量の魔法陣を書き込んで言葉によって魔力を消費するよりかははるかに効率的だ。そしてこれは銃でも矢でもない。システム上では杖扱いだ」
みんな驚いているがそんなにすごいことなのだろうか。わざわざ矢を出せる杖を使うよりも普通に高性能な杖を使って低コストで魔法を放てるようになればいい、ような気がするんだが、そういえばここは魔法を使う弓使いの救済場所だったな。
「砲身の部分はともかく台座は木製なんだ。タケシタ、見てくれるか?」
「あ、ああ」
イッカクさんは怖い顔をしてブツブツと何かを呟いているし、踏ん反り返ってニヤニヤ笑っているワイズさんに会場中のヘイトが向いている状態だ。全員の視線がダメージになるとすればワイズさんは死んでいるだろう。誰か! 盾役の人いないの?!
「諦めろイッカク。もうそろそろ新しいプレイヤーがわんさか来る。そんなとこでプレイヤーによる自治政治なんてできると思うか?」
「あ、な、たに言われたくないですねー」
怖い。2人とも怖い。特にイッカクさんがブチ切れそうで、俺はすぐにでも森の中の静かなお家に戻って晴耕雨読のハッピーファームライフを送りたいが、相変わらず誰も俺の拘束を解いてくれない。
「シノブさんがいなければこんな男と手を組むこともなかったんですがねー」
「シノブがいるおかげで俺はこうしてここにいても叩き出されないってわけだ。この弓は俺から進呈する。後で届けよう。さっきは黙ってたがギルドの財政なら心配はしなくていいぞ。俺たちのギルドは金なんて必要ないぐらい金があるからな。そしてイッカク。うちのギルドマスターが縛られているんだが、どういうことかな? ふふはは、これは問題だなぁ」
「申し訳ありません。部下にはそれ相応の処置を」
俺の拘束はワイズさんの指ぱっちんによって無力化された。
やれやれ、肩が凝ったような気がする。
「どっちにしろ。王都には行かなきゃならないと思ってた。金くれるって言うなら準備して行く」
「ありがとーございますー」
必要なサポートはしてくれるらしい。ならポーション類も作ってもらえるというが調合スキルを身につけている者としてレシピをもらうだけにとどまった。
そう俺の本職は生産ではない。戦闘だ。このようなレシピの開発など生産職に任せておけば良いのだ。
それにしても俺のおかげでワイズさんがなんらかの利益を得ているらしいが、俺も散々ギルドに迷惑をかけているからお互い様だろう。まさかこんな立場につくなんて自分でも思っていなかった。
どうやらここは冒険者ギルド内だったようだ。
「お疲れ様でしたー」
さて、拠点に戻って、残り時間で作るか。
巨人の持つ剣は大剣か否か。
というのも議論されています。
鑑定系のスキルが鑑定、分析、識別と分散しているのもわかりにくさを助長してます。
巨人の持つ剣はアイテムの段階では大剣扱いですが、巨人が持つとシステム上は棒扱いになります。なので剣を装備していても剣術スキルの補正はまったくかかりません。ただ剣術のアクションスキルは使えます。
巨人は筋力値がおばけだから仕方ないよね。
このゲームでトップのプレイヤーになりたければ、剣を扱ってるけどスキルは棒術とかいう変態でなければ無理です。
チートに見えるプレイヤーとモブとの違いは純粋な技術の違いもありますが、多くは適切なスキルを取得しているかということです。
シノブはしてません。
狙撃手の日常は更新を停止しましたが、どうしても続きが見たいとか思ってる人は活動報告で色々言ってるので見てください。
ここで終わらせるつもりはないです。(宣伝)




