158 襲撃
おはようございます。ということだが、ベッドは既に灰と化したのでおはようも何もない。ログインしただけだ。
『おはよー』
カグノも1日で復活したみたいだな。最近自爆戦法ばかりしている気がするから労ってやらねば。
「今日は特に予定ないからレベル上げでもするか! 王都のダンジョンとかにでも行ってさ」
『やったー!』
と、ドアを開けたら何かが飛んでいった気がする。
「なんだよその威力。チートかよ!!」
「さあて、どうかなっ! はっはっー。喧嘩売ったこと悔やんで死ね!」
黒い弾丸に貫かれたその白い男は死に戻っていった。ネメシスさん朝からテンション高いな。
「ギルマスおっはー! ギルドに大量の敵が侵入! 副ギルマスに詳しいことは聞け!」
こんな朝にか。確かに朝は人が少ないから襲うには好都合だけど。カラコさんに詳しいこと聞くか。
こんな建物内まで侵入を許してるとか中々の相手らしい。
ネメシスはその場ですぐに消えた。戦闘用にスキルを入れ替えておこう。
屋内だから俺自身で神槍を使うか。ちょうどレベル上げしようと思ってたんだ。都合がよい。
「シノブさんは隠れててください」
「えー」
『えー』
「ギルドマスターがやられたらあちら側の目的は達成されてしまいます」
玄関口で戦っていたカラコさんは俺に気を取られた敵一同を塵へと変えていた。既に月神化しており本気モードだ。
「チェックメイト」
俺の腹から一本の剣が突き出る。
そしてカラコさんが俺ごと背後から出てきたやつを真っ二つ。
「わかりましたか? こんな風に暗殺者が多いんです。相手は脆いとはいえ、奇襲というのは危険です。今は鎧の上からだから良かったですが、当たりどころが悪かったら」
ちょっと混乱してるー。何故首じゃなくて鎧で守られてる腹を狙ったのかもわからないし、そしてなぜ鎧を貫通したのかもわからないし、カラコさんが俺ごと躊躇なく切ったのもわからない。フレンドリーファイアがなかったとはいえ躊躇なく切れるもの?
「リフレッシュ」
しかしカラコさんの言い分はわかる。
「じゃあ別の場所に行ってるか」
「それもダメです。私が死んだらアウトになるので」
融通のきかないシステムだ。
「わかったわかった。安全そうな場所からトレント量産しとくから」
なぜゴーレムではなくトレントなのか。それは外を見るとマッドのゴーレムが暴れまわっているからだ。ちょっとした対抗心というやつだ。
「狙撃にも気をつけてくださいね」
狙撃だなんて、木の上からでも狙う気か? エウレカ号にカグノを搭載していればなんとかなりそうな気がする。それに一発でやられるなんてそんな。
「では私はこれで」
俺も外に出てレベル上げを頑張ろう。でも見た感じ30人程度で俺が出る間もない。
「ポーションを飲んどくか。ファイアゴーレム! トレント」
いつも通りな感じでよろしく。
「カグノ、見参!」
どこからそんな決めポーズを覚えてきたのか。
遠くでククが血祭りに上げているのが見えるな。おい! ローグホーネット! やめてあげろ! プレイヤーは肉団子にするな!
俺が成人しているからか、少しスプラッタなものを見てしまったような気がする。
「バンブースピア、バンブースピア」
ほら、このようにして周りに綺麗な竹を生やすと周りの惨劇が見えずにゆったりとした気持ちで過ごせますね。あと必要なものはお茶と和菓子、そして椅子です。
「ランドマイン。ダブルウッドバインド」
ランドマインで俺の前方に罠を仕掛け、ダブルウッドバインドで上手く椅子を作ろう。元々が弾性のある木である。ちょっとねじ曲げてやれば自然な椅子の出来上がり。
「さて、筍でも掘るか。グロウアップ」
美女のカグノが汗水たらしながら筍を掘る。素晴らしいな。
「カグノ、筍堀りにはコツがあるんだ。本当に頭しか出てないやつを掘る。そしてその神槍で周りの根茎を切り取って引っこ抜く。そんな顔しないで美味しいからやってみなさい」
『やる!』
現金なやつだ。俺が何の意味もなくカグノに重労働をさせると思っているのか。
結論から言うとカグノは中々上手かったといえる。というより神槍の性能が良すぎるのかもしれない。
しかしこう引き抜く時に揺れる胸を見ていると表情が柔らかくなるのもあるが、あれはブラをしているのかという疑問も湧いてくる。
カグノはああ見えても生まれたての神だ。ブラジャーをつけている神というのは何か神聖さが失われてしまうのではないか。神なのだから裸でも良いとは思うが。
ここまで考えたところで俺の頭の中に電撃が走った。
カグノに特に服を着ろとも言ったわけではないのに服を着ている。それならばあの服は服ではなく、体の一部と考えるのが自然なんじゃないか?
「裸なんだ! 服を着ているように見えるだけで裸なんだ!」
『んー?』
「何でもない」
とんでもないことに気づいてしまった。開発者に服の下はどのぐらい作り込んであるのか聞いてみたい。
しかし裸の上に服を着ているだけと考えると、これまたエロいな。そうか裸なのか……。
俺はこれからカグノをどう見ればいいんだ。これはこれから俺が生き残る上での大きなテーマとなるだろう。
「筍ご飯、筑前煮、後は焼き筍ぐらいかな」
いや、待てよ。筑前煮に筍は入っていたか?
「トレント、トレント。行ってこい」
筑前煮でも地域差大きいのだろう。なんだか何でも入っているイメージがあるからな。人参とごぼうとこんにゃくと……そんぐらいだな。どれも土の中の物だし筍が入ってても問題はないだろう。
『ひまー!』
「筍掘ってるカグノを見るのは飽きないけどいい加減に終わっても良さそうなものだけど、戦い終わってないんだな」
トレントを何体送り出したことだろう。しかも時々外では鬨の声みたいなのが上がっているし、いつの間に世は戦国時代になったのだろう。
俺が筑前煮について考察している間に30分は経っているだろう。
「おっ、すごいな!」
カグノが神槍を振るとだるま落とし的に竹が短くなっていく。スコーンという軽快な音が鳴り、見ているこちらとしても気持ちが良い。
「ようやく見つけたぞ……」
「どちら様ですか?」
素晴らしい童心に返ったような遊びの最中にボロボロの戦地の人がやってきた。かっこいい忍者の服装をしていたのだろうが、土埃やら傷やらで汚らしい。
『楽しーよ!』
「そうか、よかったなー」
「なめやがって!」
そう言った彼は爆発に巻き込まれて死にました。忍者は脆いな。
「出口の地雷も除去されたことだし、外行くか!」
『ちょっと待ってー』
竹をだるま落としにするスピードが上げようとものすごい勢いで振っているが、こちらに薄っぺらい投げ輪のようなものがたくさん飛んできて痛いだけだ。
そしてカグノを連れて外に出ると、完璧な戦争状態になっていた。なんだか知らないけど防衛戦みたいな壁ができてるし、うちのギルドメンバーじゃない人達も一杯いる。こんなになってNPCの人達は避難できたんだろうか。
援軍が援軍を呼んでこうなったのだろうが、人の庭先で暴れまわるのはやめてほしいものだ。畑がもう台無しじゃないか。
「一体全体なぜこんなことに。カグノ、遊んできていいぞ」
『やったー!』
激戦地に飛び込んでいくカグノ。ここまで行くともう暗殺者ではなく戦士を警戒するべきだ。
少し離れたところを見ると天幕が張られている。あそこが本陣だろう。
と俺が入ろうとすると見知らぬ獣人が俺を止めてくる。
「所属と名前を」
「ここの拠点のギルドマスターのシノブだ」
「失礼つかまつりました」
「気にすんな、仕事だろ?」
「遊びです」
俺とその虎の獣人はしばらくの間、見つめあったがそのまま何を言うこともなく天幕の中に入った。何だったんだ。
しかし変人というやつはどこにでもいるものだ。
「シノブさん! どこにいたんですか、探しましたよ」
隠れていろと言われたから隠れていたのに非常に理不尽な気持ちだが、確かに俺の隠れ方が完璧だったというのもあるかもしれない。まさか竹やぶなんていう防御力の欠片もない場所に隠れているとは思わなかったのだろう。
「今どうなってんの?」
天幕はえらい大混雑をしている。
「戦争です。試算してみたところ、ゲーム内の3割ものギルドがこちら側について戦ってくれているそうです」
3割か。残り7割は不参加とあっち側ということか。平日午前を考えると驚くほど多い数だな。
「で、なんでこんなことになったんだ?」
殲滅できたなかったのか?
「あちら側の大義名分は、私達が新しい街を隠蔽し利益を独占していると。確かに冒険者ギルドではまだ報告されていない出処のわからないアイテムなどが売られていました。それで冒険者ギルドもグルになっているのじゃないかということでイッカクさんと親しく、何かと顔が効く私達と上位ギルドが隠蔽しているんじゃないかということで、少数ギルド達の連合が宣戦布告してきたということです」
確かに新しい街が開放されたというインフォは流れたな。
「冒険者ギルド側はNPCが声明を出したために攻撃の対象から外され、それがこちらに。そして名指しで非難された有力ギルドはこちらということです。既に掲示板では『大手か中小か』というスレッドが立っているぐらいにはイベントみたいになってます」
色々と言いたいことはあるが。
「うちでやるなと言いたいな」
「まあ広いですし……」
大手と中小じゃあ中小にどんなにすごい技術があろうとも、大手が勝つだろう。なんせ人数が違う。
「そんな戦争みたいになってるなら暴れてこようかな?」
「死なないでくださいよ」
「もし生きて帰ってきたら……結婚してくれないか?」
「結婚システムなんてないじゃないですか」
いや、あるぞ。特に結婚しても何のメリットもないが、イチャイチャラブラブ感を出せて、周りから羨みの目で見られるという利点がある。
言質は取ったぁ!
「んじゃあ行くか」
「頑張ってくださいね」
頑張ります!
ククは半分が焼失した状態でこちらの方に移動している。陣営は建物側に有力ギルド連合、森側に有象無象連合がある。
「クク、疲れてるところすまないが、上に乗せてくれないか?」
枝が階段状になった。
よく頑張ってくれたものだ。雷でも落ちたみたいになっている。
高いところから見るとカグノの暴れようがよくわかる。すごい遠い森の方で爆発が見えるから上手い具合に騙されて囮にでも引っかかっているのだろう。
「加速、ウッドショット」
たまには絨毯爆撃ではなく狙撃手らしく、ヘッドショットを狙おうじゃないか。それにこんなところから爆撃なんてしたらいい的になってしまう。
例え威力が足りなかったとしても、矢に邪魔されて動きは阻害される。その間に誰かが殺ってくれればよい。
狙って射る。
狙って射る。
狙って射る。
これぞ狙撃手というものだ。
矢に当たった時の相手のイライラした顔がたまんねえな。
それに擬態を最大限にしているので俺の居所は中々わからないだろう。
「ヒヤッヒヤッヒヤッ」
そんな笑い声が自然と出てしまう。人の悪意を計るメーターがここにあるなら針が振り切れてしまうだろう。
狙撃手は捕虜にされても必ず殺されるそうだ。必ず味方を殺したとわかるからだそうだが、下手な狙撃手からしてはいい迷惑だと思う。いや、戦地に下手な狙撃手はいないか。
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに30ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが18増えました》
《スキル【呪術】を取得しました。スキル欄が限界なので控えに回されました》
《戦闘行動により【弓術Lv28】になりました》
《戦闘行動により【擬態Lv23】になりました》
《戦闘行動により【隠密Lv24】になりました》
《戦闘行動により【狙撃Lv26】になりました》
《戦闘行動により【遠見Lv21】になりました》
《戦闘行動により【精密操作Lv10】になりました》
種族:半樹人
第一職業:狙撃手 Lv40
第二職業:森呪術師 Lv14
称号:神器の使い手
スキルポイント:102
体力 :100(-35)(+30)
筋力 :30
耐久力:50
魔力 :150(+88)
精神力:165(+49)
敏捷 :50
器用 :100(+87)
パッシブスキル
【弓術Lv28】
【風魔法Lv26】【木魔法Lv30】
【狙撃Lv26】【隠密Lv24】【擬態Lv23】【気配察知Lv23】【遠見Lv21】
【思考加速Lv25】
【精密操作Lv10】
今回のことでわかったのは、俺は死んではいけないということだ。ギルドマスターは死ぬとギルドメンバーに迷惑をかけるから、耐久面を補強しなければいけない。魔法使い系のギルドマスターは大変だな。といっても俺も一応遠距離魔法系なのだが、何も振ってない体力と弓を使うために振りまくった器用が同じという種族特性があるからな。
それにしても呪術か。呪術と魔法の違いとは。
魔法スキルには入ってはいるが、特に呪文が覚えられたりはしないようだ。普通の魔法と組み合わせて使うみたいだな。そんな風な感じの表記だ。
1番使うものといったら火魔法かな。威力高いし。
《進化させますか》
《スキル【呪火魔術】を取得しました》
「いたっ!」
寝違えた時のような首の痛さ。
ゲーム内で寝違えるということも……なにこれ。
空中に浮かぶたくさんの赤い人達とその手にある真っ白な火球。ジリジリとしてかなり離れているのにその熱さがわかる。
『逃げるわよ!』
「師匠!」
師匠の黒いマントに包まれて、俺は意識をなくした。
本来ならばこの戦いでシノブの物語は終わるはずでした。
シノブがかっこよく戦って、色々あってハッピーエンドのようなものを想定していました。
しかし第二職業という連載が長期化するような要素を入れてしまった挙句、既に第二職業で取得できる呪文を考えてしまっている上に養蜂スキルやシノブが牧場見学に行く話や、リアルで彼女が出来そうになる小話とかがあり、忘れている伏線も大量にありそうで、今終わらすと打ち切り感が半端ない。
ということでまだまだ、後1年はシノブの脳内を書くことになりそうです。
裸の上に服を着ているという意味がわからない思考をしているシノブをこれからもよろしくお願いします。




