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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
160/166

156 前兆

お久しぶりです。

前回のあらすじ

ヴィルゴさんから逃げ出してきた俺とカラコさんはノルセアー海間で巨大な津波に襲われ、草原は海へと姿を変えた。俺は津波を食い止めるためにカラコさんを先に逃したのだが……大変な事になっているようだ。




 自分の足の遅さが恨めしい。

 馬は未だに戻ってこないし、再召喚できないということは死んでしまったのだろうか。名前もつけていないから愛着もわいてないが。


 とここで名案が浮かんだ。


「トレント!」

 巨大な木の重さに氷の道は耐えきれずにミシミシと嫌な音を立て始める。


「トレント、お前が沈む前に頼む。俺を向こう側に吹っ飛ばしてくれ」

 トレントは俺の足を掴み、俺の指差した方向に吹っ飛ばしてくれたが、もう少し確認を取るとか。色々段取りがあったと思う。


 俺を投げた勢いでトレントは水の中に沈んでいったようだ。お疲れ。


「I can フライ!」

 飛ばされた勢いのまま、俺は宙を舞う。そしてあっという間にその場所にたどり着いた。

 巨大な波が起きたせいか海の中は濁りまくっており、中で何が起きているかはわからない。


 綺麗な透き通る海には余裕で潜れるが、謎の生命体がいる濁った海には潜りたくない。邪神でも出てきそうだ。

 しかしここで飛び込まなかったら色々後で言われそうだ。


 ええい、ままよ! か南無三! どちらを飛び込む時に言うか迷うな。どちらも普通の人生を送っていれば言うことのないワードトップテン入りするだろう。

 しかし迷っている時間ももったいない。


「はいや!」


 海の中の視界は悪い。悪いというレベルではなく、ないと言った方が正確かもしれない。


 そして海の中で俺ができることはほとんどない。

 しかし唯一できることがある。


「展開!」


 さて、神弓の真骨頂。見せてやろう。挑発とそして高火力によるヘイト集め。そして元々盾職業向きの俺がそれをすることでアタッカーのチャンスを作り出す。


 カラコさん当たったらごめんね!


「装填、加速、付加、連射!」


 海水中で放たれた弓は何かにぶつかって爆発を起こす。海の中で爆発が起きるとどうなるかは知らなかった。

 爆発の中心に向けて物凄い水流が流れている。機転をきかして水流の中心に向かう。と案の定カラコさんが流されてきた。

 水中機動力が0なカラコさんだ。流されてくれると思った。


「フライ」

 カラコさんを抱えて空中に飛び上がるとカラコさんはぐったりしていた。

 精神的に疲弊しているカラコさんをお姫様抱っこするのは不可抗力だ。いや、正直に言うと全然不可抗力ではないが、今のカラコさんにフライをかけても飛ぶ元気があるとは思えない。運営でも誰に見られても十分に言い訳ができる行為だ。

 しかしカラコさんが通報すれば簡単にバンされる状況であるということも忘れてはいけない。

 ここは紳士的に行かねば、紳士の権化と言われる俺にとってできないことなどない。

 


「死ぬかと思いました……それと神化の代償で体が重いです……」

 他のフィールドにまで影響を与えるボス。


 もう初心者はいないとしても運営は何も考えているのだろう。生産者がここで何かをしていたとして巻き込まれて死んだらその浜でクジラと戦ってたプレイヤーの責任となってしまう。

 プレイヤー間の仲を悪くさせるってのが運営の狙いかな?



「後もう一つですけど……私に襲いかかってきたかなりの数のモンスターを屠ったんですが……」

 屠ったって言い方が中二病。


「経験値が入りませんでした……」

 よほど格下だったんだな。


「格下だったのかもしれませんが、泳ぎのレベルが3から上がらなかったのは異常です。あれだけ激しく動いたのに……」

 泳ぎのスキルを獲得していたのか。それなのにその水中機動力か。


「もしかしたらこの海は魔法によって創り出されたものじゃないか、と思いまして」

 な、なんだってー!


「何者かが私達を疲弊させるために意図的にこのような場を作って召喚獣を通常モンスターと見せかけて放った……」

 恐ろしい陰謀脳だな。


「まさっかー」

 俺がそれを笑い飛ばすと、カラコさんも一緒になって笑った。

「そうですよねー……と笑っていた私達は気付かなかった。これがあの巨大な組織。ギルドの陰謀だと……」

 カラコさんがここまで言うのならばその可能性が高いのだろう。

 巨大なギルドと言ってもたくさんあるが……俺達のギルドを襲おうとするなんて命知らずだな。


「現に私はこうして消耗しましたし、ヴィルゴさんも戦いで疲れるでしょう。シノブさんが元気なのが幸いですが……」

 しかし俺は胸を張って言える。対人戦では役に立つことは恐らくない。

 俺の手札は有名になりすぎた。

 俺を殺すには、俺の至近距離から強力な物理攻撃を叩きこめばいいが、こちらにはカラコさんという感知スキル持ちがいるし、カグノもいる。


 それに対人戦最強とも言われるヴィルゴさん、なんか強い雰囲気を醸し出しているワイズさんとか時間稼ぎさえ成功してくれれば来てくれるだろうし、ぶっちゃけ負ける要素ないな!

 皆頑張ってくれ。俺は逃げる。



「それに今の状態、足手まといの私を抱えた状態で襲われたら頑丈ということで有名なシノブさんでもひとたまりもないでしょう」

 それは褒めているのか、どんな時でも大抵生き残っている俺に対する褒め言葉なのか。それか俺がどんな時でも生き残るというこの皮肉だろうか。


 なんてことを話しているうちにノルセアについたので、そこから直接拠点へと飛ぶ。

 襲われることはなかった。



 イッカクさんとガイアが来ているようだ。

 俺は何も頼んでいないし、他の人の用事だろう。わざわざイッカクさんが出向いてやるようなことといえば非合法な何かか一般プレイヤーに公開されていない機密事項だと思うのだが。


 カラコさんの自室。相変わらず俺の部屋との格差が現れている。



「ありがとうございます」

 ギルドポイントを使って結界を強化しておきたいと言っているが、そこら辺は任せる。何ならカラコさんのステータス異常も治していいと言ったのだが、少しログアウトするから良いのだという。


 さて、カラコさんもいなくなったことだし。


 ウサギの様子でも見に行くか。



 ウサギのことを気持ち悪いと思うことがくるとは思わなかった。

 少し小屋が狭すぎやしないか?

 アメリカの家並みに大きかった小屋は既に狭くなっている。ウサギの上にウサギが乗っているうさぎまんじゅう。



 そしてソルジャービーがローグホーネットに進化して体が大きくなっている。

 具体的には牙がでかくなっている。


 ブンブンと頭の上を飛び回っているが、前のことは忘れたのだろうか。



 いつからローグホーネットになったのだろう。

 ……俺は蜂語がわからないからわからないが。



 ブンブンと飛んで、ウサギ小屋からウサギを仕留めている。仕留めたウサギはククの根本に置き、またウサギを仕留めに行く。

 ククはというとウサギの血を吸い取った後、放置している。

 体中の血液がなくなったウサギを見ても何も言わないのか。新しく仕留めたウサギを共に噛み砕いて肉団子にし始めた。



 ローグホーネットは意外と器用で皮を剥いで、内蔵を抜いて、肉団子を作っている。

 もしかしてこれは人間でも食べれるんじゃないか?


 ローグホーネットが作り上げた肉団子を手に取るとアイテム欄に収納された。

 ローグホーネットも収納しておこう。


《行動により【養蜂Lv2】になりました》


 養蜂がLv2になったが、何をしたのか全くわからない。

 蜂に何か作らせたからか?



 そして分類は食物だ。

 確かに元はウサギだから食べれないことはないだろう。


 名前はローグホーネットの肉団子となっている。

 鑑定して見ると少し不安になるようなことが書いてあった。


 ローグホーネットの唾液が混じった……。


 大丈夫だろう。

 検証のためにローグホーネットをもう一度出す。


「もう一回肉団子作ってくんない?」

 口答えすることなく作業に移ってくれる。


 ウサギ2匹で肉団子1個か。中々大きい肉団子だし、そんなものか。


 もっと良い血が飲みたい。

 ククの欲求を無視し、肉団子を回収してまた封印陣に戻す。


《行動により【養蜂Lv3】になりました》



 養蜂というのは名ばかりで蜂に作業させるのならば何でもいいということか。

 ローグホーネットが1匹だけなのであまり生産性は期待できないが、数が増えたら工場生産のようなことができるかもしれないな。

 取り敢えずこの肉団子を食べてみるか。



「ウッドバインド、ウィンドハンド」

 肉団子を手に持って、ウィンドハンドを切らさないように。

「ファイアボール」


 近づけ過ぎると火が消える。風の手を使っているから当たり前か。

 仕方ない。

 神槍を使うか。


 カグノが何も言わないので、眠っているのだろう。

 神槍の刃を出して肉団子を刺すと中から焼けているような音が聞こえる。ちょうどいい。

 中と外から上手く焼けるだろう。


 俺の料理スキルのおかげか、綺麗に焼き上がった。

 味つけが仕方ない。肉の旨味があるだろう。


「いただきます」

 神の槍に肉団子を突き刺して食べるだなんてなんという贅沢。

 蜂の子を食べた時のような衝撃は襲わない。柔らかい肉団子だ。

 

「う、うまーい!」

 味がついていいたら美味しそうだ。今のままではただの肉団子以外の感想は思い浮かばない。しかし誰も見ていないという時がマーケティングをするには一番なんだ。


 これは売れる。

 しかしローグホーネットが大量にいないことには話にならない。どのように量産体制を確保するか。



「ローグホーネット……自立する気はないか?」

 俺は静かにローグホーネットの前で腰を下ろし、このギルドを守る神木であるククを見上げる。


「お前もいつまでも養われているだけでは気が休まらないだろう。ああ、働けと言っているわけではない。そうだな……正直俺もお前を養うのが苦しくなってきたんだよ」

 封印陣に入れている限りアイテム扱いで処理されるので何の負担もかからない。

 しかしローグホーネットをその気にさせるには仕方がないのだ。


 ローグホーネットも飛ぶのをやめて静かに地面に着陸した。


「お前の最初の仕事を与える。肉団子を作れる作業要因をさらってこい! 封印陣はもう解除する。これは契約だ。やりたくなければいい。お前がやりたくないという仕事を無理にやらせるつもりはない。だけどなっ」

 ここで俺はローグホーネットの肩らしき場所を掴む。


「俺は……俺はお前に立派になってほしいんだ。お前がたくさんの蜂を率いて仕事しているところを見たいんだ。俺にお前の立派な姿を見せておくれ」

 はい、出ましたこの俺の泣き芸。俺のこの泣き落としで落ちなかった蜂はいないと言われる。


 ローグホーネットは羽を広げて飛び上がった。


「やる気になってくれたか! 父さんは嬉しいよ」

「何やってるんですか? シノブさん」





 ……見られた……だと?

 蜂相手に一人芝居をしているところが見られた……?

 過去の所業を見返しても俺が変人だということは疑いようのない真実だということはカラコさんの意識下に刷り込まれてしまっていると思うが。

 さすがに蜂相手に一人芝居をしている変人だとは思われたくない。


「うわーーーー!!!! びっくりしたカラコさんかー!!!!」

「なっ、なんですか?」

 上手くビビっているようだ。このまま畳み掛ける!


「あ、この肉団子食べる? 美味しいぞぉ〜。ポーションもあるぞ。カラコさんの他には作ってやらないことにしたんだ」

「シノブさん?! ムグ」

 問答無用でカラコさんの口に肉団子を突っ込み、上からポーションを流し込む。


 ローグホーネットにさっさと行けと手を動かすと森の中に消えていった。



「さて、それで何の用? 急に来たからビックリしてしまって第二の俺が現れてしまったよ」

「今のが第二のシノブさんですか……」

 上手い具合に話をそらせた。多分蜂のことなんて忘れているだろう。

 覚えていたとしてもさっきまでの奇行をしていたのは第二の俺だから問題ない。


 ……蜂に対して一人芝居をしているという事実を隠すために恥を上塗りにする、というと理性を失った、ただの獣だが俺のプライド、外聞、その他諸々は既に暗黒に染まっている。

 全てはもう手遅れなのだ。


 おそらくカラコさんは俺が蜂相手に一人芝居をしていても『シノブさんなら毎日してそう』とか言うのだろう。

 その何気ない事実を隠すためだけに第二の俺を登場させてしまった。


 この汚点は将来の俺を苦しませるだろう。


「さっきの蜂は何だったんですか?」

「よし、毒薬飲もう」


 服毒自殺を試みる俺と、カラコさんの攻防は結果的にはカラコさんが勝つことになったが、蜂のことはもう聞かないと約束してくれた。


 めでたしめでたし。




 ……俺も忘れよう。

カラコさんは心配性ですね笑

シノブとカラコさんが戦う時は身長差があるのでシノブの手の間合い内に入ってしまえばカラコさんの方が有利になります。力もカラコさんの方が強いので近寄られたシノブにはどうすることもできません。後は関節を極められるだけです。

どうでもいいけど天王山って京都にあるんですね。


次回投稿日は未定です。おそらく秋、できなかったら来年の春終わり頃に投稿再会とさせていただきます。

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