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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
157/166

154 海

 海。

 年がら年中、心地よい気温なこの世界でも海エリアは暑いらしい。エリアが暑い、即ち海が冷たく気持ちが良いということなのだろうか。俺としては外気温が低く、水温が高い方が良いと思うのだがそれではただの温水プールになってしまう。いや、温水プールではないか……。なんでもいいが海が冷たくないことを祈るばかりである。


 ノルセアを南方を馬に乗って進む。かつて俺を苦しめたウサギなど俺の前に立つことさえ許されずに馬の脚で蹴散らされている。絶対強者にでもなった気分だが。俺一人になると襲われる可能性が出てくるので高笑いは我慢しよう。傲慢は良くない。


「海には徘徊型のボスがいますが、沖合に行かない限りは襲われないそうです」

 クラーケンを期待したのだが、巨大なクジラらしい。


 GWO名所百選の1つにも選ばれているのがその巨大なクジラが潮を吹き上げる姿らしい。名所百選とか誰が選んだのか。また掲示板での話だと思うが。

 1時間に1回、潮を吹くらしい。どんな体内時計なんだ。間欠泉か。



 基本砂浜には雑魚しかいなくて、沖に出るほど高レベルのモンスターが出てくるらしい。

 今の所は海に行ってるプレイヤーが多すぎて、砂浜に出てくるモンスターはリポップが追いつかずに、砂浜にはたくさんの人が集っているらしい。

 海の家などがあるのだろう。

 非常に楽しみだ。





「海だ! 海が見えたぞー!」

「逆遭難みたいに言わないでください」

 逆遭難とは。たとえ砂漠で遭難していたとしても海が見えても嬉しくないと思うのだが。その人が海水を淡水に変換する術を持っているのならまた別だが。

 それにその島が陸に繋がっていたり、水があるかどうかもわからないのに、陸が見つかるだけで叫ぶ風潮というものにも一言申したい。

 期待感だけ煽るのはやめよう。


 陸を見つけ船員一同小躍りして、残された水を飲み干し、いざ上陸して大亀の甲羅だったらどうするのだ。


 いや、今はそんなことどうでもいい。今は海だ。

 太陽を反射してキラキラと光る美しい海。海の色が緑をしていて、熱帯地方の海のようだ。潮の匂いが海に来た記憶を思い出させる。

 そう、あれは何時だっただろうか……全く思い出せない。


 広い砂浜を遠見で見ているが数え切れないほどの人がいる。セールでもしているのかというほどの盛況ぶりだ。

 この時点でもうやる気をなくす。そしているのが水着姿の女の子ならいい、しかし周りを見るといるのは筋肉のある男の上半身だけだ。鳥人の翼がどんな風に生えているかという疑問は解けたが、そんなリターンでは補えないぐらいの筋肉。

 筋肉。溢れんばかりの筋肉。一応女の子もいるのはいるが、素肌を露出させている人は少ない。


 おかしい。俺の脳内調べでは、海辺には水着の女の子がたくさんいるはずだったのだが。

 これでは美女戯れる花の園ではなく、筋肉戯れるキノコの園じゃないか。

 キノコを否定しようとは思えないが、あの菌の塊には一体どんな栄養素が詰まっているんだ? 謎だ。



「シノブさんどうかしましたか?」

 海というものの現実に絶望し、膝をつき静かに世界を恨んでいる姿は外から見ればまるで滑稽だろう。それにカラコさんにはこの悲しみはわからないだろうし、別にわかってほしくはない!


「いや、キノコの存在価値について考えていただけだ」

 ここは紳士らしくジェントルマンに野生を放棄し、イギリス人のように立ち振る舞おうではないか。今からモーニングティーでも初めてやろうか。とか思ったのだが、今持っている飲み物は蜂蜜酒だけだった。

 空気の読めない酒だ。


「キノコは必要じゃないですか?」

 言ってくれるじゃないか。そこまで言うのならちゃんとした理由があるのだろう。

「じゃあ、何のためにあるんだ?」

「美味しいじゃないですか」


 嘆かわしい。これが人間の立場で考えてしまう人間の発想か。一度でもキノコの立場になったことはないのだろうと考えられる発言だな。


「キノコの気持ちになって考えてみろ! 自らの存在価値が美味しいだけだと言われたキノコはどう思うと思う」

「キノコは考えないからどうも思わないと思います」

 想像力が欠如している。これが最近の若者か。


「ヴィルゴさん、どうしてキノコは存在しているんだ?」

 ヴィルゴさんの実年齢は知らないが、これほど危険なオーラをたかが10年や20年で身につけられるとは思えない。


「なんだ?」

「キノコの存在価値について意見が割れて、聡明なヴィルゴさんに意見をもらおうかと」

 ヴィルゴさんは歩みを止めずに歩いていく。本当に聞いていたのだろうか。聞き返しておいてそれも聞いていないのならヴィルゴさんの耳に異常があるのか、はたまた物凄くどうでもいい問いなので無視をしたのか。


「シノブ、お前の存在価値はなんだ」

 その一言に俺のガラスのハートは砕け散った。

 俺から振った話題ではあるが、この俺に直接攻撃がくるとは、不覚だ。



「だ、大丈夫ですか? シノブさん?」

 自らの存在を恥じ、砂混じりの地面に五体投地をしている俺をカラコさんが心配してくれているが、存在価値を問われて困るのはカラコさんも同じだと思うぞ。


「キノコには食物繊維や各種ビタミンが含まれている。それに美味しい食材じゃないか。それ以外に何の理由が必要なんだ」

 確かに。

 キノコの立場になってみる必要はなかったな。それにカラコさんと同じだと思うことで精神が落ち着いた。


「さあ! さっさと海に入るぞ」

 そんなこんなをしているうちに波打ち際まで来てしまった。俺は一応腕部装備を変えて、水中戦用にしておく。


 水着が見れないのは残念だが、煩悩は捨て置いて今は海を楽しもうじゃないか。



「し、シノブさぁん」

「大丈夫だ。死にはしない」

 カラコさんは既に顎近くまで水が来ている。水の中に入るのが怖いようだ。


 入ってみた感覚では普通の水と変わらないような気がする。それが恐怖を煽っているのだろうか。水中は装備の重さが減るぐらいのメリットがあり、酸素ゲージがなくなるとロストで良いと思うのだが。

 この分だと色々めんどくさそうだ。


「ガボボボボボ」

 本格的にカラコさんが死んでいる。水の中で口を開くなんて愚行、良い子のみんなは真似しないで欲しいものだ。


「じゃあ、私達も入るか」

 カラコさんだけ水中に沈めるのも可哀想だしな。

 覚悟を決めて水の中に頭をつける。


『話せますよ!』

 話せなかったら魔法が唱えられないからな。

 カラコさんの声は少し聞き取りづらいが十分なものだ。

 ここまでは予想していた。

 驚いたのは再現率だ。現実の水に入っているような感覚だ。水の抵抗は少なくなっているが。

 一体どれほどの技術力があるのか。


 空気中よりかは透明度が低い、が十分なものだ。遠くで何かと戦っているプレイヤーや、海面に向けて突撃しているモンスターなどがいる。



 海の中は少し息苦しさを感じさせるが、気にしなければ気にならない。気にしなければ何も気にならなくなるのは真理だが。


『大体10分ぐらいで呼吸しなければいけないから、気をつけるんだな』

 その口ぶりからするとヴィルゴさんは水中戦経験があるのだろう。


 いつの間なのだろうか。俺たちよりプレイ時間は少ないはずなのだが。


 カラコさんが海底に立ち刀を振り回しているが、その動きはいつもに比べて鈍重であたらなさそうだ。

 俺も確かめてみなければ。


『展開』

 神弓が弓の形になるのが少し遅いような気がする。


『装填』

 引き絞られた矢は海中を飛んで行ったが……うん、大丈夫そうだ。

 無視できる程度のものだな。ボスクラスの生物へ影響する程度のものだろう。



『私も水中戦は苦手でな』

 現実で戦うことはない環境だからか。確かに動きづらいし、海の中は魔法使いが活躍しやすい環境だろう。


『ファイヤボール!』

 俺の手の上に小さな揺らぎが生まれる。しかしそれだけだ。

 俺の背中に冷たい汗が……海の中なので汗も何もないのだが、一応流れたことにしておこう。



『エクスプロージョン!』

 今回はちゃんと発動したが、威力は控えめなようだ。いつの間にか俺の呪文はシャイになってしまったのだ。もっと熱くなってほしい。


 色々試してみた結果、どの魔法もイマイチといった感じだった。

 確かに水中で風魔法が発動するよはおかしい感じがするが、魔法使いは海に入るなということなのだろうか。


『姉御ぉぉーー!!』

 そう叫びながらこちらに猛スピードで泳いできたのは2匹の、いや2人の魚人。

 緑と青の肌の色をしている。人間のようにも見えるが微妙に違うところもあるな。手に水かきがあったりする。首の下にあるのはエラか?


『ご苦労』

『健闘を祈りますです!』

 ヴィルゴさんの知り合いだろうと思ったけどやはりそうか。

 また物凄い勢いで去っていった。なんだったんだあいつらは。


『ヴィルゴさ____』

『シノブ、大物狩りだ』

『はい?』


 遠くから海水を震わせるほどの音の吠え声が聞こえてきた。周りに泳いでいた小さな魚たちが一斉に散る。


『シノブさん? これって……』

 何故俺に聞く。聞くならヴィルゴさんに聞け。


 ヴィルゴさんは紙……呪符のようなものを取り出し発動させる。

 ヴィルゴさんの体を赤色のオーラのようなものが包む。


 突如凄まじい波が押し寄せてきて、カラコさんは吹き飛ばされていった。

 ダメージはなかったからただ吹き飛ばされただけだろうが。大きな損失だ。

 これは戦闘用スキルに付け替えておくべきだろうな。



 俺たちの前にいるのは、この海のボスらしいとてつもない大きさのクジラだった。

 何があったの?

 急展開すぎて何があったのか理解できないし、ヴィルゴさんの頭の中も理解できない。怖い何この人。水中内戦闘未経験な人に普通戦わせる?


次回予告

大きなクジラにたった2人で挑む!

呪文も満足に使えない2人は勝てるのか!

ヴィルゴさんも苦手って言ってたのにボスを呼ぶってどういう神経をしているのか!

次回、あの人現る。

(次回の内容は未定です)

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