153 心配事
「えー、今回のノルセア南の海探索についてですが、既に水の中を経験している方とかはいるかと思います。そのような方々はサルディス東の森林の新しい街についての情報集めを行ってもらいます……」
はい。
頭が痛い。
そうですね。
やはり水の中を体験した事がないというのは水攻めなどを受けた時にパニックに陥る危険性が出てきます。水の中に慣れましょう。というのが今回の遠征の目的ですね。
「シノブさん大丈夫ですか?」
「僕は大丈夫だ。自然農法でオーガニックで有機農法の小洒落た田舎カフェのベジタブルカレーの野菜ぐらいには安心安全だ」
そういうカフェはやたら手作りにこだわっていて『このマグカップは手作りなんですー』とか言っていたりするのだ。そして何故か全員結婚しているのだ。彼女も手作りしたのだろうか? 人体錬成を成功させる方法を知っているのならば是非とも教えて欲しいものだ。
人体錬成したのではないとしたら、リア充許すまじ、とだけ言っておこう。
俺の欲望と俺の命。エロに生きる俺でも、自らの命を犠牲にしてまで……いや、エロの為なら命を捨てる覚悟はある。このまま仙人のように女性に縁のない生活を送るのであれば、命ぐらいはどうってことない。
しかし拷問は嫌だ。
病弱な美少女と恋をして、どうしてもドナーが見つからず余命3日と宣告された。それで俺が心臓を差し出すのなら許容範囲だ。その前にできればヤりたい。いや、是非ともヤりたい。ヤらせないで臓器提供とかはありえない。
それか巨乳で優しくてエロい彼女がトラックに轢かれそうになった所を突き飛ばして救うとか。トラックなら轢かれても異世界転生して地球に戻ってこられる可能性がある。
「シノブさん? シノブさーん?」
一体どうすれば良いのだ。神から運営真っ青なチートを貰って異世界転生するなど、完璧勝ち組になってしまうではないか。
チート的な能力を貰う。異世界で最強になる。怖がられてぼっち。
……凄い強いって怖いもんな。悲しい。
そんなことより、俺はやらなければならないことがある。先ほどからカラコさんが俺の目の前で振っているのは気づいている。このまま無視し続けるのも悪いだろう。
「カラコさん!」
「は、はい!」
「新しい街について何か情報は?」
「シノブさん……どこか頭打ちましたか?」
全く失礼な人だ。頭を打った? さっきの惨状を見ていなかったのか。頭を打つどころじゃなくて頭蓋骨が割れていたぞ。
俺が真面目なことを言っているのがそんなに驚くことなのか。
「俺は改心したんだ。真面目が1番だってな。真面目にゲーム……真面目にゲーム?」
真面目にゲームをやるとは言うことなのか。真面目に、ゲーム? 意味がわからない。俺は何故ゲームを真面目にやっているんだ?
「真面目にゲームって何だ? 一体ここは何なんだ? ゲームとは何だ? うっ、頭が……」
「シノブさん、それは世界の禁忌です。考えてはなりません」
カラコさんがそういうのならばそうなのだろう。禁忌に触れて狂いたくはない。
落ち着こう。
「では、気を取り直して。先ほど新たに発見された街【星宿る街ソレイド】ですが、今の所一切情報は公開されておりません。発見したパーティーも不明。場所、出現条件なども不明です。現在有志のプレイヤーがサルディス東門に関所を設けて、発見者捕獲に向けて大々的に動いてるとのことです」
関所なんか出来ているのか。それに捕獲って、確かに今の所は東の森に行った人は門から帰って来なければダメな訳だし、効果はあると思う。野営でもしない限りは1日で戻ってくるはずだし。
「どこかのギルドが占有しようとしているとの噂もあり、少しギスギスした感じにはなっていますね……」
大人数が1日帰って来なかったら目立つと思うのだが。
「後、王都が機能し始めて、転移系の魔法陣が徐々にに解放されてきています。拠点から転移しているのなら意味はないかと」
厄介なことだ。意図的にボスエリアに行かせないようにするほどのギルドであればどうしようもない。普通に掲示板に公開すれば何の火種にもならないものを。
「問題はまだあります。そのようなことができるのは、ある程度の戦力があり、そして情報が漏れないほどの中小ギルド。つまりうちが目をつけられています」
そっかー。そうだよなー。目をつけられるなー。
全く身に覚えはないんだが。犯人が自ら罪を認めることはない。
「色々問題が起きるかもしれません。一応シノブさんも」
面倒だなー。隠していないといっても無駄だろうし、こういう情報系のものは一体どうすればいいのだろうか。
食堂が暗鬱した雰囲気になる。
ヴィルゴさんはニヤニヤし始め、ネメシスは大欠伸、ワイズさんは聞いているのか、聞いていないのかはわからない。無反応だ。
皆もっと関心持とうよ。自分のギルドだよ?
「ということは、喧嘩を売られる可能性が高いんだな?」
ヴィルゴさんノリノリだな。いきなり喧嘩を売ってくるようなバカ達は喧嘩でボコボコにして舎弟にしてもいい。しかし知能犯的なギルドに喧嘩売るのはやめてほしいな。
「そういうことです。やるなら相手の所属を聞いてからやってください。そしてコテンパンにしてください」
「おう!」
良いのかなー。俺にヴィルゴさんをコントロールできるとも思えないが。
「……俺の方でも……不穏な情報は入ってきている。ギルドマスターのキルによるギルドポイントの増加。……プレイヤーを殺すという行為は中々できることではない。全年齢対象の……このゲームだからこそのことだ。……しかしそういう行為を好んで行うプレイヤーもいる。……そういう連中の動きが活発になっているとの情報もある」
なるほど。最後の一文でいいな。目に見えてヴィルゴさんの機嫌が悪くなるから黙っていてほしいのだが。
「シノブさん、くれぐれも殺されないようにしてくださいね」
心配しているように見えて、その目には実利的なものしか宿っていない。さすがだ。うちの有能な秘書だ。
「俺が簡単に殺されるとでも思っているのか?」
「はい」
そっかー。そんなに俺頼りないかー。
力強く頷くカラコさんの目には一点の曇りもなく……。
「海行くか」
「はい」
少し短いです。ありがとうございました。
また2日に1回の更新に戻していきたいです。
次回予告
海に行くシノブ達。
そこで思わぬ事件が起きる。
「サメが出た?」
次々といなくなる人々。忍び寄るサメの恐怖。
果たしてシノブ達は生きて帰れるのか!
※次回予告は適当に書いてます。




