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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
154/166

152 策よりも欲

《生産行動により【農作Lv15】になりました》




 さて、しばらく畑の手入れをしてみた結果、畑の一部にジャングルを作ることに成功した。ジャングルといっても、小さいものだが。


 ジャングルの呪文で生える木はジャックズツリーという名前だ。

 ジャックの木ということだが。



 ジャックズツリー

 品質 B

 太古の昔、巨人と人間が争いあっていた時、とある老魔法使いが少年に魔法の豆を渡した。そして少年はその魔法の豆を使い、人間に勝利をもたらしたという。その豆の木は戦争の終わりと共に霧となって消えたという。今でもその老魔法使いは生きており、助けを求める者にはその豆の木を送ると言われている。この御伽噺の戦争は実際にあったのだが、この木が使われたという記録はない。この戦争は人間の勝利だと歴史書ではされているが、当時の技術も考えて人間が巨人に勝つことは不可能と考えられている。一説では住処を荒らされて怒った樹人が戦争を終わらせたという。諸説があるが、木のルーツは見つかっていない。その驚異的なスピードで伸びる仕組みは解明されていない。植物ですらない、ワームの一種という説もあり、まだまだ謎の多い生物である。



 ワームというと、芋虫のことか……。

 ちょっと気持ち悪くなってきたな。


 耕した畑にジャングルを使うと、そこでオブジェクト化できてしまった。肥料をやったら嬉しそうにグネっているが、それがまた気持ち悪い。こいつもしかして本当に虫なのか?


 いやいや虫であろうと何であろうと関係ない。こいつはただの木、そう思った方が良いだろう。

 前少し見た時は豆の木だと思ったが、よく見てみると豆の木だなんてどこにも書いてないな。物語の中で豆の木だって言われているだけで、とにかく謎が多いとか言われてるだけで何も書いてない。


 明るいところで見た色だが、明るい黄緑でますます芋虫説を強調している。木魔法で芋虫が出てくるって何?!

 いやいやいや、芋虫だなんて確定してない。木魔法なんだから木なのだろう。


 魔毒花とか他の木魔法で現れる植物が定着しないのは、どれも魔力の多い場所に現れるという設定だからだろう。ここが魔力の多い土地なら自生していたりするのだろう。


《東の森のボスが攻略されました。【星宿る街ソレイド】が解放されました》



 東の森のボスが討伐された?!

 この森にボスっていたのか?


 先を越されたことは面白くはないが、仕方ないな。

 誰が発見できたのだろうか。それに新しい街なんか有ったんだな。北にもあるのか?

 それにしても星宿る街だなんてお洒落な名前だ。


 しかし一体どこにそんなものがあるのか。カラコさんもこれを聞いただろうし、それの捜索に行かないかと言いださないか心配だ。

 言わないよな。言う気がする。

 でも海行きてえなぁー。



 俺が変な物を植えているということで、農夫達は更に遠巻きにして俺を見守っている。もっと近くによっても良いよ。

 といって眺めても近寄ってくる人はいな……イェイツさん!


「お久しぶりです」

『お久しぶりです。うちのやつらがすみません』

 あれ? イェイツさんってこんなキャラだっけ?


「いや、急に押しかけたのも悪いし。それにしても大きくなったな」

 俺の用意した野菜以外の色々も実っていたりする。どこから手に入れたのか。


『お陰様で……ところでこの木は一体?』

 聞いてくれたなイェイツさんよ!

 この木の秘密を知りたいか!


「この木はジャックズツリーという。肥料を与えたらオブジェクト化したから、定期的な手入れをしさえすればここに小規模なジャングルが維持できるわけだ」

『はぁ』

 この利点がわかっていないのか。嘆かわしいことよ。このジャングルさえあれば色々できるのに。


「ジャングルがあれば……あれば…………すみません。今から燃やします」

 俺の灰色の脳細胞ではこの森の有用性が思いつかなかった。自らの無力さに涙が出てきそうにはならないが、このジャングルにはすまないことをしたと思う。


「バーナー」

 バーナーを嫌がったのか、ジャングルは消えた。一体本当にこれは何の生物だ?

 深く考えても仕方ない。運営のご都合主義の塊なのだろう。



 イェイツさんはホッとした様子でジャックズツリーがあった場所を見ている。

 そうだ。あの黒いゴーレムのことを聞いてみるか。



「あの、ゴーレムって知ってるか?」

 相変わらず1人だけ……いや、1体だけ浮いている。


『副ギルドマスターさんが、人員不足だと聞いたら紹介してくれまして……無口ですが、中々真面目な人ですよ』

 そりゃあ無口だろう。饒舌だったら怖い。


「ちょっと呼んできてくれますか?」

 もう危険はないとしても見てみたいものだ。かつて死闘を繰り広げたライバル。そいつが牙を抜かれて農家をやっているというのだから。



 なにやら会話をしているように見える。いや、あれは一方的に話しているだけなのか?



 かっこいい黒鎧が俺の方を向く。そしてゴーレムの目の部分が赤く光った。ゴーレムに目はないのだが。

 目に見える部分と言った方が正確かもしれない。


 そして物凄い勢いでこちらに走ってくる。少し怖いです。


「ランドマイン」

 俺目掛けて走ってきたゴーレムは地雷を踏み抜き見事に吹き飛んでいった。

 壊れてないよな。


 手足があり得ない方向に曲がっている。それを見て何も驚かないイェイツさんだが、この世界に骨というものはないのだろうか。

 あったら複雑骨折とかの状態異常が起こりそうだが。


 武器は取り払われていても、硬い装甲はそのままだったのか、ゴーレムは何も気にした様子がなく立ち上がった。

 何しに来たのかな?


『主様、先日の無礼をお詫びしたくやってまいりました。誠に申し訳ありませんでした!』

 えぇー。


『貴方様が私の主だとも知らずにいきなり襲いかかってしまい、何とお詫びをすれば良いのかっ……』

 えぇー。


『腹を切ります!』

「やめろ!」


 ちょっと驚いた。

 いやいや、ちょっとどころじゃない。

 だいぶ驚いた。

 だってさ、無口って言ってたじゃん。それに前も話していなかったじゃん。確かに知らない人と会話できるなんてそれなりのコミュニケーション能力がないと無理だけどさ。もしかしてこのゴーレムって俺と同じコミュ障? そうだとしたら親近感がわく。決して友達にはなりたくはないが。



「あのさ。君何なの?」

『主様の下僕でございます』

 そういうことを聞いているんじゃなくてさ。


「悪いな。俺は美少女しか下僕にしたくない。お前が改造して美少女になったら改めて下僕にしてやろう!」

『そんなこと考えたこともなかった……。美少女……』

 ゴーレムは自分の体をマジマジと見つめている。お、女体化フラグか? 俺のハーレムの一員になってくれるのか?



「シノブさん、変なこと吹き込まないでください」

 カラコさんじゃあありませんか。もう用事が終わったのか?


「変なこととはなんだ。ビジュアル的に厨二病くさい鎧よりも、美少女な女の子の方が良いじゃないか!」

「十三番さん、貴方は今のままでも十分魅力的ですよ」

『カラコ様……』

 なんだなんだ。なんだこの空気は。恋愛でも始めるっていうのか? ロボット同士何か感じられることがあるのか?


「十三番って何なんだ?」

「この人の名前です」

 人ではないだろう。それにしても13というのは不吉な数字だな。やはりその数字だから凶悪化したとかそういうことなのだろうか。


「私がつけました」

 お前かよ! 俺が言えることでもないけど、センスないな。

 ロボットっぽいから数字の名前をつけるのは合っているが、十三号とか、十三式とか、拾参番とか。色々あったんじゃないか?



「それでこいつは一体何なんだ?」

「まとめてあるのでどうぞ」

 カラコさんからメールが送られてきた。どれどれ……。



 重要書類って1番最初に書いてある。口に出すことは禁止だと、こいつはそんなに重要なものなのか。



 私が初めてそれと出会った時、それはボロボロに壊れかけ、拘束されていた。高レベルの封印魔法陣、誰がこれを捕らえたのかは明白だ。



「これ誰が書いたの?」

「十三番の武器を取り外してくれた人です」

 なるほど。だからこんな口調なのか。



 私たちが工具を持って解体をしようとすると、それ……黒騎士としよう。黒騎士は拘束を振り切らんばかりに暴れ出した。やはり魔力を原動力にして動いているらしく、魔力の供給源、魔石を取り出すと動きを止めた。そうして再び作業に取り掛かろうとした時に魔力がなくなっているはずの黒騎士が話し始めた。

 映像を見たければ直接連絡欲しい。ここでは重要な場所だけを抜粋して記述する、



「何で、こんなに重要扱いされているんだ?」

 ゴーレムならそこら辺にたくさんいると思うのだが。こいつが特別に強いゴーレムだからってのはわかる。しかしここまでやる必要があるのだろうか。


「自意識を持っているゴーレムを作り出すことは生産ギルドによって禁止されています。ゴーレムの製作者は定期的に生産ギルドの検査を受けているそうです」

 絶滅危惧種の保護や密猟の取り締まりは冒険者ギルド、禁制品については生産ギルドか。

 龍木の不正伐採もしているし、遡行成分の存在も知っているから、俺は両方に目をつけられているのかな?

 今は関係ない。報告書に戻ろう。



『やめろ』

「お前は何故話せる。何者だ」

『私は偉大なる主に仕える者。ここで死ぬわけにはいかない』


 この創作物が死という概念を知っていることに驚いた。自らの動力源がなくなり動けなくなることを死と言っているのだろうが。

 その後、基本的な心理テストをやらせて標準AIに近いAIが使われていることがわかった。要するにこの世界の人間と同じということだ。

 私たちはその後、数々の検査をした。その中で発見したいくつかの事実をここに記す。


 この黒騎士の装甲はサルディス東部の森にいくつか確認されている。巨大ロボットと同じものが使われている。

 この黒騎士には無理やり接続したと思われる部品と、元から使われている部品が見られる。これは本体が無理やり他からつけたのだと思われる。

 極めて複雑な魔力回路があり、機械人間にも引けを取らないほどだった。

 この黒騎士についている武器は機械扱いされているため、魔導鎧、機械人間、ゴーレムはカスタマイズスキルがあるのなら身に付ける事ができる。

 自由意志が確認され、生産ギルドに押収される危険性がある。

 魔力回路には極めて複雑な竜文字が書かれていた。





 他にも色々あるが、これで十分だろう。

 この十三番がけん玉できたとかくだらないことしか書かれてなさそうだ。それにしても黒騎士というかっこいいあだ名がついていたのに、どうして十三番だなんて名前にしてしまったのだろうか。



「竜文字って何?」

「詳しいことは知りませんが、文字魔法で使用される言語で魔法陣と並んで2大面倒くさいスキルとなっているそうです。現実では使われていない言語らしいです。外国語とかに慣れている人でないと簡単に使えないという……」

 そんな面倒くさいスキルがあるのか。しかし魔法陣よりかは大変そうじゃなさそう。

 そしてそれが書いてあると。

 大変だな。解析頑張ってくれよ。


「ということはここに生産ギルド関連の人をいれたらどうなるんだ?」

「罰金、没収、とことんまで絞られますね。冒険者ギルドは変わったので、ギルドそのものがなくなるとかはないでしょうが」

 あー、恐ろしい。


「ですから、怪しい人をギルドの敷地内に入れないでくださいね」

 入れるわけないじゃないですか。

 師匠は反社会的な人間でカラコさんとも面識があるし、それ以外に呼ぶ知り合いなんていない。女の子ならともかく男なんて呼びたくないし。




「わかった。そこで1つ疑問がある。そんな火種を産みそうな存在を何故ここに置いている」

 さっさと畑に埋めて処分してしまえば良いのだ。


「学会からの要請で捨てようにも捨てられないんですよ。なのでここで農作業させています。もちろん知らない人を見つけたら、隠れるように言っていますし」

 なるほど。カラコさんにも色々あるんだな。

 自由意志があるのなら、閉じ込めておくのも人道的にどうかと思うし。まあ元々引きこもりだったみたいだが。


「1人にしておくと何をするかわからないので、見張らせているというのもあります。後は畑仕事をしていると、森の中に隠れることができるというやつですね」


 なるほど。

 ということは問題ないのか。

 それなら十三番には畑に戻ってもらうとして。




「じゃあ」

「海、行きましょうか」


 師匠のご飯、食べてからな。

 カラコさんが水着を着なくとも、砂浜には水着の女の子がたくさんいるはず。そこで上手く煽って、俺の購入した旧式スク水を着せてやるのだ。


「ぐふ、ぐふ、ぐふふふふふ」

「シノブさん気持ち悪いです」


 蔑んだ目でカラコさんが見てくるが、気にしない。俺が気持ち悪いのは今に始まった事ではないのだ。

 開き直って、タチが悪くなっている?


 開き直っているのではない。

 自分でも気持ち悪いということを認めているのである。自らを客観視しているというのだ。

 一日中ゲームに興じている自分を客観視すると俺の精神が崩壊するからしないが、自らの精神を見つめ直すぐらいはできる。


 三つ子の魂百までって言うし、今更どうしようが手遅れなのだ。


「俺は俺だしな」

「シノブさん以外のシノブさんみたいな人は見たことありません」

 俺以外の俺みたいな人がいないなんて当たり前だろう。そして俺を変態という位置づけで見ているのなら、それは大きな間違いだぞ。

 世の中には変態なんていくらでもいる。俺は妄想とセクハラしかしないが、露出狂とか覗きとか、そういう悪質なやつだっている、と思う。



「水着とか見て、何が楽しいんですか?」

 それがわからないとは子供だな。子供だが。

 しかしこの質問は極めて難しい質問だな。今から海に行くというのに警戒されては困る。ここは人畜無害の名にふさわしい解答をしなければ。


「見目麗しい乙女達の水着姿と、おっさんの水着姿どっちが見たい?」

「そ、そりゃあ女の子ですけど……」

 カラコさんは納得しかねているようだが、チョロいな。


「さあて、ならその見目麗しい乙女達の水着を見に海へ行こうじゃないか!」

 こうして海へ行く目的を美女観光にしてしまえば早い。堂々とウォッチングができるじゃないか。こちらもカラコさんという女性がいれば警戒されないだろうし。


「ほう、それは楽しそうだな」

「だよなー……」

 なんだこの殺気は。



「ゔぃ、ヴィルゴさん……」

「その海に行くとかいうことについて詳しく聞かせてくれないか?」


 ……あー、海楽しみだなー。海に行きたいなー。一刻も早く海に行きたいなー。誰か瞬間移動使えないかなー。




 その後、畑にある人物の叫び声がこだまし、農夫さん達は更に遠回しに、とある人物を見る目は更に冷たいものになったという。

 ある人物の名前? ご想像にお任せします。


ありがとうございました。

ゴーレムの十三番さん。女体化するんでしょうか。

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