150 海に行こう
おはようございます。
昨日は酷い目にあったのだが、色々調べてみた結果、やはり酷いとか女性プレイヤーには不評とかそういう意見が多いようだ。
あのクトゥルフ的なモンスターの名前だが、『太陽を喰らいし者』という厨二病なのか考えるのを面倒くさがったのかよくわからない名前らしい。
昨日は忘れていたドロップアイテムを確認すると陽光レンズ、そして陽光の短剣、陽光の布、騒霊の霊手。
1人で戦って勝ったからかアイテムを独占している。当たり前か。どれも太陽のボスって感じのドロップアイテムだな。
レンズは何に使えば良いのだろうか。
メガネ? それにしても陽光レンズとは効果がよくわからないな。サングラスでもできるようになるのだろうか。
そして陽光の短剣。
太陽の力が籠った短剣らしい。照明代わりにもなる便利なものらしい。
俺には必要ないものだな。カラコさんにあげるか。
そして陽光の布と騒霊の幽手。
陽光の布はえるるの所で何かにしてもらうとして、騒霊の幽手は何なのだろう。
騒霊はあのボスのことだろう。唸ってばかりいてうるさかったしな。
それであいつの手ということは触手か。うん、気持ち悪い。
そして何故か消耗品扱い。
説明文を見る限りは一時的に体に触手を生やして攻撃するアイテムみたいなものらしいが……いらないな。強力なんだろうけど。
体から触手を生やすのは何か気持ち悪いし、これもカラコさんに渡しておこうか。
1回切りのアイテムなんて俺じゃ使いどころがわからずに、永遠に放置してしまいそうだ。
いや、ただ渡すのもあれだしな。どうせ陽光の布を加工しなければいけないから、どこかで売ってもらおうか。
加工代金が必要ということによく気づいたな、俺。
「おはようカグノ」
『おはよー!』
メイドさんが掃除してくれたのか。塵芥と化したベッドの残骸は消え去っている。本当に生活感というものがない部屋だ。というか人が暮らしていることがわかるのだろうか。
家具とかはどこで売っているのかな?
今日も1日狩りに行くことになるのかな。その前にえるるの所に寄って依頼もしなきゃな。
どこに狩りに行くかというと……ダンジョンも良いが海だな。またボスがあんなのだとしたら、行く気がなくなる。
海というとリア充という言葉が思い浮かぶぐらい俺の頭の中では海というものに憧れがある。
真っ赤な太陽、白い浜辺、水着を着た女の子達、海の家、巨大鮫、轟く潮騒、水着を着た女の子達、クラゲ、麦わら帽子を被った釣り師などがいる海。
もう行くっきゃないだろう。
「カグノ! 今日は海に行くぞ!」
『海?』
そうか、海を知らないのか可哀想な奴め。
「海とはな、ただで女の子の水着を見れる場所だ」
『楽しそー!』
興味を持ってくれてありがたいばかりだ。
「シノブさん、お金を払って水着姿を見たことがあるんですか?」
「あ、ああ。おはよう」
まずいな。非常にまずい。昨日、好感度を上げたはずなのに、何も対応は変わっていないような気がする。
「ないけど……」
「良かったです」
良かったのか? この返答で良かったのか?
カラコさんの顔から表情は読み取れない。眠いからなのだろうか。
「という事で海行こうぜ!」
「海ですか……」
何となく乗り気ではなさそうだ。俺の不埒な目的に嫌気がさしたのか?
『海! 海! 海!』
カグノはそんなに水着を見たいのだろうか。水がたくさんある場所ということを知っているのか。知らないだろうな。教えてないからな。
「実は泳ぐの苦手なんですよね……」
それだったか。運動なら何でもできそうな気がしてたが、できないのか。
「それなら心配しなくて良いぞ。いくらリアルに近づけてるといっても、普通は泳ぐのが苦手な人でも泳げるようになってる」
泳いだことがないという人間はたくさんいる。あってもプールがある学校出身の人だけだろう。市民プールに行く健康的な人がVRゲームをするとは思えないから除外するが。
そんな人でも泳げるように大抵のVRゲームの水中は泳ぎやすくなっている。
ゲームによって調整の仕方は違うとは思うが。
「じゃあ、決まりだな。今日は海だ」
「夜の予定覚えてますか?」
夜の予定? 何か用事が会ったっけ?
「あのシノブさんがオススメしてくれた講座ですよ」
ああ、そんなのも会ったな。すっかり忘れていた。
またゴブリンタロウが教えてくれるのか。そのことを確認しに行かなきゃな。
食堂にはもう朝飯を食べている人がいた。
今日は平日だからヴィルゴさんとリアル学生らしき2人を除いた4人だ。
相変わらず寂しいと思いきや食堂の端の方で獣人連中が飯を食ってたりする。
「今日はシノブさんの提案により海に行くんですが、来る人いますか?」
「あ、俺パスー。水着持ってないしなー」
「……買えば良いんじゃないか?」
ネメシスの水着姿なんて想像もできないな。
よくよく考えたら、見るべきものがない海になりそうだな。
ヴィルゴさんがいればまだこう胸の色々の平均は解消できるのだが、俺はまだ死にたくない。
師匠も中々のものを持っているだろうが、あのいかにも運動嫌いな師匠が海になんて遊びに行くわけがない。アオちゃんも学校でいない。
誰かログインしている知り合いで俺の目の保養になる人はいないものか……。
いない。見事にいない。
というか平日の昼間にログインしている人があまりいない。
水着のことに関してはまた別の機会にして、今日は純粋に海を楽しみに行くか。胸がなくとも水着というものは十分魅力的だしな。
「そういえば、カラコさん。昨日のボスのドロップアイテムだけど」
今日の定食は牛丼と魚のフライの二択だ。
大分迷ったが、魚のフライにした。紅しょうがはないだろうからな。
「何かいいものが出ましたか?」
俺は机の上に陽光の短剣と陽光レンズ、騒霊の幽手を出す。
「陽光の短剣、陽光レンズ、陽光の布、騒霊の幽手の4つだ」
陽光という名がついているものはどれも光っている。そして騒霊の幽手の見た目だが……触手だ。しかもピクピク動いているから触りたくない。
「売りますか?」
「陽光の布の加工費に当てなきゃいけないからな」
ギルドメンバーに有効活用してもらったらありがたいばかりだ。
かなりいい金額になったらしいけど、俺には詳しいことは知らされていない。
お金はギルドの方で管理するとか、どれだけ信頼されていないのだろう。しかし借金は全て返せたと聞いて、安心だ。
陽光の短剣はネメシスが、騒霊の幽手はワイズさんが、そして陽光レンズはカラコさんが買った。
「えーと、私は少し用事ができたので。午後から行きましょうか」
このレンズを加工しに行くのか。
それならば、俺は1人でえるるの店に行くことになるのかな?
「じゃあ、カラコさんの分の水着も買っておくよ」
「お断りします!」
そんなに強い口調で断らなくたって良いと思うのに。リアルならまだしもVR内なんだしさ。
「じゃあ、水着どうすんの?」
「水着は着ません」
な、何だと?
水着を着ない? 海に行くのに水着を着ないのか?
「シノブの前で水着を着ようってやつはあんまいないだろーなー。ははは、残念でしたあ〜」
落ち着け。ネメシスの煽りに乗ってはいけない。というか煽りでもなくただ事実を言われただけだ! 悔しい!
「確かに俺の過去の所業を思い出すと、水着を着たくなくなるのかもしれない。俺もその点については十二分に反省している。しかぁし!」
誰も聞いていないようだが、気にしない。気にしないったら気にしない。
「別に水着を見たいのは不埒な目的ではないのだ!」
「じゃあ、何が目的なんですか?」
お、聞いててくれたか。
というか皆俺が不埒な目的で水着を着てほしいと思っていたと思っているようだな。嘆かわしい。俺がそんな欲望にだけ忠実な人間だと思っていたのか。
「俺はただ夢を叶えたいだけなんだ!」
「夢?」
「そうだ、俺には夢がある。I have a dream. 海に女の子と一緒に遊びに行き、水際できゃっきゃして遊びたい! これは全国の青少年達が望む純粋な望みではないか? 夏休み、家の中でAIの美少女達と海で遊ぶ毎日、そんな時ふと虚無感を覚えるんだ。ここにいるのは、俺が何をしても嫌わない俺にとっての都合のいい女の子ばかり。しかしそれで俺は満足なのか? こんな自己満足的なもので満足なのか! 否! 俺に現実の女の子と遊ぶ度胸もコミュ力もない! ならばせめて! せめてVRの中で女の子と遊びたい! これが俺の夢だ!」
「小さい夢ですね」
切り捨てられた! この俺の夢を切り捨てられただと!? なんて非情な人間なんだカラコさん、俺は泣いちまうよ。
ネメシスはゲラゲラ笑ってるし、ワイズさんはヨツキちゃんの耳を塞いでるし、俺の夢はそんなに小さいものか? 夢って言っても今考えついただけだけどさ!
「じゃあどんな夢だと大きいんだよ」
「世界征服とか?」
疑問文にされてもわからないよ。クエスチョンマークではなくてエクスクラメーションマークにしてくれ。
そしたら俺も堂々と世界征服を目指せる。
「俺と世界を取らないか?」
「宇宙征服にしましょう」
夢は大きいな。
カラコさんは俺の手を掴んだ。
こうして俺たちは後々に社会的現象にまでなる宇宙征服を目論む悪の団を結成し、悪の銀河帝国を打ち滅ぼして全宇宙の覇権を握るのだがそれはまた別の話。
「それで何の話だったか?」
カラコさんが変なことを言ったせいで変な妄想に気を取られてしまった。
「とにかく水着は着ません!」
な、何だと?
水着を着ない? 海に行くのに水着を着ないのか?
「確かに俺の過去の所業を思い出すと、水着を着たくなくなるのかもしれない__」
「シノブさん、話がループしてます!」
全く一体全体誰の仕業なんだ?
俺の頭が単純なのが悪いのだろうが。
「じゃあ、昼にここに集まるというので良いんだな?」
「はい。海に行く人はまた昼間に集まってください」
皆、それぞれの返事をして散っていく。
「シノブさん、ギルドに入りたい人の面接もしなきゃいけませんね」
あー、そんなのもあったか。
「明日、明日の朝と昼と夜にわけて面接しよう。明日どうしても来れない人はまた後日って感じで 」
適当に決めれば良いのだ。可愛い女の子を採用して男の方はカラコさんに任せれば良い。
ありがとうございました。




