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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
151/166

149 死んだ太陽

 前回までのあらすじ。昼の神殿に来た太陽のダンジョンに挑んだ。ところがボスが触手と人間の器官で出来てて気持ち悪い。そこで俺たちは戦略的撤退を試みたのだった。……何の音だ? 何か濡れたものが叩きつけられるような……。あれはなんだ! 窓に! 窓に!




「このダンジョンは攻略不可能ですね」

 見た目という武器に俺たちは完敗した。世の中見た目が1番大切だからな。

 あのボスが実は落ちているゴミを拾ったり、お年寄りに優先席を譲ったり、迷子の子供を親まで送り届けるような人であっても。触手プラス大量の目と口はいけない。

 親切にしようと思っても、人と接触した時点で通報される。


 その気持ちを考えれば憐れみの心が湧いてこない訳ではないが、無理なものは無理なのだ。例え、中身が良くても近寄るのに命の危険を感じるよう見た目は。



「あーれー……戻れませんね……」

 戻れないだと?

 呑気な口調とは裏腹にカラコさんの手つきは必死だ。

 先ほどまで開いていた上階への階段は何かに塞がれている。



「ちょっと下がってろ。俺が魔法でこじ開ける」

 何が塞がってるのかわからないが、岩とかならこれでいけるはずだ。


「トンネル」

 発動はしなかった。



 無言の沈黙が場を包む。


「シノブさん」

 カラコさんの目は既に死んでいる。


「帰っていいですか?」

「ダメです」

 一体この人は何を言ってるんだか。俺にもこの場所でログアウトしろと?




「じゃあどうしろっていうんですか?! あれ! 何ですかあれ! これこんなゲームでしたか?!」

 確かに太陽のダンジョンのボスにはふさわしくない見た目をしているが。

 というか気持ち悪い。グロ耐性がない人でなければあれに近接戦闘を挑むのは無理だろう。

 乙女なカラコさんならなおさらのことだ。


 ここで俺が男気を見せれば俺の株は急上昇するはずだ。



「カラコさん、そんなに嫌がるのなら俺1人で行ってくるよ」

 俺は窮地を救う英雄ヒーローにふさわしいイケメンスマイルを見せたが、兜を被っているので残念ながら意味はない。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。カグノもいるし……」

 はて、カグノはどこにいるんだ?


 最後にカグノを見たのは俺がカグノを中に放り込んだ時だ。

 まさかあの触手野郎に食われたのか?


 いや、さすがに捕食はされないか……。

 あの熱い火の塊を好き好んで食うやつはいないだろうし。


 暗闇の中にカグノがいるなら、普通に見えると思うのだが。

 どこに行ったというんだ。



「おーい、カグノー!」

『何ー?』

 驚かすなよ。ただでさえ部屋の中の目がこちらを呪い殺そうとしてるのにさ。


「カグノ、あいつに勝てるか?」

 火の神なら余裕だろう。例え経験値が全く入らないのだとしてもあいつとの戦いはカグノにお任せしたい気分だ。



『無理!』

「無理か。さすがだな……え?」

 無理なの? 無理なんですか? え?


「シノブさん、私達ではまだ早かったんですよ」

 道中ほとんど1人で無双してきた貴方が何言ってるんですか。



「ちょっとカグノ困る。肝心な時に使えなくなるのって何?」

『なんかあれ嫌だから勝てない』

 アバウトな説明だが、お前も嫌なのかよ。




「仕方ないか」

 俺1人で行くしかない。


「シノブさん、本当に行くんですか?」

「逃げ回りながら何とかやってみるさ。幸い俺は遠距離職だからな」

 プランはある。

 ジャングルを発動させ、隠れながらチマチマと削るやり方だ。



「無理しないでくださいね。無理したら私の良心が耐え切れなくなります」

「カラコさん……」

 別にあいつとの戦いを拒否するのはわがままではないと思うぞ。俺もカラコさんがいなければ全力で逃げていた。ここで俺の足があいつの方向を向いているのは、俺のちっぽけなプライド、そしてこの状況を打破した時の好感度上昇度を考えてだ。

 恋は盲目。一度恋させてしまえば後はこっちのものよ。

 見える。見えるぞ。輝かしい未来が!


「ククククク……はーはっははははは」

「シノブさん?」

 さあ、カラコさん。俺の勇姿を見よ。そして王子様に救われるお姫様気分を味わえ!





 俺が暗闇の中に足を踏み入れると、たくさんある目が全てこちらを向いた。

 そしてたくさんの口からは唸り声のようなものが上がっている。

 彼には悪いが気持ち悪い。そういう態度が人を怖がらせるんだと思う。


「カグノ、少しの間牽制頼む!」

『わかった!』


 あいつ自身を怖がってるわけではないようだな。



「ジャングル!」

 俺の周りに木が大量に生えてくる。高速再生しているようだ。

 ジャングルという呪文名にも関わらず生えてくる木は全て同じ種類だ。いい感じに生い茂って、あの醜悪な姿を隠してくれている。


「フォレストハイド、フォレストウォーク」

 さて、隠密と擬態。そして呪文で効果が上乗せされた俺を見つけることができるのかな。



「トレント」

 俺はここに隠れる。そしてやることは1つ。瞑想をしながらトレントを呼び出すだけ。

 ジャングルで消費した分も取り返さなければ。結構消費MPが多い。




 ミシミシと木が倒れる音がする。

 奴がジャングルの領域に入ったのだろう。

 現在ジャングルの中に放っているトレントは3本。串刺しにされて息絶えろ!




 俺のHPが減っている。

 一体俺は何をされたんだ?


 広域魔法を使われたのだろうか。

 まさか俺の場所を早々に発見できたわけではないと思うが。




『オオオオオオオオオオオオオオオオ』


 この声が俺のHPを減らしているのか。

 声が聞こえてくる時だけが、微妙にHPが削られている。相変わらず激しい戦闘音が聞こえるが、トレント達は上手くやっているのだろうか。



 あいつの攻撃方法は今のところ、口から出る呪いの言葉と、触手で木々を薙ぎ払う行動。後は目だな。俺の勘でいえば、大量のビームを放ってくるんだろうが。

 おそらくそれが必殺技になるのだろう。

 精神力を上げている俺にはあまり効かないと信じたいが。


 現に今、何かを放っているようなとても高い音が聞こえ、トレントの一体が死んだ。他のやつらも大きなダメージを負っている。

 さすがにこれだけでは削り切れないか。


 俺が動かなければな。


 戦闘音が聞こえる方へ慎重に歩を進める。


 あいつが這ったであろう場所に道のようなものができている。あの巨大では木々の間を通り抜けられず、なぎ倒しながら進んでいるのは確定だな。これはやりやすい。



「ポイズナスフラワー、グロウアップ」

 そして俺を見つけたのなら、わざわざ木をへし折ってここに来るよりも、自分が切り開いた道を通る方が楽だろう。

 そしてやることと言えば罠しかない。



「グラストラップ、ランドマイン」

 そして呼び寄せる方法もある。


「展開、装填、加速、破壊、付加、ダブルアロー」


 待つ。

 あれだけ目があるのだから、存在感抜群なこの弓に気づかないことはないだろう。



 うわぁ、気持ち悪い。

 触手をうねらせて、口と目がついた肉塊っぽいものがこちらに結構な速さで来ているのは中々ホラーなものだ。


「ウッドショット」

 多くの矢が目や口に突き刺さる。目とかクリティカルになっても良さそうなものだが、そう上手くはいかないらしい。しかし何本もの矢で突き刺された目は潰れている。これは全身攻撃して使える部位を減らしていくタイプのモンスターか? だとしたら次は触手を切り取りたいものだが。


 目は潰れているが、HPはまだ7割も残っている。

 後は設置魔法でどれだけ削れてくれるか。

 俺は神弓を仕舞い、森の中に駆け込んだ。


 爆発音と苦しげな声がしている。効いているな。



 今のコンボを後2回ほど繰り返せば倒せそうだが、MPがない。

 トレント3体もいらなかったか。大したダメージも与えられてなかったみたいだし。


 カグノは頼りにできない。カグノが勝てないということは火に耐性を持っているのだろう。この空間では光魔法も使い物にならないし。

 こうして逃げまわって毒が回って死んでくれれば良いのだが、あの見た目からして毒で死ぬほど耐性は低くなさそうだし、そもそもボスを毒にして逃げまわってれば倒せたというようなぬるい相手なはずがない。


 しかしこの俺に現状を打破することはできばい。己の無力さを改めて感じられる。MPが無くなれば、ただ逃げるしかなくなってしまう。

 サブウェポン……。

 カグノがいるが、あれは俺に向いていないからな。


 現実逃避も程々にして今は背後にいるであろう敵を倒す方法を考えなければ。


 幸い敵の動きは遅い。それに俺がダメージを負うのはあの呪いの声を聞いた時だけだ。その声の間隔も短いわけではないので、それほど負担にはなっていない。心配なのはドアの外のカラコさんに影響があるかどうかだが。



 取り敢えず隠れてMPを回復させよう。

 カグノの所在を見てみると、装備一覧に戻っている。恐らくエウレカ号が破壊されたのであろう。


 これ以上彼女を酷使する必要はない。

 できるかどうかはわからないが、少ないMPであいつを倒す方法を思いついた。



 壁魔法だ。

 地雷系の魔法は目立ちにくいこともあり簡単に引っかかってくれたが、壁系魔法は壁があるのがわかってしまう。猛スピードで動く相手でもないので引っかからないだろう。しかし一度壁に接触してしまえば、その動きが遅いゆえに大ダメージを食らうだろう。

 そしてどうやってその壁にはめるかだが。


 俺を囮にしてはめればいい。

 そのためにあんな気色悪い物体と接触しなければいけないというのが最大の難点だが、仕方ないことだ。俺と触手が近接戦闘とか一体誰が喜ぶのか。誰も喜ばない不幸なことだ。

 経験値はたくさん貰いたいものである。



「ウィンドテイル、トレント」

 さて、トレントがどれだけ上手い仕事をしてくれるかがこの作戦の肝だ。

 上手く行かなかったら俺は触手と押しくら饅頭することになるだろう。それに例えボスが高耐久で魔法寄りのステータスだとしても、あの触手攻撃に俺が耐えることができるのか。マゾヒストをつけて、常時回復しっぱなしでどうにかなるかもしれないといったところだ。

 試してはいないからわからないが。




「来た」

 木々をなぎ倒しながら進んでくるボスは中々の迫力だが、不思議と怖さはなかった。

 ぶっつけ本番だが、できるかどうか。


 触手の1本が俺に届くかという時、横に生えていた木が俺のことを上に跳ね飛ばした。


「フライ!」

 そのままボスの上に停滞する。

 多くの目がこちらを向き、何かを発しようとしているが気にしない。


「シェルター!」

 ボスを覆うようにして土のシェルターが出来上がる。

 俺はその上に軟着陸し、呪文を唱えた。


「ウィンドウォール!」

 壁をと平行になるように作る。上手くいったのかどうかはわからないが、中から聞こえてくる声からしてダメージは入っているようだ。


 最初からフライを使わなかったわけは不慣れだからだ。手に入れた時練習しなかった俺が悪いのだが、どうも運動は苦手なものだ。自分でジャンプしても鳥のようには飛べなかった。なのでトレントに投げてもらったのである。

 そのトレントはシェルターの上に座るようにして攻撃をしているようだ。先ほどの同胞達の無念も果たしてやってくれ。


 あのシェルターの中は風の壁で切り刻まれながら、地面から突き出してくるトレントの根に血を吸われるというおぞましいことになっているのだろう。



「アースニードル」

 ついでに地面の針も追加だ。

 シェルターにもヒビは入っているが、どれだけのダメージを与えられるのだろう。


 やはり思惑通り、奴は耐久型だったようだな。

 シェルターが破壊できたのは二度目の目からの光線を発した時だった。触手の攻撃はそこまで強くはなかったようだ。光線さえ避ければ楽勝なタイプのボスだったのかもしれない。


 しかしあの量だから、俺達が真正面から挑んでいたら避けられずに死んでいた可能性も高いが。


 出てきたボスのHPはもう既に1割をきっている。

 俺のMPはもう残り少ないし、トレントに任せておけば勝てるだろう。

 光線がなければ勝てるはず。


 俺は逃げるだけだ。





《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに15ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが12増えました》

《戦闘行動により【土魔法Lv29】になりました》

《戦闘行動により【風魔法Lv26】になりました》

《戦闘行動により【木魔法Lv31】になりました》

《戦闘行動により【魔力操作Lv19】になりました》

《戦闘行動により【隠密Lv22】になりました》

《戦闘行動により【擬態Lv21】になりました》

《戦闘行動により【暗視Lv11】になりました》

《戦闘行動により【気配察知Lv23】になりました》

《戦闘行動により【瞑想Lv5】になりました》

《戦闘行動により【思考加速Lv25】になりました》




 ようやく終わったか。

 HP的には問題はないものの、精神的にはグッと疲れた。このボスは一体何でこんな見た目だったんだ。元は人だったとかそんなオチはないの?





種族:半樹人

第一職業:狙撃手 Lv40

第二職業:森呪術師 Lv8

称号:神器の使い手

スキルポイント:94


 体力 :100(-35)

 筋力 :30

 耐久力:50

 魔力 :150(+88)

 精神力:165(↑15)(+49)

 敏捷 :50

 器用 :100(+82)




 MP不足を実感した。から精神力を上げた。敏捷も上げたかったが、それは仕方ない。速さより戦闘力だ。魔力を上げても良いんだが、精神力を上げたほうがMPが多くなるしな。





《太陽は食われ、昼は消えた。何がそこに残るのか。永遠の命を求めるものよ。己の罪を知るがよい》



 何言ってるのかよくわからないですね。

 永遠の命? 不老不死ってことか? そんなもの求めてないけどな。もしかしたら不老不死という禁忌に手を出した人があんな化物になったのかもしれないな。怖い怖い。一般人で良かった。




「トレントお疲れー」

 本当に君たちは良く頑張ってくれたと思う。

 トレントの気持ちはわからないが、満足そうな感じだと思う。




 ジャングルを抜けるとそこには心配そうな顔をしているカラコさんが立っていた。

 そんなに俺が心配だったか、そうかそうか。


「シノブさん、お疲れ様です。ありがとうございました」

 抱きついても良いんだぞ? そんなにいつも通りしなくたって、いつも通りにしなくたって……俺泣いちゃうよ?

 リスクリターンがなってない!

 俺の予想では、カラコさんの中で俺の株が急上昇だったはずなのに。


「次からは頑張ろうな」

「善処します」

 もう一気に力抜けた感じだよ。



 ジャングルの木が気になったので調べてみたら豆の木らしいです。

 豆は実ってないけどな。




 ボスがいたところには魔法陣があり、そこから帰れるようだ。

 カラコさんはまだ進むことを断固拒否していた。

 もう時間も遅いし、先に進んですぐ帰れる場所があるのかどうかはわからないが。




 昼の神殿から出ると、もうすっかり日は暮れていた。

 随分長い時間をダンジョン内で過ごしていたのか。



「帰りましょう」

「帰って夕ご飯。食べよう」


 食堂の夕ご飯はどうなっているのだろうか。少し朝に比べて豪華になっていると良いのだが。

ありがとうございました。

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