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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
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143 お詫び

 久しぶりの日の出だな。おはようございます。

 昨日は寂しくベッドで1人で眠っていたが、ログインしたらベッドが灰になっているという珍事が起きていた。ライダーの資格を持っていないのに変身したわけでもあるまい。


 カグノを呼んでも杖からは出てこない。主人がいない間にいたずらして隠れてるとかどこの犬だよ。

 というか出てこなかったら誰が犯人なのかぐらいわかるって。


「カグノー」

 何度目だろうか。

突然中からカグノが飛び出してきた。


『今日は良い天気だねー! どこか遊びにいこーよー』

 確かに良い天気だ。

 久しぶりの朝日が気持ち良いぐらいに、庭を照らしているのが見える。が話しをそらそうとしているのは明白。俺はいたずらした犬を笑って許すぐらい寛容ではないのだ。それに殺風景だった部屋が更に殺風景になっているじゃないか。


 あるのはいつの間にかある火花草のみ。

 全く生活感がないよ。

 冷蔵庫とかはいらないけど、せめてカラコさんの部屋みたいに色々置いてみたいよ。


 適当に兵隊蜂の羽を撒いてみる。

 ま、まあマシにはなったかな? 巨大な蜂の羽が落ちている部屋とか大分ホラーかもしれない。


 というか、そんな話しじゃない!


「カグノ、ログインしたら俺が灰まみれだったんだが、それについて何かないか?」

『え、えー?! それは大変だ!』

 大変だよ。もうこれから俺はどこで寝ればいいんだよ。ログアウトする時にベッドで寝るのって気持ちよかったのに。


「この部屋にいてカグノなら詳しいこと知っているんじゃないかなーって思ってさ。本当に何も知らないなら良いんだ」

 さて、後はカグノの良心に任せるばかりだ。この俺のベッドを見つめる悲壮さが伝われば自白してくれるだろう。



『えー? 知らないよー?』

 な、こいつしらばっくれる気か? 良心というものはないのか。全く誰がこんな子に育てたんだか、親の顔が見てみたい!


「カグノがこれやったんじゃないか?」

『うぅ……ごめんなさい』

 俺が問い詰めるとあっさり吐きやがった。さっきまでバレなくて良かったとか言う顔してたのに、本当に俺がカグノがやったんじゃないと思ってるとでも思っていたのか?


 素直に謝ったから許してあげよう。しかし今日からどこでログアウトしよう。

 ベッドはなしか。



「まあ、俺もそこまで気に入ってたベッドなわけじゃないし。王都でも活躍したし何か金が入ったら新しいの買うよ」

『えぇ! カグノも何かほしいな~』


 ダメだ。こいつ反省してねえ。


 カグノをスルーして外に出る。

 朝飯でも食べるか。


 食堂に出て行くと、慌ただしく働いている。料理人達が。警戒の目を向けられているが今回は変なもの持ってきてないぞ。



「日替わりメニューか……」

 というより日替わりメニューAとB。

 Aを頼むと唐揚げ定食、Bを頼むとカツ丼。ここはファンタジーなのかと問い詰めたくなるがそういうものなのだろう。無理に洋食しか食べれない世界でもプレイヤーから反感買うしな。



『唐揚げ定食!』

 カグノは唐揚げ定食を頼むのか……。俺も唐揚げにするかな。


「俺も唐揚げで」

 整理券を渡されたのだが、意味があるのだろうか。

 もう規模も制度も巨大ギルド向けなのに朝食食ってる人が誰もいないってどういうことだよ。


 整理券は呼ばれたが何故か4桁から始まっている。わかりづらくする必要があるのか。無駄なこだわりが現れているな。



『3274番、3275番でお待ちのお客様ー』

 そしてどこから声が聞こえてくるのかと思ったらメガホン持って叫んでる。もうアナログとかなんでもねえな。冷蔵庫あるなら放送機器ぐらい作ってやれよ。



 唐揚げ定食。唐揚げにオイシ草とレタスと何か紫色のよくわからない野菜のサラダと、具がキャベツのみのコンソメスープ、パン、そして唐揚げとレモンだ。


 わかる。わかるけど、何でご飯じゃないんだよ……。唐揚げとパン? それだったらカツ丼の方が良かったよ。この世界で米って貴重品なの? それとも料理人達の嗜好?

 こいつら唐揚げでパン食えると思ってんの?


 ない。これはない。


 カグノは全てを口の中に放り込んで燃やしているで、味わっていないが、俺は一言言わないと気がすまない。そしてそれが言える権力が俺にはある。


「あのさ。これご飯に変えてくんない?」

『す、すみません。ただいま用意いたします』

 口答えしなかっただけ良かったな。これで何か言われてたら圧迫面接並みにいびろうと思っていたところだ。



『ごちそうさま!』

 カグノは早くも食べ終わったようだ。スープとか味わかったのかな。

 あ? 何てめえらカグノ見て仕事の手休めてんだよ。さっさと働けよ。


 俺の視線に皆慌てて動き出す。やはり権力というのは気持ちが良いな。


「シノブさん、職権乱用はやめてくださいね」

「ああ、おはよう。そんなことはしていないさ」

 この組織に立つトップとして、ちょっと威圧感を出していただけさ。


 俺というのは少し強くなったり上の立場になったら威張りたくなるタイプなんだ。

 反省しなければいけないとは思う。

 現実世界で俺が誰かの上に立つということはないだろうがな! 俺がそこそこ偉い立場になるなんてそれこそ日本の終わり、深刻な人材不足が窺える。


 就職の面接で空白の時間は色々な人と出会い世界を広めていたと答えよう。

 それで察してくれない面接官なら堂々とVR世界にのめり込んでいたと言ってやろう。というか在宅勤務ができない仕事にはつきたくないな。



 カラコさんはカツ丼を頼んだようだ。


「唐揚げってレモンをかける派とかけない派で戦争しているそうですね」

 さあ? そんな友達がいないとわからないような事言われても俺にはさっぱりわからない。家族かコンビニでしかそんなもの食べたことないし。


「俺はあればかけるし、なくても別に気にしないな」


 俺の唐揚げ定食が米になったので愛想を振り撒いているカグノの襟首を掴み、椅子に座らせてやる。



「料理しているお兄さんたちが集中できないから、やめような」

『はーい!』


 美女に見とれている時間があるなら唐揚げにパンは合わないということを学ぶべきだと思う。


 サラダはドレッシングがかかっていないが謎の紫色の野菜がピクルスのようになっていて、味が薄いということは感じられない。

 唐揚げも普通に美味いし、ご飯も炊きたて。スープも具が貧相なものの、しっかりと美味しい。腕は確かなようだな。


 カラコさんはカツ丼だったが、唐揚げ以外は俺と同じラインナップだった。



「美味しいですね」

「だな」


 横でカグノがデタラメな歌を歌っている以外は静かな平日の午前。そう、平日の午前に俺達はゲーム内で朝食を取るという寂しいことをしているのだ。横に美女がいるから幸せとかそういう問題ではない。完全にリアル放棄してんだよなぁ。



「早いな……」

「おはよーっす」

 俺達より早くログインしていたのにこの人達は何を言っているんだろう。しかしこういうゲームばっかりしているのに、働けてそうなこの2人は見習うべきだ。マッドとかは完全に謎の存在だな。何となくここにいるだけのような気がする。


 後はヴィルゴさんみたいに仕事は平日の午前だけとかいうのも楽でいいな。もしかすると夜中から昼までという過酷な職場なのかもしれないが。



「ギルドで王都復興の人員募集と資材募集と、後王都解放に関わった人の報酬がもらえるらしいですね。代表者1名が行けばいいらしいです。今回はお金みたいですね。私達は行かなくてもギルドを設立しているので自動的に振り込まれますが。後は王都解放戦で役だった人は王都で直々に爵位授与があるとか」

 その王様は死んだんだけどな。そういえばこの国ってなんという名前なんだろう。それに王国があるんだから帝国もあったり共和国もあったりするのかな?

 イメージ的には帝国とか共和国は人間以外の種族が多いような気がする。


 それに爵位授与。

 新たな王様でも出たのか?

 正直爵位なんて貰っても困るだけなんだが。貴族とかになるって響きは良いけど、面倒くさいことにばっかり巻き込まれそうな気がする。



「じゃあ、今日は王都に行くことになりそうだけど……」

 師匠の家に顔出して、ルーカスさんの店について謝って……後はやることあったかな?


「俺は師匠の家に行かなきゃならないから、それ言ってから王都で良い?」

「私も用事があるので、それで良いです」

 カラコさんに用事だと?! 落ち着け。どうせいつも通り機械工学の……ダークエルフのところにでも行くのだろう。別に何もないはずだ。ただの事務的な用事なはずだ。



「例のゴーレムの武装解除が終わったそうなので」

 例のゴーレムというと……俺が戦ったやつか。そういえなそんなやつもいたなという感じだ。しっかり覚えているカラコさんは凄い。



「……じゃあ、決まりだな。……各自用事が終われば、拠点で待機。そして王都へ行こう」


 カグノが店の前を壊した弁償として何を持って行こう。ウサギ1匹とかで良いかな? ああ、後蜂の子とかでも良いかもしれない。



「カグノ、謝りに行くぞ」

『ふぇ?』

 そんな可愛いように首をかしげても無駄だ!





 サルディスはもういつも通りの賑わいを見せていた。

 冒険者ギルドの混み具合と言ったら、自分の拠点を持っていない人は可哀想だな。カグノには神槍に戻ってもらっている。

 神になったからか、俺の意識で戻せなくなったのが問題だ。



 先にルーカスさんの店に行くか、師匠の店に行くか。

 師匠だな。純粋に師匠に会いたいというのがある。それに王都で起きた事の顛末も話しておかなければ。




 師匠は俺が来たら起きたのだが、何故か師匠はご機嫌斜め。寝起きだからというわけではないだろう。


「あの……師匠?」

『なによ』

 俺なんかやったかなぁ。


「最近食べれそうな食材見つけて……」

『それがどうかした?』

 師匠怖いよー。俺が気持ちをわかっていないだけで何かしたのか?

 こういう時には謝るしかないか。


「すみません。師匠。師匠が何故怒っているのか、お聞かせ願えないでしょうか」

『怒ってはいないわよ。ただ昨日貴方達の拠点に行ったのに誰も居なかったことに関して一言ないのかしら』

 師匠に連絡するの忘れてた。


「すみません。実は……」

『もう知っているわ。王都へ行っていたのでしょ? 貴方が行っているのなら私も行ったのに』

 え? もしかして強力な助っ人が来た可能性があるの? それに俺は気づかなかった?

 うわあ。俺馬鹿だな。



「それで今日もルーカスさんのところに行った後は王都に行く予定があって……もしかしたらお昼いないかもしれません」

『私も王都へは用事があるから丁度いいわ。一緒に連れて行ってくれない?』

 連れて行くも何も転移魔法陣で一瞬だと思うが、師匠がついてきたいなら断る理由はない。



 そして師匠はカグノを鑑定しはじめた。何やら気になることがあるそうだ。

 しかしカグノがあの惨状を引き起こした張本人だからここに預けていくわけにも行かないのだが。


『兄は大丈夫よ。貴方だけで行ってらっしゃい』

 振られました。師匠とカグノの両手に花は実現できなかったか。

 まあ、良い。女の子同士での話しでもあるんだろう。俺はそこら辺をしっかり気配りできる男である。



 後ろ髪を引かれつつも、ルーカスさんのレストランエルベに到着する。

 カグノが暴れた形跡はすっかり消えているが、どの建物も若干新しくなっている。


『いらっひゃ、いらっしゃいませ』

 今噛んだよね。凄い痛そうな顔してるけど、大丈夫?


「ルーカスさん呼んでくれ」

『かしこまりました……』

 そういう舌の傷には蜂蜜をつけておくと良いぞ! 甘いしな。



『シノブくんとあったのはいつぶりかな?』

 師匠の家にお泊りしようとしていた時以来ですね。あれから俺は師匠とルーカスさんが同じベッドで寝たのかどうかが気になって仕方がない。


『妹はどうだい?』

 どうと言われてもという感じだな。師匠は師匠だし。特に変わりはない。


「あの、前の火災の件なんですが、あれ実はうちの精霊もどきが暴走してやちゃったもので……すみません」

『妹から聞いたよ。大変だったらしいね。それよりどうだい少し遅めの朝ごはんでも食べていくかい?』

 師匠にこのことを話したっけ? 確かワルプルギスの時に話したような気がしないでもない。


 朝ごはんをおごってくれるという話しを丁重に断り、ウサギを押し付けて店から飛び出してきた。

 ルーカスさん自身は全く気にしてないと言っているのに、どうしても気にしてしまって、話しづらくなるのは何故だろう。これは時間を置くしかないのかな。誰か死人が出ていたら俺はどうしていたのだろう。被害が物だけで良かったというべきか。



「さて、カグノ回収して拠点に帰るか」

 師匠に自慢の拠点を紹介するのも良いかもしれないな。もちろん師匠の了解を取ってからだけど。色々な最新設備が詰まっている食堂を見せてやろう。そして料理人コンテストとかやるのも良いかもしれないな。

ありがとうございました。

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