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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
143/166

142 実食

昨日短かったから書きました。

「シノブの3分クッキング!」

 テンションを上げて叫んだ俺に突き刺さるのは料理人のNPCさん達の視線だ。

 厨房に幼虫を持ち込んでいるからこそ、この視線が浴びせられるのかもしれないが、蜂の子は食物なのだ。決して罰ゲーム時に食べるものではない。


「さて、ではこの蜂の子を綺麗に洗いましょう……ゴーレムが」

 巨大なシンクの上で白いイモムシが動いているのは、なんというか、とってもグロい。

 俺は炒って食うことしかしらないが、それだと死んでしまう。生でも食べられるのかな? どこかの原住民がイモムシを捕まえた瞬間食べているのを見たことがあるから大丈夫かもしれない。


 VRだしな! 腹は壊さないって。



 じゃあ、俺は蜂蜜酒でも作るか。


「なんか瓶ない?」

『ああ、はい』

 かなり大きい瓶だな。

 蜂蜜の量で考えたら妥当か。


 ここで1つの問題が生じた。

 蜜蝋と蜂蜜わけるのにはどうすれば良いのか。


 フリー百科事典には遠心分離器を使えと書いてある。しかし残念なことに俺は遠心分離器を持っていない。というかそんなものこの世界にあんの?

 考えても仕方ないし、蜜蝋のまま瓶に突っ込むか。蜜蝋も食えないわけじゃない。



「そして水を入れて……醸造」

 醸造スキルは時間の流れを変えることができるらしい。実戦で使えたら凄いチート。


 設定は1ヶ月。1分で完成した。

 蜂の子も優秀なアシスタントであるゴレームくん達が綺麗にしてくれたようだ。



「えーと、皿と、グラス用意して」

 俺の言葉で料理人達はざわざわと動き始める。運が悪いことに全て男性なので、こき使うことに何のためらいも覚えない。仕事でやっているのだからもう少し早く動いて欲しいものだ。

 さて、食堂の方は準備ができているかな?



 なんかお通夜みたいな雰囲気だな。


「できたのか……」

「ああ! 楽しみにしてろよ」

 ワイズさんもいつもにまして苦しそうだ。


「シノブさん……シノブさんも食べるんですよ?」

「大丈夫だ。俺に忌避感などない!」


 アオちゃんらリア充2人は既にログアウトしている。もちろん俺が蜂の子を持って帰ってきて、夕食にすると宣言してからだ。しかし俺は知っている。NPCの料理人の料理は美味しいのかと話し合っていたことを。


 そしてネメシスとヨツキちゃんは緊急の用事でログアウト。

 ワイズさんだけが人身御供として取り残されたわけだ。


 何を考えているかわからないマッド、余裕そうな笑みを浮かべているが、貧乏ゆすりが絶えないヴィルゴさん、そして優しさから逃げないでいてくれるカラコさんがここには残っている。

 カグノはお腹いっぱいと言って杖の中に戻ってしまった。

 彼女に関しては単にお腹がいっぱいになっただけだろう。口に入れたものを全て灰にする神が蜂の子程度にうだうだ言うとは思えない。



 調理場に戻ると、巨大な皿にオイシ草がひかれて、今まさにゴーレムの手によって生きたままの蜂の子が置かれる。弱ってきたのか動きも遅くなっているし……とっても気持ち悪いです。


 調理者の俺がここで引くわけにはいかないか。

 いざ食うとなったらちょっとだけ嫌な気持ちが出てきたけど、俺ならできる。



「完成しましたー」

 俺の明るい声とは正反対なオーラが全員から出ている。



「これどうやって食べるんだ?」

「そりゃあ、そのままかぶりついて」

 ヴィルゴさんはキメラだし、食べやすいだろう。

 全員の前に巨大な蜂の子を給仕し終える。

 もちろん俺の前にもだ。


「何の罰ゲームですか……」

 だから罰ゲームじゃない。ただの食事さ。生きのいい蜂の子を食べる。自然を体感できていいじゃないか。



「食後に蜂蜜酒もあるから良かったら。ではいただきます」

 さて、誰も手を動かそうとしていないな。

 当たり前か。ここは俺が率先して食わないとな。


「すぅーはぁー」

 よし食べよう。覚悟はできた。


 俺が食べるとその物体はビクリと身体を震わせる。


「うわぁ~、生きが良くて美味しそうだなぁ~」

 誰も反応してくれない。

 仕方ないやるか。


 俺は顔面をその物体に押し付けるようにして食らいつく。


「食べた!?」

「毒見役ご苦労」

「……さすがだな」


 俺の瞳から樹液がにじみ出ようとしているが、耐えて前を向く。

 俺はこのセリフを言わねばならない。

「美味い!」


 しかし誰も俺に続いて食べようとしない。


「ど、どんな味でしたか?」

 正直言って味はわからなかった。俺は噛みちぎったが、HPが減るだけでこの蜂の子は味がしないようだ。なるほど。モンスターを生で食すことは不可能なんだな。



「よくわからない。しかしうま……」

「シノブさん!」

 俺の記憶はそこで途絶えた。






「ここはどこ? 私は誰?」

「記憶を失っているんですか……」

 目の前には深刻そうな顔をした小柄な黒髪の女の子、カラコさんがいる。


「……お前は俺達のギルドマスター、シノブだ」

「ギルド、マスター」

 知ってるけど。



「小芝居はいい。その虫を食べると気絶状態になるのなら私は食べん」


 全く連れない人だな。

 それにしても気絶していたのか。何のためにそんな設定があるんだ? 攻撃してくるわけではないのに、身体に気絶するような物質が入っているとは、まさか食うやつを返り討ちにするわけでもあるまい。それにこんなものを食べようとするやつはそうそういない。


 運営がこの蜂の子にわざわざ食べれない能力を授けたのはなぜか。何もないのなら、ただHPが減るだけのモンスター仕様で良かったはず。ということはこの食材は食べられることを想定している。

 ということはつまりこの気絶状態をどうにかできれば食えるということだ。



 これは運営の俺に対する挑戦状ともいっていい。この俺の料理に対する飽くなき探究心を見くびってもらっちゃあ困る。


 師匠なら調理の仕方知っているだろうから、今度教えてもらおう。

 知らなかったら? 食わないよ。別に進んで食いたいとも思わないし、せっかく新鮮なものが入ったから食おうと思っただけで。俺の中では料理に対する飽くなき探究心よりも、師匠と一緒に料理をしたいという気持ちのほうが強いしな。


 明日の昼が楽しみだな。師匠と一緒にお料理の練習だなんて。料理は俺が将来誰かに養ってもらう時にも役立つし、覚えていて損はないスキルだ。


 さて、蜂の子達の処遇はNPCに任せておいて。



 俺が食堂に戻ると、誰もいなかった。

 え?


 そこには置き手紙が。



 シノブさんは光合成をしておいてください。私達は街に食事をしに行ってきます。




 俺は目から樹液を流しながら沈みゆく日に焼かれていたのだった。

今日の夜は5000文字を目標にして頑張りたいと思います。

みかみてれんさんと同名の三上テレンというキャラクターが出ていたことに今気づきました。すみません。気づいてなかったです。修正しました。

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