141 蜂蜜酒
蜂蜜すげーーーー!!
魚の臭みをなくして、肉を柔らかくして、米の味を高めて、イースト菌の発酵促進する。
更に強い殺菌力を持ちあわせていて傷にも塗れるし、腸内のビフィズス菌を増やすだって?!
白内障、神経痛、糖尿病、二日酔いに効果があって、コレステロール除去、そしてまさかの発情物質、いわゆる媚薬効果もあるらしい。こんな食材をスーパーマーケットで売っていいものか。
……売らないと蜂蜜産業は衰退するだろうが。
蜂蜜の偉大さをわかっていなかった自分が恥ずかしい。もうこれは宗教を作っても良いのじゃないだろうか。俺が蜂蜜の伝道師となってこのゲーム世界を周ろう。そして世界を蜂蜜一色に染めたい。
全人類に毎日の蜂蜜摂取を強要すれば人間は更なる進化を遂げるだろう。もちろん1歳以下の子供には食べさせてはいけないけど。
「シノブさんも手伝ってくださいよ」
今やっているのは蜂の巣の切り分けである。
残党が少しいたが、問答無用で斬り伏せている。
蜂のドロップアイテムは、兵隊蜂の羽、兵隊蜂の針だ。一体何に使うのかはわからない。どちらも装備に使えるのかな?
そしてある一定の大きさに切り分けて触れるとアイテムとして認識されるらしく、蜂の巣というアイテムが手に入る。凄いアバウトな名前だと思う。
カラコさんが主な切り分けをしているのだが、仕舞うのは俺だ。念力があるからな。ヴィルゴさんは興味がないらしくラビと永遠に戦い続けているし、カグノは蜂蜜を取って幸せそうな顔をしている。口に入れた蜂蜜は片っ端から炭になっていっているが。
大変なのはカラコさんだけだな。後でねぎらってあげよう。
「そういや、刀でこんなもの斬って大丈夫なのか?」
「この刀はかの名工イッカクが作った斬れ味の落ちない刀、政宗ですから」
え、何その無駄にかっこいいような説明文。そしたら今までの耐久値回復っていうのは何だったんだろう。結構魔結晶使ってたよね。それに何かかっこいいことを言っているように見えるけど、斬れ味が落ちないってあんまかっこよくない。
「どうせなら全てを斬り裂く刀とかにしたほうが良いんじゃないか。それだと斬れ味の落ちないという言葉よりも最強感がでてくる」
「……最強な武器で戦うよりも、最強な能力の方がかっこよくありませんか?」
お? それは俺をかっこよくないと言っているのかな?
確かに武器の力にだけ頼って、武器がなくなった瞬間雑魚になりさがって、武器が本体。皆本人じゃなくて武器さえいれば良いのに、そいつしかその武器が使えないから仕方なくおだてて都合の良いように使わせ……。
「……あれ? 俺って俺じゃなくても大丈夫じゃね?」
「ダメですシノブさん! 考えるのをやめてください!」
もしもこの俺の称号がなかったら、もっと俺より神弓に使うのを適した人がいたかもしれない。
「俺の存在意義って何だ?」
カラコさんは気まずそうに視線をそらす。
おい、やめろよ。そういうタチの悪い冗談は。俺泣くぞ?
「……一緒にいて楽しいところ……ですね」
え? フラグ? もしかして視線逸らしたのは恥ずかしいから?
そうだよね。そのぎこちない笑顔も恥ずかしいから何だよね。決して苦し紛れな嘘を吐いてるからとかじゃないよね。
「冗談は終わりにして」
何だよ驚かすなよ。唯一の居場所であるここを失ったら俺なんて簡単に飛び降りちゃうぞ?
「シノブさんの性格ですね……そのなんというか、独特な感じの」
ちょっと何言いよどんでんだ。独特な感じ? それはクラスに溶け込めていない人のことを個性があるというようなものか? マイナス的なことをプラス的な感じに言っても俺はだまされないぞ。
「独特って何?」
「一言で言うと……私が困っていた時に快く助けてくれたりしたところですか……ね」
それはカラコさんが女の子なのと可愛かったからなのだが。
男なら誰でもすると思うのだが。理由はわかったけど、何となく嬉しくないなー。たまたま俺だっただけだと思うが。
もしカラコさんが男なら……最初声をかけられたところで警戒して話しにならなかっただろう。
「たまたまだろ? 俺は常に何となくというか、その場のノリで行動する人間だからな。今までも何となく、その場のノリで行動してたらこうなっただけだ」
「その結果がギルドマスターですか……」
そこら辺は俺にもわからん。神に聞いてくれ。正直ゲーム内でギルドマスターになるより、ゲーム外で女の子と出会う方が嬉しかったな。
「大体終わりましたね……」
残念ながら養蜂スキルはレベルアップしなかったな。
「本当に持って帰るんですか? それ」
「当たり前だ。蜂の子だぞ? 食ったことないのか?」
自分で蜂の子を触るのは嫌なので、ゴーレムに運ばせている。
60センチぐらいの蜂の子とかもう、ホラー。人間の頭を食いちぎって出てきそうな見た目をしている。苦情こないのかな。
「普通食べたことありませんよ……」
俺も食べたことないな。一体どこで売っているんだろう。食べれるということだけは知っているが。果たしてこのゲーム内のこいつらが食べられるのかどうか。そもそもアイテム扱いでもないしな。生きている、すなわちHPが残っている状態で上手く調理しなければいけない。
「カグノ、帰るぞ」
『ええー!』
顔を煤だらけにして……頭を蜂の巣に突っ込んでも蜂蜜だらけにならないだけマシだが、煤だらけなのもいただけないな。しかし水で洗うのも無理だし。
「その顔どうにかならないのか?」
『顔?』
カグノが洋服の端で顔を拭き始める。カグノの体温に耐えられるであろう布を知らないから仕方ないとは思うが、レディーとしてそれはどうなのかい?
どんなマジックを使ったのか、乱暴に擦っただけなのに顔の煤は綺麗に取れている。コマンド、顔を拭くを実行したのかな?
既にヴィルゴさんとラビも戦いを終えて反省点を話し合っている。傍から見るとただヴィルゴさんが独り言を言っているようにしか見えないが、ラビの声が聞こえているのだろう。
「じゃあ、出発だな」
無惨にも焼け焦げた戦場と蜂の巣があったところを後にする。
そういえば封印されていた蜂はどうなったんだろう。とメニューを開いてみると何と驚いたことに死んでいない。逃げ出した蜂もいたのだろうか。
「カラコさん、巣に案内させた蜂が死んでないんだけど」
「出てきたら復讐されるでしょうね」
怖いこと言うなよ。何か復讐の心でパワーアップしてたらどうするんだ。
家族とか恋人を殺されるって明らかに覚醒パターンじゃん。
「じゃあ、禍根にならないうちに殺っとくか」
「わざと禍根にして成長させて経験値を稼ぐという手段もありますよ?」
それはさすがにリスキーすぎだろ。
ちょっとどう思っているか聞くため出してみるか。
「怒ってるんでしょうか……」
「蜂に感情はないのかもな」
俺の上でブンブンを飛び回る蜂。
俺の頭に花でも咲いているのだろうか。
「このままで良いんじゃないですか?」
まあ、戦闘にも役立たないし、例え殺したところで経験値がたくさん入るわけでもない。
大勢のゴーレムが蜂の子を抱えながら行進しているという奇妙な光景。蜂はその上をぶんぶんと飛び回っている。
子供だけでも助けたからか? 食べようと思っていたのだが。
今のところはどうでも良いか。
それより蜂蜜で何を作るかが問題だ……。
蜂蜜酒。
日本ではアルコール度数1%以上の酒を作ると捕まってしまう。しかしゲーム内では酒税法などというものはない! ゲーム内での嗜好品までに税金をかけるようになったらもう終わりだと思う。
水と蜂蜜を混ぜて日向に置いておくだけ。何と簡単な作り方なのだろう。
ネットのフリー大辞典によると人類最古の酒らしい。
醸造スキルも持っているし、調度良いな。これで酒を作ろう!
カラコさんに飲ませられないのが残念だな。こういう人は酒を呑んだら乱れそうな気がするが。
親交を深めるために大人たちだけで飲むというのも良いか。
蜂蜜酒は美味しければ良いのだが。
短くてすみません。風邪気味なんです。




