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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
141/166

140 痛恨の一撃

「あ、痛い! あ、痛い! あ、痛い!」

「何やってるんですか」

 俺の周りでチクチクしていた蜂をカラコさんが薙ぎ払ってくれる。

 別に大したダメージではないから良いのだが。


 神弓を使ってみたは良いが、動きまわる蜂に全然当たらない。動きが三次元すぎる。


 無駄なことはするもんじゃないな。

 普通に魔法使おう。

 森の中で使うのなら風魔法だな。火魔法だと引火するかもしれないし。燃えながら木とかに激突している神のことは知らん。火の神なんだから火ぐらい操れるだろう。



「エアハンマー!」

 近くによってきた蜂を空気のハンマーで踏み潰す。

 圧倒的なレベル差なのか一瞬で蜂は砕け散る。

 経験値は望めなさそうだな。


 カラコさんは自慢の跳躍力を使っての攻撃の他に、腕から毒を出しての攻撃もしている。

 質より量をモットーにした攻撃なのは変わらずだが、絶望的に質が低い。必ず毒になっていることはなっているのだが、当たっても倒れずに結局毒が周る前に倒すことになっている。

 何か強化をしたほうが良いと思う。もう毒は古い。今は超火力で相手を踏み潰す時代なのだから。


 エアハンマーで地道に叩き落としているだけの俺より、派手に戦っているカグノやヴィルゴさんの方にヘイトは行っている。暇なもんだ。


 ラビは変わらず足で蜂を蹴破るというエグいことをしているし、マラはヴィルゴさんやラビの補助に大忙しだ。 

 カグノは飛び上がるのに飽きたのか、空飛ぶ炎を鳥の形に変えて蜂を追い掛け回させている。追いつかれたら灰となる。恐ろしい鬼ごっこだ。


 特に苦戦することなく、蜂の掃討は終わった。

 撤退する必要なんてなかったな。弱すぎる。いや、弱すぎるんじゃないか。俺が強すぎるんだ。そう、俺は最強。この森で俺に敵うものなどいない!


「クックックック、はーはっはっはっ、はーはははは!」

 そう考えると自然と口から笑いが溢れてくる。全能感。


「この俺は最強だ!」

「ほう……最強がこんな身近にいたとは」

 さっきまで前にいたのに、後ろを取られた?!


 なすすべもなくヴィルゴさんの蹴りが襲ってきて、死を覚悟したが、カグノが槍の柄でその攻撃を受けた。

 そしてそのまま受け流し返す刃でヴィルゴさんを斬り付けようとするが、横から迫るラビが。


 カグノは俺を突き飛ばすような形でラビの攻撃から逃れた。

 何もすることができず、受け身もできないまま転がる俺とカグノ。



「な、何で戦ってるんですか!」

「蜂が弱すぎて消化不良だ。戦いたい」

 あー、驚いた。全く心臓に悪い。俺が悪いといえば悪いが、いきなり襲い掛かってくるヴィルゴさんもヴィルゴさんだ。


「ありがとな、カグノ」

『うん!』



 まあ、蹴り飛ばされるぐらいの痛みなら許容できたが。


「ファイアボール」

 俺の手の上に3つの火の球が現れる。やっぱりこれが1番汎用性も高くて操作性も良いな。強力な魔法を自由に操作できれば強いはずだが、それはできないようになっているんだろうな。


 カグノの槍を物凄い勢いで回し始めた。


「ほう、やる気か。てっきり逃げるかと思ったが」

「何となくな」

 自分がどれぐらいの位置にいるかを知りたい。神弓なしでだ。あれは高火力だが小回りがきかない。対人戦となると全く使えなくなることもあるだろう。



 こっちは2人、あちらは3人だが総合戦力で言えばこちらのほうが優っているだろう。カグノがいるからだ。カグノの本気は怖い。

 俺がどれだけ足を引っ張らないかが、この勝負の勝ち負けを決める。



「二人共、落ち着いてください」

「私は落ち着いてるぞ」


 ヴィルゴさんはいつもこんな状態だからな。いきなり蹴りを放ってくるレベルぐらいには危ない人だ。現実世界に適合できているのだろうか。


「俺もギルドマスターとしての威厳があるからな。負けっぱなしにはいかないんだ」

「そんなものどこにあるんですか!」

 酷いことだ。たぶん俺の本気を見たことがないのだろうな。現実での俺は威厳の塊だぞ。威厳が服を着て歩いているとか威厳から産まれた子供とかも誰かに言われたような気がしないでもない。たぶん言われた。俺の記憶にはないが、誰かには言われているはずだ。


「俺の体組成成分は80%が威厳で20%がその他だ」

「どこまで体にカウントしているんですか。シノブさんの周りの空気は体じゃありませんよ?」

 冷静だな。そこはもっと何でやねんと突っ込んで欲しかったものだが。



「そんなものか。私の体は99%が殺気で残り1%がその他だぞ?」

 お前も張り合うのかよ。というか自分で殺気があるとか、言わないでほしいな。怖いから。その殺気収めて! 戦う前から俺の気力を削らないで!



「……仕方ありませんね。私は周りのモンスターを駆除してきます。蜂の巣だけは壊さないようにしくださいね」

 大分遠いから俺が大規模な呪文を放たない限りは大丈夫だろう。

 カラコさんは森の奥に消えていった。懸命なことだ。



「じゃあ、始めるか」

「先攻を譲ってやる。さっさと来い」

 ヴィルゴさんは半身になってこちらへ挑発してくる。ラビも本気装備に着替えたようだ。それならありがたくやらせてもらうか。

 手の上で火の球を消し、スキルを入れ替える。


「魔法装、火! テイルウィンド! サンドアーマー!」

 俺の体を包んだ火の上に砂でできた鎧が更に俺を包みこんだ。


「ボルケーノ!」

 俺が魔法を放った瞬間、カグノとヴィルゴさんが激突した。

 浮いているマラには関係ないかもしれないが、場は既にこちらに有利だ。


「ファイアアロー!」

 炎の矢の連射でラビを牽制する。


「シェルター!」

 俺がやられたらそこで終わりだ。

 カグノはマラとヴィルゴさんと同等に戦っているようだった。カグノに本気を出させたら死人が出るかもしれないしな。


「トンネル」

 シェルターが持ちこたえてくれるといいが。

 頭部装備を透視ゴーグルにつけかえる。サンドアーマーをつけているせいか、グイグイと体を押し付けているせいか、いつもよりトンネルを掘るのが速いような気がする。

 地上の様子を見ていると、カグノとヴィルゴさん、ラビが戦っている。

 カグノは体そのものが火だからヴィルゴさんとは相性が悪い。


 しかしその不利を技量で補っている。手甲で槍を弾き、受け流しながら着実にラビが攻撃する機会を与えている。しかしその攻撃すらもほとんど通っていないというカグノのチートさ。ゲームバランス崩壊している。今は槍だけに集中しているようだが、これで同時に魔法を使ったり、空まで飛べちゃったりするもんだから恐ろしい。



 俺は順調に穴を掘り、ヴィルゴさんの真下までたどり着いた。

 この勝負、俺の勝ちだ!


「チェストォ!」

 気合いを共に拳を振り上げてヴィルゴさんの足元から飛び出る。


「な!」

『ええ!』




 時間が止まったように感じた。槍を受け流すため振られたヴィルゴさんの手刀が俺の腹に突き刺さり、同時に背中にもとてつもなく熱いものが突き刺さる。


「ぐ、ぐあああああああああああああ!!」





《戦闘行動により【火魔法Lv33】になりました》

《戦闘行動により【発見Lv26】になりました》

《戦闘行動により【土魔法Lv28】になりました》

《レベルアップによりスキル【メガリス】を取得しました》

《レベルアップによりスキル【ランドマイン】を取得しました》

《スキル【不屈】を取得しました。スキル欄が限界なため控えに回されました》





『大丈夫?』

「ぜっんぜん大丈夫じゃない。もうだめ。死ぬ」

 もちろん勝負は俺が瀕死の重症を受けたため終わりになったのだが。

 大ダメージを受けるたびにカグノが膝枕しながら頭を撫でてくれるなら、どんなダメージでも受け止めますとも。

 あー、カグノって何かが燃えたような臭いがするが、それも女の子の匂いだと思えばありがたいもんだ。

 ありがてえ。この至福の時間が後1時間は続いて欲しい。



「もう大丈夫だろう。私の精神衛生上離れてくれないか?」

「はい! 了解です!」

 一言一言に怒気が詰まっていたよ。怖い。99%が殺気というのも誇張ではないかもしれないな。



 ランドマインはグラストラップの爆弾版。地雷そのままだ。

 そしてメガリスは巨大な石が対象を押しつぶす魔法。容赦無い攻撃だと思う。


 それと数々の苦行を耐え忍んだ俺にようやく来たスキル。

 不屈。何があっても屈しない俺に最適なスキルだろう。ググってみると、ステータス異常の軽減だとさ。バンバン攻撃を喰らって、死に戻っても大丈夫ってか。てか戦闘中にはステータス異常になんないし、ステータス異常になるレベルでの戦いを何度も繰り返すとも思えない。

 使わないだろう。控えに入れておくか。





 起き上がると周りは酷いことになっている。樹齢100年とかありそうな巨大な木々が燃えて、まさに焦土って感じ。全く自然破壊も程々にしてほしいな。俺の責任ではない。破壊不能オブジェクトにしていない運営が悪いのだ。だって屋久杉レベルでの大木だよ? 普通倒れないとか思うじゃん。普通に背景みたいなもんだと思ってたら倒れるとか。普通想像できない。


 地面がマグマになったから仕方ないとは思うが。


 幸い蜂の巣までは被害を及んでいないようだ。

 カラコさんはどこに行ったんだろうな。


「ラビ、探せるか?」

 戦闘音が聞こえないほど遠くに行ったのか、それとも……あれ、嫌な予感がしてきた。あの子って1人で森の中歩けるっけ?



 ラビの示す方向に歩いていると、声が聞こえてきた。


「シノブさぁ~ん! ヴィルゴさぁ~ん! 助けてくださいー!」

 やれやれ。また何かに捕まっているのか。死んでいないだけマシだったな。


 ここは俺が颯爽に助けだしたいところだが、さっきのダメージで腹が痛い。あまり機敏には動けないだろう。



「誰得?」

 カラコさんは巨大な蜘蛛の巣に引っかかっていた。

 どうやったらこんな状況になるのか。空でも飛んでたのか? そして蜘蛛に襲われる少女。俺はそこまで特殊なあれはちょっとあれだな。どうせなら『森を散歩していたら女の子が蜘蛛の巣に絡まっていたから助けて、お礼として色々させてもらうことになった』っていうほうが好みだな。

 ここではそんなこと起こりっこないが。


「見てないで助けてください!」


 カラコさんが俺に恩を感じて現実でも会う機会になれば良いのだが。未成年は犯罪だからな。変なところで弱みを握られたくない。やめておこう。


「シノブ、魔法で焼け」

 完璧に命令口調ですね。

 仕方ない。


「ファイアボール」

 カラコさんの周りの巣だけ焼くとカラコさんは受け身もできずに落ちた。



「毒蛇に驚いて飛び上がったらこんなものがあって……」

 そして飛び上がってそのままというわけか。


「モンスターが来なくて良かったな」

「来ましたよ」

 来たの? じゃあ、何で生きてる? いや、別に生きていたら悪いわけではないけど。


「蛇の目がレベル10になって、スキルポイントも余っていたので、眼光というスキルを取りました。要するに目からビームですね」

「なにそれかっこいい」


 よく見るとカラコさんの蜘蛛の巣の前には何か焼け焦げた後がある。

 カラコさんのロボットぽさがますます大きくなったな。目からビームとかもうそれはギャグの域だ。穴が空くほど見つめることが可能になるとは。


「ということはカラコさんと目を合わせたらそのまま目に奇襲される可能性があるのか」

 恐ろしい。

「そんなことしませんよ」


 どうだか。カラコさんが薄着している時に何とか谷間を発見しようとしてさり気なく背後に立って、その気配に気づいたカラコさんが後ろを振り向いた瞬間に俺と目が会い、鎧の薄い部分から目に直接ビームが突き刺さるというパターンだろう。

 確かにそんなことがあったなら俺が悪いのは確かだが、そのビームには個人的な恨みも入っているだろう。



「カラコさん、胸の大きさなんてどうでもいいんだよ」

「はあ」

「セクハラかっ!」

「ぐはぁ!」

 酷い。さっきダメージを受けたばかりの場所に蹴りを入れるなんて。

 しかし俺としての主張はさせてもらおう。


「胸じゃない! 心が大切なんだ!」

「でもシノブさんの視線ってカグノちゃんの胸元ばかりにいってますよね」

 それは仕方がない。心は大切だが、カラコさんのを見ても何もないじゃないか。鎧を着た状態なら俺とそこまで胸囲を変わらない程度だろう。体の大きさもあって俺の方が大きいかもしれない。



「男としての性が出てしまってな」

「結局大きさなんじゃないですか」

 違うんだよなぁ。何とも上手く説明できないが、カラコさんもカグノも同じぐらい魅力的だ。

 というと二股をする最低な男とか思われるかもしれないが、それは違う。俺のようなモテない男にとっては周りの女性のほとんどが恋愛対象なのだ。大体の女性にデートに誘われたらはい喜んでとついていってしまう。これは仕方ないことじゃないか。


「うまく説明できないが、カラコさんも十分可愛いよってことさ」

「あ、ありがとうございます」

 お、少し動揺したか? 脈ありか?


「そんなことより蜂蜜を採取しに行きましょうか。今回はそのために来たんですし」

 カラコさんはそうだっけ? レベル上げのためだったような気がするが、思ったより蜂が弱かったのが問題だったのだ。

 俺は甘味で女性を釣るということも考えていたが。



 何でもいいか。消えたり、誰かに横取りされないうちにさっさと戻って回収してしまおう。

 蜂の蜜蝋、蜂の子、蜂蜜と食べれる場所はたくさんあるしな。


 ゲテモノ食いだと言われるかもしれないが、ただの動物性蛋白質だ。というかVR内だったらそんなに気にしない。リアルで食べるのとはまた別だが。



「さっさと行ってさっさと帰ろう」

 予想外に痛かったし、早く帰って蜂蜜を使ったレシピでも検索して作ってみよう。

ありがとうございました。

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