138 図書館とは
取り敢えず向かうのは自分の部屋だな。何はともあれ自分の部屋だ。
メイドさん達に一々礼をされるのは悪い気はしない。
鍵を開けると、そこにはベッドと窓枠に花瓶に入れられた火花草があった。
嫌がらせ……ではないだろう。犯人はわかっている。
「これってカグノの花なんだろ?」
『そうだよ!』
置いてあったものをメイドさんか誰かが見つけて花瓶に挿してくれたのだろう。
神槍から火の球が出ると、カグノの形となって地面に立った。
こういう風にして出てきたんだな。
カグノが火花草を手に取ると、火花草は小さな爆発を起こしながら灰となった。
何がやりたいんだか。
火花草って何に使うんだろうな。爆弾とか?
どっちにしろ危険物なことには変わりない。
「しかし部屋の中に美人がいるだけでパッと明るくなるな」
『物理的にね!』
誰がうまいことを言えと言った。確かにカグノは光を発してるけどさ。
カグノが物理的という言葉を知っていたとは。たまに変なところで知識を出すな。
「物理的にって言ってるけど物理って何?」
『物理化学で観測可能な事象のこと!』
ダメだ。俺の知ってるカグノはどこかに行ってしまったんだ。あのアホの子のカグノが……。
俺は自分の無力さを改めて目の当たりにして立っている気力もなくなりベッドに倒れこんだ。
そうだ!
「9の段のかけ算を逆から言える?」
『わかんない!』
良かった。トレントという植物よりも劣ってる。
しかしこれだけだとアホさ加減が足りないな。
「ショートコント。天孫降臨。
うわー、天から何か落ちてきたー!」
『私は神だ!』
「な、何だってー! 大変だ! 村の衆に知らせるだー!」
『んだんだー!』
「……あー……」
『……』
「いや、続けましょうよ」
「カラコさん!?」
カグノも乗ってくれたものの、いきなりショートコントをするのは無理だったようだ。俺たちにはお笑いの才能がなかったみたいだな。
というか俺がツッコメなかったのが問題だな。研鑽を積まなければ。
「それにしてもカラコさんピッキングしてまで入ってくるなんて何かあったのか?」
「人聞きの悪いこと言わないでください。温泉から上がって、自分の部屋に戻ろうとしたらドアが開いてたんですよ」
そういえばドアを閉めた覚えがない。
普通に入ってきたというわけか。
「温泉はどうだった?」
「ネメシスさんの素顔を拝めたのでとても良かったです」
え? 何? ネメシスってああいう黒いマネキンみたいな種族じゃないの?
「そして普通に女性でした」
確かに精霊系は体がその精霊の物なだけで、形は普通の人間だが。要するにあのマネキンっぽいのは装備なわけか。全身ストッキングの上に各種アクセサリーや軽い鎧をつけてるわけか。
謎だな。まあネメシスの素顔なんてどうでもいいが。
「シノブさんの部屋、相変わらず殺風景ですね」
言うなよ。カグノがいるだけで大分マシじゃないか。
「私は今から図書館に行くのですが、シノブさんも来ますか?」
断るという選択肢は俺の中で既に消えているのだが。
こいつが心配だ。
「そういえばカグノ、床を焦がしていないな」
『へへへー、頑張った!』
「よくやったな」
カグノの頭を撫でるが熱くない。
見た目は燃えている。水に触れたら爆発するのに一体どういう仕組みになってんだ?
「あ、本当ですね。熱くないです」
謎だ。しかし触れ合いやすくなったので、良いだろう。
そう、いたいけなカグノと一緒に転げまわって遊ぶことが可能になったのだ。
神は俺を見捨てなかった!
あれだな。女風呂に特攻しなかったせいで神様がご褒美をくれたんだ。
やはり日頃の行いが良いおかげだな。特攻しなかったのは他に人がいたからというのもあったが。
「カグノ、面白いことをしないか?」
『え! やるー!』
「シノブさん、その面白いことの内容を教えてくれませんか?」
か、カラコさん!?
やばい。この人の存在を忘れていた。
「面白いこと、そう面白い。うん、ちょっと森に蜂蜜でも取りに行こうと思ってね。面白いだろう? 養蜂スキルもあるし、ちょっと探しに行こうかと思って」
「良いですね。是非ご一緒させてください」
カラコさんがついてくる!?
一体どうすれば良いんだ。カグノといちゃつけないじゃないですか!
「シノブさんのためです。一線超えてアバター削除はシノブさんも嫌でしょう?」
お前は俺の母さんか!
カラコさんの意見にも一理ある。そんなつまらないことで垢バンは嫌だ。
しかしこれはくだらないこと、つまらないことだというのは俺の本心なのだろうか。
考えるのはやめよう。そんなこと考えたらリアルのことを思い出して虚しくなるだけだ。
「じゃあ、図書館とやらに行くか」
俺は図書館に行ったことがない。なので場所を知らないし、どんなものが置いてあるのかも知らない。
「い、いらっしゃませ」
カラコさんの後についていき、図書館にたどり着くとどこかで見た顔がいた。
赤色の髪に犬耳の男。時計職人だ。
名前は何だったっけ? 聞いた覚えがない。
「アカザさんこんにちは」
アカザね。そのままだな。赤色の髪だし。というより赤色の人多いな。カグノも赤基調だし、アオちゃんも赤鬼だし。赤は人気なのだろうか。
赤は現実でもありえる髪だしな。
アカザの髪はワインレッドと言った感じだ。
ワインレッドの髪が地毛な人はいるのだろうか。
時計を作りながら店番もしているのか。
給料が出ているんだったら、効率が良いことだな。
図書館と言っても本が大量にあるわけではない。
巨大な黒板に各種魔法陣の名前が書かれていて、その前にカウンターがあるだけだ。
図書館というより、壁が凹んだ場所にあるカウンターと言った方が正しいような気がする。
カグノに対してあれこれ気を使う必要もなかったな。
「ここで魔法陣が販売されています。私達は幹部なのでタダですね。タダだからといってもちゃんと考えて貰ってくださいね」
考えて貰えとは。在庫全て持ってけとか言うなってことだろう。
「えーと、ヒール、サンドアーマー、テイルウィンド、ミスト、ハイドロセラピー、アクアリングをそれぞれ5つずつください」
補助魔法が揃っているな。
俺も同じものを頼むか。
「カラコさんのから、サンドアーマーとテイルウィンドを抜いたのくれ」
「は、はい」
使う機会はあるのだろうか。まあ、なくても転売すればワイズさんのなら高くで売れるだろう。
てか転売していいのかな? それほど数は確保できないだろうが。
「シノブさんは何かやることないんですか?」
やること?
イベントも終わったしどんな厄介事を俺に押し付けようとしているのだろうか。
「暇だったら一緒に狩りに行きませんか?」
何だ。そんなことか。
「そういや、俺の持ってる蜂の巣を探して壊滅させに行こうと思っていたんだが、行くか?」
「行きましょう」
久しぶりにヴィルゴさんも誘って3人で戦いに行くか。
イベントじゃ離れ離れだったもんな。
ありがとうございました。
少なくてごめんなさい。
この話のif編を書いてたりします。




