表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
138/166

137 慰労

 王冠から何が出てくるのかと思いきや、出てきたのは昼の神だった。


永久とこしえの祝福を』

 そういうと俺たちの上に金色の砂のようなものが降りかかる。

 ステータスを見ても何も変わっていない。容量不足かな?


 夜の神様と関わりが深いのも問題なのかもしれない。


 そして昼の神が消えると同時に王冠も消えてしまった。

 おい! 置いてけよ!

 他人に任せた癖に戦果だけ貰っていくのか。


 仕方ない。宝物庫でも探すか。

 しかしカラコさんもこの様子だし、今そんなこと言い出したら早い者勝ちで大変なことになる。

 後でこっそり盗み出せばよい。なんせ王城は空っぽだ!



 そういえばこの王都ってどういうことになってんだ?

 NPCがいるのか?

 しかしここから見える城下町は不気味なほど静まり返っている。

 魅了で動かされていたのか、それともそもそも死んでいたのか。


 そんなことを考えていると1人のNPCが入ってきた。白い髭を生やした爺さん。入ってきたといっても天井に空いた穴から入ってきた。要するに飛んできたということか。風魔法の使い手か、そういう種族か。



『はーはっはっ、ワシが1番乗りじゃの。やはり風魔法が1番じゃの』


 どこかで見たような顔してんな。

 どっかであったっけ?



 すると、その足元に穴が空いて爺さんは落ちていった。そして壁をぶち抜いて現れたのは、チャラチャラした茶髪の若い男。


『俺が1番だな。風魔法の爺さんは死んだ。こうして妨害もできる土魔法はやっぱ1番だ!』

『遅いな君は。僕はとっくの昔にここに来ていたよ? それに土魔法が1番だなんて。面白い冗談だな。火魔法が1番に決まっているだろう』

 反対側の入り口にいたのは、赤い杖を持った赤い髪の青年。


 思い出した。

 こいつら、ノルセアの四属性魔法の教官達だ。この仲の悪さで思い出した。


 そして睨み合う2人を濁流が飲み込み、壁に空いた穴から流していった。

 現れたのは目を閉じている青色の髪の女性。


『ふう、愚かな人達ですね。水魔法ほどの汎用性がないので速さでしか勝負できない。皆様すみません。私達がここに来たのは、キャッ』

 吹っ飛んでった。女の子にも容赦ないな。


 穴から爺さんがふわりと飛び出してくる。


『全く年長者を何だと思ってるんじゃ!』


 全然年長者としての威厳はないけど。

 もうコントは良いからさっさと要件話して欲しいな。

 何でこんなところにいるのか。


 空いていた穴に風の壁が塞ぐ。


『五月蝿いやつらもいなくなったの。王都の結界が壊れたと知っての。やはり死んでおったか』


 もしかして罪に問われたりするの?

 イベントを解決して罪に問われるならばレビューで酷いことを書いてやろう。




『城下町の被害状況は奴らが確認してるところじゃ。王殺害に関しての罪は問わないから安心せい』

 良かった。それにしてもこいつら、何なんだ? 確かにプレイヤーより全然強い教官達がノルセアで隠居生活してるのは、気になってたけど。

 恐らくゲーム中最強集団はノルセアの教官達だよな。


「貴方達は何者なんですか?」

 あ、そこの人、同じこと思ってた。



『儂らか? ふふふふ、ただの教官じゃよ』

 ただの教官が国政に関係してるなんてないだろ。

 強大な力を持っているため、王に疎まれ、冒険者の教官役となったとかそういうものなのかな。

 風魔法の教官は空中に浮かび上がって、穴の外の空中に浮かんだ。


『サルディスで報せを待つがよい。報酬は出すように説得しておくから。心配するのではないぞ』

 良かった良かった。報酬貰えるのか。ゴブリンの時みたいな豪華なもんがいいな。


 風魔法の教官は物凄い勢いで飛んできた炎の渦に巻き込まれ飛んでいった。

 体大丈夫なのかね。


「じゃあ、戻るか」

「また馬に乗って長旅ですか……」

 重度のステータス異常なカラコさんにはきついだろうな。



『その心配はない』

 音を立てながらロマンスグレーのおっさんが入ってきた。


『私は生産ギルドサルディス支部のディナーだ。転移魔法陣が復活した。早急に出て行ってもらおう』


 そういやこいつ会ったことあるな。遡行成分についてとやかく言われたような気がする。そうそう思いだした。

 確かロリコン共の手に渡ると危険なことになるから、遡行成分を売るな、だったような気がする。

 師匠は遡行成分について何か知っているのだろうか。また機会があれば聞いてみよう。



 俺たちはディナーの後にゾロゾロと続き、城の外まで出てきた。

 城の真ん前にはいま造りましたって感じの魔法陣がある。城の中には転移できないとかそういう仕組みなのだろうか。


「行くか」


 ヴィルゴさんに背負われたカラコさんと、ヨツキちゃん、ネメシスと共に魔法陣に足を踏み入れる。


 とそこはいつも通りごった返している冒険者ギルドだった。

 今はイベントからの帰還者が多いせいか、更に多くなっている。


「拠点に向かいましょう」

 メニューを見ると転移可能場所に王都が追加されている。これで楽に王都に行けるのか。



「ただいまー」

 拠点は変わりなく、そこにあった。



『お帰りなさいませ、ご主人様』

 何も変わらないことはなかった。


 広間に並ぶ執事とメイドさん達、ショップには店員が直立不動で立っていて、ギルドの受付にはギルド嬢が柔らかな微笑みを浮かべて座っている。


「あー、1日で終わると思ったんですけど、2日もかかったから。大丈夫でしたか?」

『私達の荷物は一時的に離れに置かせてもらっているのですが、使用人用の部屋ということでよろしいのでしょうか』

「よろしくお願いします」


 執事が何か挨拶するとメイドさん達は忙しそうに散っていった。



「……ステータス異常になっているようだな」

 カラコさんはベッドで寝てくるそうだ。俺は何をしようか。


「……ベッドで寝るよりも……簡単にステータス異常を……回復する手段があるぞ」

 また新しい魔法陣を開発したのかと思いきや、ワイズさんは俺に耳打ちをしてきた。



「例の温泉ができたぞ」

 まさか露天風呂か?

 そんな効果がある露天風呂なんて、ただ覗き見のため以外の効果があったのか。



「……実は工事中に温泉が湧いてな」

 その嘘は流石にキツイんじゃないのワイズさん。周りの目が冷たいぞ。


「えぇ! 温泉が湧いてきただってぇ! それは楽しみだなぁ!」

 俺も冷たい目で見られました。


「……大根役者だな」

 バレバレの嘘つくあんたよりかはマシだ。



「……実はいうと……購入した。……温泉という課金フィールドがあってな」

 んなものがあるのか。

 値段は聞かない。買ってくれたならありがたく使おう。


「……5000で効能が追加できる」

 高いな。

 いや、安いのか?

 効能がどんなものか知らないが、それで1日か半日持つなら、結構な補正になるだろう。俺は買う気はないが。



「じゃあ……行きましょうか」

 カラコさんが空気を読んでそう言ってくれたお陰で、俺たちは温泉に行くことになった。


 畑は多くが緑に染まっており、ウサギ小屋もかなり立派なものとなっている。

 たった2日空けていただけなのに、凄く発展しているな。


 そして誰もいないはずの闘技場からは戦闘音と歓声が小さく聞こえる。

 まあ、誰が利用しているかは大体わかっているけど。

 ヴィルゴさんの知り合いだろう。



 温泉は立派なものになっているが、和洋折衷な感じだ。白い大理石に竹の柵、そして和風の屋根。


 男湯と女湯にしっかりと分かれている。


「ここが温泉になったことで……備品が付いてきた」

 ワイズさんがタオルを渡してくる。


 これを装備すんのか?

 鎧を脱ぎ、タオルを装備すると、腰にしっかりとタオルが巻かれた。


 厳重なことだ。

 タオルを巻いたまま、温泉に入るのは如何なものかと思うが、仕方ない。

 石でできた温泉内にはシャワーと、水風呂まであった。サウナが欲しかった。


 そしていらないのが、先に入ってる男共。恐らくこの温泉を作っていた連中だろう。


「おさきーっす」

「ワイズさんちーす」


 まあ、今は取り敢えずゆっくりするか。女湯覗きは後だ。


 ゆっくりと温泉につかるが、熱くもなくちょうど良い温度で気持ちが良い。

 宙を見ながらボーッとしていると雑談していた1人の作業員が俺のところに来た。



「シノブさんシノブさん、シノブさんって誰とできてんすか?」

 悲しいこと聞くなよ。


「できてない」

 それを言うと1人がガッツポーズして後の10人程度は温泉に突っ伏した。



「お前総取りかよー!」

「持ってけドロボー!」

 小銭をそいつに向かって投げつけているが、賭けでもしてたのか? 人生楽しそうだな。



「お前ら、そんなことしてる暇あったら女湯でも覗いてこいよ」

 そう言うと一気にテンションが落ちる集団。


「いや、まだ殺されたくないっすから」

「ヴィルゴ様の風呂とか覗きたくても覗けねえや」

「おい、お前ら俺が無事に戻ってきたら、1人100Gな」

 1人の翼人が挑戦しに行くようだ。

 無事に成仏して欲しいものだ。


 背中の翼の水を払うと、飛んで行ったが、何かの魔法にぶつけられて跳ね返されてきた。

 ピンポン球みたいだな。


「どうだ? 見えたか?」

「ぴ、ピンク……」

 それだけ言うと気絶してしまった。なんだ? ピンクの何なんだ?

 見えたか見えなかったで言ってくれれば良いのにピンクとは。



「まあ、そういうことですわ。俺らの実力じゃまだまだ。シノブさんはどうですか?」

 この惨状を見たら、覗く気は失せるが……。まあ、今は警戒されているだろうから、後で良いだろう。



「……覗いても何も見えないと……思うが」

 確かにそうだ。覗いてもタオルに包まれた体が見えるだけ。中身はどう頑張っても見えないだろう。たぶん頭をタオルの中に突っ込んでも見れない。そんなことした瞬間垢バンだろうけどな。

 しかしそれは違う。


「見るという行為に意味があるんだ。見える見えないの話しじゃない。そこに女風呂がある。それだけで覗く理由があるんだ。……ごぼ、ぼごぼごごごごごご! ぼご! ぼごぼご!」






「なんというかさ。女の子は男湯に入っても何も言われないのに男が覗くとダメっていうのは色々とおかしいよな」

 ヴィルゴさんの制裁で死を覚悟した俺は、温泉の端で足だけをつけていた。

 普通に入ってると頭を押さえつけるだけで死にそうになるからな。


「……当たり前だろう」

 それは女子にエロい人がいないということを言っているのだろうか。そうだとしたら絶望的な世の中だな。自殺者が多いのもうなずける。もっと女性が積極的になったら自殺する人はグッと少なくなると思うんだが。

 痴情のもつれで自殺するような奴は知らん。



 作業組はヴィルゴさんに恐れをなして、いなくなっている。

 死に戻りのステータス異常を回復しているワイズさんとマッド、そして俺がいるだけだ。



「露天風呂に入っていると……酒が飲みたくなるな……」

 料理酒ならあると思うが。しかし料理酒を飲むというのもあれだ。


「温泉の後はビールだよなぁ」

「……俺は温泉の中で日本酒が呑みたいな」

 日本酒ですか。風流なことだ。俺はいまいち美味しさがわからない。


「おい、ワイズ。今度リアルで酒盛りしようぜ!」

 俺達の会話が聞こえたのか、女風呂のネメシスから声がかかる。


「……了解だ」

 この2人はリアルでも知り合いなんだな。ヨツキちゃんの保護者をやっているのだから、ヨツキちゃんの親と知り合いということもあるだろう。



「リアルで知り合いって良いなー」

 俺も可愛い女の子とリアルでオフ会とかしたいぜ。


「俺とマッドは……オフで会ったことがある」

 やっぱりか。

 長年VRゲームをやっているが、オフとかはしたことがないな。まあそのゲームしている時期は高校と中学の時だけだが。オフをしようとも思わなかったのは、変なトラブルに巻き込まれてゲームを取り上げられたくない一心だったな。



 というかVRから出ることができんのかこの人。

 てっきり電脳世界に取り残されたとか。VR中に死んだら意識がVR内に残ってしまったとかそういう人かと思っていた。

 もちろん適切な処置をしない限りは死してなお意識を保つことは不可能だが、たまにネット掲示板などで自称死んだけど、ネット上では生きている人が出てくる。



「彼女欲しいなー」

 可愛くて巨乳で清純でエロい彼女ほしいなー。


「……このゲームやめたらどうだ?」

「遠慮しておくよ」


 彼女というのは諦めている。

 ゲームやめてできるならやめるが。

 それに出合い系のVRなんてやってもサクラばっかだし、リアルの顔で会うのとか避けられるし、そもそもコミュ力が皆無だし! 相手が初対面の時から毒を吐いてくれていたら、俺も仲良くできるかもしれない。毒には毒を返せば良いんだしね。




「可愛い女の子はVRで見ているだけで満足だ。幸い可愛い女の子が俺の周りにはいるからな」

 負け惜しみとか強がっているとかではない。断じて違う。

 俺は欲がない。VR充な人間なんだ。決してリア充なんかに憧れたりなんてしてない!

 リアルで飲み会できる女の子がいるワイズさんを羨ましいとか思ったりしていない!



「……誰が1番可愛いと思う?」

 難しい質問だな。


 胸の大きさ的にいえば、師匠かアオちゃんかカグノが最上であろうし、距離的な関係でいえばカラコさんが近い。ヴィルゴさんは胸もあるし、距離も近いし、女子力も高いが、論外だ。色々と受け入れられない場所がある。



『わーい! あったか~い!』

 凄い! あからさまに狙ったような登場があざといぞカグノ。

 それに暖かいのは空気だけで、水は苦手でしょうが。



「カグノかな」

『やったー!』


 カグノは大喜びで走ってくるが、濡れてるところで走ると滑りやすいぞ。

 と忠告しようとしたところでツルっという擬音がするぐらい見事にカグノが転んだ。








 さて、ここで質問です。極めて高温のものが水に触れるとどうなるでしょうか。


 そうですね。皆さんお馴染みの水蒸気爆発ですね。



 変な方向に折れ曲がっている足を心配しながら立ち上がったが、大したことはないようだ。

 骨がないって恐ろしいね。


 腰布1枚で畑に突き刺さっていた俺を助けてくれたのは初めて見た使用人さん。ここからロマンスが始まるのかと思ったが、俺が礼を言おうとしたら逃げてしまった。夜にお詫びとして部屋に来ることを期待しよう。



 これは誰も責められない。悲しい事故だな。

 幸い風呂場は倒壊していない。どんな頑丈さなのだろう。

 俺が着地した位置から考えると、爆発の衝撃は上へと逃げたようだ。その分高度が上がって、ダメージも増えたがな。




「申し訳ありませんでした。こいつにはよく言って聞かせますので……」

 ワイズさんとマッドは元々ステータス異常だったから良いと言ってくれたが、リラックスしている風呂場で爆発に巻き込まれて死に戻りとは何とも罪なことをしてくれたもんだ。



「おい、カグノ。起きてるか?」

『なにー?』

 前までは意識を失っていたのに、火の神となってパワーアップしたからか。元気なようだ。それに俺の助けがなくなっても自由に動けるようになったみたいだな。エウレカ号どんまい。出番減るね。


「反省してるか?」

『なにがー?』

 こ、こいつ、全く何も思ってねえ! ダメだ。俺のしつけがなっていなかったんだ。人を殺したらダメということを教えてこなかったからなぁ。

 人を殺すことの罪悪感を知らない人とかかなりサイコパスに聞こえるが、そもそも種族が違うし、死生観も違うのだろう。というかここではだいたい死んでも生き返るしな。

 責めるわけにはいなかないが。



「間違って人を殺しちゃったら犯罪だし、家族は悲しむからあんまりやるなよ」

『わかった!』

 元気が良いことだ。

 しかしそれで敵と戦わなくなったら困るな。


「敵と戦う時でも半殺し程度で済ませてやってくれ」

『それは難しい……』


 難しいの!? 何この子怖い。生かす殺すかの選択肢しかないの!? ちょっとは手加減というのを覚えよう?


『でも頑張る!』

「頑張ってくれ」

 そのためには俺も上手く神槍を使いこなせるようにならなきゃな。

 それにしても神が宿った槍か。


 ……情報が漏れた瞬間、PK達が争って俺を殺しに来るだろうな。



「あー、神弓の射手の称号しょぼいし、神槍も紛失しないようにしてほしいなー。このままもし槍の存在が公になったら、PKも増えるし、俺を狙って各地で戦いが起きたり、PK同士での俺を狙う優先権を狙っての戦いも増えて大変なことになるんだろうなー。誰か聞いてたら俺の称号少し変えてほしいなー」


 よし、これぐらいで充分だろう。聞きつけてくれた運営の誰かさんが俺の称号を変えてくれることを祈るばかりだ。というか神槍って紛失するのかな? カグノの意志なしには離れていかない気がするが。



「カグノ、もうどこにも行かないよな」

『うん!』


 それなら安心だ。

 ステータス異常も治ったし、新しい使用人達が来てどう変わったかでも見に行こうかな。

ありがとうございました。

最近体長崩し気味です。皆様も風邪には気をつけてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ