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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
136/166

135 神の間

 謁見の間の近くの階段を上る。おそらく最上階に続く階段だろう。何故ならそこが1番近かったからだ。ここで探索させるとか鬼畜行動はさせないはず。


 まあ、勝てるだろう。ここで負けて最初からやり直しとかゲームやめるレベルで酷い。それにここにいるのは、称号持ちだったり、ギルドマスターだったりと一騎当千の武者達なのだ。

 まあ、見事策略にはまって同士討ちで数を減らされてしまったのだが。



 恐らく敵の狙いはそれで最後の1人まで戦わせるつもりだったのだろうが。魅了耐性持ってる奴がいたのが不運だったな。

 今のところ魅了なんて仕掛けてくる奴テンタクルというモンスターでもないやつしかいないし。取ってるやつは皆無だっただろう。

 さすがカラコさん。



 そして長い階段を上ること数分。数分だけど長かったのだ。


 階段の先には立派な扉がある。


「ファイアボール」

 扉を壊して進むと、そこには王と1人の女がいた。

 そしてこの女がけしからん。


 その豊満な胸。くびれたお腹。スラリとした長い足。髪の色がピンクという欠点はあるものの、どこからどう見ても美女。それが王の膝に乗っているのだ。


 こいつが魅了の元凶みたいだな。

 確かに魅了されたくなる気持ちもわかる。しかし王の顔を見ていると殺意が湧いてくる。そこ代われ!



「ホーリーフィールド」

 誰かの呪文が俺たちを包む。魅了対策か。


「直接ではない状態異常はこれで防げるわ」

 エミリエールさんでしたか。

 直接は防げないのはわかる。あのお姉さんに目の前で誘惑されたら1発で戦闘不能になる自信ならある。


 目を奪われる男子群とそれに向けて軽蔑したような目を向ける女性群。そんな光景が出来上がっていた。


『あら、多いのね。もしかしたら私の魅了を解いた人がいるのかしら』

 魅了だとわかるきっかけを作ったのは俺だな。


『私の名前はアスモデウス。貴方達全員私の手駒にしてあげる』

 はい、喜んでー!


 カラコさんが飛び込もうとした俺の足を引っ掛けて正気に戻してくれた。

 しかし美女にならパシリにされても嬉しいというのが男心だ。こんな美女なのに敵とか。物事上手くいかないもんだな。

 アスモデウス。色欲か。納得できる外見だ。



「ファイアボール!」

 俺の放った魔法は王に受け止められた。あれ? この爺い強い?


『後はよろしくね〜』

『仰せのままに』

 もうどっちが王なのかわかんないな。

 アスモたんは、笑いながら消えていった。ああ、その姿も美しい!




 さて、残ったのは爺いだけ。

 さっさと死んでもらおうか。そしてそのポジション俺によこせ!



『年寄りじゃからといってなめるなよ。神化ぁ!』

 こいつ神化するのか!?


 ひげは逆再生のように縮み始め、顔は若々しくなっていく。神化で若返るのか?! それは爺いに取っては朗報だな。ということはこの世界の爺いは年取ってから子供作ろうと思えば作れるのか。わざわざそのためだけに神を信奉する人はいないだろうが。


 これは相当にやばいのと、まずいのだろう。昼の神に神化するのだとしたらそれは師匠並み、いや、師匠以上の強者のはずだ。

 俺も覚悟を決めなければ。




 と思った瞬間。いきなり場所が変わった。魅了ではないと思う。

 ここにいるのは俺1人……ではなかった。


「シノブさん!」

 俺の反対側にカラコさんがいた。ミファ、他にもちらほらと知っているだけの顔が見える。


 カラコさんのところに向かおうとしたが、透明なガラスのようなものに遮られている。向こうにはいけないようだ。


「ここはどこなんでしょうか」

 しょうがないからそのまま話をする。


「なんか見たことある。というより来たことあるような気がする」

 この微妙に靄がかかった場所にどこかで来た。しかし思い出せない。すると目の前に炎で出来た椅子が現れる。


 思い出した。

 カグノだ。

 カグノがいなくなった時、こんな場所を見た。

 カラコさんの場所には白く、光り輝く椅子ができた。


「カラコさん、ここは神に関係してる人が来る場所だ」

 しかし俺は何に関係しているんだ。この炎は……。

 炎、神、エレメンタルは暴走するためにある、神は戻ってくる。


 俺の頭の中で全てがつながった。

 エレメンタルは神になりうる存在。何らかの存在によって生み出され、何かのトリガーで暴走すれば神になることができる。もう神になったエレメンタルがいる場合は、もうエレメンタルの存在は必要ないため暴走はしない。


 なるほどな。そういうことだったのか。そして俺は火の神の産みの親というか。そんな枠でいるのだろう。



 炎で出来た椅子に座るが熱くない。

 全員が座ると円形の机ができた。


 何だこれは。

 と思っていると俺は後ろから何かに抱きしめられた。

 この柔らかさは、こ、この柔らかさは。


「カグノっ!」

『カグノだよー!』

 そこにいたのはカグノだった。

 前と変わらない姿に安堵の溜息がでる。そして前と背中越しに感じる懐かしの柔らかさ。思わず涙を流しそうになる。俺の癒やしは消えていなかった。


「お前どうしてたんだ。心配してたんだぞ?」

『ごめんなさい』

 あんな飛び出し方をして。

 まあ、戻ってきてくれたならそれで良いのだが。


 周りを見渡すと何人かの神が席の空白の部分に座っていた。


 尊大に構えている夜の神、そしてその対面にいるのが昼の神だろう。

 白の髪に、優しそうな表情。夜の神とは反対な見た目だ。しかし胸は豊満だ。そこは共通している。豊満な胸は母性を表すとか。


 カラコさんの後ろには何もいないので、やはり生きている神だけなのだろう。


 神の間とでも名付けようか。それにしても俺がここにいるのは何故だろうか。別に神の使徒でも何でもないのだが。色々な神様と顔見知りなのはそうだが。それならヴィルゴさんもここにいて良いような気がする。


『軟弱な人間に力を貸しているからそんな風になるのだ』

 夜の神が昼の神に吐き捨てるように言う。


『私も人間というものを少し信頼し過ぎてしまったようです。使徒の皆さん。どうか私の力を使うものを止めてください。彼はもう悪に堕ちてしまった……』

 悲しそうに目を伏せる昼の神。

 なるほど。王様がその使徒だったけど。あのアスモデウスに寝取られたわけか。

 男の風上にも置けない男だな。しかし据え膳食わぬは男の恥という言葉もある。悪いのは圧倒的に王だが、気持ちはわからないこともない。全然姿を見せない神様よりも、膝の上に乗ってイチャイチャさせてくれる悪魔のほうが。

 たまたまあの王は理性よりも性の方が勝っていたのだろう。俺は違うよ? 肉欲なんかに溺れたりしないから。というか肉欲に溺れられるほど、女の子が近くによってこないというね……。そもそも出会いがないからね……。エロ可愛い彼女が欲しいぜ。


 ダメだダメだ。現実逃避しながら現実のことを考えるなんて。俺はVR充しているのだから良いではないか。


 というより神なのに力は奪えないんだな。色々めんどくさそうな神だ。


『誓約さえなければ、我が直々に滅してやったものの……人間共、さっさと悪に堕ちた仇敵を討ち果してこい!』

 夜の神の怒声に怯えて席を立った人から消えていく。

 誓約? この神は何かに囚われているのか? そしてそれで干渉できなくなっているとかなのか。話しのニュアンス的にはあの七つの大罪の悪魔と誓約は関係ないような気がする。まだもう1つの勢力があるのか。またそれも関わってくるのか。

 それとも何でお前らが倒さないんだよというツッコミを受けないための言い訳か。

 俺的には前者であって欲しいけど、後者であっても何も言わない。


「シノブさん、先に行っています」

 カラコさんも消えていった。そしてそこに残るのは昼、夜、火、風の神と俺のみ。

 風の神は悲しそうな顔をして、消えていった。何か言い争いをしていたようだったな。

 悲しいことだ。


 といっても俺もカグノと和解できるか、わからないのだが。



「カグノ……」

『ごめんなさい。勝手に出て行って』

 久しぶりに正面から見たカグノは、赤いドレスに赤い髪、何も変わっていないように見えて、何かが変わっていた。雰囲気というやつだろうか。

 最後に見た翼も生えていないし、剣も持っていない。


「いや、俺の方こそすまなかった」

 あの時は俺が全面的に悪いと思っている。カグノもやり過ぎた点はあったと思うが。


 俺は龍槍を取り出す。

 色を失っていた龍槍はゆっくりと明滅を繰り返している。この杖もカグノに戻ってきて欲しいのだろうか。



「戻ってきてくれるか?」

 断られる可能性も充分にある。覚悟はしておこう。


『戻るのは良いんだけど……』

 だけど?


『カグノの、火の神の使徒になってほしいの』

 なるほど。

 火の神の使徒か。


 それは願ってもないことだな。カラコさんを見ているとわかる。あれは圧倒的な力だ。もちろん運営もあるプレイヤーだけ優遇するわけにはいかないから、恐らく最終的にはほとんどのプレイヤーが神持ちという風になるに違いない。


 しかし、それで良いのだろうか。

 確かにエレメントを発見したのは俺だ。しかし俺が発見しなくても、発見時期が遅くなるだけで、誰かが見つけていただろう。



 そう、俺はこうして力を得ることになんとなく後ろめたい気持ちを感じていたのだ。

 理性は力を得ろと囁いている。

 しかし本当にそれで良いんだろうか。



 ここから先、どんどん神化できる人は増えていくだろう。昼の神だって、王の代わりにと誰かプレイヤーを選ぶに違いない。

 最終的にはプレイヤーは相手がどの神の恩寵を受けているか、見定める。そのことがプレイヤー間での戦いの基礎になるはず。


 その時、俺が神持ちではなかったらどうだろうか。

 そう、例えば。


『俺の神の力を……ぐぅあっ! くっ、お前の力は何なんだ!』

『ふはははは、神に力を借りてその程度とは』

『ま、まさかお前は、あの伝説のマゾプレイの!!』

『そうだ。俺が神の力を借りずに伝説まで上り詰めた存在。シノブだ』


 とかできるんじゃないだろうか。

 マゾプレイだとは思う。強化できるところを強化しないんだからな。しかしこれはそれ以上にロマンだ。こちらのほうがステータス的には弱いのに、勝つ。

 これほどかっこいいシチュエーションはないだろう。


 俺は少年漫画が好きなんだ。




「カグノ、すまない。他を当たってくれ」

 カグノのテンションダダ下がり。何か埋め合わせをしてやらないとな。そうだ。


「ファイアゴーレム」

『エウレカルテル号!』


 おお、感動の再会だ。しかし美女とゴーレムが抱き合ってるとか、なんというか。凄く奇妙でシュールなものを見たな。エウレカ号も自分から走り寄っていたから会いたかったのだろうけど。




『話しが終わったならさっさと行け』

 夜の神の目が怖いが、もう時間を欲しい。




「なら、カグノ。この龍槍の中に戻ってくれないか?」

『うん!』

 機嫌は直ったようだ。良かった。


 カグノは火の玉となって龍槍の中に吸い込まれていった。

 そして龍槍は強く輝きだした。


「熱っ!」

 思わず杖を取り落としかけるが、火耐性をつけることで、我慢できる程度の熱さになる。

 一体何が起きているんだ?



「魔眼」

 魔眼を発動させると、とんでもない量の魔力が杖から溢れだしているのがわかった。

 杖にヒビも入り始めている。

 杖が魔力に耐え切れていないのか?



「展開!」

 巨大な炎の刃が展開される。

 そこからも膨大な魔力が出ている。

 だがそれでも杖の容量を超えている。



「カグノ! 聞こえるか? 槍が壊れそうだ!」

 返事はない。

 一体どうすれば良いんだ。俺にはわからないし、その技術もない。

 このまま壊すのか?

 どうにかして、どうにかする方法はないのだろうか。

 容量が足りないならどうすれば良い。



「魔力操作!」

 これで杖から出ているものを出せばって、カグノ自身から出てるんだから意味ねえじぇねえか。ああ、俺のスキルでどうにかならないのか?



 龍槍の光が急に弱くなる。

 壊れたかとおもってたが、そうではない。魔力は出る端から流れていっている。というより何かに吸い込まれていっている?


 その魔力の流れを見ると、それは夜の神の手まで繋がっていた。


『大切な娘だ。力を貸してやろう』

 随分子沢山なことですね、夜の神様。というよりこれって血縁とかなく、ただ立場的なもんとか、そういうもんなのか? カグノの誕生した瞬間は俺も知っていることだし。



 龍槍に黒色の蔦が絡みつく。

 そのまま俺の腕へと伸びてきて肩のあたりまで伸びると、大輪の花を咲かせた。そして龍槍と俺の鎧へと模様として焼き付いた。

 なんか刺青が多くなってきたな。

 背中に月光草、そして鎧全体に白銀の蔓というかそんな模様。それで腕には黒の蔦と、肩には花。この花は桜の花に、似てないこともない。だが花びらは多いし、なんか違うな。俺は花に詳しいというわけではないからどんな種類のものかはわからない。




 魔力が徐々に抑えられていく。というより黒い蔦が吸収しているようだ。

 まあ、カグノが無事に戻れたのなら、何でもいいか。



『これからこの槍のことは神槍と呼ぶがよい』

「ありがとうございます」

 神槍か。

 神様が宿ってる槍だからそうか。パワーアップした気がしないでもない。


 それに神弓についで、神と名のつく武器か。

 神の槍でも使い手がダメダメだから実力を発揮できないんだけどな。そこは頑張って使いこなすとしか言えない。宝の持ち腐れとならないように気をつけたいものだ。



『さぁ、行け!』

 はいはい。怒鳴られなくても行きますよ。しかしこの椅子はすわり心地がいいな。人を駄目にする椅子だ。燃えてるが。

 しかしいつまでも座っているのも、あれなので立ち上がる。


「行くか、カグノ」

『うん!』


 俺の視界は光に包まれた。

 怖い表情の夜の神様と、すまなそうにしている昼の神様。2人は姉妹なのだろうか。最高神が女性というのは日本神話に習ったのか。そもそも夜と昼が最高神なのかは知らないがな。というか太陽があるから昼なんじゃないかと思うが。

 後の最高神候補としたら大地の神とか、空の神とかかな?

 出てくるかはわからないけど。




 さて、現状確認。

 あの年老いて腰が曲がってひげも生えてて還暦過ぎてそうな爺は、若くなっている。

 悔しいが、イケメンだ。


 髪はもともとなのか、神化によってか知らないが、白髪になっている。そして瞳も白だったら常に白目みたいで面白いと思ったのだが、残念ながら瞳は青。

 若いころはイケメンで神様に気に入られて、年取ったらナイスバディなお姉さまに気に入られてイチャイチャさせてもらってんだろ? しかも生まれが王様とかいうリア充。側室とかもいたんだろう。なんだそのイージー人生。

 まあ、そんな人生も今ここで終わるんだけどな!

 リア充死すべし慈悲はない!


「行くか!」

『行くよー!』


 俺達の本気を見せてやろう。


「覚醒!」

ありがとうございました。

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