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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
135/166

134 王の謁見

 喜びの馬鹿騒ぎが始まろうとしていた時、ゆっくりと王都の門が開いた。

 自然と皆の目線が門へ行く。


 そこに向かうのはミファとカイザー。

 何やら話しているが、何なのだろうか。


 軍の真ん中にカイザーが戻ってくる。

 傾聴しよう。



「王都を救ってくれたことに関して王が感謝を言いたいらしい。ある一定数の影を倒したことが条件だと思うが、相当数のプレイヤーが招かれている。押し寄せないでギルドマスターや代表が確認しに行く形にしてくれ!」

 お、きましたか。

 影を倒しても何もアイテム得られないからな。ここで王様の報酬をたんまり貰うっきゃない!


 そして俺はギルドマスターだから確認しに行った方が良いんだろうけど。


 王兵の周りにはまるで受験結果発表の時のように人が集まって自分の名前を探している。


「シノブさん、私見てきましたよ」

 さすがカラコさん。1番乗りで走って行って手早く確認して人が集まる前に離脱したのだろう。


「そういえば何か言いたいことがあるって言ってなかったか?」

「覚えてません」

 いい加減なことだ。ここは結婚を申し込むパターンだろ。


「私達のギルドは全員入ってました」

 キイちゃんはどうかと思っていたが、ちゃんと入れたんだな。

 さすが俺たちのギルドと言いたいところだが。ワイズさんとネメシス、ヨツキちゃんはどこに行ったのだろうか。


「取り敢えず場所を連絡はしたので、皆さんここに集まってくるかと思います」

 他のギルドメンバーの姿はあまり見えなかったが、各自頑張っていたのだろう。


 俺のおごり(ギルドの金)で祝勝会でも開こうか。



 しばらくすると皆集まってきた。ヴィルゴさんなんか本当に酷い。ボロボロだ。一体一体が強くなくて回復できるからといって、避けずに突っ込んでいたのだろう。


「装備は俺が回復しとくから、出しとけ」



《行動により【錬金術Lv10】になりました》


 またゴブリン大発生してくれないかな。そしたら魔結晶の補給ができるんだが。

 5レベルでスキルが取れたが、10では何もないんだな。15レベルになった時に何か取れるのかな?



 ヨツキちゃんも無事だったようだ。ネメシスとワイズさんは大分消耗しているが。

 大分すまなそうにしているが、あれは仕方なかった。


「私達は全員入場券ゲットですよ!」

「そうか、短ければ良いんだが」

「……当たり前だな」

「あー、マジ疲れた。こんだけやったらなんかいいもんもらえるよなぁ」

「他のギルドとのレベルの差がある。これは必然」

「よ、良かったですぅ」

「私も入れるなんて予想外だったわ」


 王都門の前にはこの戦いで活躍した錚々たるメンバーが揃っている。


「おお、シノブ。中々しっかりリーダーしてたじゃないか」

「あんたの無茶振りには苦労した」

 目の前にカイザーがいるが、どう料理してやろうか。


「すまなかったな。今度昼飯奢るってことでどうだ?」

 マジっすか? 昼飯か。うん、良いな。しかしギルドの食堂だったらしめる。


「それはもちろん私も奢ってくれるんだろうな」

「勿論だ。前線で頑張ってくれていたからな」

 俺とヴィルゴさんに奢るなら、他の人も奢って良いんじゃないか?

 と思ってたら、俺の後ろからエミリエールさんが来た。


「もちろん。私も、よね。美味しい場所を期待してるわ」

「あ、ああ」

 カイザー、顔が引きつってるぞ。大丈夫か?


「奢りと聞いたら断らないわけあるまい」

「あんたも来るのか……」

 紅蓮隊のエンキも来て、後は1人。赤の騎士団の騎士団長だけだな。


「あ、アカちゃんには私が連絡しておくから。よろしくねー」

「そうか……」

 カイザー、どんまい。たったの5人じゃないか。そんぐらい胸張って出すのが男気ってもんだぞ。



『では揃ったようなので、王城に向かいます。私の後をついてきてください』

 王門をくぐると、真っ直ぐ行った道の先に王城がそびえ立っているのが見えた。



 周りの建物からは住人が出てきて歓声を上げている。

 どこかのアイドルグループが来た時のようだ。本当に盛り上がっているな。ずっと閉じ込められていたのか。


 全員死んでる説とかはなかったな。ただ外に出られていなかっただけか。

 転移魔法陣もあるはずなんだけど、それも効果してなかったのかな?


「食べ物とかどうしてたんでしょうか」

「カラコさん、ゲームの設定にリアリティ求めちゃダメだ。それか精々数ヶ月閉じ込められていただけなら、備蓄食料があったんだろ」

 それにしてもこの降ってくる花びら。一体どこで手に入れたんだ? 確かにテンションは上がるけどさ。


 王城に入ると城下町の騒がしさとはうって変わって静まり返っている。壁に沿って立つ王兵がいるだけだ。


『ここが王様の部屋です。お静かにお願いします』

 重そうな扉を開けるとそこにはやたら縦長で天井が高くて、玉座があって、大量の鎧騎士がいて。

 そう、まさに謁見の間。ゾロゾロと進んでいくと、王の前で兵が止まる。


 白いひげの、ザ王様って感じ。王冠も金やら宝石やらを使っていて高級そうだ。可愛い? お姫様はいないのかな?


『よく私達の街を救ってくれた。そなたたちに感謝を述べたい』

 感謝の気持ちがあるなら、金か何か欲しいな。財宝の部屋とかあるんだろ? さっさと案内しろよ。


『しかし、問題があっての。そなた達はここで死ななければならんのじゃ』

 なんだこの爺い。


「ラスボスですか」

 そうだな。周りも皆臨戦態勢に入っている。


 1人の魔法使いが魔法を放とうとした時、俺たちの足元に穴が空いた。


 え? こんなのあり?


 パタパタと飛ぶこともできずに俺はそのまま足元の穴に落ちていった。

 ウォータースライダーのような楽しさを味わってきたのは謁見の間の地下っぽい場所か。薄ぼんやり明るくて、何よりも周りにはさっきまで戦っていた影がいる。

 全て人型だ。しかし全員武装をしている。外にいたやつの強化個体だろう。ヴィルゴさんは歓喜して襲いかかるだろうが、他の人は大丈夫なのでしょうか。

 この部屋で戦うのは非常に不味い。狭い。


「魔法装、風!」

 覚醒を使うか? いや、相手を見極めてからの方が良い。覚醒を使ってもいいが、MPがなくなるのが辛い。


「テイルウィンド。ウッドバインド!」

 近くの相手の足止めをする。

 そして部屋の中で魔法が放たれた。


「ステップ!」

 襲い掛かってきた影の剣士を避ける。

 観察してみた結果。バトルロイヤルになっているようだ。

 影同士戦っている場所も多い。というかほとんどだ。バーサク状態なのだろうか。


「ファイアボール!」

 2人で戦っているのに水を差し逃げる。勝手に数を減らしてくれんのなら逃げながら戦うのが1番だ。



 しかし先ほどから何故か俺を執拗に狙ってくる小柄な侍がいる。刀を持ってるくせに蹴り技や峰打ちしか使ってこない。舐めプだろうか。

 今まで逃げていたが、こいつを仕留めるのが今やることだな。

 いくらあまりダメージを受けないと言ってもチョロチョロ動き回られるのは邪魔だ。


「ウッドバインド!」

 向かい合って、走ってくる場所を予想して魔法を放ったのだが、急に速くなってやがる。

 そして俺に足払いをかけてきた。

 避けられん!


 そして完全にマウントを取られた。

 俺の腹の上に乗られている。現実では軽そうな人に押さえられるわけないのだが、筋力の差が。


 そして兜を跳ね飛ばされた。

 首を刈られるのか?!


 と思ったらビンタされた。もちろんダメージはほとんどない。本当に何がしたいんだ? そして俺の肩を掴み、揺すってくる。


「ファイアアロー」

 取り敢えず背後から来ていた敵を吹き飛ばす。こいつは害のないタイプの影なのか?


「よくわからんが、お前は敵じゃないのか?」

 めっちゃうなづいてる。

 お助けキャラ的なやつか? それにしても周りと同じじゃ見分けつかないだろうに。


「じゃあ、2人でさっさと周りの連中片付けようか」

 ブンブンと首を横に振っている。

 一体どういうことだ?


「シェルター」

 落ち着いたところで話し合う必要がある。時間稼ぎをしたら敵もへるし、一石二鳥だ。


 何かすごく焦ったそうにしている影だ。一体何を伝えたいのか。


 そして何かをし始めた。

 何か手元を操作しているが、何してんだか。取り合えず瞑想してMPを回復させよう。

 ちょんちょんと肩を叩かれた。


 何をする気だと思ったら、装備を外し始めた。影のシルエットだけのゴツゴツした装備が外されると、そこにはスレンダーな少女の体があった。

 こ、これは……エロい。

 まるで女の子の着替えの影を見ているようで。もうなんというか。ありがとうございます。


 そして少々恥じらいの様子を見せているのも良い。なんだこのイベントは。俺得じゃないか!


 そしていきなり間合いを詰めて抱きついてきた。

 お、おお、おおお。か、顔がちか……。ああ、女の子の体の柔らかさがあああ。




「カラコさん?」

 影が消えたと思ったらそこにいたのは初期装備姿のカラコさん。


「ふんっ」

 蹴りが俺の腹に突き刺さった。

 理不尽!


「これで目覚めなかったら一体どうしようかと思ってましたよ」

 何やら怒ったように装備をつけているカラコさん。

 と、その時ちょうどシェルターの効果が切れた。


 そして俺の目に映ったのは地獄絵図だった。先ほどまで共闘していたプレイヤー達が苦悶の表情を浮かべながら戦っている。


「こ、こりゃあ一体何が起きてるんだ?」

「魅了ですよ」

 ……なるほど。魅了か。

 ということは俺も魅力にかかっていたのか? ということはさっきの影もカラコさん?




 ……思い出せ。あの柔らかい体を思い出せっ!


「私は魅了耐性があったので、かかりませんでしたが。シノブさん、神弓を上に向かって全力で放ってください」

 天井崩落しそうだが。何か思惑があるんだろう。


「展開、装填、加速、破壊、付加、ダブルアロー、ファイアショット!」


 神弓から出た矢は天井に当たり爆発を起こした。そして天井に穴を開け、その上に穴を開け、そしてついには城の天井まで壊して、下から青空が見えるようになった。


 周りを見ると皆戦闘をやめている。


「シノブか?」

 ヴィルゴさんの質問に首を縦に振る。


 なるほど、こんな威力のある弓を持っている影はいないだろうな。


 大体の人が魅了にかかっているとわかったらしく頭を殴ったり自分に向けて魔法を放ったりしている。


「魅了が解けるってどんな時に解けるんだ?」

「精神的ショックを受けた時か、大きな物理的なショックを受けたらですよ」

 なるほど、だからカラコさんはあんなことをしたんだな。俺がショックを受ける場所をよく分かってらっしゃる。


 その中でぽつんと立っているのがヨツキちゃん。HPもなくなりそうでボロボロになっている。

 一体何が起きてるんだ。ここまでダメージを負っているなんて。


「リフレッシュ」

 俺が回復魔法をかけると、俺の足にしがみついてきた。魅了が解けたのかな? リフレッシュには状態異常を回復させる効果があるみたいだな。必ずというわけではないが。


 そして無言で泣いている。

 こんな小さい子に寂しい思いをさせた爺い許すべからず。


 ワイズさんは死んだようだな。しかしキョロキョロしているネメシスを見つけた。


「おい、ネメシス!」

「ヨツキちゃん! 大丈夫だった?」

「……お、お姉ちゃん。うぅ……」

 ネメシスのことはお姉ちゃんと認識してるのか。そして、ネメシス。地が出てるぞ。

 俺から離れ、ネメシスに飛びつくヨツキちゃん。心温まる再会風景だな。


「大分減ってしまいましたね」

 タイマンに慣れている剣士が多いかと思いきや、補助で頑張っていた人が1番生き残りが多かった。戦う手段がなく逃げ回っていたからか。

 それに早々から、同士討ちをしていることに気づいていてシェルターに引きこもっていた魔法使い、後は実力のある剣士が生き残っている。


「王は戦いが始まった時に消えました」

「門の前で再び戦闘が勃発。死に戻りしたギルドマスターが指揮を取っているそうですが、劣勢だそうです!」

 そういうことか。ここで俺たちが死ねばまた振り出しに戻る。嫌なイベントだ。


『我が王からの通達です。生き残ったものは最上階に来いとのことです』

「うるせえ、死ね」

 1人の男の銃によって、王の使者は倒れた。多分こいつも魅了にかかっていたんだろうが、残念なことだ。


 それぞれHPを回復させたり、連絡をとったりしている。俺も瞑想してMPを回復させよう。


「シノブさん、どうしますか?」

「どうするも何も、行くっきゃないだろう」

 敵なら思う存分地獄を見てもらって無理やり財宝を貰うだけだ。


 カイザーはいない。

 誰がリーダーになるんだか。


 ヨツキちゃんの体力も回復したし、そろそろ行っても良いだろう。


「じゃあ、行くか」

「「「おう!」」」

 ほぼ全員が返事をした。


 皆ついてくんの?

「行きましょう。シノブさん」

「あ、ああ」

 なんか臨時リーダーみたいになって嫌だなぁ。



ありがとうございました。

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