133 この編隊!
難なくオアシスを突破した俺たちは王都の門の正面に立っていた。
「多いですね」
今俺がいるのは俺専用に作られた台。俺が人混みに埋もれないようにとの配慮の結果だ。
前にはズラッと盾を持った重装備の連中が並んで、その後ろには剣や、槍、棒など様々な武器を持った人間が控えている。ここの数が1番多い。
そしてその後ろに位置するのが俺たち魔法隊と補助隊。遊撃隊は盾をだけでは受け止められない敵が来た時にその速さを活かしてフォローに入るという。
基本は盾が攻撃を受けているうちに魔法で燃やして、盾の間を抜けられる、もしくは空飛ぶやつは待機している剣が受け止める。そして消耗する盾を常に補助が回復すると。剣は盾より前に出ている人も多い。盾に頼らないソロプレイヤーだろうか。
まあ、堅実な戦い方だな。
「すぐ後ろに盾が控えているのは安心できますね。ダメージを負っても安心して回復できますし」
カラコさんがダメージを負うとか、どんな強敵だ。そんな事態になったらとっくに盾は崩壊して前線は崩れ去っているような感じだ。
俺たち隊長はその集団の真ん中の少し高くなっている目立つ場所にいる。
レーザー光線でも撃たれたら1発だな。
電話がかかってきた。
カイザーからだ。
(出撃と同時に派手なことしてくれ)
はい、無茶振り。そしてこっちの返答も聞かずに切る。なんてやつだ。今度会ったらしめよう。
派手なこと。神弓ぶっ放すか。1人で矢の雨を降らせるっていうのも良いな。それで行こう。
「シノブさん」
「何だ?」
「この戦いが終わったら言いたいことがあるんです」
お、おおおお?! これは。これは死亡フラグか? あえてこいつは死亡フラグを建てようとしているのか?
「いや、今言ってくれ」
「運命に打ち勝ちたいんです。誰かの手のひらで踊らされるのは、もう嫌なんです」
そうか。カラコさんの意志をひしひしと伝わってきた。
要するに死亡フラグが立ったヒロインポジションになりたいんだろう。
「そうか。そこまで言うのなら。俺も止めない。だけど1つだけ頼みがある」
「何ですか?」
「生きて帰ってくれ」
「……はい」
カラコさんは前線に向かったが、台のすぐ下にいた人が笑いをこらえるのに必死で死にそうになっているのを見ると体中の筋肉が裂けて悶え苦しみながら死にたくなった。
笑いたけりゃ笑え! こういう遊び心がわからないやつなんて知らん。
シチュエーション重視なんだよ。
前進の合図か、後ろから太鼓の音が鳴る。そういえば昨日はマーチングバンドは一体どこで演奏していたのだろうか。
盾が全身していき、ある一定のラインで止まる。
そしてそこで巨大な炎の盾が出てくる。派手だ。エンキの能力だろう。
そして湧き出てきた影達は皆炎の盾に特攻し、死んでいく。
そしてその中から出てくる巨大な獣が1匹。ヴィルゴさんだ。その後ろには獣人系プレイヤー達もついてきている。
出てきた影達は片っ端から大量のプレイヤー達に集まられて消えていく。
魔法隊のやることがないな。
しかし注目は集まっている。俺も何かやらないといけないだろう。
「砲撃準備!」
俺の言葉が前線まで伝えられていく。
これでヴィルゴさん達は引いてくれるかな。
「展開」
影達の目が俺に向くが、果たして盾を越えられるのかな。
「装填、破壊、付加、連射、ファイアショット」
加速はあえて使わない。高度が出すぎて狙いが狂ってしまうからな。
神弓を上に向けて、大量の矢を放つ。
さっさと引かないと巻き込まれるぞ?
上空から降り注いだ矢は凄まじい爆発を起こしながら地上を一掃する。
影達は全滅した。また出てくるだろうけどね。
何人かの馬鹿が巻き込まれたが俺は知らない。ちゃんと伝えたのだ。
周りの目も違ったようになっているような気がする。俺の武器の力だな。俺の称号を知らずに襲いかかってこようとするやつが出ないように祈るばかりだ。
威力に比べたら、MP消費も少ないし、かかる時間も少ないし。チート武器だと言いたくなるのはわかる。
しかし課金アイテムでもチート使って不正入手したのでもない。れっきとしたプレイヤー製です。
そんな俺のMPが異常なほどの回復速度を見せて回復した。
さすが補助に特化している人達ではある。ありがとうございます。
俺は後ろに向けて軽く礼をした後、また弓を構えた。
MPが回復されるなら俺は無敵。さあ、殺戮の始まりだぁ!
「装填、破壊、加速、ロックショット」
え? 殺戮はどこに行ったって?
俺の独壇場にしたらまた俺にヘイトが集まりまくって大変なことになるだけじゃないですか。俺は学ぶ人間だ。
同じ過ちは犯さない。
ということで剣の連中が戦っている中を後衛らしく狙撃でサポートしている感じだ。ちょっと危険なところを探して狙撃でヘッドショット。少女は少しキョロキョロした後、俺の方を見て笑顔で頭を下げる。
なんてことはなく、影が倒れたら、男も少女も変わらず狂った笑みを浮かべて次の獲物を狩りに行くんだよ。前線怖い。みんなバーサーカー。いや、斬り捨て御免な侍の血が流れているのか。
盾があるからか、死に戻りするほどダメージを負っている人はあまりいない。皆適度なタイミングで盾の近くに下がって回復している。
さて、ここで恒例になるかもしれない。目立っていたランキングを公表しよう。
5位。巨人。何かのスキルか、それとも称号か、普段よりもかなり巨大化した巨人が巨大な棒持って暴れてる。暴れてるというより周りを巻き込まないようになるべく小さくなりながら、ヨツキちゃんと一緒にもぐらたたきに勤しんでいる。
影が地面から出てきた瞬間に潰されているのは、諸行無常というか、弱肉強食というかそんな言葉を思い出させる。
4位。物凄い砂煙を巻き上げている影。敏捷極振りだろうか。砂煙がとにかく邪魔。スナイプしようとしている時に近くを通り過ぎられた時なんて、間違って射ってしまおうかと思うぐらいだ。
ちなみにぶつかった影は吹き飛んでいる。ダメージは微量。体勢を崩して他の人の補助になっているから良いのかな?
はい、3位。動く剣。戦場の一角を占領している無数の剣。そこから湧き出る影を確実に始末している。誰が操っているのかはわからないが、異様な光景だ。
堂々の2位! 巨大ドラゴンとその上にいる女騎士。黄緑のドラゴンは酸のブレスを吐いて、その上に女騎士という感じの人が乗っている。そして魔法を放つ横にいるのが、満面の笑みというより狂った笑みを浮かべながら銃を乱射するゴブリン。凄いギャップだよな。
ドラゴンに乗って魔法を放っている女竜騎士の横で銃を撃ちまくってるゴブリンだぜ?
恐らく召喚魔法で呼び出した二体目なんだろうが、外れを引いたのかな?
そして1位。ワイズさん。
遠くで巨大魔法陣を書いているだけ、時々思い出したようにモンスターを召喚するが、それだけ。戦えよって思う。逆に目立っていた。戦闘に参加しないで何かしてるっていう点で。
順調なのは良いことなのだが、順調だと暇になってスリルを求めたくなる。困った性格だ。
ヌルゲー過ぎると困るのだ。もちろん安全第一なのは大切だが、それ以上に楽しむ気持ちを忘れてはいけないと思う。
「砲撃準備ー」
剣達が盾の後ろに引っ込んだ途端、無数の広範囲魔法が降り注ぐ。
「装填、加速、付加、破壊、連射、ファイアショット」
何もいなくなった戦場にまた剣達が躍り出る。まだ空飛ぶやつも出てないから暇なのは当たり前か。
その後も俺は作業的に矢を放っていったのだった。
ワイズさんの書いていた魔法陣の正体が分かった。ゴブリンの時にもいた巨大ロボット。あれが魔法陣から出てきた。
あの巨体なんて寝転がっているだけで影は潰れそうだがな。
ロボットはその手からマシンガンを放ちながら前線に進む。男のロマンというか、ファンタジー世界を壊しているというか。
そういえば森の中で見つけたあの巨大ゴーレムに似ているような気がしないでもないな。カラーリングは違っているが。
再利用でもしたのか?
あのロボットの主も知らないし確かめる術はないけど。
ついに空を飛ぶやつらがやってきた。盾を飛び越えて向かってくるが、空を飛ぶのは脆い。矢や魔法を受けてすぐ墜落していった。そして魔が空中戦力を相手にしなければいけなくなったということは、前線が厳しくなるということだが、大丈夫そうだな。
この調子ならクリアできるかもな。
皆交互に休憩を取ってるみたいだし、余程現実的じゃない量の影がいない限りは、うん、余裕だな。
と思ったらボスっぽいものが出てきた。
今までのどの影よりも大きいサソリ。
こいつがボスか。しかし所詮影。サソリだし俺の攻撃を避けるのも無理そうだ。
「砲撃準備!」
一気に焼き払ってやろう。
剣が下がり、代わりに盾が前に出てサソリの尻尾での攻撃を受け止めるのが見える。
「装填、加速、付加、破壊、連射、ファイアショット!」
皆、こいつを倒せば終わりだというように、大規模魔法連発してるけどさ。こいつがただのボスでラスボスが控えている可能性だってあるんだよ?
魔法が効いていない?
エフェクトが多すぎて何が起きているのかよくわからないが、HPが減っていない。そうだとしたら俺たちは総員撤退しなきゃならん。
怒涛の魔法が終わった時、そこにいたのはサソリを守っている何人かの盾達だった。
魔法の集中砲火を全て受けた盾達は消滅していく。
何かのスキルかで魔法を全て自分に引き受けたのだろうか。
巨人とヨツキちゃんがサソリの顔面をぶっ叩くと、サソリは後ろに飛んで威力を逃した。
「盾の何名かに魅了の状態異常がかかっていたとの報告! 条件は不明! 前衛は充分な注意を!」
状態異常を使うとは厄介な相手だな。
しかも魅了。プレイヤーが敵になるってことか。
強プレイヤーはなるべく逃げ回ってほしいものだ。強いやつらが敵に回ったら厄介だ。
過剰砲火で寄せ付けないのが1番だな。流石に遠距離で魅了とかはかけてこないだろう。そうだとしたら強すぎる。
突然前線の一角が崩壊した。
サソリではない。
ヨツキちゃんだ。
俺の恐れていたことが……巨大ロボットと巨人がヨツキちゃんを抑えていて、もうロボット大戦だ。
というか巨人達と打ち合えるヨツキちゃんが強い。
「砲撃準備。サソリを近寄らせるな!」
盾が魅了されていない状況だと、魔法は通じるはず。
と思ったらヨツキちゃんがサソリの上まで跳んだ。
ヨツキちゃんは盾職でもない。魔法全てを受け止めることはできないだろう。
すまないな。
「装填、加速、破壊、付加、連射、ウィンドショット!」
一斉に放たれた魔法が、突如空中で動きを止める。
全てだ。この戦場で魔法と呼べるものは全て停止していた。
「ワイズさん!」
我が子可愛さに何やってんだ。この人は。これで負けたら首吊りもんだぞ!
「すまない!」
ヨツキちゃんの上空から巨大な岩が落ちてくる。
ヨツキちゃんは跳んで、それを破壊しようとしたが、逆に地面に叩き落された。
そしてその地面は影が渦巻いていて、ヨツキちゃんと大岩はそこに呑み込まれていった。
ヨツキちゃんを取り除いてくれたのは良かったが。
サソリは魔法を避けるために後退してしまっている。まだ発動前の魔法は修正できるだろうが、半分は無駄になっただろう。
止まっている世界で少し弓の角度を調整する。これで当たるか。
そして魔法が動き出した。
お、少しだが効いている。しかし流石ボスクラスのHP。大量だな。
動きの遅い盾は魔の寸前まで後退して、今は剣のサブウェポンとして魔法を持っているものが牽制している感じだ。
特に壁系の魔法が良いダメージを与えられている。
そしてもう1度、前線に巨大な炎の盾が現れる。その周りには紅蓮隊。各自もファイアウォールを発動させ、火の壁を作っている。
あん中にダイビングさせたら非常に大きなダメージを与えられそうだな。
「砲撃準備! あの壁に突っ込ませるぞ!」
「ウィンドウォール。装填、加速、破壊、付加、連射、ファイアショット!」
放たれた魔法達は寸分違わずに、サソリに命中した。HPが1割は削れたな。
激昂したサソリは俺たちの方に走ってくるが、前には紅蓮隊の炎の盾と、魔法でできた大量の壁がある。
土でできた壁にぶつかり、風でできた壁に体を斬り刻まれ、水でできた壁に体を打たれ、炎の壁で燃やされたサソリは満身創痍といった感じだった。
「盾は操られる前に距離を取れ! 遊撃!」
遊撃が後ろからサソリを攻め立てる。
「こっちも砲撃だ!」
これで終わる!
「装填、加速、破壊、付加、連射、ダブルアロー、チェイスアロー、ファイアショット!」
倍増した矢がサソリに狙いをつけて飛んでいく。
多くの必殺技を受けて、サソリは息絶えた。
これで第1ラウンド終了とかいう落ちじゃないだろうな。
サソリは地面に吸い込まれるように消えていった。
《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに10ポイント振り分けてください》
《スキルポイントが28増えました》
《戦闘行動により【弓術Lv26】になりました》
《戦闘行動により【火魔法Lv32】になりました》
《戦闘行動により【風魔法Lv25】になりました》
《レベルアップによりスキル【フライ】を取得しました》
《戦闘行動により【土魔法Lv27】になりました》
《戦闘行動により【木魔法Lv28】になりました》
《戦闘行動により【狙撃Lv25】になりました》
《戦闘行動により【思考加速Lv24】になりました》
《戦闘行動により【魔力操作Lv17】になりました》
《戦闘行動により【精密操作Lv9】になりました》
これが来たってことは……。
「終わったぁぁー!」
やっと帰れる!
長かった! 本当に長かった!
軍からうねるような喜びの声が沸き起こった。
このテンションの高さ、嫌いじゃないよ。
というか魔隊のやつら、花火あげる余裕あるのかよ。っていっても俺もあるけど。補助のおかげだな。
「エクスプロージョン」
ああぁぁー、疲れた。やっぱリーダーなんて向いてない。拠点に帰ってのんびりと畑を耕して、雨の日は本を読んで過ごしたい。まあ、雨なんか降らないけどな。
取り敢えず今は、達成感に満ち溢れている。
やったー!
種族:半樹人
職業:狙撃手 Lv39
称号:神弓の射手
スキルポイント:70
体力:90(-35)【65】
筋力:30
耐久力:40
魔力 :110(+88)【188】
精神力:110(+49)【154】
敏捷 :20(+10)
器用 :85(+84)【162】
ありがとうございました。




