131 早起きは
えー、おはようございます。
王都近くは明るいといってもやはりいつもよりは早く暗くなったので、早めにオアシスでログアウトした俺たち。
そして現在は午前8時。学校にでも行くみたいだな。いつもより1時間早めにログインしたのは、他の人に遅れを取らないようにだが、ログインしているのは、アオちゃんとキイちゃん、ヴィルゴさんしかいないようだ。
いつもいる廃人たちがいないのは珍しい。
俺以外にログインしている人間は学校に行っている人か、仕事をしている人だな。ヴィルゴさんも平日は昼からしかログインしてないし。
この時間に起きるのは慣れているんだろう。
眠い。
しかしオアシスから出るには泉を探してモンスターを倒さなければいけない。こんな寝ぼけ眼で戦えない。
誰かログインしてくるのを待って一緒に戦った方が良いだろう。
少し散歩でもするか。
今日はイベントが進むはず。
果たして昼の神に気に入られるのはどこの誰だか。できればうちのギルドの誰かが気に入られれば良いけど。
ワイズさんとかさ。
こんなところに泉がある。
VR内だから気持ちだけだけど、顔でも洗うか。
そしたら目も覚めるだろうし。
俺ってもしかしたらバカなのかもしれない。さっき1人に泉で入らないようにしようとか考えていたのに、1人で入ってしまっている。
確かに目が覚めたのは確かだが。
いかん、日本語がおかしいぞ。
変な体勢で泉に入ったため、土を食うような感じになってしまっていた。
幸いなことに相手は1匹。
デカいライオンだ。
何か特殊能力を気にした方が良いが。多分ただのライオンだな。
「ゴーレム」
前衛役を呼び出して。
あれ使うか。
「インフェルノ!」
随分と発動までが遅い。一体何をためているんだと思った瞬間、俺の周りは火の海になった。悲痛な叫び声を上げてライオンのHPは砕け散る。
この灼熱地獄はカグノの暴走を思い出させる。熱くないが。
高威力、広範囲かつ、その状態が持続する代わりに消費MPが多くて、発動にも時間がかかるのか。発動中に術者を潰されたら終わりだな。
ゴーレムも巻き込まれて砕けてしまった。すまないな。
《行動により【瞑想Lv4】になりました》
さて、MPも回復したし、外に出るか。
と思ったらまたオアシスの中に出た。意味がわからない。バグか?
ステータスを見てみるが、正常に動作しているようだ。
状態異常幻覚?
なるほど。確かにそういう魔法はあったな。幻覚にあってる時に攻撃されたらそりゃひとたまりもないよな。
「展開、装填、加速、破壊、連射、ダブルアロー、ファイアショット!」
オアシスの木々が倒れ、燃えていく。多くの木が灰になったが、物凄い勢いで生えてきて、また元に戻った。
MPは消費していない。
可愛い女の子ならともかく俺に幻覚なんてかけてどうしようってんだ?
あ、HPが減った。
しかし低レベルな相手か魔法使いだな。
超再生を発動させるだけで補える。
しかし超再生が通じるのに、何故神弓で攻撃ができないのか。一体何が制限されているんだ?
「魔法装、火!」
お、MPが減っている。これで牽制できれば良いんだけどな。
自分に関する魔法とかはかけられて武器は一切使えないのか。
「魔眼!」
魔眼で見てみると、外の様子が確認できた。相手は1人の魔法使いの男だな。上手く出てきた人を幻覚を見せたのは良いが、俺が予想外に硬くて焦っているようだ。
いかにもPKしそうというか弱者をいたぶって喜びそうな感じをしている。
さて、今から試してみたいことが。魔力操作で俺にまとわりついている魔力を相手に返したらどうなるんでしょうか。
答え合わせ。状態異常を跳ね返せました。魔眼と魔力操作って役立つな。さすが必須とも呼べるスキルだ。
あまりプレイヤーには知られていないことだが。ゴブリンでもわかる講座に行った人は知ってるだろうが。
ぼんやりと立っているPK。マーカーは青だし、俺がここで何かしてオレンジになるというのも嫌だ。
連れて行くか。
「ゴーレム」
ゴーレムに呼び出して運んでもらう。
人は少ないが、3人は何処にいるのだろうか。遠見で見渡すが見える範囲には……組手をしているヴィルゴさんしかいない。
「おはー」
「む、シノブと……誰だそいつは」
この組手をしていた皆さんは誰なのだろう。うん、皆揃いも揃って怖い見た目。
「知らん。PK。どうしていいかわからなかったから持ってきた」
自分でかけることはできるのに解除することはできないのか。
「おい、この中に正義の剣に所属してるやついなかったか」
1人が手を挙げる。修羅の集いって何なんだろうな。
「私達のギルドでは基本PKは情報を聞き出してから、狩った人が殺すという風にしています。オアシス内で共闘するように持ちかけてのPKや、オアシス攻略後の消耗時に襲われるなどあるのでPKの情報は欲しいですね。もちろんシノブさん次第ですが」
そんなもんがあるのか。怖いな。
「俺は経験値とアイテムだけもらえたらいつでも良いぞ。拷問とかするなら一時引き渡しても」
「助かります」
さすがPKK。一瞬で縄で縛ってしまった。
「解析呼んでくれ」
「もうやってる」
「了解」
修羅の集いにはPKKが多いみたいだな。PKKは基本対人だからだろうけどさ。
拷問することもなく、何かした後すぐに終わった。
「ご協力感謝します。オレンジプレイヤーでした。気兼ねなくやってくれて構いません」
俺には青としか見えないけどな。
とここでようやく目を覚ました。
「や、やめろ! 俺の後ろにはどんなやつがついているか知ってるのか!」
うわぁ、凄い情報漏らしてる。
「はい。知っていますよ。アガツマさん。知っているけど我々には関係ありませんから。無駄に暴れないうちにさっさとやってください」
アガツマっていう名前なのか。
まあ、覚えておく必要はないな。
「ファイアソード」
プレイヤーはレベルが上がりやすいと聞いたのだが、さすがに1発で沈んだからレベル差があったのか。
散らばったアイテムを拾う。
ポーションに、回復魔法の魔法陣、そして他人から奪ったと思われる槍。後はゴミみたいな素材だな。
一応貰っておくか。
相手から奪うといえば、ワルプルギスの時に女から奪ったものがあったな。
まだ試してなかったし。装備してみるか。
しっくりこない。
細すぎて手に馴染まない感じだな。木魔法を使う時に出せば良いか。
オーダーメイドが1番だな。
久しぶりに龍槍を取り出してみる。
手に馴染むのは馴染むが、暖かみがない。上についている宝石も色を失ったままだ。
「カグノー、聞こえるかー」
駄目元で呼びかけてみるが、やはりいないみたいだな。
その時、一瞬宝石がオレンジ色に輝いた。
夜明けの光が反射したのか?
いや、今は太陽は輝きを失っている。そんな反射するような陽射しは差し込まないはずだ。
「おい、カグノ。聞こえるか? 戻ってるのか?」
その後俺がいくら呼びかけても同じようなことが起きることはなかった。
そう、上手くはいかないか。
見間違いか、ただの偶然だな。何かの反動でこの杖に影響することもあるのだろう。
久しぶりに龍槍の練習でもするか。火の穂先が出ていると仮定してな。
槍って難しい。
突きはできる。しかし払いとか筋力がないせいか、槍に体が持ってかれる。
「腰が浮いているな」
いつの間にか俺の槍術の批評会になったんだ。
「もっと脇をしめる」
「重心の入れ替えを意識して」
「踏み出しが弱い」
「顎を引け」
数々の教えを貰ったので、突きだけは何とか形になるようになった。
《行動により【両手武器Lv13】になりました》
「そのサイズの槍は棒術も同時に使えるようにならないといけないから、どうせするならもっと長い槍の方が簡単だぞ」
親切なアドバイスだが。
俺は槍を使いたいわけじゃなく、自分の武器を使いこなしたいだけなのだ。
と言っても筋力不足だがな。
俺は魔法剣士に転職すべきなのだろうか。
というより龍槍の攻撃判定が筋力で判定されているのがいけない。
刃は魔法で出来てたんだから魔力判定でも良さそうなのに。
まあ、刃の出し入れには俺の魔力は関係ないけど。
それに近距離武器を使うなら最低限の筋力は必要だしな。せめて現実並みの筋力はないと、取り落としてしまう。
敏捷もそうだな。現実と同じぐらいには揃えたいものだ。カラコさんみたいに超スピードまでは求めないが。
でもバランス型ってどうなのだろうか。
「ヴィルゴさんってステータスどうしてんの?」
「私か? 全体的にバランス良くだな。筋力を多めに上げてはいるが。私は魔法も使うからどれを上げても効果はあるしな」
全体的にって。特化しないであれか。筋力と敏捷に特化してるカラコさんと同じぐらいの強さに見えるんですが。
しかしバランス良く上げるという手段でよく戦えるな。
どう考えても筋力全振りとかにしている人には勝てなくなりそうだが。
「例え相手よりも筋力が低くても最低限あれば勝つ手段はある。柔よく剛を制すだな。筋力が高いに越したことはないが」
そういうもんか。
いくら怪力でもそれを上手く扱える体の動かし方や、効率の良い力の出し方をわかっていなければ宝の持ち腐れだしな。
「ちなみに筋力が30ってどう思う?」
「現実とのギャップが出て大変じゃないか?」
とくにVR内で重労働をしていないし、そんな風に思ったこともないな。現実でも日々筋力は衰えていくタイプだし。
体重計に乗って、順調に体重が落ちているのを見るとVRゲームはダイエットに最適なんじゃないかと思う。寝ているだけで体重が落ちるんだし。
最初から筋肉がない人は知らん。筋トレしてからVRゲームを始めたら良い。
そうなるともはや何のためのダイエットなんだという感じだが。
結局は楽して体重は落とせないってことになるんだよね。
「まずVR内で技を試し、ログアウトした後にその感覚を覚えながら訓練をする。取り敢えずシステムに頼った動きでも繰り返しているうちに体が覚えるものだ」
訓練って何なんだよ。どこか自衛隊にでも所属しているんですか?
確かにVR内だったら現実じゃできない殺し技とかも練習できるが。
繰り返しているうちに体が覚えるか。
確かに綺麗な弓のフォームはできるようになっていると思う。現実に当てられるかどうかはまた別として。
しかし槍の練習をしようにも槍術を取得していない。
暇ができたら槍術でも習おうかな。
誰かこのゲームで道場を開いていないだろうか。
といってもその暇は永遠に来ないんだろうけど。気が向いたら鍛錬でもしよう。続けていればいつかは習得できるはずだ。
「お互い隊長に選ばれたわけだが、何をすれば良いのかさっぱりわからんな」
「同感」
思い出させないで欲しかったな。
というより集合時間も特に言われていないし、一体いつ作戦開始なのだろうか。
と思いながらヴィルゴさんの無双を見ていると、カラコさんがやってきた。
「おはようございます。早いですね」
「おはよう」
そういうカラコさんもいつもより早い時間にログインしていたりする。
「今日って一体いつ集合とかあるのか?」
「昼集合とかだったような気がします」
曖昧だな。
ならこんなに早くログインしなくても良かったのか。
得られたものは経験値と少しのアイテムだけか。
早起きは三文の得って本当だな。
「暇だな」
「素振りでもしますか?」
よく野球とかでも素振りしているが、あれって意味があるのだろうか。
それともただ暇つぶしのためにやるものなのか。
「展開、装填」
何も使わずに弦を引き絞る。
放たれた矢はオアシスの木の一本に当たる。まあ、こんなもんだな。動かない木だから当てやすい。
「流石ですね」
弓使いなら誰でもできるとは思うが、褒められて嫌な気はしない。
しかし動いている相手が苦手なのは今も変わらずだ。
そうだ。
「カラコさん、少し俺に協力してほしいことがあるんだが」
「まともなことなら良いですよ」
まともじゃないことを俺がいつ頼んだ。俺は常にまともに、まじめにやっているつもりだったが。
「はぁっ!」
「よし次行くぞー」
提案したのはお互いの訓練にもなること。俺が矢で逃げるカラコさんを追い、カラコさんはそれを刀で弾くのだ。
キャッチボールのようにとは言わないが、中々楽しい。
というか人に矢を射って楽しいとか、文だけで見たらサイコパスだな。
何も使っていない矢が当たったところでさすがに一撃死はないと思うが。
カラコさんの腕を信じよう。
こうして俺達は楽しく訓練をしていたのだが。
何回か惜しい時はあったが、当てることはできなかった。それにこの時はカラコさんが弾く前提で避けていたからな。
ありがとうございました。




