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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
131/166

130 ギルドマスター会議

 一体誰がこんなでかい会議用の机を持っていたのか。

 昼飯を皆で食うためにとか?


 もう何人か席についており、俺はなるべく端の方に座ろうとしたが、カラコさんに押されて上座の方に座ることになった。

 カラコさんは後ろに立っているが、実際このギルド動かしているのはカラコさんなんだよな。俺は操り人形のように操られているだけ。


 そして何故かヴィルゴさんとワイズさんもいるんだが。この2人ってギルドマスターだっけ?

 もしかしたら俺はギルドマスターではなかったのかもしれない。



「これって誰が議長なんだ?」

「GODSのカイザーさんです」

 普通はギルドマスターがやるものではないかと思うが。

 ミファとは会いたくなかったので俺もカイザーで良かったが。常識人で人望もあり、演説もできる。何故ギルドを作っていないのか不思議なぐらいだ。神弓の試し撃ちの時もいい具合に誘導してたし。


 徐々に席が埋まっていく。

 その中にはあのオルカーンもいた。こちらのことを睨みつけてきたけど。俺になんの恨みがあるんでしょうか。謂れのないことで人に不快感を与えるのは避けてほしい。


 なんか人外が多すぎて魔王会議みたいな様相になっているな。

 幽霊とか鬼とか妖精とか竜人とか。


 灰茶の肌の俺が言えることでもないけど。



 大体の席が埋まって最後にカイザーと、他の数人のGODS構成員が入ってきた。

 なんか議長っぽい。


 そう揃いって感じだな。


 ここにいるギルドは50ほどだろうか。

 一人一人自己紹介とかしないよな。



「集まってくれて感謝する俺はGODSのカイザーだ。差し障りがなかったら、ギルド名と名前を教えてほしい」

 自己紹介あるのか。


「カラコさん」

 何だその呆れた目は。


「1人で名前も言えないんですか?」

 言えるよ。言えるけどさ。あるじゃん。いろいろ。


「自分で言わない方が威厳が出るってことだよ。クールなギルドマスターを目指してるからさ」

 壮大なため息をつかれたんだか、労力削減さ。俺は下手なことでイメージダウンさせたくないんだ。


 ギルドマスターも多かったが、ギルドマスター不在のためサブギルドマスターがって人もいた。

 というかアメリカ人とか中国人とか外国人もいるな。この会議。日本語で大丈夫なのだろうか。


 赤の騎士団のギルマスや、竜の楼閣の竜人兄弟もいた。


 ヴィルゴさんは修羅の集い代表、ワイズさんはPKKのギルド、正義の剣の代表らしい。一体2人とも何でそんなものに族してるんだか。



「今回は各ギルドごとに別れて行動したが、それでは抑えきれなかった。戦力の偏りが原因だ。これに対して異議があるものは?」

 異議も何も、それが原因だろう。他の場所が抑えられていたらこちらもこれほど苦戦しなかったはずだ。魔法職の護衛役に無駄な人を作らなくて良かった。


 特に誰かが発言することもなく会議は進む。


「それを乗り越えるためには、俺たちは連合軍を組むことが最善だという結論を出した」


 会議が一気にうるさくなる。


 俺としてはクリアできるならどうでも良いことだが。


「シノブさん、どうしますか?」

「元々人数少ないんだし、組み込ませて貰えばいいだろ。だが少ないからって利権とか功績を取られるってことはしたくないな」

「了解しました」

 後はPKの対策だな。戦ってる最中に後ろから殺されちゃ敵わん。PKKの代表らしいワイズさんがいるから大丈夫だろうが。


 何人かのギルドマスターは去っていった。語学系のギルドや、金が関わっているようなギルドだな。


 それでもほとんどは残っている。

 しかし色々と言いたいことはありそうだ。



「不満はあると思うが、指揮隊形を5つに分ける。盾、剣、魔、回復、そして遊撃だ。そしてこの中からこの4つの隊を統率できる人材を選びたいと思う。急ごしらえの軍だ。高望みはしない。前に立って目立つ人が良い。何か意見があったら言ってくれ」


 盾はそのまま敵の攻撃を受ける役、そして剣は盾に守られながら攻撃して、魔は後衛。回復は補助系で、臨機応変に対応する遊撃隊か。俺は魔かな。盾に守られながら魔法を放つだけなんて楽そう。というかヘイト管理しなきゃいけない盾よりも圧倒的に楽だろう。



 1人のギルドマスターが手を上げた。

「その隊の分け方はどうするんだ」

「本人の自己申請だ」


 自己申請ということは俺は魔だな。うん。


「カラコさんどうする?」

「私は入るとしたら剣ですね。シノブさんは魔ですか?」

「そうだな」

 狙撃手だから遊撃でも良いが、臨機応変な態度を求められる遊撃よりも魔だな。



「隊長は予め候補として決めてある」


 この会議に出てなかったり、いなかったギルドは今後王都に関して色々なところで遅れを取ってしまったりするのだろうか。王都がどうなってどういう扱いになるのかはまだわからないが。

 NPCが全員死んでいたりしたら、完璧プレイヤー運営の街になったりするのだろう。


「盾隊隊長。紅蓮隊ギルドマスター、炎盾のエンリ」

 赤色の強固な鎧で身を包んで背中に巨大な盾を背負った紅蓮隊の隊長が立ち上がる。

 誰かが始めた拍手に合わせて拍手する。妥当だろう。

 初期からあるギルドで知名度も高いし、その豪快な戦い方を真似ている人も多い。ゴブリンイベント時も戦ってたし。


「剣隊隊長は今ここにいないが、神弓の射手、狂戦姫のヨツキ」

 どよめきと拍手が起こる。賛成半分反対半分といったところだ。しかしあの火力は目立つし、何より本人が目立つ。指揮とかは任せられないが、士気は上がるだろう。



「保護者として、その役を辞退させてもらう。年端もいかない子供に何を背負わせようとしているのか。彼女はまだ子供なのだということを忘れてはいけない。皆も納得してくれるか?」

 ワイズさんの有無を言わさない口調に何やら喜んでいた紳士達も大人しくなる。

 というよりワイズさんって普通に話せるんだな。テンションもそこまで上がっているわけでもないし。


 まあ、トップともなれば色々問題はあると思うし。となると誰になるんだ?



「無理を言ってすまなかった。ではGODS所属、千剣のチヅルはどうだ?」


 カイザーの横に立つ。目を閉じている白髪の女の子が一歩前に出る。あれで見えているのだろうか。それか透視スキルでも持っているのか。


 拍手はパラパラといった感じだ。

 議長が自分のギルドの人を勧めるっていうのはちょっとね。あまり賛同は得られないだろうし、俺はその人のことを知らない。


「では修羅の集い現王者、狂獣王のヴィルゴはどうか」

 現王者ってかっこいいのかかっこ悪いのかよくわからないな。

 というかヴィルゴさんの称号名初めて知ったような気がする。



 ヴィルゴさんが立ち上がると拍手が起きる。どちらかというと盾向きだと思うのだが。

 あちらこちらで喧嘩しているから目立っているといえば目立ってる。


「魔隊隊長。神弓の射手ギルドマスター、シノブ」


 は?

 咄嗟にカラコさんを見るとカラコさんも予想外だという風に驚いている。


「し、シノブさん。立ってください」

 カラコさんに言われて慌てて立つが。拍手はちらほらと言った感じだ。

 関心ないような顔をしているのが半分。そして俺の事を気に入らない顔で見ているのが半分だ。


 俺嫌われてるな!

 武器だけの力とかじゃなくてプレイヤースキルもあるんだぞ?


「ファイアボール」

 ファイアボールでお手玉をして見せたが、何をやっているんだという顔でカラコさんに止められただけだった。




「何か文句がある人がいるのなら言ってくれ。俺としては実力も知名度も充分だと思うんだが」


 実力と知名度だけしか充分じゃないがな。人間性とかリーダーとしての資質とか考えたらギルドの仕事をすべて人に任せてる、というよりギルドの仕事を任せられないと思われている俺がやれる事はない。


「私は鬼剣連合のサブギルドマスター、スイレイさんを推薦します」

 その言葉を皮切りに推薦合戦が始まった。とんでもない喧騒だ。

 そんなに俺が嫌いか。



「ええい、静まれい!」

 今まで黙って様子を見ていたドワーフがハンマーを机に振り下ろした。



「どいつもこいつも、良い武器を手に入れたかったら素材持って儂の所へ来い! 嫉みが過ぎるぞ!」

 この人も生産系の人かな?


「職人の砦のギルドマスターですね。イッカクさんに匹敵するほどと言われているので、生産職最大のギルドの人脈を使えば神弓は再現可能なんじゃないでしょうか」

 へー。俺と同じのが作れちゃうわけか。それはいけないな。


「多くの職人を使って、高級な素材を使った弓を買える人がいないでしょうね」


 そりゃそうだ。

 俺のこの弓だってワイズさんとイッカクさんのおかげで持ててるようなもんだしな。



「ではシノブ、やってくれるか?」

「ああ、はい」

 ここで辞退はできない。修羅場になる。ただ目立てばいいだけの話なら簡単だ。


「シノブさん大丈夫ですか? 士気を上げるんですよ?」

「適当に射れば士気上がらないか?」

「そうですが……」

 真っ先に敵を殲滅する。それ以外に士気を上げる方法があるんですかね。

 盾が敵の攻撃を受け止め、剣が相手を斬り刻んだ後に魔法で止めを刺す。

 それだけだな。


 補助は精霊の森、妖精王のエミリエール。

 遊撃は赤の騎士団、突剣のアカということで決まった。


 2人とも話したことがある人だ。

 という以外特に感想はない。


 影と戦ってみた感想だが、純粋に硬くて数が多いだけという印象を与える。硬ければそれ以上の火力を、多ければ片っ端から潰していけば良いだけなのだ。


 それにしても今日1日で攻略できないとは。もっと数が必要だという運営からのお知らせか?

 明日は日曜だから更に人は来るだろうが。明日こそはクリアしたいものだ。


 しかし連合軍という考えは良いようで、デメリットがあったりする。固まったほうが各個撃破されなくて良いのはそうだが、パーティー間の戦いに慣れている人や、ソロを前提にして戦っている人はやりにくいだろう。

 まあ、そういう人は勝手に戦えば良いのだが。


「では明日もここに集まってくれ。王都攻略に関するこちらで得ている情報を提供する」

 最初から提供しろよと思うが。

 見つけたもん勝ちというのはそうだと思う。


「帰りましょうか」

「そうだな」

 うちのギルドから2人も隊長が出るなんてな。あ、なんか緊張してきた。

 でもサボるわけにはいかないしな。いつも通りやるだけだ。


 なんで引き受けたんだろう。

 やっぱ断っとけば良かったな。あの時はなんかできる気がしてたんだが。


「大丈夫ですか、シノブさん。私が断ってきましょうか?」

 カラコさん。俺は年上だぞ? 年下に断らせに行くなんてそんなことするわけがない。


 それにカラコさんもカラコさんだ。

 俺を役立たない扱いしやがって。俺の恐ろしさを知らないな?


「なんか腹が立ってきたな」

「情緒不安定ですか?」

 確かにそうだな。


 深呼吸をしよう。

 いきなり何の脈略もなく腹が立ったということを伝えてもカラコさんが混乱するだけだ。


「そういう俺が頼りないなんていう風な感じの扱いはやめて欲しかったんだ」

「シノブさんは自分で自分のことを頼り甲斐のある人だと思うんですか?」

 な、何だと?


 自分で自分のことをどう思うかって? そりゃ、コミュ障だよ。

 頼り甲斐のある……頼り甲斐のあることはないが、頼りないことはないんじゃないと思う。


「俺はやればできる……と思う」

「思うだけですか」

「いや、俺はできるんだ!」

「そうですか。それなら……」


 こうして俺の地獄のギルドマスター街道が始まったのだった。




「……シノブは何を……やっているんだ?」

「ギルドマスターとしての仕事です」



 俺は圧倒されていた。

 ただただ、カラコさんに礼を言いたくなった。というか何の文句も言わずにこれができるのはカラコさんが有能だからなのか、ただ社畜の資格があるのかのどちらかだ。

 主に掲示板でのやり取りが仕事なのだが、俺はその時、どういった返事を返せば良いのかがわからない。


 そしてこの量。

 入団希望者をコピペして、定型文貼って、何かの意見を荒らしかただの質問が判別して答えられる範囲で答え、その他求められる同盟を回避しながら、不可侵条約を結ぶ。その不可侵条約を結ぶのも相手のギルドに関して情報収集をして、必要とあらば情報屋から情報を買って信頼に値するギルドか調べる。



「すいませんでした!」

「シノブさんには向いていないだけですよ」

 いや、ギルドマスターって皆こんなことしてんのか。凄いな。こんなに大変なら入団希望者を全て断るとかにした方が良さそうだな。後はAIにやらせるとか。


「よし、NPC雇ってやらせよう」

「こういう重要なことはプレイヤーがやった方が良いと思いますが。金で買われた人はまた金で裏切りますからね」

 何故か、カラコさんが辛酸を舐めきった大人のような発言をしている。

 重労働過ぎて頭がおかしくなってしまったのだろうか。そうだとしたら俺のせいだな。


 そういえば最近カラコさんは眉間に皺を寄せて作業していることが多かったような気がする。



「入団希望者はこれで締め切り。不可侵条約も今後一切受け付けない。ということにしよう」

「いやいや、何を言ってるんですか。少数精鋭なんて夢のまた夢ですよ? それに不可侵条約を結ぶほど、有利になって事も上手く進みます。人数が多いほどギルドポイントの稼ぎも良くなるので、攻略も進みますし。少人数のギルドでは手分けとか、分担ができずに一人一人の負担が大きくなりますし、やっぱりどうやっても人数が多いギルドには敵わないという点があります。その点を考えて言っているんですか?」


 正論だ。正論だが、そのような正論を否定するのが俺だ。



「そもそも有利に事が進むって言っても俺は特に他のギルドに攻め込む気はないし、別に大きなギルドに勝てなくたっていい。俺達のギルドのモットーを思い出せ!」

 正直言って俺も知らない。俺たちのモットーって何?


「何でしょうか」

 俺に聞かれても困る。


「ワイズさん!」

「……カッコつけ、だな」

 知らなかったー。そんな心がけで日々ワイズさんはギルド活動をしていたのか。


「そう、カッコつけだ。とにかくカッコいいものを目指すというのが俺たちの理念だ。少数精鋭はロマンだ。数少ないのに大ギルドと戦えるってカッコイイじゃん? 森の中にある鉄壁の要塞とかカッコイイじゃん? 俺たちはそのカッコつけのみを理由にしているんだ!」


 どうだ。俺の一世一代の大勝負。この俺の演説なんて母親にVRヘッドギアを取り上げられようとされた時以来だ。



「……そうでしたね。私が少し気負い過ぎていただけでした。ありがとうございます。もうここで締め切りにして、後はこの希望者の中からカッコいい人を選びましょうか」

 うんうん、改心してくれたようで良かっ良かった。何でこんな話になったのかいまいち思い出せないが、終わりよければ全て良しだ。


 俺たちは何となくノリで生きてるんだから。ゲームを楽しむという気持ちを失ったらそれはもうゲームじゃなくなるしな。



 あ、思い出した、

 俺隊長に任命されたんだった。


「何で隊長なんか引き受けたんだろうな」

「カッコいいじゃないですか!」

 確かに。

 戦闘終わっても、残る高揚感でつい引き受けてしまったが、トップってかっこいいしな。戦場に出れば周りの目も気にしなくなるだろう。


 この戦いで他の人の戦い方も見れたらいいなと思う。俺の知らない便利スキルとかあるかもしれないしな。



 俺たちはより一層絆を深めた。

 俺たちは同じギルド、同じ志の持ち主なのだ。


 そしてその場にいたネメシスの冷たい視線を無視しながら魔法陣を描くワイズさんの精神力すげえ!

 俺だったら速攻で土下座しちまうぜ!

ありがとうございました。

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