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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
130/166

129 影の魔物たち

 冒険者達が王都に近づくと王都の近くの地面から影が溢れ出した。

 砂漠だが王都近くは踏み固められている。その地面から染み出すように出てきた影はモンスターの形をとった。


「展開」

 何かの犬のようにも見えるその影のモンスターは敏感に俺を察知した。

 他のギルドの獲物まで奪わなければ良いのだが。



「装填、加速、付加、ファイアショット」

 光が飛び、影は弾けた。普通のモンスターとは違う感じだな。爆発って感じで消えている。

 最低限で一撃死か。硬くはなかったのかもしれないな。


 さて、次は……何でこんなに多いんでしょうかね。数十体の影が俺を仕留めようと冒険者で作られた道の真ん中を走っていく。

 しかし俺にたどり着くまでに多くの攻撃を受けて弾けている。


 なるほど。1人1人のダメージというか攻撃機会を減らしてヘイトを俺1人に向ける作戦か。

 幸い弱そうなやつから狙うとかいう知能はないようだな。



「装填、加速、ファイアショット」

 さすがにこれだけでは倒れないか。

 横の2人が退屈しているし、早く来て欲しいんだが。


 しばらく待っていると、量が多すぎてダメージは与えられるが、倒さないという状況になった。

 中途半端にHPが削られている影達が俺たちに向かって走り寄ってくる。

 そんなに俺のことが大好きか。


 横を見ていると俺たちの戦い方は大分異端のようだ。まずモンスターが近くの冒険者を無視して俺の方に来るという状況だからな。


「装填、加速、付与、連射、ファイアショット」

 爆音が鳴り響き、今出てきたばかりの影まで消え去ってしまった。


「少し過剰だったかな?」

「すっごいっす。さすがギルドマスター!」

「私達の分も残しておいてくれよ」

 それはそうさ。こんなもんじゃないだろ?

 俺の期待どころか、さっき出ていたのと同じ量ほどが出てくる。新しく出てきたやつに攻撃を加えなくとも俺のことを大分敵対視しているな。

 神弓の存在感だけじゃないような気もする。


 それにしても俺だけが働いているような気がするな。うちのギルド員はどこ行ったんだ?

 と思いながら注意深く見ていると、何匹かの影が出た瞬間に消えていっているのがわかる。

 大剣でモグラ叩きかな?


 ヨツキちゃんが大剣を振り下ろすと地面にクレーターが出来ている。そして大剣もいつもと違う。俺が上げた大剣だ。

 影を潰すたびに何らかのエフェクトがヨツキちゃんにかかっているけど。ステータスアップとかだろうか。

 マゾヒスト、狂化、そして大剣によるステータス上昇が重なったらそれはもう最強と言えるだろう。あの子にだけは神化を持たせてはいけないそう思う。



 まあ、その子に勝った人が横にいるんだけどさ。



 ヨツキちゃんが働いてるのは見たが、他の人はどこにいるんだ?

 よくよく見ると、冒険者の道が崩れそうなところの補強。そしてよその区域からやってくるモンスターの対策をしているみたいです。

 所々にマッドのものと思われるゴーレムがいて、手旗信号で連絡を取っているのがわかる。

 何故わざわざ旗なのかは知らないし、それを見て理解できるマッドも凄い。ゴーレムとの会話手段が手旗信号しかなかったのかもしれないけど。

 というより掛け算できるトレントとか手旗信号をするゴーレムとか、随分適当なAI使ってんだな。無駄な部分で高スペック。


 そして最も気になるのがワイズさん。ずっと後ろで地面に巨大な魔法陣書いてるけど、それなんですか?



「そういえば狼迅雷とかいう称号だって言ってたが、狼と何の関係があるんだ?」

「俺、いや私は人狼ですから」

「別に敬語使わなくていいぞ」


 人狼? 耳と尻尾が見当たらないが。他の獣人とは何か違うのだろうか。それとも隠すスキルを持っているとか。


「ステータスを人間形態の時と狼形態の時、両方に振れる種族っすね」

 なんだその種族は。ということは魔法と攻撃の完璧な両立。それに生産と攻撃との両立もできるんじゃないか。


「だから俺は人間の時は魔法使いタイプ、狼の時は物理タイプって感じで」

 そういうと手をついて、大型の狼になった。

 人狼だけど、二本足の狼とかじゃなくてそのまま狼なのか。


「すまない。モフらせて貰ってもいいだろうか」

 ヴィルゴさん、戦闘中に何言ってるんだ? 暇なのはわかるけどさ。


「俺で良ければ」

 こっちも良いのかよ!

 ヴィルゴさんの殺気が収まり、モフモフモフモフとしている。


「ヴィルゴさんって犬派?」

「兎派だ」

 犬派と聞いて帰ってくるのが猫ではなく、ウサギとは。良かったな、ラビ。



 しかしこんな形ならヴィルゴさんの範囲外だな。狼に対してどう戦ったのか。


「んで俺の称号は魔法装の強化と、精霊化っすね」

 魔法装の強化はわかる。しかし精霊化とはどういうことなのだろう。

 俺もよくプレイヤーの精霊の特性がわからないことがある。

 NPCに疎まれているということだけなら、精霊という種族は強すぎると思うのだが。


 ネメシスの戦いも精霊でなければなし得ない戦い方だ。それに精霊魔法という魔法もあるし、一体どういうものなのか。


「捕まえたと思ったら、精霊化されて逃げられる。それにこちらにもダメージが入る。中々厄介だ」

 雷の精霊になるんだろうな。

 遠距離な俺には対応できるが、ヴィルゴさんには厳しいだろう。



 モフモフしていたヴィルゴさんが、風のように動き近くにきた影を掴み地面に叩きつける。


「来たな」

 雑談しているうちに大分集ってきたな。ここは攻撃しないで一箇所に集めた方が良いのだろうか。あまり連射を使うこともできないし。

 面倒くさそうなのから1匹ずつ消していくか。


 レクトの攻撃は特徴的だった。猫のように爪で引っ掻くのかと思いきや、ジャンプして影を踏み台にしてまた他の影にジャンプをする。爪が食い込んで痛そうだし、しかも魔法装のダメージも入っている。


 ヴィルゴさんはそれと対照的に向かってくるのを倒すタイプだ。ヴィルゴさんに向けて突撃してきたやつを紙一重でかわし、掴み、投げる。シンプルだ。


 最初の頃とは影の様相も違ってきており、魔法を放つものや、ドラゴンのような空を飛ぶモンスターもいる。俺はそういうのを優先的に狙い撃ちしていった。




「シノブさん、第一掃始めます!」

 ダメージは受けているが自然回復の範囲内だ。それにヴィルゴさんも回復魔法があるので余裕だが、レクトは大分消耗している。


「2人とも!」

 俺の意思を察して近くに寄った2人を確認して魔法を唱える。


「シェルター」

 土の壁に影達の攻撃が当たる音がする。シェルターの外は影に覆われて大変なことになっているだろう。しかもそのどれもが俺の攻撃を受けても1発で沈まない猛者ときた。ただ硬くて数が多いだけなのが救いだが。

 自然回復を回復手段にしている俺にとっては非常に相性の良い敵だ。1発1発が軽ければいくらでも耐えられる。


 外で大勢が叫ぶ声が聞こえ、爆発音が聞こえる。外は恐ろしい広範囲呪文達で満たされているのだろう。

 そして終わった俺がやることはまたヘイトを稼ぎ、魔法職のMPを回復させる時間を取る。そして魔法に耐える。それだけだ。


 魔法が収まったようなので外に出てみるとあれだけ周りに大量にいた影達は綺麗さっぱりいなくなっている。


 とんでもない威力だな。しかしそれによって俺ではなく、魔法職を襲う影も出てくるだろう。

 そもそも俺はステータス補正がつかず脆い狙撃手なんだがな。何故盾職のようなことをしているんだろう。



 装備が優秀で精神にやたら振っていて、そして半樹人だからか。


 湧き出てきた影達を迎撃するため、また俺は神弓を構えた。



 モグラ叩き現場ではモグラ叩きしている人が増えている。マッドが10メートルはあるかと思われるゴーレムに乗り、これまた巨大なハンマーを握り、正統派モグラ叩きをしている。

 マッドがこれだけしないと一撃で倒せない影を余裕で倒しちゃうヨツキちゃん怖い。



 さて、この作業の繰り返しだが。

 やっぱ蹂躙って楽しい。




 何度かこれを繰り返していたのだが、苦しい。

 どこかの区域が崩れたのか。後ろから襲われることも多くなり、多くの場所が苦戦しているようだ。

 カラコさんが刀を振っているのが影の間から少し見えた。




 キツい。

 中には死に戻った人もいるようだ。この、休みなしでの攻撃はレベルアップすることもなく、大分苦戦しているようだ。

 時間が経つごとに隊列も崩れてきて、どんどん一人一人の負担が多くなってきている。相変わらず俺に集まってはいるが、その数も増えていくばかりだ。


「シノブさん!」

「シェルター」

 もうこの手順は慣れたものだ。


 ついに魔法職の掃討でも倒せない影が出てきた。後方戦力は他の影に対しても攻撃しなければいけないからか、それとも純粋に影が強くなっているのか。


「装填、加速、破壊、ロックショット」

 生き残っていた大きな亀のような影は俺の攻撃を受けて飛び散ったが。

 これは倒せないのではないかと思う。もっとちゃんと準備しなければ。こちらが要塞を築くぐらいじゃないと。


「撤退! 撤退します!」

 撤退だと? 逃げるのか?

 魔法使いが魔法の霧を出している。

 このままじゃ被害が大きくなるだけというのはわかるのだが。

 まだやれるが、カラコさん指示には従おうか。


「行くぞ、シノブ」

「はいはい」

 他のギルドも全員撤退しているようだ。

 迫っていた影を片付けて、俺たちは影が追ってこない場所まで下がった。



《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに10ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが20増えました》

《戦闘行動により【弓術Lv22】になりました》

《戦闘行動により【土魔法Lv25】になりました》

《戦闘行動により【狙撃Lv22】になりました》

《戦闘行動により【マゾヒストLv9】になりました》

《戦闘行動により【思考加速Lv22】になりました》


種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv37

称号:神弓の射手

スキルポイント:42


 体力:90(-35)【65】

 筋力:30

 耐久力:40

 魔力 :110(+88)【188】

 精神力:105(+5)(+49)【154】

 敏捷 :20

 器用 :80(+5)(+82)【162】



 スキルポイントが増えたな。この調子だと100までいくかもしれない。

 ちなみに器用に入れたのは何となくだ。魔力精神力が共に110となったからな。一応器用も上げておかないかと思って。少なくとも一度も上げていない体力よりも低いというのはどうかと思う。樹人のステータスの偏りって本当に凄いな。



「シノブさん、大丈夫でしたか?」

「余裕だな」

 普通の戦闘に比べればキツかったが。死ぬ予感はしなかった。MP温存を考えていなければもっと楽しくやれただろう。


 大分酷使した装備の耐久を回復させておこうかな。


《生産行動により【錬金術Lv8】になりました》



「死に戻りが8人。かなり少ないですね」

 やはりあの隊形が良かったのか。

 それとも高レベルのプレイヤーが集まっているからか。


 100人はいるだろうが、その中でも8人なんて上々だろう。



「シノブさん、会議があるそうなので行きましょう。今日のところは暗くなってくるのでこれで終わりです」

 確かに暗くなったら影は見にくいだろうが、もう終わりか。明日はもっと早くから挑戦したいものだな。

 そして会議?


「王都攻略ギルドマスター会議です」


 そんなものをするのか。

 確かにバラバラで獲物を奪い合っているようでは攻略できそうにないし。

 良い考えだと思う。


 ってギルドマスター俺じゃん。




 欠席して良いですか?


 俺の望みはもちろん聞き入れられることなく、カラコさんの後ろにつき、俺はその会議があるらしい場所に行くのだった。

ありがとうございました。

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