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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
129/166

128 始まりの時

 俺達の場所に戻ると、何やら会議をしているところだった。

 どこかに行っている人達はいないが、ギルドマスターに声もかけないで会議とは何なのだろうか。


「あ、シノブさんと……」

「レクトと申します。ヴィルゴさんとは前々から手合わせをしたく、こうして無理をいってついてきた次第です。私と勝負してくれませんか?」


 状況についていけないが、ヴィルゴさんは腕まくりをして出て行ったので、良いのだろう。

 というか修羅の集いに入ればいくらでも喧嘩ならできそうだが。


 うーん、謎は深まるばかりというか。何のためにギルドに入りたがっているのかっていうのをよく聞かなければならないな。



「今の人は?」

「いや、なんか恩を売られてそれで連れてきたら、ヴィルゴさんと戦いたかったらしい」

 俺もよくわからない。そんなに付き合いが長いわけでもないし、ほぼ無理やり恩を売られたのだ。恩の押し付けだ。面白いものは手に入ったから良いのだが。



「途中から来たシノブさんに説明をすると、今は担当区域内のポジションを決めているところです。シノブさんは後ろから、数が多い場所を適当に狙ってください」

 何か重要そうなことなのだが。俺が囮だって?



「黒い影でできた色々な形の高レベルモンスターが大量に現れて、襲いかかってくるとの事前情報です。私達が担当するのは、西のDエリア。後で案内するので把握する必要はありませんが、比較的王城の門に近く、難易度も高い場所ですね。その中でギルド未所属の冒険者と一緒に戦うことになります。途中から乱入してきた無所属の冒険者に関しては無視して容赦なく爆撃してください」


 ほう、よくわからないが場所ごとに分担しているのか。

 モンスターも移動しないわけではないし、場所分けなんてしてもあまり意味はないと思うのだが。


「では、説明に戻ります。シノブさんがヘイトを集めている時は、なるべく攻撃を控えシノブさんの方に一直線に向かうようにします。シノブさんがやられている間に高火力で一極集中の魔法を使うということです。一箇所にモンスターを集めることによってMPの節約とダメージ効率を良くします。ここで大切なのは前衛がいかに一箇所にモンスター達を集めるか、そして砲台役の冒険者を守るかということですね」


 なるほど。俺が適当に矢を射ていたら、モンスターが大量に集まってきて、絶体絶命に陥ったところに更に追い打ちをかけるように魔法が降り注ぐのか。

 シェルターにこもっておこう。

 しかし無駄に硬い俺を囮として使うのは良いと思う。マゾヒストもあるしな。いざとなれば覚醒すれば良いんだし。


 なんか酷い扱いに慣れてきたな。最近広いところで思いっきり爆撃とかできなかったから、集まられる前に全て焼き払ってしまえば良い。そんな脳筋っぽいことを考えるようになった自分に驚きを覚える。

 



「カラコさん、神化使うの?」

「さっきこの情報はギルドのトップ・シークレットとなりました。口外しないでください」

 いつのまにそんなことになったのか。

 確かに知られたら面倒くさそうではあるけど。



「私はステータス異常が怖いので使いません。イベントでラスボスが出てきたら使います」

 トップ・シークレットになったんじゃなかったのか。

 神化なんて使ったらカラコさんの総取りだろうが。他のギルドにもいるだろうしな。

 虹の神とかよくわからないものまで出てきたんだ。もっとしょぼい。例えば草の神の神化とか出てきそうだ。


 ラスボスか。

 王都がこんな状況になっている元凶が出てくるのかな?

 王都への道は確かベルゼブブを倒して開かれた。じゃあ、これも何かの悪魔が関係しているんだろうな。

 王都が機能していない。ということは死んでいるか、意識がないか、何かに操られているということになる。このことから怠惰だと思われる。確かベルフェゴールだったな。


 睡眠系の魔法を使ってきそう。

 出るか出ないかもわかっていないし、そもそも周りにモンスターがいて出てこれないだけかもしれないけどな。モンスターと言っても王都からここまでには何も見えないことから、何らかの不思議現象が起こっているのは確かだと思うが。



 カラコさんはホワイトボードにポジションを書いていく。

 俺の横にはゴーレムの文字がある。

 俺の護衛はゴーレムだけか。ヴィルゴさんとまではいかないが、せめて誰か盾持ちの頼もしいやつが良かったな。ゴーレムとかすぐにボロボロになるイメージしかない。



「実際の場所の確認に行きましょうか」


 誰のものか知らないが、天幕や、ネメシスが寝ていたソファが一瞬でなくなるのはまるで化かされていたような気分になる。というより天幕とか広げたままでアイテムとして仕舞えるのか。


 王都の周りには所々にポールが打ち付けてある。

 これが目印になるのか。


「私達の場所はここになります」

 うわぁ。小規模ギルドなのに広くない?


「クジで3番目でした」

 カラコさん、それならもっと選ぶところがあるんじゃないか?

 西Dということは門の前がAでそこから西方向に4番めなのだが。A区域が誰かの専用のものだとすれば、近い順に取って行ってDになるというのは納得できる。


 皆感心したようにカラコさんを見ているが、この程度の運。カラコさんに取っては些細なものじゃないのか? 偶然取ったスキルが凄く重要なものだったとか、中々無い幸運だと思うのだが。



「シノブさん、ポールの内側には入らないでくださいね」

 何故俺指定なのだろうか。そんなこと言われなくても入らない。


 カラコさんは集まっている冒険者諸君らにもさっきの説明をして、レベルが足りない人は雑魚。レベルの高い人には魔法職の護衛をしてもらうそうだ。


「ここで目立つ成果を上げれば面接の時に優遇しますよ」

 まさかこいつら全部うちのギルドに入りたいと思っている人なのか。

 結構可愛い子も多いじゃん。やっぱりこの俺を目当てに来たりしているのかな?

 クールで強くてカッコいいギルドマスターだもんな。

 さっきの戦いを見たら誰でも憧れるってもんよ。



 いや、でもこれだけの人数をさばいているカラコさんは凄いな。

 1人1人申請されたプレイスタイルとレベルだけで配置していっている。

 感心するな。というより誰も手伝っていないのがうちのギルドのレベルを示している。

 全く、誰か手伝ってやらないのか。


 俺が手伝うか。


「カラコさん、手伝うよ」

「ありがとうございます。しかし特に手伝ってもらうようなことは」

 何だと? あれだけの人を配置しているのに特に手伝うことがない?

 カラコさんの脳内でどんな処理が行われているのか。


 というか何でこんな有能な人が一日中VRゲームをしているのか。他にやることはないのか。

 まあ、人には色々あるんだろうけどさ。


 俺は暇人だから、仕方ない。これが俺の趣味なのだ。他にやることもないしな。




 空気を震わせた轟音に後ろを振り向くととてつもない砂煙が湧き上がっているところだった。

 あー、ヴィルゴさん大丈夫かな。


 あれは魔法を使ったのだろう。修羅の集いは基本魔法を使うことはない。己の肉体を使い、対人戦に特化した集団だ。

 レクトは雷魔法を使うっぽいし、ヴィルゴさん苦戦しているのかもしれない。単純な戦闘技術では負けてないと思うんだがな。



 さて、俺が囮役になると決まっているのならやることは1つだけだ。

 俺が持っているポーションを全て今飲み干す。

 そしてポーション中毒を発症させる。少々気持ち悪くはなるが、超再生と合わせれば、とてつもない自然回復量になるだろう。



 俺が半分ほどを飲んで、既に飲む気もなくなったが無事にポーション中毒を発症できた時、よろよろのヴィルゴさんとレクトが歩いてきた。お互いHPは半分。

 そういうルールでしたとしたら、一体どちらが勝ったのだろうか。


「ヴィルゴさん大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。それより1番大量にモンスターが来る場所に置いてくれ」

 もしや、負けたのか? 普通のヴィルゴさんでもモンスターが多い場所を志望するのはわけるけどさ。



「シノブさんの隣になって、最も死に戻りの可能性も高くなりますが」

「ああ、構わない。実力不足を実感した」

 実力不足。負けたのか。それにしてもレクトもあまり嬉しそうには見えないが。


「なあ、レクト。勝ったのか?」

「ああ、ギルマスさん。勝ったといえば勝ったことになるけど……微妙っすね」

 お互い納得できないような戦いだったのか。

 そしてサラッとギルマス呼ばわりするんじゃない。お前はただの女の子を紹介してくれた知り合いだ。



 レクトも俺の横につくらしい。そしてゴーレムがリストラされた。安心なのか? ただ被害者を多くしただけな気もするが。というよりこんな怖い人に囲まれて俺は安心して弓を射ることができるのだろうか。

 ある意味安心だな。


 右のお隣さんは和風っぽい装備で鬼や人間、天狗などがいる鬼剣連合。

 左には紅蓮隊。おなじみの重装備の連中だ。全員が魔法使いと思えないほどの大きな盾を持っている。前回と同様に盾で相手を押さえつけながら火魔法の過剰砲火で仕留めるのだろう。


 お隣さんに迷惑かけないように頑張ろう。



 ゾロゾロと移動していく。冒険者達。


「このまま、開始の合図と共に隊形を保ったまま前に行くことになりますが、シノブさんはここに居てくださいね」

 俺が今いるここが、1番後ろになるのか。

 俺はいつも通り、いやそれ以上に自重しないで射るだけか。



 周りもだんだん騒がしくなってきた、今になって空を飛ぶ召喚獣を使ったりした速い手段で来た人達だろう。わざわざ馬を買うより、ドラゴンか空を飛べる召喚獣に乗って行く方が良かったと思う。どれだけ金がかかるのかは知らないが。



 俺の横にはヴィルゴさんと、レクト。HPは回復しているが、この2人大丈夫だろうか。

 ライバルがいるっていうのは良いと思うよ? けどこう熱くなりすぎないようにね。


 ヴィルゴさんは懐から、魔法陣を取り出した。

 ワイズさん製か? そして発動させるとそこからラビとマラが現れた。


 驚きだ。これはまるで召喚魔法のようだな。というよりマラは一体いつサキュバスになるのだろうか。


「ヴィルゴさん」

「何だ?」

 うわー。気が立ってるよ。どこの猛獣だこりゃ。


「マラってラビみたいに進化しないのか?」

「そのことか。そういえば忘れていたな」

 忘れていたとは。

 まさか忘れていたとは。

 いやいや、忘れないでしょ。普通忘れないでしょ。どうやったら忘れるの?

 忙しさに忙しさを重ね合わせてもそう重要なこと忘れないぞ。


「拠点作りに忙しかったからな」

 言い訳になってない。と思う。その間でもちょくちょく戦っていただろうに。



「進化先はデビルと……エンジェルだな」

 デビルはわかる。

 だが何故エンジェルが入ってきているんだ。


「恐らくマラが持っているスキル。聖魔反転が原因だろうな。私は効果をよく知らないが」

 そんなスキルがあんのか。聖魔反転。聖なるものが天使で、悪が悪魔か。というよりこの八百万の神がいる世界で天使ってどういう位置づけなのだろうか。


「それで2つの特性はどうなっているんだ?」

「ただ得意な魔法が妨害か、補助かということになるらしい」

 なるほど。今のマラは両方を程よく使っているが、それをどちらかに偏らせることにするのか。


「思い出した。どっちかに決めようとしてそのまま決められなかったのだった」

 そうかいそうかい。でも今決めたほうが良いと思うぞ。


「俺としてはデビルだな。妨害系の魔法は使いやすいし」

 それにサキュバスの道も残されるしな。エンジェルなんかになったらガードが硬そうだ。というより天使って両性具有じゃなかったっけ? ふたなりとか男の娘は受け付けないんでな。


「エンジェルにするか」

「俺の話聞いてた?」

「すまん」

 わかってたよ。

 確かにサキュバスという部分を除けばエンジェルの方が使いやすいだろう。何せ技術がいらない。俺に魔力補強をかけて、ヴィルゴさんには精神力、耐久力補強をかければ良い。相手の特性を見極めなければいけない悪魔よりかは簡単だろう。NPCに簡単とか何言っているんだという感じだが。



 ラビの時と同じように光がマラを包み込んだ。

 今の容姿は性別不詳の黒い小悪魔だが、エンジェルとなることでどうなるのか。



 光が収まった時には、そこには幼女がいた。

 幼女だ。

 幼女かぁー。


 仕方ない。まだレベルも低いし、また進化もあるのだろう。

 金髪碧眼のその姿はまさに天使と言ったところである。尻尾もなくなっており、その代わりといってはなんだが、頭に金色の輪がついている。チャクラムかな?


 背中の翼も天使らしく、白い羽根になっている。鳩の羽かな?

 金髪は腰まで伸びているが綺麗に整えられており、その顔には幼いながらもどこか理知的な表情が見える。そしてもちろん貧乳だ。いや、無乳だ。



「大分変わったな」

 本当にこの人は興味持ってないな。マラも可哀想じゃないか。マラが気にしているのかどうかはわからないが。

 大分。大分変わったと思う。


「弓が使えるようになったみたいだな」

 弓? それはキューピットと間違えているんじゃないだろうか。

 それにしても俺のポジションに手をかけられているような気がしないでもないな。補助魔法を基本に使ってもらうだろうから、明確に差別化はできているだろうけど。


 このイベントが終わる頃にはレベルが上がって、次の段階まで行って欲しいものである。

 今は幼女だが、次の進化で少女。そして次で淑女となってくれれば大満足だ。



「始まります。各自持ち場についてください」

 カラコさんがそう宣言し、皆がゾロゾロと動いていく。

 他の場所も行動を開始したようだ。


 カラコさんは何故か馬に乗っている。確かに歩くよりかは目立つ。まるで総司令官だな。


「シノブさん、この戦いはシノブさんが要となります。頑張ってくださいね」

 頑張っても何も、俺はいつも通りやるだけだ。


「死なない程度に頑張るさ」

 さて、一体どんなやつが出てくることか。

 楽しみだ。

ありがとうございました。

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