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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
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127 暇つぶし

「シノブさん、どうでしたか?」

「わからん。エレメンタルは暴走するためにあるとか。目醒めとかそんなこと言ってたな」

 カラコさんは難しそうな顔をして何かを見ている。


「実は大量の問い合わせが着てまして。スレができてますよ」

 どんなこと書かれてるのか怖いから見ないが。


「ブーストでステータスが跳ね上がっていたが、何なのかとか神化についての情報とか。それだけなら見なければ良いのですが、入団希望者も増えているので」

 ステータス見られてたとは、プライバシーを何だと思ってるんだ。というよりどんなスキルで見れるのだろうか。

 それに入団希望者が増えていると。

 増えているって言ってるということは前から少しはいたのか。


「入団希望者ってどうなってるの?」

「今の所は保留。イベントが終わり次第冒険者ギルドの一室を借りて面接をするつもりです」

 面接か……面接官になるのなんて始めてだな。まさか俺が人を雇う側になるとは。というか俺が組織のトップに立つのが初めてだな。

 圧迫面接とかしたり、貴方はゴブリンをどう思いますか、とか意味不明な質問をして、候補者を混乱させるのだろう。楽しみだ。


「後同盟なんて話も聞いたな」

「あー、私も言われましたよ。断ったのにメリットを延々と言い聞かされ、しまいには私だけでもと勧誘されました。GODSはメンバーは良い人が多いんですが、ギルドマスターが……」


 何、カラコさんをヘッドハンティングしようとしただと? そんなやつ生かしちゃおけねえな。


「今度会ったら出会い頭に間違えて魔法を放ってやるよ」

「ギルドマスターが問題児なのは同じですね……」

 いや、あいつよりかは酷くないと思う。分類するなら俺はやればできるコミュ障であいつはやってるけどできてないコミュ障だ。

 友達なんて、彼女なんて作ろうと思えば作れる。しかしあえて作ろうとしなかっただけなのだ。


「同盟はまだ時期尚早と思われたので。しかし不可侵条約は結んでいます。赤の騎士団と竜の楼閣、にゃわんわん、コスプレ同好会、修羅の集いですね。修羅の集いは強者に従うという掟があるらしいので今の所はヴィルゴさんの管轄下。要するに子ギルドですね」


 そんなもんあるのか。というより修羅の集いってギルド化してたんだな。対人戦闘に特化した連中。敵に回すと恐ろしいな。魔法を使わないのが救いだが。

 というか強者には従うとか、頻繁に下剋上が起きそうだが。


「竜の楼閣、にゃわんわん、コスプレ同好会は相手側から不可侵条約が申し込まれたので受け入れました。竜の楼閣はリュウカクさんとリュウソウさん、コスプレ同好会にはシンジさんがいます」

 コスプレ同好会とか恐ろしい集団だな。あいつら平気でタブーギリギリのことしてくるし。存在自体が危険な集団だ。


 そして竜の楼閣は竜人兄弟か。竜人だけのギルドでも十分に強いだろう。何にでもなれるのが竜人だし。


 そしてにゃわんわん。


「にゃわんわんは獣人限定ギルドですね。モフモフを愛するものなら誰でも入って良い。かなりの規模のギルドですね。活動がモフモフを愛するだけなので人数の割には統率されていないみたいです。1番戦いたくないのは竜の楼閣ですね。攻略ギルドですからね」

 あの2人がギルマスなら同盟結んでも良いと思うけど。


 ヴィルゴさんに負けて、軍門に下るのが容易に想像できる。負けると相手の部下になるって発想がまず俺にはわからない。負けた、ちくしょう! じゃあダメなのか?

 負けた! この人の下につけばこの強さの秘密がわかるに違いないとか、どこのマンガのキャラクターだよ。とか思うがそういう人が沢山いるらしい。

 格ゲーの世界はよくわからん。


「まあ、同盟関係は後でゆっくりと戦いたくないギルドとか会議して決めれば良い。と今更なんだが同盟って何?」

「同盟は困った時に助け合ったり、資源のやり取りをしたりすることですね。システムとしてありますが、裏切っても特にペナルティーなどはないので大抵は人質として誰かを差し出したりしたりしますね」

 人質だと?

 何だそれは。ログインしてこなかったら終わりじゃないか。


「後はお金を預けたり、貴重な武器を預けることで信頼の証にしたり。それでも裏切りは起こりますからね。敵が攻めてきた時に今まで仲間だと思ってた同盟相手が攻撃してくるとかあるらしいですよ。もちろんそのギルドの信頼は失墜しますが」

 確かにじゃあ同盟なんてしなければ良いとは思うが助け合いの精神は大切だよな。1つのギルドじゃできないこともあるだろうし。


 なんか安全な同盟の結び方ってないとんかな。


 俺の愛読書、君主論にはこう書いてある。戦争の際に中立を貫くのはバカだ。

 簡単に言ったらの話だが。


 別に愛読書でもなんでもなくて、ギルドマスターになるに当たってネットで少し読んだだけだけどね。でも愛読書がマキュベリの君主論とかかっこいい。


 後は臣下は恐怖で支配するのが良いとかだね。恐れられるのはいいけど、恨まれてはいけない。ようするにひれ伏さなかった人を切り捨て御免しても良いけど、可愛い人を無理やり嫁にしてはいけないよってことだ。

 何もできてないな。




「そんな信頼問題よりお互い直ぐに報復できる手段があれば解決なんじゃないか。それこそギルドそのものの存続ができなくなるような」

 そう、核みたいなものだ。それがあるならば、裏切られて使われても生き残りがそれを使ってやり返せば良いし。


「そんなものどこにあるんですか」

 確かにそれが問題だ。


 俺には思いつかんな。


 カラコさんはまた作業に戻ってしまった。

 あー、暇だ。MP回復してる途中だから魔法の練習もできないし。

 暇だー暇だー。


「シノブさん、気が散るのでウロウロするのはやめてください」

 じゃあ、何をしろというんだ。

 砂の上に絵でも描いてろと?


 仕方ない。他の人の所に行くか。




「あーそーぼー」


 ……え? ワイズさん無視ですか? 友達だと思ってたのに。

 いやいや、今は作業中だ。聞こえていないのだろう。本に羽ペンを使って凄く精密な魔法陣を描いている。職人技だ。リアルスペックが発揮されているな。

 無視をしたのか、聞こえていなかったのかを確認できないチキンな俺は、他の暇な人を探すことにした。


 ネメシスは……寝てる。アオちゃんは絵を描いているし、キイちゃんはチクチクと裁縫をしている。何だこの空間は。

 俺だってガラス瓶あれば、普通に調合してたよ!



 ギルド内はダメだ。外に行こう。


 幸いなことに人も多く、簡易バザーのようなものまでできている。

 外に出ても何も言われることはないだろう。




 何も言われないことはなかった。


「おう兄ちゃん。さっきの戦い見てたけど、良い武器持ってんじゃん?」

 何故さっきの戦いを見てたのに俺に絡む気が起きたんだろう。格上だと思っていないのか?

 それともさっきの戦いがレベルの低い物同士の小競り合いとでも思っていたのだろうか。

 黒の髪に上半身は裸で刺青が彫られている。手には鋭い爪がついている喧嘩しますって感じの見た目の。要するに筋肉だな。うん、ヴィルゴさんタイプ。


「あ、すんません。この武器称号で手放せないんで」

「その武器しか使えないのか?」

「いや、死んでもなくならないし、PKされても奪われないし、簡単に言うと俺以外は使えないってことっすね」

「称号がそれだけなんて外れ引いたな」

 なんか同情してくれるけど、これがなかったら今頃俺は怒涛のPK達に襲われて大変なことになっていると思う。称号でこの弓が貰えたという風にすれば、バランスは取れている。

 しかし称号によるステータス補正とかないから、この弓を使わないと、普通の称号持ちには負けるだろう。


「良くも悪くも、称号に戦い方を縛られているんだよなぁ」

「わかる。俺もわかるよ。俺も狼迅雷ロウジンライとかいう称号貰ってから雷魔法しか使えなくなったし」

 一体こいつは何なんだ。称号持ちということはそれなりに高いプレイヤースキルか何かを持っているんだろうけど。何故俺にまとわりついてくる。

 それに狼という名がついているのに、見た目はただの人間のようだ。召喚魔法師だろうか。


「今から何しようとしてたの?」

「暇だから少し回ろうと思ってて」

「え? マジ? 俺も暇ー。じゃあ、一緒に回らない?」

「お、おう」


 何こいつ。ナンパの名人? 派手な子より俺みたいな大人しめのコミュ障を標的にするって本当だったのか。しかし俺はノンケだ。いくらここで男同士イチャイチャしてもペナルティーがないとしても、したくはない。変な扉開きたくない。



「ほら、ここ。俺の行きつけの店なんだ」

 まさか、絵画でも買わされるのか? と思ったが絵画なんて売ってないだろう。

 代わりに売っていたのはポーション。俺の専門だ。


 薬品学で見てみようか。


「中々良い物が揃ってんだぜ?」

 品質はCが基準になっている。まあまあといったところか。これぐらいなら俺にも作れる。


 がしかし掘り出し物とはこういう場所にあるものだった。

 月神薬、太陽神薬。


 まだ俺が作れていないものがこんな場所にあるとは。いや、俺は薬師ではないから作れていないのが当たり前だが。こういうのって一体どうやって作り方を発見するのだろうか。

 普通にポーションと同じというわけにはいかなさそうだが。



「おいおい、厄介事はよしてくれよ。俺は目立ちたくないんだ」

 店主は見た目に似合わない喋り方をする。実年齢はわからないがその容姿は美女。


 そう、美女なのだ。黒のロングに黒の瞳。はっきりとした大きな目を持っていて、正統派美女という印象を与える。胸は残念だが。

 なぜ黒髪の人は胸が残念なんだ? 師匠は黒髪だが、染めたものだし。


 各種の薬瓶が所狭しと並んでいる仮設テントの真ん中に鎮座して、一本の木刀を作っている。

 最初に俺の顔をちらりと見た以外はこちらに全く興味を持っていない。触れたら切れそうな人だな。気軽に冗談とか言えなさそうだ。


「いい客連れてきたんだから、な。この人も興味がありそうだし」

 俺が調合スキル持ちとか一体どこから漏れているんだろう。

 プライバシーの侵害だ。



「すまないが、この薬のレシピは」

「渡せん。薬師なら自分で作ることだな」

 やっぱそうだよなぁ。

 まだ俺が作れていない奴1本ずつ買っていくか。

 抽出したら、何かわかることもあるだろう。


「ちなみにお名前を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」

「名前? ……俺は男には興味ない」


 え? レズ?

 大好物です。あれだな。黒髪長身で貧乳で見た目攻めと思わせておいて、受けなタイプだな。ロリ巨乳に襲われるっていうのが、良い。


「いや、そういうわけではなくて。ただ優れた薬師として知りたいと」

「そういうことか。俺の名前はイロウだ」

 イロウ。慰労? 

 よし、覚えた、イロウさんね。俺っ娘か。男に興味ないなら、今度カラコさん連れてきて……。



 この時俺の灰色の脳細胞がとてつもない答えを導き出した。


 どうして、これが思いつかなかった。

 そう、俺がカラコさんに色々いたずらしたりしたら、垢バンされる。だが、同性同士のコミュニケーションはそれほど厳しくない。抱き合う程度では通報もされない。


 ここで2人を引きあわせて、百合百合な展開に持ち込めば。後は遠目で鑑賞するだけではないか。俺得だ。そうと決まれば話は速い。ここで布石を打って置かなければ。



「俺の名前はシノブ。可愛い女の子が周りに集まるハーレムマスターだ」

 え? 何その空気。

 ダメだった? この自己紹介ダメだったのか? レズな女の子に対するアピールとしては間違っていたか?



「あー、イロウちゃん。俺らもう行くから」

「おう」

 え? ええー。


 俺は男に連れられてそのまま、店からズルズルと連れだされた。


「いくらイロウちゃんが可愛いからってあの自己紹介はない」

 そんな断定しなくたって良いと思う。


「どうせ言うなら『可愛い女の子が周りにたくさんいるけど、ハーレムにはなれない。どうにかして相談に乗ってくれないだろうか』みたいに可愛い女の子はいるけど、皆フリーだと宣言しなきゃ。俺もアピールはしているけど、あの百合っ子は中々落とせねえぜ?」

 そうなのか。確かにあの自己紹介だとただの自慢になっていたかもしれないしな。


「自己紹介忘れてたな。俺の名前は狼迅雷のレクトだ。今はフリーで。神弓の射手っていうギルドに面接を申し込んでいる。そん時になったらよろしくな。ギルドマスター」

 な、そういうことだったのか。

 しかしあんな可愛いし、しかも珍しい属性の女の子を紹介してもらった身としては、断るづらい。


「……考えておく」

 ふと周りを見たら集まっていた視線が一瞬で散った。

 これが全部俺に対する取り入りとか、文句を言いたいとか、暗殺したいとかそんなものなんだろうな。今は1人横にいるが、いなくなったらまた誰か俺の側に何らかの目的で来るのだろう。


 俺に安住の地はなかった。


「あー、じゃあ。そろそろ準備はじめなきゃいけないから、帰ろうかなー」

「あ、じゃあ俺もいい? 1人でパーティーも組んでないから心細くって」


 俺は心の中で頭を抱えた。

 可愛い女の子や、美女ならともかく何故俺はこんな筋肉をお持ち帰りしなきゃいけないんだ。見た目に若干気圧されると共に、最初に話しの通じない奴だと思ってなあなあで済ませようとしてしまったのが悪いのだが。俺がもっとビシっと言っていれば何もなかった話しなのだ。


「……わかったよ。勝手についてこい」

「あざーっす!」


 俺は心の中で壮大なため息を吐いた。

 変な人連れて帰るけど、カラコさん怒らないかな。


 考えるだけで頭が痛くなるぜ。

 しかしカラコさんに怒られるだけで済むなら御の字か。こいつがどっかのスパイとか俺を暗殺しようとしている可能性だってあるんだもんな。



 それについてもカラコさんに任せれば良いか。

 俺はただイベントで弓を放つだけだ。

ありがとうございました。

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