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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
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125 騒動

《戦闘行動により【火魔法Lv31】になりました》

《戦闘行動により【木魔法Lv28】になりました》

《戦闘行動により【土魔法Lv24】になりました》

《戦闘行動により【風魔法Lv24】になりました》

《戦闘行動により【回避術Lv14】になりました》

《レベルアップによりスキル【ステップ】を取得しました》

《戦闘行動により【思考加速Lv20】になりました》

《戦闘行動により【狙撃Lv25】になりました》

《戦闘行動により【発見Lv28】になりました》

《戦闘行動により【遠見Lv22】になりました》



 火魔法はレベルアップするんだな。進化できるらしいが、レベルを上げると単に威力が増すというだけなのか、それとも何か呪文を覚えるのか。取り敢えず今のところは放置だ。

 そして回避術。上げるのに苦労したが、ステップを覚えた。一瞬だけ無敵時間が作れるスキルだ。上手く決まればアドレナリンドバドバで気持ち良かったが、決まらないければ普通に痛い。使うことはないだろう。

インフェルノはやばそうだから試していない。広範囲高火力の魔法だと思うのだが。


 5人での探索になると、宝箱はじゃんけんで勝った人がというルールになった。まあ、入っているものはポーションだったり、鉄でできた武器だったりあまり良いものではないのだが。


 

 地上に帰ると非常に張り詰めた空気が場所を覆っていた。


「俺は逃げる」

「あははー、私は関係ないからねー」

「じゃあな!」

「僕も用事があるから」

 一斉に散らばっていった面々。薄情なやつらめ。それほど俺に注目が集まっていたからとも言えるが。

 俺達が来た時よりも多くなっている人達。その中の結構な人間が俺に注目しており、何人かの集団が俺の方にやってくるのが見えた。


「問題のやつがやってきたな、おい」

「少し状況説明をさせてください」

 背中に翼が生えた男、翼人と話していたカラコさんが俺のそばに来て囁いた。


「前回のイベントでのことでいちゃもんをつけてくる人が出てきたんです。前のようにボスを総取りしたり、経験値を独占したりするのかと」

 それについてはすまなく思ってます。今回は数も多いし大丈夫なんじゃないかな。俺もレベルは充分だし、仲間のサポートしかしないようにと思っているし。


 それにボスに関しては赤の騎士団が突っ込んできたり、色々あって引けなくなったりしたからで。そん時に一緒に来ればよかったのに。最後の場面に乗り込み遅れたから文句を言うのとかは良くないと思う。それに鳥人って途中で空中戦力が出てきた時に大体が撃ち落とされていたような。


「取り敢えず今は近くのオアシスでログアウトしてください。そしたら死んでもそこからやり直せますから」

 そんな緊迫した状態になっていたのか。


「既にギルドポイントを使用してここ一体を非戦闘エリアへと変えていますが、効果時間が切れた瞬間に襲われる可能性もあるので」

 メニューにあった時間ってこれのことか。なら言葉に従ってログアウトしておくか。



「ああ、逃げんのか?」

「逃げるとは失敬な。戦力的撤退と言ってほしいな。たださえ俺は戦闘終わりで疲れてるんだ。戦いたがりな戦闘狂は黙っていてぇ!」

 反射的に後ろを見ると、そこには拳から煙を立ち上らせているヴィルゴさんが……え? 今何で殴ったの? 怖い。絶対スキル付きの拳だよね。ダメージ入ってないから良いけど、やめてくんない? 確かに俺が今の状況に若干イラついていたのはあったが初対面の相手にあれは言いすぎたかもな。


「無駄な挑発をするな」

「すみません」

 ヴィルゴさんの後ろには神妙な面持ちの集団がついている。ああ、ヒャッハーしてた連中。見事にボコボコにされて軍門に下ったみたいだな。


 VRゲームは乱暴なヤンキー達がストレス発散に来るからいけない。こんなやつらがいるからVRゲームは不良の溜まり場とか、ゲーム脳で犯罪起こしたりするんだ。



 さて、ログアウトついでに栄養補給してくるか。


 オアシスの中にはネメシスとヨツキちゃんが待機していた。


「なーんか面白いことになってんな」

 面白い? 面倒くさいの間違いのような気もする。

 ヨツキちゃんはネメシスの腕をくいくいと引っ張った。


「そうだな。さっさと行こうぜ。ログアウトしてこい」


 なるほど、この2人は俺が確実にオアシスから抜けられるようにするためか。

 待たせちゃ悪い。

 ログアウトしよう。




 5分以内に収めようと思ったが、ギリギリだな。

 ログインすると元のオアシス。

 俺に気づいたヨツキちゃんがネメシスを揺すってる。寝てるのか? それにしてもヨツキちゃんって話さないな。


「……早かった。ねむ」

 大きく伸びをしたネメシスは少し不機嫌な様子を見せながら歩いていく。


「第一このスケジュールってのが廃人向けなんだよな。確かに馬や召喚獣を持ってたら半日で行けるけど。土曜だからってそんな時間かけられる人はあんまりいないぜ? あらかじめ日程はわかってたから、少しずつオアシスを渡り歩くとかもあるだろうけどさ」

 まあ、そうだな。移動が苦痛な層にとっては評価がグッと下がるイベントだろう。その分オアシスの多種多様なモンスター達との戦いで楽しんでもらおうということじゃないだろうか。

 モンスターとの戦いが楽しくない人は知らん。


「というより余裕を持って到着したから、こんな事になったんじゃないか? 昼から出発にしとけば良かったのに」

 ギルドマスターの俺に言われてもねー。


「俺だって眠い。戦闘に支障をきたすようであったら戦闘まで寝ててもいいぞ」

 実はそんなに眠くなかったりする。


「さっすが、わかってんな」

 こうしてギルドメンバーに気遣ってやるのも上に立つものの仕事よ。


 元から泉の場所は把握していたのか、迷う事なく泉にたどり着いた。


「楽な相手な事を祈る」

 新呪文の試し撃ちにーってあれか。MPは温存しとかなきゃな。神弓じゃなくて水老樹の弓を使おう。



 現れたのは悪魔。

 様々な得物を持った人間と獣が混じった悪魔っぽい人達がいる。


 数も多いし、それぞれも強そうなオーラを放っている。


 ヨツキちゃんをお姫様抱っこするネメシス。


「じゃあなー!」

 え、じゃあなって。

 ネメシスとヨツキちゃんは影に吸い込まれていった。

 え? 俺一人ですか?


 ヨツキちゃんの準備が必要なのはわかる。古来から女の子は支度に時間がかかるものだ。でもさ、男を死地に放り出していくのはどうかと思う。

 例えるなら鈍器を装備した彼女の元カレに彼女の家の前で襲われそうになっているにも関わらず、化粧が終わってないと言って部屋の中に入れさせようとしない彼女だ。俺なら速攻元カレ側について、ドアを破壊し始めるだろうな。


 しかし今のこの状況。理解のありそうな悪魔達ではない。仲良くなんてできやしないだろう。


「シェルター!」

 俺を土の壁が包む。

 早速ガンガンと攻撃が加えられているのがわかる。


「トンネル」

 さて、シェルターが壊された頃には俺は部屋の反対側に回っているだろう。


 背後からの奇襲だ。

 ガラガラとシェルターが崩れる音が聞こえてくる。そして戦闘音が消え、不気味な沈黙が支配する。

 一体上では何が起きてるんだ?


 早く出てしまおう。

 魔法で土が掘り進められる音だけが聞こえる。

 ……ん? 何の音だ?

 最初は掘る音だと思った。しかしそれは徐々に大きくなっていく。


 この音ってまさか。


「水攻めかよ!」

 知能高いな。俺が洪水の時の音を覚えてなければ死ぬところだった。


「ストーンウォール!」

 少し濡れたが、溺れるのだけは回避できた。溺れ死ぬとかかなり怖くない?

 今まで穴が空いていたから何かを流し込もうなんて考えしたモンスターいたか? これが溶岩とかじゃなくて水で良かった。


 悪魔どもはこれでやったと油断しているだろう。そこを後ろから襲う!



 突如トンネルが崩落しそうなほどの地響きが。

 ヨツキちゃん降臨しちゃったかー。

 俺の出番はなさそうだな。



 トンネルから出るとそこには大剣を振り回すヨツキちゃんが……なんかいつもと違うな。

 別にいつもヨツキちゃんを見てるわけではない。ロリコンではないからな。


 そういう事ではなく、ワイズさんとヨツキちゃんでは悪魔と天使みたいな対比になっている。黒い服しか着ないワイズさんに、白い服で紳士達からは天使と呼ばれているヨツキちゃん。

 それが黒く染まっている。銀色の髪までもが真っ黒だ。

 フォルムチェンジ?


 何にしてもカッコ良い。


 ヴィルゴさんの戦いは素人にはよくわからない技術ばかり使ってて見てるぶんには相手が凄く弱いとしか感じられないが、こちらの戦い方はとにかく力任せだ。

 大剣を振り回し、魔法が当たっても気にせずに大剣を振り回す。もうそれは鈍器と言っても良い。ただの質量兵器だ。

 当たった瞬間にHPバーが砕かれるか、そのまま吹っ飛んでいき、立ち上がる前に追撃でやられる。


 おそらくマゾヒストも所有しているだろう。狂化でステータスを増やして、マゾヒストで攻撃に当たるたび更に強くなる。

 一撃で倒されない限りは神化状態のカラコさんにも匹敵するのじゃないだろうか。


 敵には回したくないものだ。

 というよりこんな人達に喧嘩売るとかあの翼人よくやるよな。相手の力量がわからないのか、それとも自分の力量に相当な自信を持っているのか。


 何もレベルアップしなかったか。

 そりゃそうか。何もしてないもんな。



「えーと、ネメシスは?」

「……寝てる」

 戦闘を人に任せて寝ているとは。流石だな。俺とヨツキちゃんは現れた魔法陣をくぐり、オアシスの外へと戻ってきた。



 なんか3つに分かれてるな。

 1つは俺の陣営。俺のギルドメンバーと数人の竜人。赤の騎士団と、コスプレ集団。そしてヴィルゴさんの舎弟。コスプレ集団に関してはノーコメントだ。ノーコメントにするしかないが、一言言うなら、危ないなってだけだ。


 もう1つは10数人。さっきはいなかったな。しかしどの人からも強敵のオーラが漂っているような気がしないでもない。というか立ち方が強者。なんてかっこいい立ち方をしているんだ。


 そして最大手が翼人率いる、俺死ねチーム。荒ぶってんなー。


「シノブさん、大丈夫でしたか?」

「取り敢えず状況説明してくれ」

 何となくノリで集団の前に立ったが、怖いな。視線が。


「蒼天の翼のギルドマスター、オルカーンさんを筆頭に反シノブさん派の人達が徒党を組んでイベントから辞するようにとの運動をしています。そしてもう1つのグループはGODS。カイザーさんがサブマスターのギルドですね。イベントを失敗させないように、戦闘があれば介入すると、そしてギルドマスターが嫌な奴でした」

 カラコさんはそう言うとその時の事を思い出したのかしかめ面をしている。どんな奴だったんだろう。逆に会ってみたい。


「それで俺たちはどうするんだ?」

「シノブさん待ちです。その間にも私たちの方は人が増えず、あちらの方の数はどんどん増えています。戦争は質より量ですからね」


 俺が決めろということか。


「どうにかして解決しなきゃダメだよなぁ」

「当たり前です」

 このまま何となくイベントに移行はできないだろうからなぁ。


「解決策としては、相手を叩きのめす、ぐらいですね」

 おい! それしかないのかよ。


「その場合だとGODSも相手にしなければいけないのが大変ですが。こちらが消極的に、獲物を取らないようにすると言ったら相手側はそれでも私達の方にヘイトが行って結局狩れる魔物が少なくなるとかいう意味不明な主張をしていました。もうこれぐらいしかないんじゃないでしょうか」

 かなり頭に血が上ってるな。

 しかし両方に被害を出す戦いはしたくない。


 なんとか穏便に解決する方法はないものか。



 ないな。

 あー、でも最低限の被害で済ます方法ある。


「一騎打ちするか」

「それで相手が納得するんでしょうか」

 相手が納得するんじゃない。納得させるんだ。


「俺に任せておけ」

 かっこいいシノブさん!

「心配ですね」


 信用されてないなー。


「心配するな。俺が殺されそうになったら出撃していいし」


 これでも、人間の心理についてはわかっているのだ。わかってるのに何でボッチコミュ障だったのかと尋ねてはいけない。人間不得意な分野はあるものだ。


「こんちはー」

「久しぶりだな」

 確か……オルカーンさんだっけな。どこかで会ったことあったか?

 典型的なガタイの良い翼人に見える。そこそこイケメン。


「えーと、神弓の射手のシノブです」

「どうだ。引く気になったか?」

「いやー、その点の事なんですけど。さっき話し合ったんですけど大変でしたよー。うちの奴らは血気盛んで。全員血祭りに上げるとか、一生ログインしたくなくなるようにしてやるとか、邪魔したものは皆殺しとか」

 わざと大声で聞こえるように話す。

 反応は見るまでもない。死ぬ覚悟のない、なんとなくで集まっていた連中が散っていく。


「それで、戦うのか?」

「そう、それ。でも俺としてもこの後に備えるためにそんなに被害出したくない。てことで一騎打ちしない? こっちの代表とそっちの代表が戦って、勝った方の言い分を飲むと」


 勝てるがどうかはわからない。最悪負けても、ギルド間の抗争が始まるだけだ。


「いいだろう、その勝負、受けて立つ」

 いくらギルドマスターだからって1人で決めていいんですかね。後ろにいる人たちと相談しなくて良いのだろうか。


「んじゃあ、他のとことも話つけてくるんで」


 次はGODSだな。


「一騎打ちするけど、止めないでくれますか?」

 なんかキャラが豊富だな。おっさんで小盾と剣を持ったカイザーに、数え切れない剣を背負う少女に、寝間着姿で寝てる男、それに金髪イケメン二刀流なギルドマスター。

 どこの四天王か、厨二病集団だ。

 キャラの濃さではうちと争えるかもしれないな。


「一騎打ちか……きちんとルールを定めて、死なないようにするならやってくれて構わない。君もあちらのギルドマスターも貴重な戦力だからね。話は変わるが、君のギルド、僕達と同盟を組まないかい?」

 話変わるな。同盟ね。組んでればいいんだろうけど。厄介ごとに巻き込まれる可能性もあり。それにギルドマスターがキラキライケメンオーラを出しているというところも気に入らない。


「そういうの、サブマスに任せてるんで」

 カラコさんに丸投げ。俺には判断できん。

 第一こんな一癖も二癖もあるやつをまとめきれているのだろうか。

 俺のところみたいに誰も言うことを聞かない、何となく便利だから誘われたギルドに入ってみたって人が多い空気だ。


 マスゲームでも始めるかのように並んでるギルドだってあるのに、こっちはバラバラ、パーティー毎に固まっている。

 封建制か郡県制度みたいなもんだろ。郡県制度はトップが潰されると機能し難く、封建制は常に下剋上の危険がある。

 どっちを選ぶかは人次第だな。


 俺の場合は部下の方に人望が集まりすぎて、部下に逆らえばそのままギルドが消滅してしまうだろう。



 さて、ホウレンソウ。

 報告するか。


「てことで一騎打ちになった」

「勝てるんですか?」

 まるで俺が負けるとでも思っているようだな。


「やってみなくちゃわからない」

「私が話し合って感じたことですが、あの人強いですよ」

 カラコさんが警戒するほどの相手。負けるかもしれないな。


「そん時は俺の仇を討ってくれ」

「了解しました」

 そんなことにもならないように戦わなきゃな。カラコさんが警戒する相手。俺の本気というものをお披露目してやろう。


 覚醒による身体能力の増加、神弓による圧倒的火力。超再生によるお手軽体力回復。そして……マゾヒストによるステータス2倍の恩恵。


 見せてやろう。この戦いは勝たねばならぬ。


 何故俺はイベント前に一騎打ちなんてしなければいけなくなったのか。因果応報としか言いようがないな。

ありがとうございました。

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