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狙撃手の日常  作者: 野兎
王都解放戦
124/166

123 砂漠の旅

 ……おはようございます。

 えー、現在は午前6時30分。全然眠い。早めに寝ようとしたのだが、悲しい習性は治らず結局日付が変わってから床についたのだった。

 それで遠足前の子供のように早起きしてしまったので取り敢えずログインしているのだ。


 今現在ログインしているのは、ヴィルゴさん、ネメシス、マッドだけ。誰も遅刻しないで欲しいのだが。


 ベッドで寝たからか、何かアバターの調子も良いような気がする。もちろんステータス的には何も変わっていないが。



「ログインしても暗いのがまた眠さを……」

 夜が明ける前のようだが、この夜は明けることはない。少し明るくなるだけだ。


 誰もいないホールを歩くと俺の足音だけが反響している。

 美しいな。

 こういう誰もいないところだとやりたくなることがある。


「何やってんだ?」

 ……タップダンスだが何か?

 ヴィルゴさんが2階から降りてきていた。


 そうだ、昨日私忘れていたポーションを渡しておこうか。数本を取り出しヴィルゴさんに渡す。


「ありがたく使うよ。それにしてもシノブは1番最後に来るぐらいだと思っていたんだが……随分早起きだな」

 置いてけぼりにされたくないからな。俺の出番がなくなるのは嫌だという危機意識が働いたのだろう。


「睡眠時間をコントロールするぐらい俺にはどうってことないさ」

「そうか。変な体操するぐらい暇なら、弁当作りを手伝ってくれないか?」


 変な体操じゃない。タップダンスだ。

 と言ってもヴィルゴさんはそうか、とだけ言って全く話を聞かないんだろう。言っても無駄だ。


「もちろん」


 ヴィルゴさんがウサギの肉を煮ている横で、俺は玉ねぎを炒めている。

 何を作るのかというと、サンドイッチらしい。今日のために調味料やパンも買ったというのだから驚きだ。というよりラビ用とか言っているが、それは共食いなんじゃないだろうか。


《生産行動により【料理Lv6】になりました》


 やがてバスケットにたくさんのウサギの照り焼きサンドイッチが入った。醤油と料理酒と砂糖があるのが驚き。

 鰻丼を食ったことあったから、予想はできたはずだが。


「NPC製の調味料を使うと品質が落ちるらしい。美味ければ何でも良いとは思うが」

 そりゃそうだ。俺なんか完全に食べたいから食べているだけだ。光合成あるし。美味さが1番。



 皆ログインしてきたようだな。

 ポーション配っとくか。


 1番最後に来たのはアオちゃんだった。それもログインしていたキイちゃんが呼んできますと言ってログアウトしていった5分後。家が近所か、電話でもしたのだろう。

 どっちにしろ間に合ってよかった。


「えーと、馬が1つ余っているんですが、誰か取ってない人はいませんか?」

「私だ」

 何故ヴィルゴさんはそんなに自信気に宣言したのだろうか。


「だが私は馬は使わない他のものがいるからな」

 他のもの……?

 まさか何か馬以外に乗るものを見つけたのだろうか。運の良いことだ。



「なら良いですが……では行きましょうか」

 冒険者ギルドは大混雑かと思われたが、朝が早いのが原因なのか人は少なかった。だからこそ俺たちが目立つ。

 俺は頭部装備もつけているし、その上から魔女のローブを被っているし、カラコさんもフードを深く被り顔が見えないようにしているが、それを全て無駄にするような面々がこちらにはいるからな。

 具体的にはロリであるヨツキちゃんや、精霊のネメシス、知名度の高いヴィルゴさんなどだ。

 この一行が集まれば自然と俺が誰かもわかるようだ。それほど敵意のある視線はないが。


 すぐに冒険者ギルドを出て、西へ向かう。師匠に挨拶しなくて良いかな。師匠の情報網なら知ってるか。これだけ大事なんだし。


 西への門へと着くと多くのパーティーが出発の準備をしているところだった。


「予約していたシノブです」

 何人の名前で勝手に予約してるんだ。

「しゃしゃしゃーす」


 その何を言ってるかわからない職人達は馬を出すと手早い動作で轡や鞍、蹄鉄などを嵌めていった。

 ほれぼれするような腕前だな。


 そしてヴィルゴさんが出したのは家1軒分はあろうかという巨大トカゲ。街道にいるボスにはまだ匹敵しないものの、十分に大きい。

 周りの人もあっけに取られている。あの卵がこうなるとは。


「ドラゴン入りやーす」

「「「ドラゴンアジャジャース」」」

 こいつらは一体何なのだろうか。

 ちゃんとそのサイズのものの鞍を取り出して取り付けている。


「モンスター屋ドラゴンの尻尾をどうぞごひいきに〜」

 ドラゴンの尻尾の店員なのか。モンスター屋というと召喚モンスターの装備だったりを作ったりしてるのかな?


 特に何かする必要もなく、俺が上に乗ると馬は歩き出した。

 少し早歩きという感じで砂漠を進む俺たち。こういうところにはラクダが似合う。と思っていたら途中でラクダとすれ違ったが。召喚モンスターだろう。


 ヴィルゴさんとは言うと最初から圧倒的なリーチをつけ、物凄い勢いで突進していった。

 昼飯はどうなるのだろうか。




 しかし暇だ。行けども行けども砂漠。途中にオアシスはあるが、それも全て無視をして進んでいる。



「シノブさん、シノブさん、起きてください」

「馬の上で寝るとは器用なやつだな。シノブには光合成がある飯はいらないんじゃないか?」

 

 何やら不穏なセリフが聞こえたぞ。


「俺は寝てないぞ」

「声かけたら返事をしてくださいよ」

 カラコさんが揺すってくれたのに起きなかったのか。ヨツキちゃんだってワイズさんにもたれて寝てたのだから別に良いじゃないか。


 ようやく朝飯か。食べなくてももちろん良いのだが、食べたいのだ。


 オアシスの近くで休憩を取ることになったそうだ。それにオアシスの中だと普通にログアウトできるそうだ。


 ワイズさん、ヨツキちゃん、アオちゃんとキイちゃんは1度ログアウトするためにオアシスに入っている。

 俺はサンドイッチの味を褒めながら、遠見で砂漠の先を見ていたが、カラコさんに腕を叩かれて視線を戻した。


「シノブさん、何か始まるみたいです」

 ヴィルゴさんが数十人の男に絡まれている。ここはギルドマスターとして仲介した方が良いのだろうか。


「その提案で良いんだな」

「私は十分だ。失うものもないからな」

 一体何の取引をしようとしているのか。


「ちょっと待った」

「ああ? 何だてめえ」

 ガラの悪い人間がガンつけてきた。

 あー、怖い怖い。


「何の取引をしようとしてるんだ?」

「へへへ、そんなことか。俺が、今ここで、狂獣王に認めてもらうってことさ」

 狂獣王。ヴィルゴさんはそんな二つ名を持っていたのか。それにしても勝つんじゃなくて認めてもらうか。確かにヴィルゴさんには何の損もないな。


「なら勝手にやってくれ」

 ヴィルゴさんは鎧を外して身軽になる。そしてマラの呪文がヴィルゴさんを包み、強化される。


「さあ、来い」

 ヴィルゴさんって凄いラスボスだよなぁ。


「ひゃっはー、こいつもザイガンさんの糧になるのかー!」

「女の癖によくやるぜ」

「ふへへへ、脱がしちまえー!」

 ギャラリーが命知らずだな。

 実際ヴィルゴさん怒ってるぞ。


 ザイガンとか呼ばれた男のスタイルはボクシングか。ヒョロヒョロしているイメージがあるがパンチ力は強いだろう。

 ヴィルゴさんが選んだのは徹底的な足狙いだった。その自慢の腕も範囲外から足を狙われたらどうしようもない。そしてそのまま足の関節を極められて終わった。


「卑怯だぞ、この野郎!」

「ちゃんと拳で戦えー!」

 周りの男達は一体何を言っているのだろう。戦いに卑怯も何もないと思うのだが。狙撃手が剣士を狙うのも卑怯とか言うやつか。


「まだ俺はいける!」

「中々根性があるな。よし次は足封印でやってやる」

 ヴィルゴさん怒ってんなー。まだザイガンがしっかりと戦ってるから理性も残っているし、戦いを楽しんでいるが。戦いが終わったら全員叩きのめしても仕方ないぐらいだな。


「へっ、足技を使っても、構わないぜ。さっきで慣れた」

 ヴィルゴさんにそんなこと言ったら容赦なく、使ってくるぞ?


 しかし次の結果も思い通り。

 凄い焦っているザイガンの顔芸が面白かったです。

 隙をみて拳を打ち込むが、決して届かず焦った所を抱きつくように距離を詰められ、関節を極められて終了。

 柔術って本当に抜け出す術を知らない人にとっては強いな。


「見てるのも面白いですが、皆揃ったので行きましょうか」

 ヴィルゴさんなら任しといてと良いか。対戦相手がへばった時に起こる血祭りを見たいわけでもないし、すぐに追いつくだろう。



 また俺たちは馬を進め、砂漠へと立ち向かうのだった。


 砂漠は砂漠だが今は日差しは強くなく、砂嵐が吹くわけでもないとても良い気候だ。時折召喚モンスターであろう空飛ぶモンスターが飛んでいくのが見える。羨ましいことだ。

 俺も空を自由に飛びたいな。


「し、し、し……シジミ」

「み、か、三重県津市、し」

「し……飼育」

「く。釧路市」

「し……し……」

 暇なのでしりとりをしているのだが、カラコさんは俺の地名統一の策略にはまっているようだ。


「しえ……市営地下鉄!」

「つ、津市」

「それさっきも言ってませんでしたぁー?」

「さっきは三重県津市だ。今回は津市だけだ。何の問題もない」

 一体どこまでしから始まる言葉を探しだせるかな。


「歯科。歯医者の方です」

「か、香川県高松市」


「シノブさん!」

 お、怒ったか。

「そんなことしてたら、友達なくしますよ!」

 ぐあっ。何て俺の心にクリティカルヒットをする言葉なんだ。確かにドヤ顔で地名ばかり言って相手をし責めにするやつはウザイけど!


「友達なんて俺にはいねえよ」

 それなんだよなぁ。


「私が、いるじゃないですか」

 か、カラコさん。そんなそんなこと言われたら俺泣いちまうぜ。

 思わずカラコさんの手を握ろうとした俺は無事落馬して砂の中に頭を突っ込みましたとさ。


 落ちて冷静になったから気づいたが、俺は1人の友人を失いそうになっていたのか。恐ろしい。こうして人はボッチになっていくんだな。人って俺のことだけど。

 悪友は3人いるが、あいつらが友達だと言えるかと言うと怪しい。何でも言える仲間みたいな間柄ではあるが。



「反省しましたか?」

「すみません」

 しかしこの俺に接待プレイをしろというのか。


「次は動物縛りでしりとりをしましょうか」

 幼稚園の頃は動物博士になれるとも言われたことある俺に動物しりとりを挑むとは命知らずだな。良いだろう。圧倒的語彙力を見せつけてやる。





「決着が着く前についてしまいましたね……」

「持ち時間制にすれば良かったな」

 前には砂漠に囲まれた巨大な壁を持つ都市。あれが王都か。近くの砂漠にはたくさんのテントや、馬。店が立ち並んでいる。


「では夜の7時に再集合ということで、ログアウトする場合は必ず6人で脱出できるように調整すること。では解散です」

 ヴィルゴさんは大丈夫だろうか。

 死んではいないと思うけど。


 俺はダンジョン行きの面々に連絡するか。


「よっすよっすー、シノブっち。おひさー」

 ヒナタは1人か。


「まだソロでやってんのか?」

「あはははー、パーティーメンバーなんて置いてきて1人で来た」

 なーるほど。ソロなんだな。


「神弓の射手のサブギルドマスターのカラコと申します」

「あー、これはどうもご丁寧にー」

 ヒナタは凄まじく引いているようだ。


「はははー、まさかシノブがーとか思ってたけど何やったの?」

「俺の人徳だな」

 凄い顔で舌打ちしている。その可愛い顔が台無しだぞ。


 後の奴らは……と思っていたら来た。


 ピグマリオンは持っていては歩けないようなランスを持った重戦士と、一緒に歩いてきた。体型は魔法使いのようなローブで隠れている。


「シノブは女の子と一緒、俺も女の子と一緒。ヒナタは1人か。残念だったな」

 そんなにヒナタを煽るな。というよりその重戦士って女の子なんだな。


「俺が最後、じゃなかったようだな! 初めましての人は初めまして。久しぶりの人は久しぶり。いつもお前らの後ろにいるサイドアンドレフトだ! 略してサフドって呼んでくれても良いぞ」

 うるさい奴が来た。

 しかしこいつも1人だな。


「お前も1人か?」

「あっちにいるぞ!」

 向こう側に何人かの人が手を振っている。ヒナタが舌打ちした。


「ヒナタも可愛いんだから適当な男でも捕まえろよ」

「私は、ホモじゃないんだよ!」

 うん、知ってる。


 最後に来たのはユイちゃんだが、確かに周りには5人の男が。

 なんだこのスーツ爽やか集団は。


「お嬢様。まさかこのような男達と行くわけじゃないでしょうね」

「そうだよ。この3人」

「男性が2人もいるじゃないですか! 何かあったらどうするのですか? そうでなくともお嬢様はこんな奴らと一緒に狩りをさせるなんて」

 お嬢様? これはそういうロールなのか? 随分困っているが。


「もう良いでしょ! 僕の邪魔をしないでよ!」

「この私だけでも一緒に……」


 なんだかうるさい奴だな。そんなに心配なら運営に男の半径1メートルに入ったら垢バンされるように頼んで来いよ。

 痴漢ができるわけでもないし、現実世界より安全なぐらいなのに。


「おーい、ユイ。行くぞ」

 俺たち四人はサフドのパーティーに入る。そうすることで一緒にダンジョンに行くことができるらしい。


「うん、わかったよ」

「お嬢様!」


 その了承の言葉を聞いた俺たちはダンジョンに飛んだ。




ありがとうございました。

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