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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
120/166

番外編 ハロウィン

 ハロウィンというとコスプレ祭りのような印象があったりなかったりするが、所詮海外のお祭り。俺なんかは関係することもないし、参加することもないだろうと考えていた。


 しかし時代は変わっていく。新たな消費を生み出し、よりお金を使ってもらうためにどこの店でもハロウィンキャンペーンとかをやるようになる。そうなるとさすがの俺でもそれを避けることは不可能になってくる。

 俺が今プレイしているこのゲームでも一緒だ。



「今日はハロウィン。特別なダンジョンへの招待券をプレゼント……」

「もう既に攻略者は出ていてハロウィン風のモンスターが出てきてコスプレ衣装などが当たるそうです」

 ハロウィン風モンスターというと幽霊や狼男、魔女や吸血鬼かな?

 カラコさんは幽霊とか大丈夫なのだろうか。


「シノブさん、行きましょう!」

 そんな顔されたら行くっきゃないが。

 ヴィルゴさんは来るのだろうか。


「私は何でもいいぞ。狩りに行くのならな」

 いつも通りだった。



「じゃあ、行くか」

 俺自身はコスプレとかには微塵も興味ないが、カラコさんのコスプレを見てみたいというのがある。魔女っ娘コスプレとかどうよ!

 他にも狼耳のコスプレとか包帯グルグル巻きのミイラのコスプレも良いかもしれない。


 そして俺が想像しているのはエロ装備だが、多くの紳士の意見を無視していつも通り健全なものしか置いていないのだろう。


 それでも純粋に可愛い物を見たいというのは、乙女と男に共通する考えだ。

 参加者も多いだろうし、街もそれっぽくなっているかもしれない。

 なんだかんだ言ったが祭りという雰囲気は好きなのだ。



「ダンジョンには何種類かあるって知っていましたが……薄気味悪いですね」

「ゾンビ系か。匂いがなければ良いんだがな」


 俺達が来たのは真夜中の洋風の墓地。

 雲の切れ間から時々顔を出す月が明かりだ。


「取り敢えず道にそって進みましょうか」

 カラコさん、大分腰が引けているな。絶対後悔しているな。


 それほど支障が出るわけではないが、暗視スキルつけておくか。

 暗視と遠見の併用で見える見える。遠くでうじゃうじゃゾンビ達がいるのが。


「見える範囲のものは俺が倒して良いか?」

「気持ち悪いのはどうぞ」

 ヴィルゴさんは無言だが。別に良いか。ゾンビは気持ち悪いものだろうし。


「展開」

 目がいいのか、それとも鼻がいいのか。展開してきた瞬間に走ってくるゾンビ達。その足音は地響きを起こすほどでもあり。俺を引かせた。そんなに腹が減っているのか。


「装填、加速、付加、連射、ファイアショット」

 マシンガンのように矢がばら撒かれ、爆発がゾンビ達を包み込んでいく。

 柔らかいゾンビ達は爆撃に耐えることなく塵へと変換されていく。


「汚物は消毒だぁー!」

「蹂躙している時のシノブさんって本当に楽しそうですね」

 楽しいんだから仕方ない。

 大体のゾンビはいなくなったかな。


「私の仕事はなさそうですね」

 ヴィルゴさん達は既に爆撃から逃れたゾンビ達を片付け始めている。身体が腐っていて見た目もグロイのに、躊躇なく狩っている。その精神は見習いたいとも思うが、こうなったら終わりだなという感じもある。

 カラコさんみたいに俺の護衛を務めてます風にしておきながら、ゾンビが来ると顔が引きつっているほうが女の子らしいというものだ。

 ちなみにカラコさんは少ないMPを使って魔法を放っている。刀は1回も使っていない。触れると汚れそうだから気持ちはわかるが。


 俺も魔法を使って撃退しているものの、その数は減るどころか、増えていくようにも思える。


「無限湧きでしょうか。それなら速く出口を探しましょう」

 俺もゾンビにもみくちゃにはされたくない。


「墓石から新たなゾンビが出てきているのを確認した。行くぞ」

 目の前のゾンビの頭を鉄拳で粉砕させながら現れたヴィルゴさんは背後にいたゾンビを蹴り飛ばし道を作った。


「走れ!」

 本当に男前。この人ならゾンビウィルスが蔓延しても生き残れそう。



「噛まれたらゾンビ化とかなくて良かったな」

 ヴィルゴさんがゾンビ化したら手に負えない。プレイヤーの自由を長時間奪う状態異常など存在しないだろうが。そもそもそうだとしたら全滅をあり得る厄介な敵になってしまう。


「ゾンビ化はあるぞ」

 あるのかよ。

「現に私は今ゾンビだ。全体的な能力が下がって、その分HPが上がっている。後衛職に取ってはデメリットだが、前衛に取ってはメリットともなる状態異常だな」

 仲間を襲い始めるとかいうのがなくて良かった。


「気分は大丈夫ですか?」

 後ろから大量のゾンビが追いかけてくるという映画では絶対絶命の状態だが、気楽なものだ。映画のは常に一撃必殺技を使ってくるから比べるのもあれだが。



「食肉衝動はあるが、大丈夫だ」

 何その怖い衝動。


「今は耐えているが2人に襲いかかったら躊躇なく殺してくれ」

 うわー、何この武人。ゾンビ化してるにも関わらず意識を保ってて、襲いかかったら殺してくれか。かっこいいというより気になる点がある。

 これで襲いかかってもPKとはならないだろう。魅了状態と同じだ。


 つまりゾンビ化状態の時は普段と違う設定が使われている可能性が高い。

 ということは。襲いかかっても罪にはならない。運営だって自分が作り上げたシステムのせいでプレイヤーのアカウントを消すということはしないだろう。

 襲いかかっても罪にならないというのがポイントだよ。



「うわぁ!」

 俺は運悪くも走っている最中に転んでしまった。

 先頭を走っていたヴィルゴさんのドロップキックで俺に襲いかかろうとしていたゾンビは消し飛んだが。


「何もないところで転んだが大丈夫か?」

「なんとか」

 ゾンビが弱すぎるのが悪い。

 しかし俺は諦めきれん。どうにかしてゾンビ化する手立てはないだろうか。


 ゾンビ感染者に噛まれるとゾンビ化する。

 しかしゾンビ化させたヴィルゴさんに襲われるということはヴィルゴさんの意識を失ったということと同じ。これは本気で全滅の可能性があるから却下だな。



 考えれば考えるほど不可能な気がしてくる。

 俺が自らゾンビの腕の中に飛び込んでも良いのだが、その場合カラコさんかヴィルゴさんに容赦なく消されるだろう。自然な風を装うのには何か場面の転換がなければ。


 と思っていたらボスの場所へとついた。


「吸血鬼ですね」

 ゾンビ達は俺達の周りを囲むようにして円を作る。

 襲いかかってこいよ! 男だろ? というか何で女ゾンビがいないんだよ!


 ボスの吸血鬼も妖艶な美女というわけではなく、オールバックのおっさんだ。


『久々の獲物か……うん? 1人は既に腐っておるではないか。いらんな』


 偉そうなボスだが。まさか機械人間から血が吸えるとでも思っているのだろうか。それに俺も半分は樹液だぞ?

 もしも俺達がスケルトンだったら。全員腐り落ちているではないかって言ってボス戦なかったの?



「この拳が腐っているかどうか、受けてみてから判断するんだな」

 こうして戦闘は始まったのだが、ゾンビはただのギャラリーと化している。吸血鬼が殺られる度に悲しそうな声を上げているが、手伝えよ。

 吸血鬼のHPは何度もなくなっているが、その度にクッ、とかまだまだ、とかこの程度で我が消えるとでも? とか言いながらHPを復活させている。

 アンデッドはアンデッドらしく塵になって消えていれば良いのだ。


 しかしこのままでは吸血鬼が倒れてしまい、俺がゾンビ化する機会がなくなってしまう。


 吸血鬼は近距離と遠距離を併せ持つハイブリッドタイプのモンスターであるらしく、ヴィルゴさんの相手をしながら俺に向けて魔法を放ってきている。

 誰でも参加できるネタダンジョン程度の火力で俺は落とせないが、そこまで威力がないにも問題だ。威力があり派手な魔法を使ってくれれば俺が弾き飛ばされてゾンビの輪の中に入ることもできるのだが。

 とそこで思いついた。


 相手の魔法が弱いのなら、自分の魔法で吹っ飛べばいいじゃないか作戦。



「カラコさん、ヴィルゴさん! 大技を使う!」

 使うのは衝撃がでかいエクスプロージョン。


「はい!」

 少し後ろに下がった2人の間を吸血鬼に向かって走り寄る。


「な、何してるんですか!?」

「エクスプロージョン!」

 俺は吸血鬼の真正面で魔法を放ち、そして自分も弾き飛ばされた。


 しかし包囲網までは辿りつけない。


「何がやりたかったんですか……」

「ほら、ボス戦だぞ。戦え戦え」

 ダメか。次にHPがなくなったらもう復活しないそんな予感までする。

 俺はどうすれば……。


「なんか2人でも大丈夫そうだから俺ゾンビ達とタイマンしてくるわ」

「ああー、はい」

 え? 何その反応。もっと驚こうよ。

 ボスを無視して戦わなくても良い雑魚と戦おうとしてるんだぜ?

 ボスがただしぶといだけだからってさ。俺いらない子みたいじゃん。


 いやいや、ここは計画が無事に成功したことを祈ろう。


「ファイアソード」

 ここでまさか俺が舐めプをして近接戦闘をするとはカラコさんも思わないだろう。

 こうして近づいてさり気なく噛まれれば……。


 俺が近づくと、ゾンビ達は俺の半径1メートルに入りたくないという風に後退した。

 あれ?


 何なのこのいじめられてる感覚。

 もっと積極的に来いよお前ら! ゾンビだろ?

 俺が近づこうとすると円の形が変化していく。


 まさかボス戦では襲いかからない仕様なのか?

 ある程度まで行くとがっちりスクラムを組んでそれ以上俺が動けないようにしてきた。

 炎の剣で斬っても、俺がタックルしてもお構いなしだ。


 結局無理だったか……。

 俺が無意味にゾンビを切っていると、急にゾンビ達の統率が崩れた。

 吸血鬼の方を見るとHPがなくなって倒れている。


『うう……ハッピーハロウィーン』


 どんな最後の言葉だ。

 吸血鬼の息絶えた場所には魔法陣が。


 あれが出口か。


「シノブさん! 速く!」

 2人は近いが、俺は遠い。そして朗報はゾンビ達が動くようになったこと。

 普通なら倒した瞬間に飛び込めばよいのだろう。


「うわぁ!」

 俺はまたしても転んでしまった。今度はヴィルゴさんも追いつかない。


「うぅ~、肉。肉が欲しい」

 もちろん演技だ。少しカラコさんに食欲が湧いているが、そんなのいつものことである。

 ゾンビ化したところでそんなに変わるわけではない。



「シノブさんがゾンビに!?」

 しかしカラコさんはまんまと騙されてくれたようだ。

 このままカラコさんの首に噛み付いてやる! 運営の許しも得た今の俺は無敵だ!


「せいやっ!」

 カラコさんに襲いかかろうとした俺の身体は宙に浮かび上がった。

 今何が起きた?


「カラコちゃん!」

「あ、はい!」

 俺はヴィルゴさんに関節を極められながら魔法陣の光に飲まれた。


 気が付くと拠点。


「最後の最後で何やっているんですか……」

 最後の最後で、最後の壁を忘れていた……。大切なのはゾンビになる手順ではない。それからどうやってカラコさんに接触するかだったのだ。しかしヴィルゴさんを相手にしてカラコさんに近づけたとは思わないが。


「ゾンビ化は解けているみたいだな」

 解けてなかったらそれは大惨事だな。


 忘れよう。ゾンビ化なんてなかったんだ。


「シノブさん、シノブさんは何が当たりましたか?」

 カラコさんは早速コスプレ衣装を身に着けている。


 ゾンビのコスプレか?

 顔の色が青くなり、顔に縫った後がある。そして目が赤くなっておりカラコさんは大層ご満足なようだ。そして肝心の衣装はナース服をアレンジしたもので非常によろしい。太ももが非常に眩しいな。こういうのも良いものだ。


 さて、俺のものは何だ?


 カボチャ……。何でも良かったのだけど。

 ジャック・オ・ランタンの被り物だ。

 頭から下は黒いマント。

 ジャック・オ・ランタンの目と口からは光が漏れている。


「これ被るのか……」

「今日はハロウィンですよ!」

 仕方ない。

 顔が見えてないのはいつも通りだ。



「それでヴィルゴさんは何を取ったんだ?」

「狼男だ」

 うわー。獣人系に狼男のコスプレさせるとは。確かに耳の形がいつもと違っている。

 そして下はスーツだ。それ以外に何も変わっていない。つまらないものをよこすもんだな。


「俺と交換するか?」

「断る」

 即答かよ。俺の仮装もつまらないものといえばつまらないが。


「どうせだから今日はこの格好で過ごしましょう」

 狩りとかどうするつもりなんだろう。ネタ装備だからほとんど防御力ないぞ。


「この格好で何するんだ?」

「お菓子を貰いに行くんですよ!」

 ほう、現代っ子だな。俺としてはそんなこと考え付きもしなかった。


 しかしお菓子を貰いに知り合いをこの格好で周るとは、知り合いはどんな人達なのか覚えていないのだろうか。面倒くさい、面倒くさいが大人としてはしゃぐ子供に付き合ってやるというのも大切だろう。

 それに他の人達のコスプレも見てみたいしな。

 うん、なんだかんだ言ってもハロウィンを楽しめているような気がする。

ありがとうございました。

この番外編は本編とは全く関係なく、時間軸も少し違います。

ご了承ください。

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