118 拠点
「明日7時に拠点を出発。寝坊した人は後から1人で追いついてくるか、留守番。厩舎はまだ改修していませんが、落ち着いたらする予定です。7時から馬を飛ばして、昼には王都近くのオアシスに到着。そこのオアシスで一旦休憩して、そこから夜にかけて自由時間、午後7時から侵攻という手筈になります」
はいはい。明日7時か。今日は早寝しなくちゃいけないな。
転移魔法陣も綺麗に整えられており、ロードというよりストリートという感じになっている。いや、ロードじゃない、道路だな。
まだ俺の言いたいことがわからない方は結婚までにとりあえずOLやっているような女性が女子力を上げるためにパンケーキとかを食べに来てしまうようなことを思わずアピールしてしまう通りということだ。
果たしてパンケーキを食うことが女子力を上げるのかはわからない。が休日に家でホットケーキミックスを混ぜていることをアピールするよりかは良いだろう。
家庭的な子が良いとか、金がかからない趣味の人が良いとかそういう諸氏らの意見は知らん。
扉をくぐるとそこには大広間が。クエストを受注するカウンターと貼られているたくさんのクエスト。隅には店的なものもある。
冒険者ギルドと同規模にも見えるが、こんな広さが必要なのだろうか。
「ここはホール兼エントランスです。ここでクエストを受注したり、集会を行ったりします」
集会ってなんだろうな。
水曜の朝は朝会とかあるのだろうか、できれば勘弁して欲しい。校長の話しを聞くことほど苦痛なことはないのだ。
……俺が校長みたいなもんか。
大広間を抜けると、たくさんの机と椅子が並んだ。そう、大学の学生食堂って感じの場所がある。しかし周りが石なため、どこかの魔法学校を想像させられる。
そしてここにも言えることだが、10人にも満たない弱小ギルドだったよな、ここ。弱いのかは知らないが。
「そしてここが食堂です。まだコックは雇っていませんが、いずれ雇うつもりです」
「あ、コックの件なら昼だけ師匠が出張して作ってくれるって」
それを聞いたカラコさんは何やら書き込んでいる。しっかりしていることだ。
学食の横にはキッチンがあり、そこから裏の畑に出られるようになっているようだ。
そしてもう一度ホールに戻る。
そして食堂と反対方向の扉を開けるとそこには、やたら豪華な調度品が目立つ部屋。やたらふかふかしてそうなソファーや、豪華な机や時計などがある。
「ここはなんだ?」
遊戯室?
「会議室です」
「遊戯室?」
「会議室です」
俺の聞き間違いではないようだ。
おかしい。会議室というと無味乾燥な白いデスクにホワイトボード、そしてドヤ顔でプレゼンする意識高い系がいるものだと思っていたが。そのどれも見られない。何故かこの部屋だけ、木でできていて、足元にはフカフカの絨毯がある。
「会議室と言っても幹部専用の会議室です。ギルドの方針をここで決めるんです」
ここで決めるのか。なんか凄い適当なギルドになりそうだな。
「奥には給湯室もありますよ」
ここでお茶を飲みながらサイコロを転がすというわけか。
うーむ、中々良いな。
それにしてもこれだけの調度品にいくら使ったのか。自分達が使う所だけやたら豪華にする、嫌いじゃない。
「そして他に倉庫や、使用人さんの部屋、室内訓練場などがありますね。地下にも階段ができて、下りれるようになっています。では2階に行きましょうか。シノブさんの部屋もありますよ」
おお、楽しみだ。
2階は主に居住空間という風になっているようだ。無数の扉が並び立ちホテルのような様相が見られる。
「ここには武器庫、図書館や、迎撃塔に通じる階段があります。その他応接間や罠付きの部屋など、その他の成分をまとめたという感じですね」
罠付きの部屋とか怖いな。寝てたら天井が落ちてきたりするのだろうか。
迎撃塔とはなんだろうか。名前からするとあの塔のことだが。誰かを迎え撃つ目的なのかな。
それにその他の部屋になったのは、大広間と食堂がでかすぎたからではないのか?
「武器庫では様々な武器の貸し出し。図書館では魔法陣の販売を行っています。ではシノブさんの部屋を案内します」
俺は弓しか使わないから良いとして、図書館は1回行ってみたいな。
水魔法とかで使い勝手が良いものがあれば使ってみたい。
そしてお待ちかねな俺の部屋だ。俺にとっては今までに見てきた中で最も大事とも言える。
たくさんある扉の中でもひときわ豪華な扉……でもないな。
カラコさんが鍵を取り出し、扉を開けるとそこには様々な家具が……ないな。
おかしい。殺風景だ。
粗末なベッドがあるだけ。
「ここがギルドマスターの部屋なのか……」
「私室ですから、他の人が入ることはありませんよ」
そういう問題じゃない!
確かに落ち着いた黒っぽい色のフローリングに窓から見える景色は畑全体と銀色のトレントのククも見える。場所は良い。眺めも良い。しかしそれを補ってもどこの囚人だという感じだ。
「これが鍵です」
「ほう、カラコさんの部屋はどうなっているんだ?」
これでカラコさんのところだけ豪華だったら鍵を投げ捨ててやろう。いや、投げ捨てるのは後で自分が困るからその場で叩きつけてやろう。
「私の部屋は横です。見てみますか?」
「もちろん!」
カラコさんの部屋にはベッドの他に棚や机、虎の毛皮の絨毯があり、壁には立派な時計と何かの牙が飾ってある。
「一体なんだって言うんだ……」
俺は鍵を投げる気力もなくして絨毯へ倒れこんだ。この新しい絨毯特有の柔らかさ最高。
「お金ですよ。シノブさんは借金してるじゃないですか」
おかしいな。清算されたのかと思っていたが、俺が何かを買ったりしたのだろうか。
買ったな。昨日結構な買い物をしたのだった。ガラス瓶だけだけどな。
「内装が貧相でも部屋の実質的な性能は変わりませんから。気分ですね」
その気分が落ち込むのが問題だ。
気分が落ち込めば俺のやる気も三割減だ。やる気が減るということは狩りが面倒くさくなって俺のレベル上げの速度が低くなるということだ。レベル上げの速度が落ちれば……まあ、問題ないな。元から常人を遥かに超えるプレイ時間なんだ。
机でもあればモンスターの素材を置けるのにな。
農作スキルもあることだし、今度何か鉢植えにして部屋に置こう。庭に生えてるのを適当に引っこ抜いてくれば良いし。
「建物内ではMPとHPの回復速度が上がります。ベットで寝るとステータス異常の回復速度が上がりますね。倉庫に素材を預けるとギルド共用となるので注意してください。大事な使う予定のある素材は自分の部屋に預けて、それ以外は倉庫へ。また何か欲しい素材があるときは倉庫に問い合わせれば、ギルド員に通達を出します。後はそうですね……武器で入らないと思ったものはギルドで買い取ります。今の所は黒字になる予定ですが、赤字になったら幹部からも容赦なく徴集します。ギルドショップにポーションを卸す時は価格設定をちゃんとしてください。普通のが売れなくなると困るので」
わかりました。
俺がやるべきことは、イェンツさんにヤク草が取れたかどうか聞いて、倉庫にガラス瓶がないか、見て。
ポーションを作って売ることだな。明日イベントだしいつも使わないポーションも使うだろう。
「じゃあ、俺は早速ポーション作って売ってくる」
「そうですか、私は馬の乗り心地を試しに行きますが」
あ、俺もそれやりたい! 馬に乗りたい!
「馬に乗ってから、ポーションを作るさ。どうせ外に出なきゃいけない用もあったしな」
厩舎を見た俺の感想。
厩舎なんてあったんだ。
ボロボロと新しいところの落差が激しい。そこに4頭の馬が繋がれている。
「先を越されましたね」
でも良い奴も残ってるじゃないか。
この白いのとか。
俺が首を撫でると、もしゃもしゃと俺の髪を噛み始めた。現実では髪が汚れるが、ここでは大丈夫だ。
「だ、大丈夫なんですか?」
カラコさん、都会っ子だな。農場ゲームをプレイしていたこともある俺に視覚はない。乗馬はしたことないがな。
「お互いのたてがみを噛むのは馬の親愛を示す動作。俺は気に入られたってことさ」
何か食べられている気がしないでもない。気のせいだろう。俺が樹人だからって半分人間だ。まさかな。
「それでどうやって乗るんだ?」
「裸馬ですから、まだ乗れませんね。今晩には鞍が送られてくるはずです」
ハダカウマ……なんかカッコ悪いな。それに裸とは何事だ。
彼には毛皮という立派な服がある。そして裸馬でも俺は乗りこなしてみよう。古代人類もそうやっていた。
「とうっ!」
俺は馬の上に飛び乗った。取り敢えず繋がれている紐を解く。
大人しいな。
「そのまま走っても落ちるか、身体中が痛くなるだけですよ? そもそも轡がないから操れないじゃないですか」
確かにそうだ。無謀だったな。そもそも轡があっても俺は操れない。走らせる時には足で蹴りつけるとかそういうものがあったような気もするが。
「仕方ない諦めるか」
俺が馬から降りようとした時、これ幸いと馬が厩舎から逃げ出した。
俺は降りようにも降りれず、馬の首に抱きついた。
「シノブさん! 逃したらシノブさんの分ありませんよぉー!」
カラコさんの声もみるみるうちに遠くなっていく。
俺だけ徒歩とか嫌だ! いや、その場合は留守番になるのか?
それだけは回避せねばならん。
さすが馬。速い。
どうやら目指すのは魑魅魍魎が跋扈するこんな馬じゃ一瞬で馬刺しになってしまう森だ。
どれほどここが嫌だったのか。森の中よりかは安全だろうに。
俺はそんな馬に呆れながら上で体勢を整える。といっても両手で首にしっかり掴まっているだけだ。
両手が塞がっているため、スキル変更ができない。こういう相手には木魔法のグラストラップが楽なんだが。
森の中は、夜のように真っ暗だった。馬は行き先を決めているのか、俺を振り落とそうとしているのかはわからないが、暴走しながら進んでいく。
そうだ、念力。これで馬の脚を止めれば。
足が絡まった馬はもんどりうって倒れて、俺も地面に放り出された。
「ゴフッ」
柔らかい苔の上に着地できれば良かったのだろうが、運悪く背中の部分に根があった。馬は力なくうめいている。
やばいな。死にそうだ。馬が。
俺はもちろん吹き飛ばされることに慣れているので、問題はない。別に受け身が取れたとかじゃないが問題はないのだ。そろそろ俺が吹き飛ばされ耐性を取得しても良いと思う。それか自動受け身。
「リフレッシュ」
馬の瀕死状態のHPが全回復した。どんだけHP少ないんだよ。というよりリフレッシュって割合回復じゃなくて固定HPが回復なんだな。今まで気にもとめたことがなかったが、これは最大HPが増えるごとに役に立たなくなってくるパターンだろう。
馬は落ち着いた様子で俺に頭を擦り付けてくる。さっきまで暴れていたのに命を助けられたらこれか。誰がお前の足を絡めさせたのかも知らずに、幸せな馬だな。
「大人しくしてくれよな?」
封印陣に閉じ込められるようになったので、閉じ込めておいた。酷いマッチポンプだが、結果オーライだろう。
今の所は封印陣2つ持っているが、合計幾つ保有可能なのだろうか。
スキルを戦闘用に付け替える。もちろん暗視もありだ。
カラコさんに電話するか。
「あー、もしもーし」
(シノブさん、大丈夫でしたか?)
「無事捕獲。何とか抜け出したいが、どうやって帰れば良いんだ?」
(馬に乗って帰れば良いんじゃないですか?)
帰巣本能というやつか?
「それにしてもこの危ない森で馬が生きて帰れるとは思わない。暗いし足場も悪いしな。少し歩いてみる」
(では、狼煙を上げておきます)
狼煙ですか。木々で頭上が覆われてるんだけどな。まあ、ないよりかは良い。
西に向かうか。西に行ったら街には取り敢えず帰れるからな。
しかしここらのモンスターのレベルがどんなもんか、それが心配だ。
低くすぎるのも、高過ぎるのもよくない。エアバレット一発で倒れてくれるぐらいが1番良い。
ありがとうございました。
ハロウィンというのを今思い出したので番外編書いてます。
なるべく今日中にはあげたいです。




