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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
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117 脱出

 いくつかの解決策をここに提示しよう。


 一つ目はトンネルを斜めに作ってそこから出る。問題は時間がかかることだ。


 二つ目は魔法装とテイルウィンドを使い、ここから飛び上がる。もちろん出れる保証はない。


 三つ目、あえて出ない。逆転の発想だ。モンスターも、あの穴に入ってるやつは肝心な時に飛び出してきて何か技を放つに違いないと思って気にしていたのに、カラコさんだけで自分の命が尽きてしまい、あいつなんだったんだ……との疑問を残しながら死んでいくことになるだろう。

 三つ目は、モンスターに俺のことを気にするだけの知能が必要ということが条件だが。



「キャーー!」

 俺がどれを選ぶかゴーレムと話し合っていると、突如カラコさんの悲鳴が穴の中まで反響して聞こえてきた。



「カラコさん!」

 カラコさんがあんな声を出すなんて目の前でサルのような人間が裸になったとか、口から汚物を吐いたとか、排泄物を投げつけてきたとかそんなものだろう。

 俺の穴の側を物凄い勢いで駆け抜けていく軽い足音、そしてそれを追いかける重い足音。

 元気そうだな。HPとかを見る限りピンチってわけじゃなさそうだ。



「シノブさん! これ! 絶対猿じゃありません!」

 一体どんな外見なのか。相当グロテスクなんだろうな。

 今は1番確実なトンネル掘りで行くか。


「ゴーレム、戻れ。トンネル」

 ザクザクと掘られていく地上へ向かう穴。ある程度掘り進んだところで、地面も揺れるような轟音が。一瞬崩落事故を考えたが、魔法で作られた穴は丈夫だったようだ。


 また自爆するようなやつだったのか?

 俺は土が掘られるのが焦れったく、薄い地面の壁を体当たりをして破り、地上へ飛び出した。



 そこには肩で息をするカラコさんと、クレーター。

 うん、わかってた。

 何かあれば俺にあのクレーターを生み出すものがぶつけられることもありえるんだな。

 カラコさんを本気で怒らせないように気をつけよう。


「大丈夫だったか?」

「シノブさん、遅いですよ……」

 すまん。ここはすまないとしか言いようがない。

 呑気に穴の中で理由もあるし、カラコさんに任せておこうとか思っていた俺が悪い。


「それでどんな猿だったんですか」

「思い出させないでください……」

 げっそりとした様子で地面に突き刺した刀に寄りかかるカラコさん。そんな杖みたいに刀を使ったら刀が泣くぞ。


 カラコさんがこうということは相当グロテスクか何かだったんだろう。倒したらゾンビになって口から触手が出てきたとか。至近距離でそれを見せられたらそりゃ叫ぶ。



「次は鳥だな」

「……ですね」

 カラコさんのMPはごっそり減ってるし、俺が頑張るしかあるまい。一戦サボったことで回復したし。


 これで出てくるのが鶏か、空飛ぶ鳥かにやっても難易度は変わるだろう。


「来たな」

「美味しそうですね」

 カラコさんがそんな発言する人だとは思っていなかった。

 調理前のもも肉を見て美味しそうと思う人なのか。想像力が豊かだな。


 見る人によってはグロテスクとも思う。羽毛のない鳥だ。


 2メートルほどの体長ということを除けば、極めて普通の羽を毟られた鶏。

 ハゲワシならぬハゲニワトリだ。


「チキン野郎!」

「メスだったらどうするんですか?」

 まさかそんなツッコミが入るとは。しかしカラコさん、よく見ろ。


「あの頭についてる肉塊はオスの証しだろう。赤いし」

「確かにそうですね」

 俺たちがこうして呑気に話しているのも、ニワトリが呑気に地面をつついてるからで。


「ネズミの時みたいな当たりでしょうか、いや、外れ?」

「戦闘狂にとっては外れ。俺たちにとっては当たりだ」

 となると犬は強敵かもな。


《行動により【錬金術Lv7】になりました》



「もう良いですか?」

「ああ、やってくれ」

 俺たちのMPもHPも完全回復。英気も養えて、戦闘意欲もばっちしだ。


 カラコさんが刀を手にハゲニワトリに近づいていく。

 そして刀を振り下ろす瞬間。


 今まで見せていなかった機敏な動作で刀をかわし、カラコさんにワンツーパンチを打ち込んだのだ。

 手がないのにパンチというのはおかしいと思うが、それ以外に表す言葉を俺は知らない。名付けるなら翼叩きだろう。


「きゃっ」

 余りに意外な攻撃だったからか、受身も取れずにカラコさんが地面に転がる。


「大丈夫か?」

 ニワトリは先ほどの機敏な動作が嘘のように地面を引っ掻いている。


「驚きました。あのニワトリ、好戦的じゃないだけなんですね」

 確かに命を奪われそうになったら誰でも抵抗はすると思うが。


「武闘派だったんだな」

 そうだとしても補助とか魔法系だと思っていたんだが。ヴィルゴさんがいたら喜びそうだ。

 仕方ない。俺がやるか。


「ストーンバレット」

 よ、避けられただと?


「かなり厄介な相手ですね」

「最強の平和主義者だな」

 それが避けられたなら仕方ない。俺の本気を見せてやろう。


「展開、装填、加速、付加、チェイスアロー、ロックショット!」

 加速し、硬化した弓は物凄い勢いでハゲニワトリの元へ飛んでいき……。



「白刃取りだと?」

 両手を合わせるようにして受け止められた。ダメージは入っていない。

「……勝てる気がしなくなってきました」

 まさか俺の矢を見切り、しかも指のないその貧弱な羽の成れの果てで掴まれるとは。

 こいつはどれほどのポテンシャルを秘めているんだ。



「いや、こういう相手は防御力が極端に低いのが定石だ。1発でも当てれば良い。広範囲魔法で攻める! エアカッター!」


「いや、エアカッターは範囲が狭い。拘束してから倒そう! クラック!」


「アースニードルアースニードルアースニードル! こいつ飛べるのかよ!」


「貴様は俺を怒らせた。展開、装填、破壊、付加、連射、ダブルアロー、チェイスアロー、ウィンドショット!」


「ふははは、焼き鳥にもならない肉片になってしまうが……マジかよ」





 俺は自分の無力さに涙を禁じえず。その場で倒れていた。

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫なわけないだろ」

 何なんだよ、この悪魔。

 何? 魔法使いキラーですか? ソロでこいつにあったら死ぬしかないの? 俺はハゲニワトリにも劣る狙撃手なの?



「遭遇報告は見つかりません。何か攻略する方法があるはずなんですが」

 そうだな。運営が無敵の相手を出すはずがない。必ずや誰でも倒せるような弱点があるはずだ。


「餌でもやってみるか」

「そうですね」

 何故持っているのか、カラコさんがトウモロコシを取り出して放り投げる。

 空中でキャッチして、飲み込んだ。


「ナイスキャッチー」

「相手の敵意がないのだから油断させて倒すのが一番なんでしょうか。仲良くなってから背後からグサっとか」

 中々酷い作戦だな。それだけ酷いモンスターだが。

 これだけの自己防衛力を持ってるんだから、餌付けて持って帰れればさぞかし強い戦力になるだろう。


 だからといって調教を取得する気にはならないが。

 あ、封印陣がある。


 カラスが死んだ後、封印陣は空いている。今のところは無しというモンスターを従えていることになっているが、そういう透明なモンスターがいるわけではないだろう。これは普通に無しという意味だろう。


 封印陣を作動させる方法はわからない。しかし試してみる価値はある!


 相変わらずハゲチキン野郎はカラコさんが投げる野菜をパクパク食べている。それ拠点で取れたやつだよな。どんだけあるんだ。


 しばらくすると、野菜を食べるペースが落ちてその場に座り込んで居眠りを始めた。


「やりましたね! お腹を一杯にするのが攻略のポイントでしたか」

 食糧を持ってない状態でこいつと出会ったらやはり死ぬのか。

 哀れなニワトリを襲う肉食ウサギのようにカラコさんは忍び足で近づいていく。


「待ってくれ。俺に試させて欲しいことがある」



 この封印陣というのは最もゲーム的なシステムだ。馬など拠点がなくても買えるように、この封印陣があるのだろう。

 それなら封印陣に馬を入れるのは簡単なのだろう。

 懐いてさえいれば。


 そして懐いていなければ野生動物がさせないことがある。近寄らせないことだ。この俺の考えがあっているならば、しばらく触れるほどの絆があれば、封印陣に閉じ込められる!



《封印陣に【肉鶏ブロイラー】を登録しますか》


 酷い名前だな。こいつ食用なのか?

 もちろん登録にはYesだ。



《戦闘行動により【弓術Lv20】になりました》

《レベルアップによりスキル【ラピッドシュート】を取得しました》



《戦闘行動により【土魔法Lv17】になりました》

《戦闘行動により【風魔法Lv13】になりました》



「ブロイラー、ゲットだぜ!」

「ほ、ほぉー……」

 なんだその反応は。

 俺が飛び上がってガッツポーズしたからか?


「驚きですね。どうやったんですか」

「封印陣にモンスターを封印する条件、それがわかったのさ。一定時間モンスターに触れていると、封印できる」

 相手が抵抗していないとかの条件もあると思うが。


「出てこいブロイラー」

『コケーコッコッコッコッコッ』

 うるさいな。さっきまであんなに静かだったのに。


「この鳥には苦労させられましたね……」

 俺の予想は当たっていたな。

 次はまあまあ強い犬が来るはずだが、いや、そこそこだっけ?

 何でもいいか。



 レベル20になったからか、ラピッドシュートというものを覚えた。ラビットかと思ったらラピッドだ。

 次使ってみるか。



「ケロベロスだな」

「ですね」

 頭が3つある。こちらは2人と1匹。1人1つの頭だな。


 といってもこの鶏肉は戦えない。しかしその命を守るためには凄まじい力を見せる。

 そう、そんなやつを最大限活かすには、盾にすれば良いのだ。


「展開」

 3匹の頭が一斉にこちらを向く。


「装填、加速、付加、ラピッドシュート」

 俺がラピッドシュートと言った瞬間体が動き矢を放った。狙いもろくにつけていないのに、ケロベロスの頭に当たった。これは自動で狙いをつけて放つスキルなのか? どっちにしろ、最後に発動させるべきスキルだな。


 恐ろしい唸り声を上げて走ってくるケロベロスにカラコさんが向かう。


 俺は鶏肉の後ろに隠れた。

 カラコさんの2連撃がケロベロスを斬り裂くと同時に鶏肉が斬り裂かれた。


「ブロイラァァアア!」

 あの時の強さはどこいったんだよ!


 ブロイラーは哀れにも、消えていった。野菜だけ食って寝て消えていった。

 なんて奴だ。野菜食った分だけ無駄になったじゃないか。


「クラック、ブラスト、エアカッター!」

 クラックを敵の後ろに作り、ブラストで無理やりハメ、エアカッターで斬り刻む。幸いそこまで硬くないようだ。

 そこをカラコさんが追撃することで終わった。



《戦闘行動により【風魔法Lv14】になりました》



 一体なんだっていうんだ。封印陣って戦闘に向いてないの? 弱体化ってなんだよ、本当に。確かに弱体化もしないで、消費MPもないのは強すぎると思うけどさ。封印陣はペットとして使うか、乗り物用としか使えないんだな。


「御愁傷様です」

「戦わせることは諦めた」

 最初のカラスもペット用だったのだろう。何か友好的なモンスターがいたら、ペットとして飼ってみたいものだ。


「ようやく最後ですね!」

「色々得たものはあったな。イベント前の良いレベル上げにもなったし」


 出てきたのは普通の猪。

 かなりデカイけどな。


 カラコさんが刀を抜かずに走り寄る。


「居合斬り!」

 目にも留まらぬ斬撃が猪に繰り出される!


「一刀両断!」

 猪の体が光る刀によって両断される!


 HPバーは砕け散った!



《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》

《スキルポイントが2増えました》



 カラコさんは残心した後、刀を鞘に戻した。拍手したくなるような腕前だな。

「すみません」

「いやいや、謝るなら。やめよう? 居合斬りの時点で半分削れてたじゃん。あそこで俺が何か魔法放ったら終わってたよ?」

 カッコ良かったんだから、ついやってしまう気持ちはわかる。




種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv35

称号:神弓の射手


スキルポイント:22


 体力:90(-35)

 筋力:30

 耐久力:40

 魔力 :105(+5)(+88)

 精神力:105(+49)

 敏捷 :20

 器用 :80(+78)【158】



 魔力に振る。既定路線ですね。



「拠点に帰りましょうか。シノブさんも自分の部屋を把握などしておいたほうが良いと思います」

 おお、期待のギルドマスターの部屋! 一体どんな場所なのか。


 俺達はようやく出てきた魔法陣に乗ってオアシスの外に出てきた。

 さて帰ろう。

ありがとうございました。遅れてごめんなさい。

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