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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
116/166

115 準備運動

 暗いからか、涼しい……というより寒いぐらいだ。


「新しい弓ですか」

「手抜き用にな」

 我ながら意味がわからない。何故手抜きをしなければいけないのか。

 いや、手抜きという言い方が悪かったな。超火力で敵を全て殲滅させて、皆から非難を浴びないようにだ。


「その弓の効果は知りませんが、矢は必要ないんですか?」

「あ」

 すっかり忘れてた。アイテム欄を見ると微妙にある。後12本。

 仕方ない。少し使うだけで後は神弓を使うか。



 1つ目のオアシスを見つけることに成功。ミスリルがないとか言っていたが、ここに出てくるモンスターでミスリルをドロップするものはいないのだろうか。


「行きますよ」

「おう」

 まあ、俺とカラコさんだけで倒せない相手は出てこないか。


 入ったところに現れたのはゴブリン。

 しかも1匹。


「飛斬!」

 カラコさんの斬撃が飛ぶが、死んでいない。1匹補正だからか硬いな。

 俺は弓に矢を当てる。

 すると矢は水を纏った。こんな風になるのね。


「ウィンドショット!」

 飛んで行った矢はゴブリンに突き刺さり、周りに傷を作る。

 しかし死なない。


 棍棒を手にこちらに走ってきているだけだ。何だか薄気味悪いな。


「ムーンアロー!」

 カラコさん、俺のポジション奪うなよ。三日月のような弓を構えたカラコさんが光の矢をゴブリンに向けて放つが。


 ゴブリンが突如巨大化した。

 天井すれすれの体に、巨大な棍棒。


「お、おお」

「これが正体ですか。背が高いから破竹が効きそうですね」

 カラコさんは冷静だな。


「テイルウィンド」


 カラコさんが攻めるなら俺はサポートに徹するか。今はそんなに火力もないことだし、どうも魔法の効きが悪いような気もする。


「クラック!」

 1秒で足を引っこ抜かれた。しかしそれだけの時間があればカラコさんが接近するのには十分。


「破竹!」

 カラコさんが頭まで飛び跳ね、刀で真っ二つに。

 だがまだしぶとくHPが1割残っている。


 カラコさんが足元を走り回って斬りつけていっている。

 良い的になっている。


「エアバレット!」

 エアバレットもいまいち魔力操作の感覚がつかめない。弾速が速いからだろうか。ファイアボールみたいな遅くて見えて、イメージしやすいものしか俺はいじれないんだな。



 俺が魔法を撃ち込み、カラコさんが斬っているとでかいゴブリンは倒れた。


 やたらタフだったな。イベントにいたゴブリン大とは違うのか?




《戦闘行動によりレベルアップしました。ステータスに5ポイント振り分けてください》


《スキルポイントが2増えました》


《戦闘行動により【風魔法Lv7】になりました》

《戦闘行動により【土魔法Lv15】になりました》

《レベルアップによりスキル【トンネル】を取得しました》





種族:半樹人

職業:狙撃手 Lv34

称号:神弓の射手


スキルポイント:20




 体力:90

 筋力:30

 耐久力:40

 魔力 :100(+5)(+38)

 精神力:105(+9)

 敏捷 :20

 器用 :80(+78)






 こうして神弓によるマイナス補正がなくなると無振りの体力が3番目に高いという樹人の特性が出ている。2回上げるだけで3桁にいってしまう。魔力をあげよう。


 そして新しい呪文。落とし穴でも作れというのか?


「シノブさん、ドロップアイテム見てください!」

 何だろう。

 アイテムに追加されていたのは、ルビー。宝石か。


「私はダイアモンドでした!」

 嬉しそうだな。カラコさんも女子なのだろう。


「俺はルビーだな」

 これは装飾品に使えそうだな。ルビーだから火魔法の威力が上がるのかな?

 具現化させると小さな小さなルビーがあった。


 まあ、拳大の大きさでも扱いに困っていたと思うが。

「綺麗ですね」

 原石とかじゃなく、加工済みでちゃんとカットしてある。何故モンスターから加工済みの宝石がドロップするのか。

 しかもゴーレム系ならわかるが、ただのゴブリンがでかくなったやつだ。

 名前は知らないが、宝石の番人の設定があるモンスターだったりするのだろうか。



「カラコさん、錬金術取得したから何か直したいものあったら教えてほしい」

 瞑想でもするか。


《行動により【瞑想Lv2】になりました》


 ようやくレベルが上がったか。

 俺の前に置かれていたのは3本の刀。


「よろしくお願いします」


 瞑想のレベル上げも兼ねて、錬金術を自分のMPで回復してみよう。



 なにこれ。何で1本で半分近く削れてるんだよ。


「刀は耐久が低いから、扱いが難しいんです」

 なんだ、自慢か? というか何で壊してないんだろう。ギリギリの部分で耐えてたのか?


 瞑想を繰り返し、刀の耐久を最大まで回復した。


《行動により【錬金術Lv6】になりました》

《レベルアップによりスキル【複錬金】を取得しました》



 アクションスキルか。

 どうやら一気に色んなものを錬金できるようになったみたいだ。ルビーとかも錬金できるけど何になるのだろうか。


 試しにスライムの粘液を錬金したら聖水になった。粘液が聖水……。体液繋がりかな? そしてこの聖水は飲めるのだろうか。

 ……邪悪なものにかけるとダメージを与えるらしい。

 神に祝福された水らしいが何の神だ!


 普通の人ならここで安心して飲んでしまうのだろうか、俺には1つの懸念事項がある。

 俺は邪悪なのか。


 いや、さすがに邪悪と言うほどではないと思う。

 でも混沌か秩序でいえば混沌寄りだろう。


「何を試しているんですか?」

「このスライムの粘液を錬金して作り出した聖水。何にかけるとダメージか考えていたんだ」

 まさか即死はないと思うが。


「吸血鬼とか狼男じゃないですか?」

 そっちか。

 カルマが高ければダメージとかPKはこれを嫌うとかかと思ってた。

 確かにそっちだな。


 投擲スキルがあれば投げて使えるだろうが、ガラス瓶を消耗するのが痛いな。

 それよりかはプレイヤーの吸血鬼を毒殺とかの方が使いやすそうだろう。


 聖水を紅茶に混ぜて、出すとか。

 友好を装い、吸血鬼ギルドに潜入。そして料理を振る舞い、皆で食べる。俺たちだけ無事で。弱った他の連中袋叩き。ギルドポイントゲット。


 やめておこう。神弓で遠くから拠点を爆撃とか、代わる代わる番をして、出てきた瞬間攻撃とかの方がまだ良い。



 いらないものを突拍子もないものに変えることも可能みたいだ。

 ちなみにゴブリンの肉を錬金したら呪われた肉塊に姿を変えました。呪われたって何なんだろうな。師匠なら料理できるかもしれない。


 基本は装備に何か付加価値をつけたり、MPとかを使って耐久を回復するものだと思っていたが、大量に何かのアイテムを手に入れたら試してみたいものだ。



「ありがとうございます。では次行きましょうか」

 何戦ぐらいするのか。

 多ければ多いほど良いが。



「それにしても、カスタマイズしたのは良いけど全然使ってなくない?」

「魔法を使うことになったのがまず予想外だったので。次の戦闘では使いましょうか」


 確かに、魔法あったらいらないもんな。毒の霧も、魔法とは違って本人まで見えなくなるし。


「いや、別に使わなくて良いんだが……」

「シノブさんも知っているようにそもそも私は侍経由での暗殺者を目指していたんです。魔力を持ってしまったとしてはどうすれば良いんでしょうか」


 言ってたかなぁ。


「今は忍者か魔法戦士のどちらかになりたいと思ってるのですが」

「勇者になれば良いんじゃない? 称号があるなら職業もあるっしょ」

 おれは何になろうかな。

 王都行ったら絶対次の職業選ぶことになるだろう。


 ま、その時決めれば良いか。


「あったとしたら1人専用職になっちゃいますよ」

 上位プレイヤーにわざわざ1人ずつ称号をつけるというマゾな運営だから、あると思うけど。



 次のオアシスでも早々に泉を見つけることができた。


「さっきのとは違ってわかりやすそうですね」

 さっきのはわかりやすかったと思うが。見ての通りパワーファイターだったし。1番嫌なのは見た目からして魔法使いかと思いきや、肉弾戦仕掛けてくるやつや、その反対だ。


 今回の敵もわかりやすいといえばわかりやすい。


 ネズミ。

 小型犬ほどの茶色の大きさのネズミだ。カラコさんは虫は苦手なのに、こいつは大丈夫なのか? あれ? でも俺が買ったハチを見ても何もなかった。

 じゃあ、一体何がダメだったのだろう。


「飛斬」

 こちらに向けて悠長に威嚇をしていたネズミをカラコさんが真っ二つ。この飛斬ってクールタイムが短いみたいだな。


 HPも砕け散る!


「すみません」

 いや、あれだけ弱かったなら経験値もあまりないはずだ。


「次はもっと手応えあるのが来てほしいな」

「そうですね。私はスピードがあるモンスターが良いです」

 そんな風に言いながら、歩いていて外に出ようとしたが。


 魔法陣が出ない。


「まだ倒してないということですか」

 カラコさんが刀を抜き、辺りを探る。

 呆気なすぎたと思ったら、それか。


 突如魔法陣が現れ、そこからモンスターが湧き出てきた。


 ウシ。

 赤色をした牛がこちらに向けて突進の準備をしている。

 レッドなブルだが、翼は生えていない。しかしピンチになったら翼が生えて飛んでも動揺しないようにしよう。



 念力で動かせないか、試してみるか。

 イメージとしては押すイメージ。


 はあぁぁぁ!


 ダメだ。全然効いてねえ。

 これって戦闘じゃ使えないのか? それともあいつが重すぎるせいか。有効距離とかもあるのかもしれないな。


 カラコさんが構えているから大丈夫だとは思うけど。


「シノブさん、避けてください」

 え、今から? いやいや、避けるぐらいなら迎撃するよ。


 あ、木魔法つけてないから、グラストラップできねえ!


 カラコさんはウシと真っ向からぶつかるように走り出した。



「テイルウィンド!」

 これは自分用だ。迫ってくるカラコさんを無視して俺だけを狙ってる。目が血走ってるよこのウシ。


 カラコさんがウシと激突すると思えた時、カラコさんは突然飛び跳ねた。そして刀をウシの背中に突き刺して、飛び乗った。


 Ninja!

 いや、忍者じゃない。侍だ。

 ウシは上に乗っているカラコさんを気にせずに俺に向かって走り続けている。



 よし、行くぞ。カラコさんばっかりに良いところを奪われては困る。


 3、2、1、ダイブ!


 俺はハリウッドのスタントマンも驚くような華麗な跳躍を見せて、顔面から地面に着地した。

 あいにく俺は武道経験はないので受身は取れない。学校の授業も剣道をしていたのでな。剣が扱えるわけではないが。


 俺が立ち上がるとカラコさんが、2本目の刀を突き刺しているところだった。

 ウシはHPが減っているが気にした様子もなく、俺に向けて照準を定めている。

 ファイアウォールが使えれば返り討ちにしてやるのに。その場合は上に乗っているカラコさんも丸焦げだが。


「ゴーレム!」

 あいつを受け止めるのは無理そうだけど。俺の身代わりとなってくれ。

 あいつがゴーレムを砕くのと同時に俺がクラックで止める。そして止まったところをヤる。

 いざとなればさっきのような華麗な跳躍で回避すれば良いだろう。



 カラコさんは大丈夫そうだな。凄いのはほとんど2本の手で体の体重を支えているという点だ。

 いや、ウシが暴れててそこ以外に落ち着ける場所がないというか。他の部分に触れて、吹き飛ばされそうになっているのを刀に掴まって耐えているという感じだ。


 大変そうだが、動き回るあのウシ相手には良いダメージになっている。俺がかわしてるだけでしばらくしたら息絶えるだろう。


 まあ、1人に任せるつもりはない。


「クラック!」

 ゴーレムを突き抜けたところに呪文を食らわせる。

 ハマった! がカラコさんも振り落とされてしまった。

 すぐさまもう1本の刀を抜くのは凄いと思う。


「邪眼!」

「トンネル!」

 ハマっているウシの足元が削れていく。垂直にトンネルを掘って落とし穴。


 クラックから抜け出した時には体の半分は埋まっている。前足をかけるが、その蹄で体重を支えられるはずもない。

 これが俺のスタイリッシュな戦い方だ。


 その後カラコさんと上から魔法を撃ち込んで終わりました。

 羽がなくてよかった。



「色々使える場所がありそうな魔法ですね……」

「大丈夫か?」

 何だか顔が青い気がする。最近目から水が出てたこともあったし、秘密裏にアップデートされているのだろうか。汗は出なくても良い。いや、言い直そう。俺の汗は出なくていいが、女子は汗だくにしてほしい。


「少し酔ってしまって……」

「リフレッシュ」

「あ、ありがとうございます」


 気分だけでもという感じだ。

 ほんの少しだけだが、カラコさんはダメージを負っていたしな。


「連戦ですか……」

 そうみたいだ。

 一体何匹と戦うのか。これはパーティー戦推奨だろう。さっきも壁役がいればウシを受け止めている間にアタッカーが攻撃するので終わっていただろう。



《戦闘行動により【風魔法Lv8】になりました》

《レベルアップによりスキル【エアカッター】を取得しました》

《レベルアップによりスキル【レジストウィンド】を取得しました》



 エアバレットの上位互換だろうか。それと8でいつも覚えるレジスト系。

 瞑想しとくか。


「来ました」


 次は電気を纏ったトラ。

 パターンが見えてきたな。


 ネズミ、ウシ、トラ。

 ときたら、干支だろう。

 子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥。


 後、10匹……。

 神弓使うか。

ありがとうございました。

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