114 異変
前話、ループしていた場所を10月27日2時頃修正しました。
申し訳ありませんでした。
「お待ちどー」
俺の前にモヤシが多すぎて麺や他の具が見えないラーメンが置かれる。
「モヤシ派には受けるだろうが……これ新メニュー?」
「いや、余っててダメになりそうだったから、サービスだ」
前半いらねえよ。普通にサービスって言っとけよ。モヤシ好きだから別に良いけど。
ここは俺の近所にあるラーメン屋苦楽園だ。失楽園みたいな名前だと思って聞いたことがあるが、失楽園というものの存在を知らなかった。別に文学作品を読んでなくても働ける生き証人だ。
父親1人で娘を育て上げて立派なことだと思う。
「忍海さん痩せましたか?」
来るたびに言われているような気がするな。
昼時だからか客は多い。しかし常連の顔を覚えてちゃんと挨拶してくれる舞ちゃんはこの店に来ている大きな理由だ。
「ちゃんと栄養剤は飲んでるんだがな」
「それだけじゃエネルギー不足です。昨日のご飯の余りですが、サラダ食べます?」
一言多いのは娘も同じだ。
店の奥からラップをかけられた。ポテトサラダを持ってくる。
「じゃあ、いただくよ」
小鉢にポテトサラダが盛られる。
「お、美味そうだな。俺にもくれないか?」
「もちろんです。ただし何か追加注文してください」
「えぇ〜、じゃあ生1つ!」
昼間っから酒を飲むおっさん。仕事の昼休みじゃないのか。
ラーメンをすすりながら、携帯端末でGWOについて調べる。
公式サイトにも神について書かれてるのは紹介文だけだな。神の力が満ちる世界で生きろか。満ちていたというのが正しい気がするが。
そしてGWO本スレを見るとそこは凄まじい勢いで伸びていた。
思わず箸を止め見入る。
夜が明けないww極夜かよ
暗視なくても街中は大丈夫だけど、東の森は本当に真っ暗
世界の終わりか
イベントキターー!!
いったい何が起きてんだ。
聞いてみるか。と思った所で三行で説明してくれていた人がいた。
朝来ても真っ暗
高位NPCが均衡崩れたって言ってるプレイヤー多数
トッププレイヤー達が王都攻略参加
なるほど。均衡が崩れた。
夜の神が解放されたからか?
そして魔女以外にもいるだろう、神と関係があるNPCがそれを察知、その言葉を聞いてトッププレイヤー達が王都に行くと。
王都には昼の神がいるのだろう。
「おい、伸びちまってるぞ。新しいのを頼んだ方がどっちも嬉しいwin-winだ」
「俺は金が減って悲しい。伸びてても食える。ライス大くれ」
さて、カラコさんはどうしてるのだろうか。ギルドお披露目パーティーより、王都攻略の方が先だろうな。そして新しい弓を使う機会。イッカクさんに頼んでた鎧はさすがにまだだろうな。
俺は伸びたラーメンをおかずにライスを食べ、ポテトサラダと追加の餃子を食べて、ビールを飲みたくなるのを我慢して天津飯を注文して食べた。
「ごちそっさん」
『ありがとうございました。料金は……2150円です』
動けるのにレジ打ち係りとなっているロボット。新しいうちにサッサと売ってしまえばよいと思うのだが。
俺はピッタリと金を出し、店を出た。
「夜も来てくださいねー」
来れないな。
コンビニで生活必需品を買ったらログインしよう。
おはようござ……こんばんは?
これで雲が出ていて、雨が嵐のように降っているんだったらわかる。しかしいつも通り本日は晴天なりなのに暗いのだ。晴天なのに暗いとは混乱する。
メールが来てるイッカクさん。仕事早いな。もう早速できたようだ。
拠点だがすっかり外見は完成に近い。
しかし工事音がするところを見ると見えないところでは工事は続いてるらしい。
「シノブさん、こんにちは。知ってますか?」
カラコさんが知ったことで俺が知ってることなんてあるわけないじゃないか。
「何かのイベントです」
あ、知ってた。珍しい。というより俺が暇つぶしに調べてたからだな。
「明日、土曜の朝に王都に向けて出発だそうです。馬の値段が急に高くなったので、もし行くことを決めてなかったらと思ったらゾッとしますよ」
馬はもう買っておいたのか、名前は何にしようか。五郎丸とかが良いか。別に乗って戦うわけじゃないから良いのだけど。
「私は今から少し狩りに行こうと思っていたのですが、シノブさんも一緒にどうですか?」
いきなりイベントでは体の感覚が追いつかないかもしれないからな。久しぶりに狩りを解禁するか……てか結構俺戦ってる気がする。
「とその前に受け取りに行きたいものがあるんだが」
カラコさんは俺が新しい装備を作ってもらったと聞くと羨ましそうにしていたが、カラコさん勇者だし、月の神の力持ってるし、これ以上強くなってどうするの? もしもカラコさんが俺レベルの武器と防具つけたらイベント1人で終わらせちゃうじゃん。
「てっきり朝に取りに来るかと思ってましたがー」
今は一日中夜だけどな。
「それでどんな性能なんだ?」
鑑定では相変わらず見えない。
「器用に50、魔力に30、特殊能力として念動力がつきますねー。そして各種生産スキルにプラス補正。さすが神レベルですー」
と言ってイッカクさんが取り出したのは、銀色の小手のみ。
「あれ、これだけ?」
「ミスリル不足ですー」
ミスリルと混ぜて作られたのか。
「β版時からこっちに持ち込める最高の素材がミスリルなんですよー。そしてまだ採掘場所発見されてませんー。1度目のイベントでも一気に値段が跳ね上がり、今回のイベントの始まりで、ミスリル製の武器を1つ売ればしばらくは金に困らない程度に高くなっていますねー。売る人はいませんが」
恐ろしい。そんなものを使ってもらったのか。
「ちょっとは自分の装備がどれだけのものなのか考えて欲しいですねー。最高の職人が最高の素材で作った。このゲーム最上のものですよー?」
自分で言うのか。しかしイッカクさんの人気を見ると確かにそうだろうとは思う。調合スキルはただ混ぜるだけだけど、鍛冶とかって難しそうだもんな。本当に感謝してますよ。
「そ、それでいくらなんですか……」
カラコさんが怯えてる。そんなにガタガタ震えちゃって、まるでGを前にしたかのように。
「……ですー」
カラコさんが倒れた。一体何が起きた。
「すまない、よく聞こえなかったんだが」
「1億ぐらいですー」
えっ?
あれ?
なんかキリがいいよな、1って。俺は1好きだな。うん。
え?
ちょっと待て、今ギルドって800万ぐらいの資産を持ってたはずだ。ワイズさんとかヴィルゴさんとか金持ってる人達が出してくれた結果だ。
俺からも容赦なく取り立てようとしたが、ワイズさんが俺の貧困状態を憐れんで止めてくれたそうだ。弓は金かかるしな。
たった10人で800万というと1人80万だしたことになるが、俺と非廃人グループの2人は金を持ってないので、免除。
師匠から200万を貰って、その分は俺が納めたことになってるから、ヴィルゴさんの次に俺は金を出していることになる。
話は変わるが、日本の単位というのは凄くカッコいいと思う。
一十百千万億兆京垓……恒河沙、阿僧祇、那由多、不可思議、無量大数とか。
恒河沙、阿僧祇、那由多、不可思議の四天王っぽさと、無量大数から漂うラスボス臭。
はあ。
帰ろう。
「カラコさん、俺たちの負けだ」
ボクシングで負けた人のように真っ白になって朽ち果てているカラコさんを抱えて、イッカクさんの方をちらりと見る。
その顔は俺たちにその値段が本気なのだということを改めて知らしめただけだった。
完。
俺たちはイッカクさんの店の前で作戦会議を始めた。
「カラコさん、どうしよう」
「どうしようって……あんな額何年かかっても返せませんよ……」
いや、1年で億は普通に稼げると思うけどな。てかあの小手1つでそれだけなら神弓なんて今インフレが大変なことになってるだろう。
というより払える人いないだろ。あれ絶対ふっかけてる。
ワイズさんだって数百万ポンとだせるけど、1000万とか言ったら厳しい顔すると思うぞ。
少ないミスリルを他のプレイヤーから買い取ったならそれぐらいの値段にはなるとは思うが。
「よし、俺の値下げテクを見ときいや」
スキルポイントがもったいないからスキルは取得しないが。
「シノブさん関西の人なんですか?」
「いや、違うが」
値下げに地域なんて関係ないだろう。可愛い女の子のAIに執拗に値下げをせまり困り顔で謝られたりしたものだ。でも店によっては応じてくれるAIもいたりするのだ。
「10万で買った!」
「せめて3000万ですねー」
「100万!」
「1000万」
「200万!」
「500万これ以上は譲れませんねー」
カラコさんは微妙な顔をしている。一億で始まって500万まで値下げするのが不審だって? 安くなったんだからいいじゃないか。
「実はあれぐらいのものでもないとレベルが上がらなくて、金はかかるけど経験値を買ったって感じですねー」
ということは?
「お金ができたらか、良い素材が手に入ったら私のところに送ってくれるだけで構わないですよー。最近商人のNPCを雇ったのでー」
カラコさんは胸をなでおろした。
良かった。本当に驚かせるなよ。
「シノブさんはいまいち自分の装備の価値をわかってなさそうだったのでー」
わかりました。大切にします。
水神の鎧の腕部分を外し、小手をつくる。
「そういえば、この名前は?」
「魔女の腕、ですねー」
何だか薄気味悪い名前だな。
念力を試してみるか。
カラコさんの鎧がガタガタ震える。操るところを見なければいけないみたいだな。
「私を実験台にするのはやめてください!」
これってスカートめくれるんじゃね?
カラコさんの鎧は脱がせてもタイツみたいになっているだけだが、スカートを履いている人なら風を装ってめくれる。
まさか運営もその場にいる見てしまった人を垢BANするわけではあるまい。
ふふふふ、楽しみだ。
「シノブさん、変態な目的で使ったら訴えますよ」
どこに?!
いや、でも怖いからやめておこう。やるなら事故でやるべきだな。
あ、念力が暴走してスカートがー!
といえば許してくれるだろうか。
「カラコさん、スカート履いてくれないか?」
「お断りします」
やはりか。
それよりどれだけの物を動かせるんだろうな。俺の手の動きに従って店の壁にかけられている剣が動く。
力と共にあらんことをって感じだ。
「全部戻してくださいねー」
ぬ、引っ張るのは簡単なのに戻すのは難しい……。
「そしてゴブリンの件ですが、捕らえられているゴブリンは盗賊ギルド内にはいませんでしたー。他の支部もあぶりだしている最中ですが、今のところ報告が来ていませんねー」
ゴブリンタロウの話しか。一体どこに行ったんだ? 電波の届かない場所とかにいるのか? 果たしてメール機能が電波関係あるのかは知らないが。
「ありがとう。こちらでももう一度連絡してみる」
もしかして知能が退化してゴブリン語しかわからない身体になってしまったのだろうか。
それともどこかのプレイヤーに間違えて狩られてしまったとか。
俺は1つ1つの剣を元の場所に戻してイッカクさんの店を出た。
「シノブさん、どこに狩りに行きますか?」
暗いしな。西は何が出てくるかわからないが、元々小部屋で戦う。そこで騎乗できそうなモンスターを探すのも良いだろう。
「西だな」
新しい弓と、装備の効果を試してみよう。そうしよう。
ありがとうございました。




