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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
112/166

111 出店

二日間インターネットがない状態に陥りまして、毎日更新が途絶えてしまい申し訳ありませんでした。

『遅いじゃない。もう仕込みは終わったわよ!』

「すみません、つい夢中になっていて……」

 師匠は大鍋で何かを煮ていた。何人かの魔女が立ち食いしながらぺちゃくちゃと話している。


『あなたのお好みのゴブリンのスープよ』

 ゴブリンタロウを思い出してしまった。

 ゴブリンタロウがこの場にいたらどんな顔をするのだろうか。私は弱肉強食を否定しないとか言いそうだな。種族ゴブリンの前でゴブリン肉の話しはしないようにしよう。


 臭くて硬くてとても食えたもんじゃないと聞いていたが、どんな風に出来上がっているのだろうか。



 牛乳か何かのシチュー風味なそのスープの中にはゴロゴロとゴブリンの肉と思われるものが入っている。匂いは良いな。


「うん、美味しい」

 普通に美味しい。どうしたらこうなるのか。柔らかく、ホロホロと口の中でほどける。少し塩がきついような気もするが、


『今は機材が足りないからこんなものしか作れないけど』


 涼しい風に温かいスープ。最高だな。肉のランクでいうと、牛よりも下だが、羊よりも上という感じだ。人によって鳥が1番とか、豚派とか色々あると思うから具体的には言えないが。

 普通は廃棄されているゴブリン肉を有効活用できるのは良いと思う。


『このゴブリンのスープには胃腸を整える効果もあるのよ』


 そんな効果があるのか、腹痛という状態異常があったら役立つな。食中毒という状態異常はありそうだが。





「それで師匠。私の拠点で料理を作ってもらうことは……」

 俺から頼めばまた何か違うかもしれない。

 それに師匠の手料理という魅力は非常に高い。


『私はあそこでの生活に満足しているわ』

 やっぱりか、仕方ないな。誰だって働きたくはないものだ。


『でもどうしてもっていうのなら、昼食ぐらいなら作ってあげても良いわよ』

 あれ? これ、デレ? デレ来ましたか。


「ありがとうございます!」

 朝と夜だけ人を雇えば良いか。

 昼だけは師匠の手作りだ。それだけでも十分ってもんだ。


『報酬はたっぷり貰うわ。そして私が料理するための環境をしっかり整えておきなさい』

「了解しました」

 朝起きたら師匠が料理を作ってくれているというのも夢想したりしたものだが、現実的には雇っても誰かが起こしにこなければ昼まで寝続けるだろう。

 他の人より早く起きて準備をする料理人なんて師匠に向いていない。


『私に作ってもらえるからって貴方が楽して良いわけじゃないわよ。貴方も私と一緒に作りなさい。料理のレベル上げのために毎食作るのも良いと思うわよ』


 そりゃあそうか。

 俺が師匠の弟子になったのは料理のためだもんな。


 色々な生産スキルのプロフェッショナルが魔女なのだろうが、その中でも師匠は調薬と料理ができるハイブリッドだ。調薬は姉貴から教わって、料理は恐らく父から教わったのを魔女流にアレンジしたものだろう。


 師匠に牧畜とか、醸造とか養蜂とかについて教えてもらおうかな。

 料理人だし醸造に関しては知っていそうだ。



「師匠、醸造って知っていますか?」

『知ってるわよ。貴方も持っているの?』

 やっぱりか! 酒の作り方教えてくれるかな。


「はい。しかし作り方がわからなくて……」

『それも昼に行った時に教えてあげるわ』


 良かった。

 養蜂と牧畜は……あのさっき行けなかった動物屋に行ってみるか。

 とその前に姉御の店に行くか。……どうしても姉貴だと違和感、しかし兄貴だとうっかり漏らしてしまった時に殺される可能性大。

 呼び名って難しい。




「師匠、師匠の師匠の店ってどこですか?」

 こんな短い文の中に師匠が3つも!


『少し待っていて。全部配り終わったら私も行くから』


 そうか、なら新しい風魔法の検証でもするかな。


 テイルウィンド。尻尾の風?

 よくわからん名前だな。


「テイルウィンド」


 敏捷を上げる呪文のようだ。

 割合上昇のようで俺ではほんの少ししかプラスにならない。

 カラコさんあたりにかけてやるのが良さそうだ。

 かけてる間は俺の周りに風が吹き、扇風機代わりにも使えそうだ。


『待たせたわね。行きましょう』



 果たして師匠の師匠はどんな店をやっているのか。


 師匠の師匠の店は木工屋だった。木でできた杖や、弓などが売っている。

 新しい弓欲しいな。程々に手加減する用に。


『いらっしゃーい』

『師匠、見てもらいたい杖があるのですが』


 この弓なんて良さそうだ。小さくて取り回しもききそうだし。でも大きい方が攻撃力とか補正ステータスは上なんだな。


『ほら、杖出して』

 ああ、俺のことか。


 龍槍を取り出して師匠の師匠に渡す。


『一体核に何を使ったの?』

『エレメンタルと呼ばれる最近現れた魔法生物です』

 最近現れた、か。NPCの間では知られてるとかじゃないんだな。

 魔法生物か。何か実験動物みたいで気に入らないな。魔法でできた生物なことには変わりないけど。



『杖自体は死んでないわ。核が留守になってるって感じ。戻ってこれば良いんだけど。その核には意思があったんじゃなぁい?』

 留守状態か。


「ああ、はい。少しうるさくてわがままだったけど、素直で良い子でしたよ」

『この杖が元に戻るのはその子次第ってことね』

 カグノは戻ってきてくれるのだろうか。


『でも師匠! 核は杖と一心同体。どちらが欠けても壊れるはず。私は杖から離れられるように作ったつもりでもありません』

 そうなのか。確かに杖とカグノが離れていたことなんてなかった。


『それは貴女の力を上回っていたからよ』

『それは作られたものが作り手の力を超えるなんて』

 師匠は何か動しているが、俺にはさっぱりわからない。戻るも戻らないもカグノ次第ということしか。


『主の言葉を思い出して。神はまた蘇る。呼び出された異人、突如現れた魔法生物。全ては元に戻ろうとしているのよ』

『師匠!』

 何かストーリーに関することなのだろうか。師匠は師匠の師匠の発言に対して何やら怒っているが、言ってはいけないことだったのだろうか。


 神はまた蘇るか。

 その言葉通り捉えるなら、今は神は何らかの要因で封印、または死んでいるがまた蘇る。恐らくそれにプレイヤーが必要なんだな。

 プレイヤーの究極目的は神の復活。

 そして神を復活させると、特殊なスキルが手に入ったりステータスが上昇するのか。


 全て復活させたらどうなるんだろうな。

 エンディングを迎えてダンジョン攻略がエンドレスコンテンツになるのだろうか。このゲームは色んなもの作れるし、人気は長く続くと思うけど。


 そして神持ちプレイヤーと、そうでないプレイヤーとの強さの格差。これもどうするんだろうな。最終的には誰でも持っているみたいなことになるのかもしれない。1人に1つの神がつけられるけど、それによってメリットデメリットがある、みたいな。


 俺は今のところ、夜と月の神に関係している。何とも運が良い。



『ほら、2人ともそんな怖い顔してないで。買っていてくれない?』

 怖い顔ってなんだ。兜が怖いってことか?


 弓と言っても色々ある。その中でも気になったのが魔弓。まゆみではないまきゅうだ。

 弓本体に機能がついている。神弓と同じようなものだ。


 水老樹の弓。

 俺の今の鎧にぴったりなような気がする。矢に水属性が加わるらしい。

 長弓で、若干青いところがある木を使っている。


 値段は書いてないのだが。


『それ、気に入ったの?』

「ああ、はい。幾らでしょうか」

『良いわよ。持っていって。シノブちゃんだしね』

 お、本当か。これで普通に戦えるようになるかな。水魔法は持っていないけど、これで全属性の攻撃が行えるわけだ。


「ありがとうございます!」

 鎧と弓が合うな。早速射ってみたいが。今はまだだ。


『私もこれ』

『クロユリちゃんはしっかり払ってね』

 弟子には厳しいんだな。まあ師匠は金持ちだし。

 師匠が何を買ったのかというと、木。角材だ。


『一体何を作るの? 良かったら私も手伝うわよ』

『これは私しか作れないものですから……少しヘマっちゃって』

 何も失敗したのだろうか。

 しかし師匠の師匠はハッと何かに気づいたようだ。


『貴女、主の為にそこまで……まだ若いのに』

『念動力がありますから。念動力を上手く扱うための練習にもなって良いですよ』

 涙ぐんだ師匠の師匠が師匠をしっかりと抱きしめた。その巨体からは想像もできないほど柔らかい抱擁で、羨ましいと思ってしまったのは内緒だ。


 だが抱きしめられるより抱きしめたいな。師匠の胸を抱きしめたい。それは抱きしめると言わないのかな?



 師匠の師匠のことは大師匠と呼ぶことにしよう。大きいし包容力あるしな。




 結局師匠は金をちゃんと払ったらしい。あちらが遠慮しても無理やり渡していた。


『師匠は一々感情が激しいのよ。次、どこか気になったところある?』

「動物屋ですね」

『ならそこに行きましょう』


 牧畜できる動物がいれば良いのだが。



ありがとうございました。

話数がゾロ目です。

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