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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
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107 全ては灰に還る

 ルーカスさんの風邪が治っていれば良いのだが。



 店についたが。

 普通に開店はしているようだ。ここって年中無休なのだろうか。

 廃人ゲーマーに取っては休まれたら困るのだが。


 休みといえば、ノルセアのNPCは大体日が暮れたら店を閉める。しかしサルディスは開いている店が多い。といってもほとんどが飲食店や、サービス業なのだが。この違いは町の規模とかによるものだろう。

 南の海が見つかったからまた賑わいも変わっているのかもしれないが。


 今まで歩いても歩いても草原で歩いているのにマップで見るとちっとも進んでいないという不思議空間であったあそこが解放されるなんて、どうなっているのだろう。

 まさか草原からいきなり海になるわけではあるまい。


 ちなみにこの進んでも進んでも元の場所に戻ってしまうというのは色々なところで見られる。

 街道も道から外れ進むと、次第にモンスターのレベルが高くなって、それで進んでいくと唐突に街道が目の前に現れるという。見えない壁よりかは良いな。


『いらっしゃいませー』

「ちょっとシェフと話したいのだけど」

 チラチラとこちらのことを見ている人がいる。俺がプレイヤーなのにNPCと友好関係を築いているのが羨ましいのだろう。こういうところでコミュニケーションというリアルスペックが関わって来るんだ。

 それにしてもルーカスさんの店ってリア充多いな。爆発すれば良いのに。


「ちょお! カグノ、外出ろ!」

『え?』

 すっかり忘れてた。

 危ない。焦げては……ないな。

 本格的にカグノはどうにかしなくちゃな。建物に入る度にカグノが燃やさないか、何かを壊さないか、そして床を焦がさないか不安でならない。


『えー! 入りたいー!』

「だから少しだけ、少しだけだからさ。カグノが床焦がさないなら大丈夫なんだけどー」

 駄々をこねるようなら、このまま装備から外しても良いのだが。でもそれは完璧こっちの都合だからなぁ。



『カグノだって頑張ればできるもん!』

 できるの?

 カグノが目をつぶって力を入れ始める。カグノの体の赤が白に、白が青になっていく。

 火耐性つけとこ。


 すげー、暑い。

 ヤバい、ルーカスさんの店の前の植木が枯れかけてる? ヤバいヤバい。植木火耐性ぐらい気合いで確保しろよ!


「カグノ、カグノ、もう良い。中に入れてやるから」

 おい、石畳。耐久性ないんじゃないか? おい、これぐらいで溶けてんじゃねえよ。


『これが、カグノの必殺技!』

「いやいやいやいや、何故ここで放つ」

 カグノの持つ龍槍は炎に包まれ、家を優に超える大きさの炎の剣となっている。

 その炎の剣はカグノの体と反対の赤で燃えており、夕日と共に建物を照らしていた。



 マズイ。非常にマズイ。何がマズイのかというとここが師匠の実家ということだ。師匠の実家でもあり、俺が今から頼みに行く相手の家でもある。

 ごめん、家燃やしちゃったから俺のギルドに来て、とは言えないだろう。


 カグノは既に力に呑まれてしまっているようだ。というよりそれ制御できてんのか? 最近爆発したり、必殺技放ったり忙しいな、カグノ!

 そうだ! 装備からカグノを外せば良い。


 外した。外したが収まらない。一体なんだこれは!


「レジストファイア!」

 遠くから悲鳴とか聞こえてくる。何この終末感。床ドロドロに溶けてるんですけどぉ! 一体何がやりたいんだよ、こいつ!


 どうにかして、どうにかして収拾をつけなければ。このままじゃ俺が冒険者ギルドにひっ捕まえられる。


 そうだ。火魔法をスキル欄から外せば……収まらない! 何?!

 エウレカ号もカグノもシステム面から逸脱した存在ってことかよ。てかこれが普通に起こるとしたらエレメンタル怖すぎ! 精霊ってだけで指名手配するギルドの気持ちもよくわかる。


 とか言ってる場合じゃないよ!

 火耐性も恐ろしい勢いで上がっているが、ダメージも常に入っている。超回復があってもなお、このダメージ。


「魔装、炎!」


 こうなったら俺自身が突っ込んで止めるしかない。レジストファイアで、火耐性も高めてるし、魔装でも上がっている。

 いける。逝ける。


 だがおとこにはやらなければいけない時がある。まあ、この時は男であろうと女であろうと変わらないが。


「カグノー!」


 俺は燃え盛る火の中に飛び込んでいった。





 気づけば俺は不思議な空間にいた。全体的に靄がかっている世界だ。

「俺は……死んだのか」

 一度言ってみただけだ。ここで神でもでてきたら隠しイベントキタコレ。となるのだが、残念ながら何も居る様子がない。


 しかしまさに五里霧中。確か一里が4キロだったから五里は20キロ範囲内が見えてないということか。結構見えてんじゃん。

 それとも昔の人は20キロ先が見えないと道に迷うような人だったのか。


「ここはカグノの精神世界か……」

 これも取り敢えず言ってみただけ。カグノはいないし、それに関係したものも見えない。


 それにしても何も起こらん。HPもMPも満タンだ。少し減ってたはずなんだがな。


「ファイアボール!」

 うむ、飛んでいく。呪文は普通に使えると。しかしMPが急速回復して行っている。


 この世界は一体何なんだ?


 と、俺の足元から炎が湧き出た。


 あちらこちらから、炎が出ているのが確認できる。

 これはカグノだ。


 はっきりとわかった。


「なあ、カグノ。いきなり怒鳴って追い出したりして悪かったって。ちゃんとお前がどこにでも行けるように頑張るからさ」

 それでも火は衰えない。


「カグノ、聞こえてるか? 俺はカグノのためならこの命を捨てる覚悟だってある。どうか落ち着いてくれ」

 我ながら酷いセリフだ。死んでも死んでも生き返るこの世界で命とは。


 ついに俺の視界が全て炎に包まれた。

 そして炎の切れ目から最後に見えたのは、巨大な炎の羽を背中に背負い、光を放つカグノの姿だった。





「二回目の死に戻りか」

 さっきの空間は何だったのだろう。


「あれ? シノブさん」

 俺が転移魔法陣の上で座って考えていると、カラコさんがやってきた。


「何か今サルディスに災害が起きたと聞いて、大丈夫でしたか?」

「死に戻りだよ」

 しかしステータス異常はない。


 そうだ。龍槍はどうなっているのか。


 龍槍を出す。しかし先にあったカグノの心は色を失っていた。


「カグノ。すまなかった。お前の気持ちを考えないで色々してしまって」

 聞こえなくても良い。

 ただの独り言だ。



 やれやれ、あんなことになるとはな。


「シノブさん、カグノちゃんは……」

 なんと答えれば良いのか。


 俺たちの間を沈黙が支配する。

 気まずい。


「旅に出た、そういうことだ」

 可愛い子には旅をさせよとも言うし。最後見た光景が何なのか気にはなるが。また会えることを望もう。



 そして考えることはもう一つある。ルーカスさんは無事なのかということだ。


 見舞い金と高級果物盛り合わせを持っていかなければ。

 ルーカスさんの身に何かあったら、俺は全力で関係ないふりをしたくなる。

 仕方ない。様子を見に行くか。


「実はカグノがその災害ってヤツを引き起こしてさ。それが運の悪いことにルーカスさんの店の前で起きたんだよ」

「は、はぁ」

 カラコさんは理解が追いついてないな。

 俺も掲示板見てみよう。



 プレイヤーの皆さんすみません!

 イベントが始まるとかそういうのではないと思います。何かのイベントだと思って準備しても、多分何も起こらないと思う。カグノだし。


 それにしてもあの大きさにしては見掛け倒しだったようだな。あまり被害はなかったそうだ。



「そういうことなら、畑で採れた野菜を持って行きましょうか。使い道もまだありませんし」

 もう収穫できていたのか。


「もし死んでたらどうしよう」

「ネクロマンサーに頼みましょう」

 カラコさん、それは少し違う気がするんだ。


 俺たちは転移魔法陣に乗り、ギルドに転送させられたのだった。

ありがとうございました。

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