106 風呂を作ろう
「……風呂場か……確かに気持ちだけでもあったほうが良いかもしれないな」
ですよね、ワイズさん。横でマッドも深く頷いている。
カラコさんに用事があると言って別れ、周りの男性勢を味方につける作戦だ。俺が提案すると変なことを考えているんではないかと勘ぐられるからな。もちろんカグノとも分離している。というよりカグノを装備していない。カグノは敵ではないが、何か言われる可能性があるからな。
「……しかしあったか?」
「ない。そんな発想ない」
そんな発想はなかったのか。確かに俺もない。
「じゃあ、なかったら作れば良いじゃないか!」
こうして緊急発足したのが、何とかして風呂を作ろうの会だ。
メンバーは俺、ワイズさん、マッドの3人。あれ? いつもべったりなヨツキちゃんがいないな。
「……ヨツキはネメシスに預けてきた」
それは好都合。
「作るにはまず水が必要。これが大事」
確かにそうだな。
「俺がリアルラックをかけて温泉を掘るという考えもあるが、それは非現実的だ。しかし今うちの畑の管理人、イェンツさんが用水路を通そうとしてくれている。そこから水を貰えば良いんじゃないか」
「……しかし湯はどうする」
ワイズさん、そこもしっかり考えてあるんですよ。
常に身体が熱い人。
「俺のファイアゴーレムを使って水を運ぶパイプを暖めさせる」
これには2つの利点がある。1つは俺の火魔法の経験値が貯まること。そしてもう1つは誰が入るのにも俺を呼ばなければならないことだ。
今はこうして俺の策に乗って、乗り気になっている2人もいざできたら、1回、2回入って飽きるだろう。そういうものだ。
だが女子は違う!
日頃から冷え性に悩まされている女性達にとって、風呂とはまさに救い主。自ら風呂掃除をしなくて良い風呂場がいつもそこにあるのなら入り浸るに決まっているのだ。そしてそれをするには俺を呼ばなければならない。後は察しの良い皆さんならおわかりであろう。
不可抗力を装って、カグノの胸を触る。そして爆発を起こし、女湯へ飛び込む。
これは誰の責任にもならない!
たまたまカグノの胸を触ってしまって、たまたま俺が飛ぶ進行方向に女湯があって、たまたまそこに入っている人がいた。そういうことだ。
完璧だ。我ながら最高の計画だな。
そのためには露天風呂にしなければならないのだが、いつも気候が穏やかで朝には気持ち良いぐらい涼しいこの地では問題にはならないだろう。
「建物は?」
そうです。俺にはそれが考えつかなかった。建物をどうするか。
「日雇いを回せば良い。……外郭工事専門はもう仕事がないだろうしな」
俺はそこら辺よくわからんのです。よろしくお願いします。
露天風呂というが一体どんなものになるのだろうか。ギルドの外観から和風は似合わないと思うのだが。古代ローマ式の公衆浴場になるのだろうか。
まあ、俺にとってはどっちでも良いことだ。今は真摯に風呂を良くすることだけを考え、入ってもらえるようにしなければならない。
「必要なのは……」
そもそも考えたら脱衣所とかいらないな。一瞬で着たり着替えたりできるし。
というかどうせ脱げないんだったら、穴掘ってそこにお湯注ぐだけでも……いやいや、提案した俺がそんなことを思ってどうする。中が水着だろうと何だろうと女湯を覗くという行為が重要なのだ。現実でやったら即逮捕みたいなことをVR内でやる。これが大切だろう。
まあ、女湯の中を覗けてそのまま逆に襲われるとかいうゲームも見たことがあるといえばあるが、俺は健全なやつだからな。VRじゃなくてリアルが欲しい。
そんなことを現実で言うと、出た童貞の妄想と笑われるのだが。現実では全くモテないのに、VR内でイケメンになって女の子を釣るとか、エロゲやってるほうがよっぽどあれな人だと思うのだが。そんなことをするぐらいなら俺は童貞を貫き通す。
自分でもつまらないプライドとは思っているが。こういうVRゲームをやるに関しても、ある一線を守るというのが大切なのだと思う。そうでなければ楽しめないしな。
「必要なのは、男湯と女湯。そして気分だけだが、脱衣所だな」
遊びだ。だがそれでも良いではないか。俺は風呂場を覗きたいだけなのだ。
「……わかった。場所と、建築はこちらでやっておく」
「秘密にして、皆を驚かせる。楽しみ」
今更ながら思うが、マッドはショタなのだろうか。種族が小人なので見た目がショタなのではとも思うが。まあ、どっちでも良いだろう。それにそもそも保護者がいないのだから、小学生ということではないはずだ。
そういえばゴブリンタロウはどうなったのだろうか。イッカクさんから連絡は来ていない。それに助かったのなら、ゴブリンタロウも連絡を寄越してくるだろう。まさか盗賊ギルド内に囚われていなかったのか? 今考えても仕方がないことだが。
明日確認しよ。
……さて、何をしようか。一時の興奮で大分頭から予定とか色々抜け落ちたような気がする。
ああ、ワルプルギス!
すっかり忘れていたぜ……。さすが女体化だな。こんな重要かつ、ついさっき約束したばかりのことを忘れてしまうとは。俺が若年性認知症ではないことを祈ろう。
そうだ。俺がロリコンという噂がどこから広まったのか調べなければ……。
幾つかの掲示板を巡ってようやく現況だと思われるスレッドを発見できた。【GWO】ロリを愛でるスレ【NoTouch】が発祥ではなかった。そのロリ板でもっとも触れ合いが簡単にできるロリとして扱われていたのが、エレメンタル。
なるほどね。どこかで俺が連れているのを見かけ、その直後に掲示板に乗ったから特定されちゃったということらしい。
エレメンタルに関しては、各ロリコン達が研究したおかげで色々わかっているらしい。
触れているものの属性を強化することができるらしい。
今現在エレメンタルを呼び出す方法がわかっているのは、火魔法と風魔法のみらしい。
スキルポイントは余っているな。しかし俺はロリコンではないので取得するつもりはない。
しかし28ポイントもあるな。いやいや、土魔法もロクに上げてないのに、風魔法を取得するとかいうのはどうだろう。うん、やめておこう。俺はロリコンじゃないし。
風魔法、火魔法よりも攻撃的な技が多くて、癖がなく使いやすい。なるほどね。うん、見てただけだから。
でもそれだったら今のところ、火魔法より攻撃力が弱くて、木魔法で拘束できてしまっている土魔法みたいに他の劣化にならないかもな。
いやいや、そんなことしたら俺がロリコンではないかというのが本当に疑惑になってしまう。そうだな。やめておこう。
火魔法だと天真爛漫。風魔法だと天然になるのか。カグノも充分天然っぽいけどな。
《スキル【風魔法】を取得しました。スキル欄が限界なので控えに回しまされました。残りスキルポイントは18です》
おかしい。何かに操られていたのか、風魔法が取得されている。
何故だろう。でも取得してしまったなら仕方ないな。あー、スキルポイントがもったいない。
さて、風魔法のエレメンタルを呼び出す方法……レベル25で覚えるフライ。
遠いっすね……。使い続けてた火魔法がつい最近いったばっかりだよ。これは大分先になりそうだな。仕方ない。木魔法を重点的に使って、レベル20まで上げたら風魔法と土魔法を使うようにしよう。
エレメンタルといえば、うちのカグノは一体何になっているのだろうか。
火の精霊? そこら辺はよくわからないな。
精霊を持った知り合い……1人いたな。
連絡取ってみるか。
「ファイアゴーレム!」
エウレカ号が出てくる。カグノがいないからか、少し周りを見ている。そんなにカグノのことが好きか。まあ、一緒にトレントを虐めてた仲だもんな。あれだけでかくなったトレントを見ても同じことをしようとするのか。見てみたい気もする。いじめっ子VS元いじめられっ子みたいな。あれだけ出かければ、エウレカ号なんて痛くも痒くもなさそうだ。
そういえばトレントは俺の血を飲んでパワーアップしたが、こいつはどうなのだろうか。
「俺の血飲むか?」
首を横に振られた。吸血ゴーレムではなかったか。
まあ、良い。
「おい、カグノ。起きてるか?」
カグノを装備する。
『起きてるよー!』
良かった。といっても写真取るだけだけどな。
エウレカ号は普段見せることのない瞬発力を発揮し、俺の側にくる。そんなにカグノが好きか。というより熱い。
何やらカグノとエウレカ号が合体した時に変身ポーズを決めていたのが、気になったが。戦闘中にそのポーズで出てこないでくれよ?
スクショしてネヴィに送る。
反応はない。当たり前か。
相棒の炎の精霊もいることだし、何か知っているかもしれないな。
本格的にやることがなくなったな。
ギルド作りに何も貢献していないから、少しは何か手伝うか。
「ゴーレム!」
ゴーレムが召喚される。
「何か手伝えることがあったら手伝ってこい!」
どこかの軍隊ででも仕込まれたのか、綺麗な敬礼をして、小走りで去っていった。
それに比べて、こいつは……。
カグノは何か空をみあげている。うん、見た目補正でこっちの勝ちだな。
こうして1つ貢献したのは良いが、暇だ。
とカグノと一緒に空を眺めてみる。
『青いねー』
確かに青い。こんな良い天気には美少女でも降ってきて欲しいものである。あ、できるなら現実でお願いします。
俺達がボーっと空を見上げていると、2人の獣人がスコップ片手にやってきた。
転移魔法陣からギルドの入り口まで繋がる道路の横に街路樹を植えようと言うのだろう。
俺も手伝おうかな。
風魔法の初期呪文はエアバレット。土と風がバレットということは、火と水がボールかな?
「エアバレット、エアバレット、エアバレット、エアバレット!」
これは使えそうだ。弾の部分は少し景色がぶれて見えるが、ほぼ不可視に近い。
《行動により【風魔法Lv2】になりました》
そして残念ながら連打したところで土が少し削れるだけで、少しも掘れなかった。
「いいっすよ。俺ら掘るんで」
すまないな。
2人は息のあった調子で掘っては、植えてを繰り返している。
掘った土が、穴に木を突っ込んだ瞬間消えているのが、ゲームらしいが、その作業は現実の重労働と変わらない。ご苦労様なことだ。ワイズさんの言葉から一応金はもらっているみたいだが。俺だったらよほどの高給でもなければ、やらないね。
植えられた植物の方にグロウアップをかけるか。葉もほとんどが毟られ、根っこも切られていた状態だ。巨大樹に成長してしまうとかいうのはないだろう。
「グロウアップ」
少し葉が増えた。このまま連続してある程度茂るまでやろう。
《行動により【木魔法Lv20】になりました》
《レベルアップによりスキル【フォレストウォーク】を取得しました》
《レベルアップによりスキル【フォレストハイド】を取得しました》
レベルアップしたぜ。しかし失ったMPも多かった。立派な街路樹達になったので良かっただろう。
「ちーっす」
「あざっしたー」
お礼を言われるというのは良いものだ。
フォレストウォークもフォレストハイドもどっちも森の中でしか使えないっぽい。まさか森を動かしたり、森を隠す呪文ではないだろう。
フォレストハイドは何となくわかる。隠密が強化されるってことだろう。俺のプレイスタイルにぴったりだ。しかしフォレストウォークとは何だ。
今まで森の中で歩きにくさを感じたことはあまりない。もちろん街の中よりかは歩きにくいが、それほどでもないのに。俺の敏捷が遅いからなのかな?
少し使いドコロが難しい呪文達であるとは思う。森の中でないと使えないのだから。
その分強力になってほしいものだ。
よし、次からは戦闘でも土魔法と風魔法を重点的に使うようにしよう。
となるとカグノを呼び出せなくなるし、使うこともなくなるが……我慢してもらおう。
今俺がスキルに入れているのはこの10だ。
土魔法、風魔法、火魔法、回避術、魔法装、瞑想、発見、精密操作、思考加速、擬態だ。
積極的にレベルを上げていくスタイルだ。火魔法があるのはカグノ維持のため仕方なくだ。実戦などで使うつもりはない。
生産はまた後回し。というより、色々調べなきゃな。醸造とか。特にアルコールを作るため。酔っ払った時にどんな醜態を晒すか楽しみだ。
もう日も暮れかけている。ルーカスさんに会ってから、師匠の所へ行くか。
カラコさんにメールしておこう。ワルプルギスは師匠からのお誘いと言葉濁しておくがな。
ありがとうございました。




