１０５　花園で得たものは

「可愛いデスよ！」

「うん、さすがカラコさん。和服が似合う」

「そ。そうですか？」

　カラコさんも女子だ。最初はなんで俺の服を買いに来たのに自分が試着しなければいけないのかと反発していたが、えるるが押し切って無理やり着せ、俺の裏表のない素直な感想に気分を良くしているようだ。

　カラコさんは和服がよく似合うが、女の子らしい可愛らしいワンピースとかも好みのようだ。和服本当に似合ってるのになぁ。

　着付けに時間がかかるということがないから、和服でも普段着として問題ないと思うのだが。

　俺はエロい装備は好きだが、そういうのには似合う似合わないがあると思う。具体的にいえば……具体的に言うのはやめておこう。カラコさんが可哀想だ。

　ミニスカートとか、風でめくれたらどうなるのだろうか。

「ありがとうございました！」

　えるるの店から出たところでカラコさんは頭を抱えた。

「シノブさんの服を買いにきただけのはずなのに……」

　全く真面目だな。

「さっき師匠から大金貰ったじゃないか。あれは俺達で稼いだんだから、少しぐらい使っても良いだろう」

　えるるの店には女の子用の服が大量にあった。大量に作っているが、見た目を重視しているせいで性能が残念だと言うせいで、大分安くしてもらっている。えるるが良質な鎧を作り続けて、売れているのはやっぱり服を作るのが好きだからなんだろうな。

「そうですよね。ちょっとぐらい贅沢したって何も言われませんよね」

　おお、それでこそカラコさんだ。開き直ってくれて大いに結構。

　今の俺はいつでも元に戻っても良いように、ボーイッシュなスタイル。ハンチング帽に短パン。Tシャツの上から１枚上着を羽織っている姿。そしてカラコさんは落ち着いた色合いのワインレッドのロングプリーツスカートにセーターを着ている。ちなみにセーターには可愛らしいウサギが編まれている。季節感グチャグチャだが、暑くもなく、寒くもなくてどんな服装でもできるのだから仕方がない。

　男どもよ、チラチラこちらのことを見て情けない。来るならもっとどんと来いや！

「それで今から何をするんですか？」

「それはな……ギルド見学だ」

　カラコさんの頭の上に幾つもの疑問符が浮かんでいるようだ。

「先輩ギルドがどんな風に動いているか知るのも大切だろ？　だからそのギルドに興味があるという振りをして、見学してみるんだよ」

「シノブさんにしては普通の提案ですね。良いでしょう。どこに行くとかは？」

　俺にしてはってあれだな。

　まあ、良い。

「俺がもう目星はついている。それから俺のことはシノって呼ぶように」

「シノさんですね。了解です」

　じゃあ、行こう。

「えーと、神弓の射手のカラコちゃんとシノちゃんだっけ？」

「はい！」

「……はい」

　カラコさん、何をそんなに怖い顔してるんだ？

　ちなみに俺は課金アイテムで声を少し変えている。あのままじゃ中性の声だしな。

　俺が来た場所、それは女性しか入れない場所。

　そう、女性限定ギルド、戦乙女（ヴァルキリー）だ。

　男なら誰でも一度は入ってみたいと思う花園。しかしその場所は男子禁制！　中で一体どんなことが行われているのか、変態紳士達は日々妄想を膨らませながら、彼女達のことを確認しているのだ。

　このゲームにさほど性別の偏りはないが、やはり多いのは男子。そうなると必然的に女子の奪い合いとなる。チャラ男達が可愛い女の子を狩りに誘って、気が合えば違うソフトで出会い……というやつだ。VR内だと貞操観念が疎かになっている場合が多く、男慣れしていない女性だとホイホイついていってすまう場合が多い。そういうことを未然に防ぐため、このギルドは女性への呼びかけや、不審人物などの取り締まり。被害が大きいようだと、思わせぶりな言葉を発し、ゲーム内で襲わせ即垢バンという行為をしているそうだ。恐ろしい。

　しかし彼女達が治安維持の一角を担っているところは確かにある。ペドフィリア、いわゆるロリコンからロリを守る役目もしたりしているのだ。てかそういう被害って時々聞くけど、保護者はどこで何をしているんだって話しだよな。ワイズさん並みに近くで守ってやれよと思うが。

　俺の悩みはただ1つ。女の子と手を繋いだり、抱き合ったりしたい！

　これだけ女子がいるのだから、1人は初対面の人にも抱きついてくる女子がいるだろう。俺は初心なふりをし、顔を真っ赤にして縮こまるのだ。もちろん俺から何もしなければ、通報するか否かの表示は俺にしか出てこない。体が触れ合うぐらいでは垢バンにはならないだろう。

「わー、この子可愛いぃ～」

「お人形さんみたい！」

「この黒に銀の髪を入れるのってどうやったのー？」

　……まあ、そうだろうな。

　カラコさんの周りには沢山の人が集まっている。俺の横にはギルドのサブマスターだけだ。羨ましいことなんてない！

　しかしサブマスターもなかなか可愛い。

　モミジという名前で弓術士らしい。その中でも和弓を専門に使っていて、現実でも弓道を習っているらしい。無理やり器用値を上げて弓を使っている俺よりもよほどしっかりしている。種族もエルフできちんと弓術士をやっている。俺のような武器に頼ったやり方をしていない。

　こういう人は本当に尊敬できる。

　うん、俺が特殊なだけだな。俺がエルフであったなら、神弓も龍槍も使いこなせていただろう。そう考えると程よく弱体化していて、これでも良いのかもしれない。

　ただでさえ攻撃力過剰気味なのに。

「神弓の射手ってあの、有名なプレイヤーさんのギルドかしら？」

　おっと、質問だ。

「有名……そうなのですか？　よく知らなくて」

　自分の噂なんて調べても気分が悪くなるだけだからな。

「彼のギルドに入ってる人に言うのもあれだけど……何かロリコンだって私は聞いたけど」

「ロリコン？！　いやいや、ロリコンっていうよりどっちかっていうと巨乳の方が好き……って言ってました、ははは。私は貧乳なので何も言われていないですねー」

　さっきからカラコさんを見て心配そうな顔をしていたのはそれか。

　全く一体どこの誰がそんな噂を流しているんだ？！　というか俺にロリコンエピソードなんてあったか？！

　これは調べておかなければならない。

「私達はどっちかというと、男の人が苦手な女の子達の相互補助ギルドみたいなものだけど、そちらが集まって経緯っていうのは？　やっぱりギルドマスターと知り合いだったんですか？」

　今は時間がないな。それなりに言われているというのはわかったが、どこが最初なのか。後できちんと調べなければ……。一体どこの誰がそんなことを言い始めたのかしっかり落とし前はつけなければならない。

　しかし不思議なのが、俺がロリコンのトップ的な存在として扱われていることだ。一体誰が俺がロリコンのカリスマとか言い出したんだ。

「シノさん？」

「ああ、はい。シノです」

　やばい、話し聞いてなかった。

「彼女、人気者ですね」

「羨ましい限りです」

　絶対そんなことじゃなかったような気がする。羨ましいという返しはまずかったかな？　変な顔されてる。

「じゃあ、このギルドの施設を見ますか？」

「あ、よろしくお願いします」

　普通のギルドってどんなもんなんだろうな。

　タッチがない。……女の子とのタッチがないよ！

　一体何のためにここに来たっていうんだ？！

　ちなみにギルド内にはギルドの工房があったり、貸出用の武器と防具があったりと色々あった。特に興味深かったのはシャワールーム。

　シャワールームだぜ？　誰も使ってなかったのが残念だが、気分だけでも戦闘後には埃とか汗がついているような気がするから、ログアウトする前にここで水を浴びたりしているのだという。

　これは画期的だ。果たしてコウメイはうちに風呂を作ったのだろうか。

　いざとなったら裏庭の一角に露天風呂をつくろう。しかし一体どのレベルの露出まで可能なのだろうか。不可抗力の事態が起きて女湯の中にダイブするとかで垢バンされたらしょうがないぞ。

　それにもうすぐお暇するところかな。カラコさんも大量の女の子との対応でフラフラになってるし、俺もタイムリミットがそろそろだ。

「じゃあ、お、私達はこの辺で。今日はありがとうございました」

「ありがとうございましたぁ」

　カラコさん、口から魂抜けてんぞ。

「そちらのギルドの参考になるものがあったら良かったわ」

　シャワーというのはまさに目からウロコというやつだった。こっちでは風呂になんか入る必要ないと思っていたが、気分を一新するためだけでも良いんだな。

「これからもよろしくってことでフレンド登録、お願いできる？」

「ああ……ああ、カラコさん頼む！」

　また変な目で見られた。偽名を名乗っているということが、バレてしまう。危ない。俺にこういうことは向いていないな。少し気を抜くと、いつも通り対応してしまう。

　怪しまれさえしたが、無事に出れたようだ。

「くぅ、こんな身体じゃなかったらフレンド登録したかったのになぁ」

「自業自得です。私が見てない時に変なこととかしませんでしたか？」

　俺の理性がどれだけないと思っているのか、そんなバレるようなことはしない。

「もししてたら？」

「捕まえて、戦乙女（ヴァルキリー）の皆さんに突き出します」

　恐ろしい。それがギルドマスターに対する態度なのだろうか。

「したら男ってバレるからしてないよ」

　そういってもカラコさんは疑り深そうにしている。システムまで疑ってどうするんだ。

　……待てよ。今俺はどちらだとシステムに認識されているんだ？

　普通に考えればプレイヤー本人は男だから男なんだろうけど。今の俺の身体は女だ。いや、普通に考えればダメだ。しかし試してみる価値はある。いや、例え女だからと言ったってセクハラするとか痴漢するとかは考えていない。

　あくまでも知的好奇心だ。まだこのゲームには謎が多いからな。そういうことだ。

　カラコさんの頭をなでてみる。

　ムスッとしているが、拒否はしない。そして次は肩に触ろうとしたが、ここで気づいた。これじゃ、果たして警告が出たのかわからないじゃないか。

　カラコさんにやってもらわねば。

「カラコさん、俺を辱めてくれ！」

「……一体何があったんですか」

　疲れているようだな。疲れているカラコさんはノリが悪くなり、何があっても無表情になってしまう。だからといって気分を害するようなことを言うと、刀で手首を斬り落とされる。

「なら良い。後でヴィルゴさんに頼むや」

　警告といえば、俺はヴィルゴさんから身体が密着するような体勢で技をかけられているのだが、何も警告は来ていない。何故だ？　普通に触ったら大丈夫なのに、技をかけた。

「仕方ないですね。ヴィルゴさんに言うとシノブさんの命の危機になりそうだから。私がやりますよ。それで何をすれば良いんですか？」

　それでこそカラコさんだ。思いやりがある。まあ、凄い面倒くさそうな感じはしているけど。

「そのままさ、俺の胸を揉んだり、耳に息を吹きかけてヒャワッてなる俺を見て楽しめば良い」

「シノブさんにそんなことして誰が楽しいんですか？　それに私が垢バンになるかもしれないじゃないですか」

　確かに。女の子にするのは良いかもしれないが、身体は精神は男な俺にしても気持ち悪いと思われるだけだろう。

　難しいな。そして確かにカラコさんが垢バンになる可能性がある。

　そして気づいたのが、ここで俺がカラコさんに調教されてしまう可能性だ。これで変な性癖が目覚めてしまったら誰に責任を取ってもらえば良いのか。

　これは危険だな。封印しておこう。

「そうだな。あまりにリスクがありすぎたか」

　諦めよう。

　女体化したから色々できるなんてただの妄想だったんだ。女体化なんてくそったれだ。全く。

「お嬢ちゃん達一緒に狩りにいかなーい？」

「お断りします」

　判断速いな。目の前の人の格好を見れば当たり前か。性能などではなく、ビジュアル重視の装備をしている。まともに狩りに行く気などないのは明白。

　言われれば俺達も魅せようの装備なんだけどさ。

「そんなこと言わないで。ちょっとだけだからさ。ねっ」

　しつこい男だな。

「そこら辺でやめとけ。手を出すと痛い目見るぞ」

「ああ、何だよ。俺は今この子に話してんだよ」

　ふざけた野郎というか女子の怖さを知らないやつだな。現実で相手が小学生ならともかく、ここはゲーム内でステータスが全てだ。全ての強さはプレイ時間と狩り効率によって変わる。

　果たしてこのVRナンパ野郎はどれだけプレイしているのかな。

　龍槍が炎を宿す。

「シノブさん！」

「大丈夫だ。少し焼きを入れるだけだ」

　いざとなれば魔法を使えば良い。こんな雑魚など俺の前で華麗に散って、引き立て役になるしかないのさ。

「そうじゃなくて周り」

　周り？　確かにこちらのことを見ている人がいるな。その目は襲われた女子を見る目ではない。何かのタイミングを見計らっているようでもある。

「ギルドポイント稼ぎですよ」

　ああ、そういうことか。

　そのチャラい男は舌打ちをして去っていった。町中で相手を怒らせて、手を出させて現行犯逮捕。そしてギルドに突きだしてポイント稼ぎということか。中々の策略家だな。

「厄介事に巻き込まれないうちに速く帰りましょう」

　俺達のことを観察している目線はまだある。わかったのも今さっき気配察知をスキルに入れたからだからだけどな。

「そうだな」

　俺は拠点に戻るを選択し、拠点に戻ってきた。

　よし、早速拠点の中を見て、風呂場を探そう。

　あったとしたら、男湯と女湯が天井の部分で繋がっているかの確認も必要だな。是非とも欲しい。お願い。入っていてくれ。

「何か疲れました……」

　あれだけの女の子に囲まれていたんだから疲れたのは当然だろう。女の子がたくさんいすぎて疲れるとは何とも贅沢な悩みだ。俺も将来はドヤ顔で、いやー、女の子関係で疲れちゃってとか言いたいものだ。