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狙撃手の日常  作者: 野兎
拠点
105/166

104 ハイテンション

 昼飯も食ったことだし。心機一転頑張ろうか。

 しかしやることもないしな。ウサギの様子でも見に行くか。


 イェンツさんが入れたのか、中には干し草があり、中々に快適そうだ。


 そしてなんか増えてるような気がする。気がするではない。増えている。ウサギは年中発情期と言っても増えすぎなんじゃないだろうか。

 遠くから見たら茶色い毛玉だらけに見えるだろう。

 なんか数が多くなったから地面叩いたり、毛づくろいしてみたりと調子に乗ってるようだ。檻の中にいれば安全だとでも思ってるのかこのウサギ達は。


 そうだ。トレントの……ククにウサギの血でもやろうか。

 そして俺が扉を開けて入ると、逃げ惑うウサギ達。自分の立場をわかってるようだな家畜ども。

 てかこいつら速いな。俺じゃ捕まえられん。どうやって生け捕りにするんだ?


 本木に伝えておくか。

 ククの側に近づき、蜂の檻にゴブリンの肉を放り込む。蜂はゴブリンの肉を食べるようだ。腹が減っていたのか、大人しく近づきかじりついている。


『名前は?』

「ククだ。掛け算できるか?」

『しちいちがしち、しちにじゅうし、しちさんにじゅういち……』

 さすがだ。1番難しいといえる七の段をこうも淀みなく言えるとは。ちなみに滑舌が悪い人だと、しちいちがしちを早口で言えなかったりする。


『気に入った』

 それなら良かった。掛け算の九九から取ったんじゃないけどな。


「あの増え具合なら、1日に1匹、ウサギ食っても良いぞ。ただし綺麗にな」


 返事はない。まあ、わかっているだろう。血で辺りを汚したり、死骸をそのままにして腐らせるなってことだ。肉を食べないなら蜂にでも始末させれば良い。


 畑でイェンツ夫妻が何かを収穫している。俺が散々妨害しても生き残っていたものがいたか。良かった良かった。

 そういえばルーカスさんに会いに行こうと思っていたのに、忘れていたな。色々あったから仕方ないとは思うが。




 ……やることがなくなった。

 だからと言って、カラコさんの所で仕事を貰うのはあれだ。俺が労働を積極的に求めたがってる人みたいに思われる。


 そうだ、火魔法の新しいものを試すか。幸いここら辺は何もない遊ばせている土地が大量にある。畑から離れた所でやれば大丈夫だろう。


 ボルケーノ。

 ここに火山ができたらどうしよう。その時は土下座するしかないな。


「ボルケーノ!」

 地響き、からの地面が割れる。そしてマグマ噴出。俺火耐性慌ててつける。暑いし、天変地異でも起きたみたいになっている。


 結論、何これ。




 別に火山ができるわけでも噴火するわけでもない。周りにマグマフィールドみたいなものができる。火耐性をつけたけど俺にはダメージは入っていないようだ。自分の魔法で死ぬという間抜けなことにはならないな。

 俺の勘では相手にダメージと火魔法を強めて水魔法を弱めるみたいな効果だろう。カグノだったらこの上で昼寝してみせるだろう。俺は暑いから嫌だが。


 魔法の効果が切れると、そこには冷え固まった溶岩だけが残っている。これは……舗装に使えるな。


 土の上でボルケーノを使い、そして時間切れになると溶岩になる。そして後は綺麗に上のでこぼこの部分を削れば完成だ。


 ……ここにあっても無駄なだけだから、破壊しておくか。

 それに拠点の舗装は全て石を引くことでやっているからな。必要ないだろう。


「エクスプロージョン!」

 溶岩が砕け散り、土の地面が見えてくる。あのマグマは一体どこから噴き出していたのだろうか。


 カグノが作ったクレーターもイェンツさんによって埋められてたし、迷惑をかけることだ。って心だけで謝って行動は何もしてないが。2人だと大変そうだから、また人を雇った方が良いのだろうか。いくら二人がコマネズミのように働くといっても病気になられたらどうしようもない。

 まずはイェンツさんに姪がいないか、そして違う所で働いている娘がいないかの確認だな。


『姪か、娘ですか……すみません。ご主人様のご意向には従えないですね』

「そうか、ありがとう」

 なんか俺のこと警戒してない?!

 職権を乱用して無理やりとかないよ?

 そんなに俺って悪そうに見える?


 ヤク草の件に関しては用水路が完成しだい、取り組んでみるとのことだ。


 心にまだダメージがあるようだな。疑心暗鬼になってしまっている。カラコさんに慰めてもらおう。

 年下の女の子に慰めてもらって恥ずかしくないのかとか言う意見もあるかもしれないが、全ては今更なのだ。



「カラコさーん」

「シノブさん、お帰りなさい」

 ただ座っているように見えるが、その目は空中を辿っている。何かの作業をしているのだろう。ご苦労さまです。


「俺を、慰めてくれ!」

「一体どうしたんですか?」

 また変なことを言い出したみたいなこと思ってるんだろ! わかってるんだよ、そんなこと。


「ギルマス、無理。俺、怖い。ストレス死にそう」

 カラコさんは面接時に俺を知っているからか。片言の言葉でも俺の苦悩を察してくれたようだ。

 イッカクさんにいじめられて泣きそうだったとかは言えない。さすがの俺でもそこら辺のプライドはある。要はNPCのとプレイヤーとの違いだな。


「シノブさん、ギルドマスターだと思うからいけないんです」

 んなこと言ってもギルドマスターはギルドマスターだよ。ギルマス怖い。というかあの空気が怖い。偉いですよ! って感じの。


「胸が大きい女性だと思ってください」

 とんでもないアドバイスだな。

 しかし確かに胸は大きかった、目の前にいる時は緊張で全く気づかなかったが、中々美人だったな。仕事ができそうな感じと共に年上の色香というものもあって良いな。やっぱりあの年の女性っていうのは色々と持て余してるんだろうな。まだ現役だから結婚はしていないだろうし。


「元気になりましたか?」

「ああ!」

 さすがカラコさんだな。俺より俺の扱い方をよく心得ていらっしゃる。

 そうだよな。こう色々な女性と話し合えるってだけで天国みたいな場所なんだ。

 そうだ、カグノを呼び出しとこう。彼女がいなかったから、俺の心に潤いが足りなかったというのもあるような。やはり日常生活に可愛い女の子は必要だ、うん。



「ファイアゴーレム!」

 エウレカ号、最近世話になっているが今日も頼む。素直に受け取ってくれたエウレカ号が変身する。


「カグノー!」

『カグノだよー!』

 俺はカグノに向かってダイブする。火傷なんか知ったものか。火耐性が上がって良い!



「ぐはっ」

 危ない。足払いをかけられなければ、爆発にカラコさんまで巻き込むところだった。


「私の前でセクハラしようとしないでください」

 カラコさんグッショブだ。


「カラコさん、俺はおっぱいも好きだがちっぱああっ、ギブギブ、ギブだから! ヴィルゴさんそれシャレにならないって!」

 あのまま俺の首が折れていたらどうなったのだろうか。考えてみたくもない。ギブアップしてもタップしてもやめないとか、それを現実でやって欲しくないな。



「また、ログインしたと思ったらそんなことしてるんだな。2人とも変なことされてないな」

 変なことはしていない。テンションが上がってしまっただけだ。


「まあ、今のは私がそういう方向に持っていってしまったというのもあるので」

 お、なら何で足払いして転ばせたのかな? 結果的にはグッショブだったけど。

 変なことなんてしたらまず俺がここにいない。普通に垢バンされているだろう。



『前ぬるぬるしたのを塗られたー』

 カグノ、お前は一体何を言っているんだ?

 確かに塗った。

 塗ったが、それは変なことか?


 いや、下心が少しあったのは認める。認めるが、あれは必要なことだったんじゃないだろうか。


「ぬるぬるしたのだと?」

 ヴィルゴさんの眉間に皺がよっていむてるよ。そんなに怒ってばっかりいたら、顔に皺が刻まれるのに。


『なんか実験だってー』

「実験?」

 そう、極めて学術的に重要な実験だよ。そしてそのまま俺の身の潔白を証明してくれ。


『ぬるぬるを塗られたあとに、忘れた!』

 そうか、爆発したことは覚えてないのか。なら一件落着だな。覚えていないなら仕方ない。俺が説明しよう。


「俺から言わせてもらうと」

「黙ってろ」

「はい」

 どんな一方的な裁判だろうか。弁護士は一体どこに? こんなの魔女裁判と一緒じゃないか。



「忘れたというのはどういうことだ?」

『手に塗られてー、ずーっと上にきてー、なんかドクンって感じ?』

 抽象的な答えだな。ドクンっていうのは爆発のことか?

 手から上、うん。腕のことだな。


「ふむ、上とはどこまでだ」

 俺の背中をヴィルゴさんの足が踏みつける。これ事実上の死刑宣告じゃないですか。

 痛覚軽減最大まで上げとこ。


『ここ』

「ギルティ!」

 カグノが胸を指差して、ヴィルゴさんが一瞬で技の体勢に入る。

 へへへへ、適当に叫んでればおわ


「何でっ! 死ぬ! それ死ぬからああぁぁー!」

 死ぬかと思った。いや、本当に。痛いのが来るとわかっていれば耐えられる。だけど、こないと思ってた時来たら、それはもう凄い。

 体を半分に折られそうになるとか、そんな技術どこで習ってんだ? 現実じゃ明らかに殺し技だろ。背骨がぽっきり行きそうになったよ。


「一体何でだ?」

 痛覚軽減は最大にしてどんな攻撃でも軽い衝撃程度になるはずなのに。もういいや、元に戻しとこう。


「シノブって成人していたんだな」

 ヴィルゴさん、今それ関係ある? というより何歳だと思ってたんだよ。


「不思議そうにしていたから教えるが。これはスキル、拷問の効果だ。いくら痛覚軽減を上げていても意味がないぞ!」

 そんな嬉しそうに言わないでくださいよ……。いつもワイズさんが倒れている理由がわかった。

 てかそのスキル反則だろ……。



 カグノやめて! 倒れて動けない俺の頭をよしよしするのは! 頭部装備つけてないから!

 慰めてくれるのは嬉しいけど!



「それにしても、その鎧が新しいものか?」

「性能を聞いてませんでしたね」

 ヴィルゴさんなんか結構変わっているような気がするが、俺の時は気にするんだな。

 ヴィルゴさんは狩りによく言っているし、金もあるからな。俺は一々色んな種類持って変えるほど金持ちじゃないし、素材集めるために連戦とかもしないからな。


「水に非常に相性が良い。水着代わりになるそうだ」

 女性に関しては水着代わりにならないが、俺が水着代わりにこれを着ていても誰も残念がらないだろう。俺の水着を見たかったとかいう男の人とは全力で距離を取りたいものである。

 女の人に言われた場合は……俺は脱いだら凄いんだぜ、とでも言うか。



「じゃあ陸上では使えないんですか?」

「そうでもないが。新しい鎧を今作ってもらってるところだから、こっちは水中戦用になるかもな」

 これでカラコさんが海に行くことを考えてくれれば良いのだが。


「王都攻略が終わったら海にも行きたいものですね」

 王都攻略があって、王都が解放されて、王都観光して、また新しい技術とか、ゴタゴタに巻き込まれて、海に行くのはいつになるのだろうか。


「そうか、じゃあ私は少し体を動かしてくる」

 自分で聞いたのに全く興味がなさそうだな。この人は強いか強くないか、戦いに関係することだけしか興味ないのだろう。

 ヴィルゴさんは闘技場に向かうのだろう。しかしラビとマラを見ないがどこに行っているんだ?



「シノブさん、やることがないな……やることがないなら。ここにいてください」

 おい、今なんで言い直した。


「カグノちゃんが中に入れるようにできないんですか? もう内装も整えているところがあるから、不用意に入ってもらったら」

 そういうことね。てっきり俺が何かやらかす問題児的なポジションになっているからかと思っていた。


「そう、俺はそれを解決したくて鎮火させるためにぬるぬるのヌメリタケを塗っていたんだよ。一応成功はしたが」

「でも胸にぬる理由はありませんよね。それにそんなものを塗ったら床が汚れるんじゃないですか?」

 確かに。でも足に塗るのも変態っぽくない?


 カグノは切り出されていらなくなったであろう石を拾っては投げている。カグノの体温で真っ赤になった石は凶器と化している。ぶつかりたくないものだ。



「カグノ、浮かぶこととかできないのか?」

 言ってみただけだ。でもできそうな感じはする。


『できるよー!』

 いや、なら浮かべよ! なんで昨日穴から上がる時やらなかったんだ。


『むむむむむ』

 カグノが気合を入れると、まるでホバークラフトのように浮かんだ。相当頑張っているな。相当頑張って60cmほど浮いている人の図とはなんともシュールなものだな。


「暑いな」

「上昇気流で浮かんでいるんでしょうか」

 火力が上がっているのか、体が白っぽくなってるし、俺たちのところに凄まじい熱風が吹き付けている。


「カグノ、ありがとう。それって疲れるか?」

『疲れたー』

 ならいつも浮かばせてるわけにもいかないし。

 どうやって鎮火すれば良いのだろう。



 そういえばカグノって水をかけたらどうなるのかな?


「カグノ、水遊びするか?」

『遊ぶの? やる!』

 やってみよう。思い立ったが吉日だ。


「シノブさん、それってマズイんじゃ」

 大丈夫さ。ヌメリタケだって大丈夫だったんだ。


「足にかけるだけだ。それで燃えるのが収まったら御の字だ」

 心配だからというから、カラコさんもついてきた。が、何故そんなに離れているのだろうか。


「遠くで見守っておきますー!」

「りょーかい!」

 何を予測しているのかはわからないが、そんな危険なことにはならないと思うのだが。カグノの火力が高かったら水は蒸発するだけ、カグノの火力が弱かったら、カグノが龍槍に戻るだけだ。

 ホースをカグノの方向に向ける。


「いいか、カグノ。かけるぞ」

『うん』

 慎重に水をカグノの足にかける。

 最初は少なめの量で……あ、ミスった。





「シノブさん! 大丈夫ですか!」

 何故か俺の頭は地面に埋まっている。ここが畑じゃなくて、普通の道だったら死んでいただろう。

 何か同じようなことを最近もしたような気がする。


「一体何が……」

 先ほどまで俺がいた場所からはもうもうと白煙が出ていた。また爆発か。


「シノブさんが水をかけた瞬間爆発してシノブさんが飛んで行きました。空中魚雷でした!」

 人間が飛んでいくことなんて中々見れないしな。さぞかし壮観な眺めだったであろう。


 それにしても何で爆発するかわからない人だな。


 胸に触ってもだめ、水をかけてもだめ。一体何が引き金だ? 衝撃とか?

 思った通り、クレーターの真ん中には龍槍だけが突き刺さっており、カグノの姿はどこにも見えなかった。


「カグノちゃん、大丈夫でしょうか」

「良くあることだ」

「え?」

 本格的に対策を考えないとな。


 クレーターは……うん。イェンツさん仕事増やしてごめんなさい。

 カグノには後で美味しいものでも食べさせてやろう。何を食べるのかは知らないけど。


「シノブさんが運んだらいいんじゃないですか?」

 暑さで死にますけど? 火耐性を限界までレベル上げすれば別かも知れないが。


「台車みたいなものを使えば」

 ……それはどうなのだろう。そういうのを介護と言うのではないだろうか。でも確かに良いアイデアかもしれない。俺が運ばなくてもゴーレムに運ばせたら良い。


 ゴーレムといえばエウレカ号と体の相性が良いらしいから、合体してるけど、他の人とはどうなのだろうか。俺とも合体できたりするのだろうか。

 そしてこれを発言したらセクハラになるのだろうか。

 ヴィルゴさんならなるだろうな。


 もし俺、女体化したら。自分の体なら触っても大丈夫という理論が成立してしまう。

 これ、もしかしていける? ここは試してみるっきゃない!



「おーい、カグノ。起きてるか?」

 うーむ。どうしたものか。カグノの返事がないということは耐久値が少なくなっているということ。少し待ってれば回復するだろうが、そんなの待っていられない。



《スキル【錬金術】を取得しました。スキル欄が限界なので控えに回されました》




 装備も消耗してるだろう。カグノとついでに回復してしまえ。


《行動により【錬金術Lv2】になりました》


 錬金術は最もゲームらしいスキルだな。発動させて、対象を選んだ。魔石を融合させる。魔石を10以上消費するっていうのが予想外。


「カグノ、聞こえるか」

『聞こえるよー!』

 うむ、元気そうだ。


「俺と合体、できるか?」

「シノブさん何考えているんですか?」

『うーん、やってみる!』


 それでこそカグノだ!

 そして俺の体が光に包まれ始める。

 キタ! これで俺の天下が!



「シノブさん、大丈夫ですか」

 俺に触れると火傷するぜ。という言葉がリアルで言えるようになったのかな?


 さて、俺の体を確認…………胸がない。



 俺の野望は消え失せた。この世は非情だ。

 神よ、なぜこういう設定にした。



「全体的に女性っぽくなってますね」

 え、本当?

 それなら良いんだが。いや、良くないよ。胸ないじゃん。


 胸部装備を外してみる。

 貧乳というより、男と何も変わらねえな。ちょっとデブってたらこんな胸いくらでもいるよ。

 それに自分の胸だからか、興奮しな……俺の息子がいない。

 いや、落ち着け。女体化したら無くなるのは当たり前じゃないか。うん。


「シノブさん、そんな無表情で自分の胸を揉まないでください。気持ち悪いです」

「いや、本当に残念だよ」

 胸を揉んでも何も感じない。柔らかいなと思うぐらいだ。期待させるだけ期待させておいて……。

 可能だとわかった時は本当に夢が広がったのになぁ。


「熱く……ないですね」

 カラコさんが恐る恐る俺の手に触れた。

 俺はその手を掴むと、もう片方の手でカラコさんの頭を撫で始めた。


「何やってんだ俺」

「本当に何やってるんですか」

 しばらくは成されるままになっていたカラコさんだが、手を振りほどき警戒した目でこちらを見ている。


「いや、わからん。凄い自然にやってしまったから自分の意思かとも思ったが、違うな」

 カグノか。熱くないから嬉しくなったのか?


「体はカグノが大体を制御して、精神は俺が制御しているということか?」

 俺の首がこっくりとうなづく。うーん、変な気分だ。自分で動かそうと思えば動かせるが何も意識してない時に体が勝手に動く。


 俺の体はカグノになったということか。確かに髪も長いし、肌の色も明るくなっているし、そもそも性別がカグノ。これは俺じゃないな。しかし燃えていないのが不思議だ。いや、ファイアゴーレムは燃えていても大丈夫だが、俺は燃えてたらダメージを負うからな。


「ということは龍槍を使えるんですか?」

 俺じゃできないような軽やかな槍さばきを披露してみせるカグノ。

 ということは、あれができるんじゃないか? 近距離の相手をしながら遠くの敵を倒す。


「カラコさん、少し闘技場まで付き合ってくれないか?」



 闘技場では先客が、ヴィルゴさんと巨大トカゲ。ポイズナスリザードだろうか。それが戦っている。


 卵だったこいつがこんなに大きくなったのか……。ヴィルゴさんのワンツーパンチでKO。闘技場の床に吸い込まれるように消えていった。

 どんな怪獣対戦だろうか。でかい巨体を吹き飛ばせるヴィルゴさんが恐ろしい。


「次、使っていいですか?」

「いいぞ。カラコちゃんと……シノブ?」

 疑問符付きか。俺とさっき会ったばかりだが、そういレベルで俺っぽくなくなっているのか。


「確かにシノブだが」

「何か声が高くなっていないか? それに印象が違う」

 やはりわかる人にはわかるのか。何だか面白くなってきたな。これで初対面の奴に会ったら女だと思われるんだろう。


「詳しい説明は省く、ニュータイプの俺の戦いを見ておいてくれ」


 闘技場の対面に立ち、戦闘開始を待つ。ルールは擬似HPの30%を先に削りきったところというやつだ。

 3、2、1。



「ファイアボール!」

 龍槍の穂先に2つの炎が生み出される。魔力操作もファイアボールに関してはできるようになってきた。威力が増した火球がカラコさんへと飛んでいく。


 その2つの火球を避けてきたカラコさんの刀を素早く龍槍で受け止め……られなかった。


「大丈夫ですか? シノブさん、カグノちゃん」

 受けられると思ったのになぁ。

 カラコさんの刀なんて受けたことないけど。


「たぶん俺の筋力値の問題だな」


 ステータスを見てみよう。


種族:炎樹人

職業:狙撃手 Lv33

称号:神弓の射手


スキルポイント:28


 体力:90(+5)

 筋力:30

 耐久力:40

 魔力 :150(+8)

 精神力:130(+14)

 敏捷 :40

 器用 :80(+28)



 炎樹人? そういう種族がいるのか? 半樹人から炎樹人に、職業みたいに種族が変わるのなら、そんな風になるのだろうか。水樹人とか風樹人とかもいるかもしれない。

 魔力は50、精神力は25、敏捷は20上がっている。

 倍率だけで言えば、敏捷が2倍になっている。それでも筋力が最低なことには変わりない。

 



 腹筋すれば良いのかな?

 それとも全種類バランス良く上げていったほうが良いのか。敏捷なら歩くスピードとかにも影響するから上げても良いけど、筋力はなぁ。



 綺麗な演武を決めて見せたが、実際この筋力ではあまり役には立たないな。

 振り直しというか、モードによって切り替えとかできれば良いのに。



 振り直し……課金ですね。

 やめておこう。そんなものを課金するぐらいなら、他のもの買ったほうが良い。

 最近どうも後、1つ足りていたら完璧だったということが多いな。お布施をしないとダメなのだろうか。


「真剣に課金を考え始めている」

「何を買うつもりなんですか?」

 語尾ににゃがつくニャーニャー首輪、300円をカラコさんにつけてみたい気もするが。というか、殆どが攻略に関係ないグッズばっかりだな。攻略必須なものを課金アイテムで出すのはクソ運営だが。



 魔法のエフェクトを編集できるとか、名前を変更できるとか有能なものもある。魔法の名前を変更は良いな。大声でファイアボールとか叫ばなくても、永久なる聖炎よ、全てを灰燼に帰せ! とか言えるんだもんな。それでエフェクトがとてつもなくでかく、必殺魔法っぽいものにしたら完璧だ。

 新魔法かと思いきやダメージと当たり判定はファイアボールのままというとんだはったり魔法が出来上がる。


 お、ベリーズブートキャンプだってさ。可愛らしい苺のキャラクターが描いてあるが、どこの層を目当てにしているのだろうか。どうせなら萌えキャラ描けば良いのに。

 値段は5000円。


 説明もあれだ。美を追求した肉体になれる! とかそういうものだ。けど、レビューを見てみると、中々評判は悪い。星1ばっかりだ。


 金払って時間かけたのに1プラスとか金返せ。

 筋力値と見せかけて敏捷www何ですかこれwww

 中々疲れが取れないです。この課金アイテムだけ何か設定を変えているのでしょうか。



 ヴィルゴさんにメールで送っとこう。俺は買わん。でもどんどんレベルが上がりにくくなることを考えたら1でも十分だと思うが。まだ始まってばかりだから、モンスター倒すほうが効率良いと思う。




 良いものないな。ただでなら欲しくても、金払ってまで欲しいと思うのはない。100円で30分間声を変えるのを口座引き落としで買いました。


 今度誰かにこの姿でドッキリ仕掛けてやろう。完璧な女声にして。


「良いものないな。もうこれは諦めた。スパイになるとかしか活躍方法ないな」

 龍槍の先からファイアボールが出て闘技場の床の一部を溶かす。確かに火魔法の威力は上がってるようだけどさ。魔法だけ使うのなら弓の方が高性能なんだよ。


「クラック」

 ほら発動しない。火魔法は攻撃的だしな。そういや、この体で弓って射ることができるのだろうか。どちらも両手武器だから同時に装備できないのが難点だな。


 装備から外すと同時に、俺の体の違和感がなくなった。


「使い所わからねー」

「お洒落する時とか良いんじゃないですか?」

 残念ながら俺に女装癖はない。


 ……良いことを思いついた。


「カラコさん、俺の服を買うのに付き合ってくれないか」

「本気ですか!?」

 カラコさんは冗談で言っていたのか。


「ああ、本気も本気さ。俺は諦めない。女性としての利点を最大限生かすんだ!」

「は、はぁ」

 引いているようだが、これをきっかけに可愛い洋服を買わせてやる。


 そして、あることを試すのだ。

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