103 関係
本日更新2回目です。
1万文字ってどうなんだ?
と思ったから2回分けて投稿してみました。
「シノブさん、いらっしゃいデス」
店の中にいたのはえるるだけだ。アレクはログアウトしたのだろうか。
「鎧、ありがとな」
「はい。アレクが何か迷惑かけたでしょうか?」
えるるはアレクの裏の面を知っているのだろうか。
知らないだろうな。こんだけのほほんとしているし、アレクの方もえるるの前では大人しくしている。一体どういう関係なんだろうな。お互い専門も全然違うのに。
「いや、助けられたよ」
「それは良かったデス」
それで本題は。
「イッカクさんいないか?」
「イッカクさんデスか……イッカクさんは家にいると思いマス」
なるほど。ここでの用事が終わったらまた自分の穴倉に引きこもるんだな。まるでニートだ。
「わかった。ありがとう」
イッカクさんももっと便利な場所に居を構えたら良いのに。あの人は客が多すぎて困る人だが。どうせなら冒険者ギルド内に店を構えて、受付でお目に叶うほどの素材だけの依頼を受けるとかさ。
マップを見ながらイッカクさんの店へ向かう。
「イッカクさーん」
な、鍵がかかってるだと?
よく見たら閉店の札がかかってる。冒険者ギルドにいるのか?
連絡してから行けば良かった。えるるもいないから普通に家にいると思ったのか。事情を知っている俺が察して動くべきだったな。
メールしておこう。
今何処ですか。
新しい鎧の材料見つけたので依頼をしたいです。
即返信きた。冒険者ギルドか。やっぱりな。でもあそこ混んでるから行きたくないんだよなぁ。
……仕方ないか。
ちょっと待てよ。ここから拠点に転移して、それから拠点の魔法陣に乗れば冒険者ギルドじゃん。あったまいいー。
一瞬だけ拠点の様子を見て、また転移する。明日にでもできそうだな。大分外観は出来上がっている。中が大変なんだろうけど。
ギルド大賑わい。人が人を呼んで、皆口々に何があったのかと騒ぎあっている。その中でも装備に統一感があったり、何かの模様が何処かについていたりと着実に進んできている。俺たちも似たようなお揃いのものが欲しいよな。
そんなことよりイッカクさんはどこにいるのだろうか。
ギルドマスターと知り合いだとか言っていたし、ギルドマスター室かな?
「すみません、ギルドマスターさんの所へ行きたいのですが」
『お名前と所属をお願いします』
所属……神弓の射手で良いのかな?
「神弓の射手ギルドマスター、シノブです」
『……ご案内します』
イッカクさんが話しをつけてくれていたのかな。どっちにしろ助かる。
あれれ~、ギルドマスターの部屋にイッカクさんがいないぞ~。
というか、俺ってこの地位だけで、通されたの? イッカクさんどこ? この人達怖い。ギルド上層部なんて面接で何か言われた記憶しかない。何か覇気を感じるそういうスキルだろうか。
『貴方がシノブさんですか』
「は、はい!」
いかん、どもってしまった。もっとギルドマスターらしく落ち着かなければ。
『私がギルドマスターのロスヴィータ・クライシェです』
一体どこの国の人だろうか。NPCで苗字つきということは相当なお偉いさんというかギルドマスターだ。この人。貴族の長女で政略結婚を求められたが、拒否して実家から逃げてギルドマスターの地位までを得て、ついに両親と対等に話せるようになったとか。そういうことなのか。
「あ、あのー、イッカクさんがいるかなと思って来たんですけど……」
『ああ、そういうことでしたか。彼女なら、横の部屋にいます。今回のことの礼を言っておきたいと思い、私が呼んだのです。ありがとうございました』
ちょ、ちょ、一組織のトップがそんな頭なんか下げちゃダメでしょ。ここは俺どうすれば良いの? え? え?
ここはどういたしまして、というべきなのか? いや、どういたしましては偉そうか? 謙遜すべきか。一体何を言えば良いんだ。
『では、この方を案内しなさい』
俺の頭はパンクしそうだったが、イッカクさんの前に連れてこられたら落ち着いた。
もう会いたくない。というか死にそう。俺の心疲労度120%
「ああいういかにもって感じの立場が上な人ってすっごい苦手なんだよな」
「大丈夫ですかー」
イッカクさんから気遣ってもらったことなんて初めてなような気がする。いや、これはただの社交辞令か。
「それで昨日の今日でどんな素材を取ったんですかー?」
水神の素材を持ち込んだのは3日か、4日ぐらい前だったような気がするが。
俺はイッカクさんに腕の像を見せる。
金属に見えないけど、金属らしいんだよな。見た目は透明な水晶だ。それに軽くてうっかり落としてしまいそうになる。熟練の大道芸人だと、これでジャグリングができるだろう。
「気持ち悪いですねー」
俺が出した瞬間にそんな感想だなんて、どうせ潰してしまうから形なんて関係ないのに。それによく見れば名作だぞ。ミロのヴィーナスみたいに、体がないから想像できるみたいな。
「そうか? 中々の芸術品だと思うが」
「いえ、シノブさんのことですー」
俺の心に大きな傷が刻まれた、ナチュラルに罵倒されても喜べない。何の脈絡もないよ。俺なんかしたか?!
「こんなレア度の高いものポンポン持ち込んでくる人はシノブさんぐらいですよー」
あ、そういう意味での気持ち悪いね。俺自身が気持ち悪いってことじゃなくて。良かった。
「たまにシノブさんを見ていると寒気を感じることがありますねー」
あれ? どっち? それってどっちの意味? 能ある鷹だと思って爪を隠していたらいつの間にか退化してた俺の才能を感じ取っているというのか?
「ロリに罵倒されて喜んでいるシノブさんが気持ち悪いですー」
遊ばれてるな。俺がハラハラドキドキしているのをもてあそんでいたんだろう。
あー、腹立ってきた。こちとらギルドマスターに会って、精神がとてつもなく疲労してるってのに。それでロリに罵られて喜ぶドM扱いされるのか。
「あれ、シノブさんどうしたんですかー?」
「帰る」
もうこんな奴とは顔も合わせたくない。
馬鹿にされるのも、もううんざりだ。俺の心の居所が悪かったことを不運に思うんだな。
あばよ。
「シノブさん本当に帰るんですかー?」
「もちろんだ!」
「これはどうするんですかー?」
イッカクさんが腕を持っている。
…………仕方ない。
大人なら悪口にだって耐えなければいけないことがある。ここはあくまでもビジネスライクに行くんだ。平静さを保て。
「ハラハラしているシノブさんが面白くて必要以上にいじめてしまったことには謝りますー」
そんな適当な謝罪を受けても許さない。
「安くで加工しますからー」
「……まあ、そういうことを言う人だというのはわかっていた」
そういえば俺だってカラコさんに似たようなことはしたりする。
その時は殴られることで良心の呵責から逃げているのだが、この人は正真正銘なSなんだろう。思えば俺がダメージを受けている時も楽しそうな顔をしていたような気がする。
……相手を感じさせてると思えば、まあ男として我慢できなく……ダメだ! これはMに落ちるフラグだ! やはり怒るところでは怒らないとな。
……イッカクさんが必要という時点で、俺の方は怒っても言うことを聞くしかないんだけど。
しかも性質的に怒鳴れないと来ている。厄介なものだ。
「心機一転。さっきのことは忘れよう。ゲームして、1日寝たら忘れられる。取り敢えずこのゲームって飲酒OK?」
「簡単な酒ならありますよー」
マジっすか。
「もちろん成人でないと飲めませんし、食堂では売っていないし、一般フィールドでは飲めませんし。飲むなら大人達だけが入れるような秘密の隠れ家的な場所でないとダメですねー。自分の家から一歩でも出れば酔いは覚めますし、未成年が近くに来ただけでも酔いが覚める設定ですねー。基本的に未成年に酒は見せられませんよー」
ということはプレイヤーの自作でないとダメなのか。俺も醸造持ってるし、本格的に酒作りに挑むのも良いか。ここなら肝臓に負担もかけないしな。
それにしてもそういうことはしっかりしているんだな。VR内での飲酒は特に制限されてないものの、VRで酒の味を覚えて現実でも飲み始めるってやつは多いだろうし。親としてもやらせるならそっちの方が安心だもんな。
ビールって何が必要なんだろう。麦芽とイースト? 麦芽はともかくイースト菌とかどこで捕獲するのだろうか。納豆菌ならそこら辺の枯れ草にいそうだが。
まずは果実酒とかから始めたほうが良さそうだな。
そんなことより今は、目の前の金属だ。
「シノブさん、これどこから手に入れたんですかー?」
しげしげと眺めながらイッカクさんが聞く。その様子は鑑定人か、何かを思わせる慎重さだ・
「師匠から貰った」
そうだ。鑑定しておこうかな。
《鑑定が阻害されました》
何だこれ。初めて見るぞ? 水神の抜け殻の時だってならなかったのに。
これが加工品だからだろうか。
「私は何も言いませんけど、これを加工しても良いんですかー?」
「それ用にって師匠から貰ったものだからな」
一体何が言いたいのだろう。これが歴史的な価値のあるものとか?
それでも俺は鎧に使ってしまうけどな。わざわざ置いておく必要がない。
「ちなみにこれって一体何なんだ?」
「夜神の封結晶という名前ですー」
封結晶ね。夜の神が眠っていたあの物質だろうか。
金属にはとても見えないが、どういう性質になるのだろうか。
「依頼は受けてくれるのか?」
「もちろんですー。軽いし硬いし、シノブさんにはもったいないですねー。攻撃を受けないのに。いっそのこと戦士に転職すれば良いんじゃないですかー?」
魔法戦士ならともかく、狙撃剣士って何だよ。何か狙撃手を経由して戦士になることに利点があるのだろうか。
というか狙撃手って特に初期ステータスに補正かかってないし、一体どんな効果があるんだ?
「戦士っていうのはなったらどうなるんだ?」
「お、興味が出てきましたかー。戦士の利点は武器スキルが上がりやすいというものですねー。戦士になって、武器スキルを上げて、剣士になるとかー」
俺の場合は、弓術か両手武器が対象か。
それ2つが上がってもしょうがないんだよな。
「そもそも狙撃手と相性の良い前衛職ってあるの?」
「狙撃手は魔法や矢の飛距離を伸ばす職業ですからねー」
そうだったのか。知らなかった。
前衛で飛距離が伸びてもしょうがないな。とことん近距離で意味をなさない職業だ。
まあ、俺の生存率が上がるのは良い。真正面から殴られても中々倒れない狙撃手。それが俺だ。
常時覚醒状態とかにできたら、体は前、精神は後ろで狙撃手とかになるのに。
そういうスキルがあれば良いのだが、どう考えても普通じゃ取れそうにない。また運営特典か何かでもらうしかないな。
「シノブさんは足が遅いし、近寄られたことの時もあるしそれで良いんじゃないですかー?」
カラコさんがいる限り後ろには抜かれないと思うが、どんな実力者がいるかわからないからな。
「じゃあ、よろしく頼む」
「出来上がったら連絡しますー」
さてと、一旦ログアウトして飯を食うか。こういう時は何か食べてきばらしするのが1番だ。
ありがとうございました。
1日に2回投稿するよりストックとして貯めていった方が良いのかもしれないと思い始めました。読者さんとしてどうなんでしょうか。




