100 彼の行方
看板娘の代わりにロボットを買ったら売上が落ちたという中華料理屋のおっさん。
俺は愛想の良い女子高生が配膳してくれるから言ってるんだけどな。他の常連もそうだったりするのだろうか。
世知辛い世の中だな。俺が言えることじゃないが。
全てが自動進行してまるで刑務所みたいな気分になるチェーン店の真似をしても、人はチェーンに流れるに決まってる。俺達は人の温もりを感じにここに来てるんだ。って力説したが、どうなるのだろうか。あそこがあのままだと本格的に簡易食料のお世話になりそうだ。
俺の熱い気持ちが伝わってくれたと信じよう。
おはようございます。
ご苦労様なことで、朝から工事音が聞こえてくる。工事音って言っても金槌が振るわれる音だったり、風情がある音だが。
メールが着てる。俺がログアウトした後だな。
えるるから装備ができたから取りに来いとのことだ。
もういい加減ゴブリンタロウのメール見なきゃな。そして返信しなければ。今日見なかったらもう永遠に後で良いやと言い見ないような気がする。
神に関して。
君がどのぐらい宗教に通じているかわからないが、少なくともこの街での信仰は自由だ。様々な種族がいるからね。王都では1人の神を信じている。今では廃れているが自然現象を神と崇めていたこともあったようだ。
後はダンジョンを神の創作物だとする人、モンスターを神の使いとする人など色々な宗教がある。私は神などは信じていないが、興味があるなら冒険者ギルドで教会の場所を教えてもらうと良い。
今では自然現象を神とすることは廃れている、か。でも神はいたんだよな。何があってそんなことになったのか。月神は誰かにやられたとかいっていたが。
王都の一神教の神が怪しいな。
日本人は元来、多神教の国家だから一神教には不信感を抱く。ボスとしてはうってつけだろう。
遡行成分に関して。
君がどこでこれを知ったのかはわからないが、あまり大声で言うことは勧められないね。この成分に関しては不老化計画……おや、誰か来たようだ。書いてる途中で誰かに見られるのも私の身に危険が及ぶ。計画の内容は名前で察してくれ。では。君の幸運を祈っているよ。
ゴブリンタロォォー!
これは凄い死亡フラグじゃないですか。惜しい人が亡くなったな。というより俺のメールのせい? フレンドから消えてないってことはまだ生きているんだと思うけど。
捕まった理由って俺のメールのせい? それともゴブリンタロウが踏み込みすぎた研究をしていたから? 一応返信しておこう。これで帰ってきたらただの杞憂だ。
俺も気をつけよう。夜、急な来客には対応しないことだな。ここにいる限りは安全だと思うが。
カラコさんにもこのメールを転送しておこう。
ゴブリンタロウのことも色々と気になるが……畑の様子を見に行くか。
畑ではイェンツ夫妻が働いていた。
「朝早くからお疲れ様です」
『おはようございます』
働き者で良いことだ。良い人を雇ったな。
畑も大体の部分に何かが植えてある。
そして畑の隅に見慣れない木がある。
銀色の葉を持つ見上げるほどの大木。
一体誰が植えたんだ?
俺が近寄ると、急に声が聞こえた。
『名前は?』
お前まさか、蜂担当か?
よくよく見たら根本に蜂の檻がある。全体に対して小さすぎて気づかなかったよ。
名前……調べるのを忘れていたな。
銀色のトレントだから……銀トレーとか? ダメだな。安直すぎる上にカッコ悪い。
カラコさんにもう一度頼もうか。
「すまないな。昨日はカラコさんに頼めなかったんだ。それにしても随分大きくなって、葉の色まで変わってるな。光合成できるのか?」
銀色に見える葉なら、光の加減とかであるかもしれないが、これは正真正銘の銀色だ。
『月の光美味しい』
一体俺の血に何が混ざっていたんだろう。
月の光で光合成なんてファンタジーな木だな。
これだけデカイとシンボルツリー的な扱いになるかもな。このギルドの拠点といったら、この木みたいな。
月神からの影響をあまり受けていない俺の血でこうなるのならカラコさんのオイルならどうなったんだか。
「蜂も元気か?」
一応声はかけてみたが、動かない。蜂の気持ちはわからないから一体何を考えているのかもわからない。暇そうだな。
イェンツ夫妻の愛情を受けて、野菜たちはすくすくと育っているような気がする。もう収穫できそうなのもあるな。料理人を雇わなければ。今日装備を取りに行くついでにルーカスさんのところに言って、良い料理人を知らないか聞いてみよう。本人が来てくれるならもちろん大歓迎だけど。
イェンツ夫は用水路みたいなものを畑の横に掘っていて、イェンツ妻は雑草を抜いている。ご苦労様なことだ。野菜畑にグロウアップをかけておこう。
熟れかけの野菜が落ちたんだが……。俺は何もしてない。
こういう呪文って不用意にかけるとダメなんだな。今学んだ。
畑の様子も見たし、えるるの所に行くか。カラコさんはログインしているけど、姿は見えない。どこかで作業しているのだろう。
「おーい、カグノ。起きてるか?」
『起きてるよ~』
元気な声が聞こえてくる。良かった。1日たったら回復したみたいだな。
「昨日のは一体何だったんだ?」
『わかんない。急に熱くなった』
わかんないか。まあ、自分の胸が自爆スイッチだなんて知ったら好奇心で押したくなるだろうしな。
まあ、俺ももう一度試す気もないから、真相は闇に包まれたままだな。
誰かがカグノの胸を揉もうとしたら、それはご愁傷様ということで。俺が精神振ってなかったら死んでたレベルだからな、あの爆発。
「カグノ、自分の足で歩きたいか?」
今日特にMP消費するつもりはないし、ファイアゴーレム一体なら誤差みたいなもんだ。
これはカグノの自主性を確保すると同時に俺の目の保養のためだ。やっぱり美人が隣にいるだけで人生が明るく、楽しくなる。
『うーん、どっちでも?』
消極的な槍だな。なら自分の足で歩いてもらおうか。杖代わりになるから、そんなに持つのが負担というわけではないけど。
「ファイアゴーレム」
召喚されたエウレカ号はどこか不貞腐れているようだ。真正面で俺のことを見ようとしない。
爆発に巻き込まれただけだろ? そんなことですねていたらモテないぞ。
とそんな態度をしていてもちゃんと龍槍を受け取ってくれるあたりツンデレなのだろう。ゴーレムのツンデレとか誰得。これはカグノのことが好きだけど、素直になれない。けど、頼みは聞いてしまうみたいなことなのだろうか。
うちの娘は誰にもやらないが。
『うーん。良い天気だ!』
人間形態になったカグノは大きく伸びをした。
龍槍に話しかけるのって、周りから見たら独り言を言っているように見えるからな。こっちのほうが助かる。
良い天気なのはいつものことだが。流れる雲に水を浴びて輝く野菜、道路脇で硬直しているカラコさんに、遠くから響く何かを叩く音。そして森からは小鳥の声が聞こえてくる。
改めて意識すると贅沢な場所だ。
「今日も忙しい日になりそうだな」
『頑張る!』
俺が振ったのも悪いけど、カグノは俺の周りで遊んでるだけだろう。頑張るならそれなりに労働してもらうぞ。
って今カラコさんいたよな。道路脇で固まってたから銅像かと思ってしまった。隠密持ちの俺でも真似できないほどの背景への紛れ込み方だったな。
俺は振り返って、通り過ぎたカラコさんへと挨拶をする。
「カラコさん、おはよう」
「ナチュラルに無視をして、何もなかったように話しかけるのをやめてください」
無視はしてない。ただ気付かなかっただけだ。いや、気づいていたけど自然すぎて声をかけることを忘れただけだ。そう、カラコさんは俺の生活において、いつもいるものという認識だからな。今更見つけたところで何か言おうと言う気にはなれない。
……これって無視だな。うん、挨拶は大切だ、
カラコさんが自慢の脚力を活かして瞬間的に近づいてきた。そんな急に来られると仰け反るからやめてほしい。
「おはようございます。シノブさん、カグノちゃん」
『おはよー!』
カグノの姿はたった2回目? なはずだが初めましてじゃないんだな。
そういえば頼みがあったんだった。
「カラコさん。あのトレントの名前考えてくれないか?」
俺が指差す方を眩しそうに目を細めて確認したカラコさんは、その目のままで俺の方を向いた。怖いな。一体何の文句があるんだ?
「……何ですかあれ?」
見たらわからないか?
「トレントに俺の血をやったら、ああなった。理由はわからん。後捨てたポーションででかくなったのもあるな」
それにしても遠くからでも存在感抜群だな。あの上にツリーハウスとか作ったら楽しそうだ。
「意味がわかりません。何でシノブさんが血を提供したんですか」
本木が欲しいて言ったし、俺の血で済むならわざわざウサギを消費することないからな。今はともかくウサギは今は貴重だ。
「そこらへんはいいじゃないか。トレントが契約に応じてくれたのが重要だ。で名前、考えてくれる?」
「まあ、良いですけど……」
しばらく考えた後、カラコさんは1つの名前を出した。
「カグノちゃんと同じ、日本の神から取ってククとかどうでしょうか。ククちゃん」
可愛らしいな良いと思う。
「良いんじゃないか?」
『良いね!』
カグノにまともな名前の良さがわかるとは驚きだ。
「それで何ていう名前の神なんだ?」
「ククノチノカミですね。木の神です」
噛みそうな名前だな。それにしてもよくそんなこと知っているもんだ。
「そうです。トレントの名前じゃなくて。シノブさんが送ってきたメール。あれなんですか?」
あー、あれの説明も必要か。面倒くさいな。
「ゴブリンでもわかる講座の教師に俺が見つけたことの相談をしたら、こうなった。生産ギルドが御法度にしてるから、それが絡んでるのか。それとも冒険者ギルドが関係してるのか」
冒険者ギルドは変な戦力も抱えているしな。あり得る。俺が龍槍の素材を取った瞬間に待ち構えてたように来たやつとか。
「何だかイベントの予感ですね。イベントと言えばシノブさん知ってますか?」
カラコさんが新しく情報を得たことで俺が知っているわけないだろ? 俺は掲示板でも【AWO】聞けないような質問をラビットが一蹴するスレしか見てないんだ。もちろん攻略情報なんて乗っていない。
「ようやく王都近くに辿り着いたパーティーの報告ですが、高レベルかつ大量のモンスターに襲われて逃げ出してきたらしいです。それで近いうちに一斉に攻略するためにギルドを募集していると」
へー、そんなことがあったのか。
というより王都近くなのに高レベルモンスターが大量? 普通は駆除されてそうなのだが。
「それに各NPCから王都と通信ができないと聞かされてることから考えると、王都は崩壊。モンスターの根城になってる可能性がありますね。経験値稼ぎのチャンスですよ」
それは行くっきゃないな。ギルドはできていないが……一体いつぐらいに完成するのだろうか。
「一体どれぐらいの人が行くんだ?」
「ゴブリンの時よりは少ないかと。今のところ参加表明を示しているのはAWO英会話教室系列と紅蓮隊、蒼天の翼、赤の騎士団、鬼剣連合、鉄塊、GOSD、マーチングバンドなど。後方支援としては職人の砦から行く人がいるそうです」
語学教室系はこのゲームにもいるのか。
掲示板では荒らしっぽい宣伝行為が問題になったり、ガキが多かったり、ギルド外の人にでも平気で外国語を使ってわかっていないとニヤニヤしたりと色々ヘイトを集めているギルドだ。
そして何気にギルド人数が多い場合が多い。単体ではそんなに多くないのだが、中国語教室とかスペイン語教室とか色々あるしな。
ちなみにそのネイティブもどきからはやたらある教材を進められるとのこと。
もちろん有料だ。
ただ母国語で話しながらゲームをするだけで金が貰えるなんて良い身分だ。
俺も1日中ゲームができるから良い身分と言われればそうだが。
職人の砦は生産ギルド最大手。何のルールもなく、作ったものがギルドの直営店に送られるから、取り敢えず所属してレベル上げついでに金稼ぎという人が多い。売上は少し取られるらしいけどな。
はたしてそんあ烏合の衆で機能するのか。まあ、その中でも派閥とかあるだろうし。俺は飯も食わなくて良いから利用することはないだろうけどな。
他のところは新しくできたギルドか? 俺は知らない。紅蓮隊と赤の騎士団はゴブリン防衛戦からいたギルドだな。
「それで神弓の射手はどうするんだ?」
「それはシノブさんが決めることです」
そうか、俺が決めるのか。
俺個人としてパーティー単位で移動していた時はともかく、ギルドマスターとしてならどうなのだろうか。その時までにギルドのホームが完成して、お披露目パーティーもして、ギルドとしての役割をなすようになったら良いのだが。
しかしここでイベントに参加しなければ、出遅れるという意識もある。いや、別に出遅れても良いんだけど。新しい素材も魅力的だし。どうしよう。ゴブリンタロウの件と同時並行で進めるか。
「勧誘も含めて、行くか」
まあ、皆最近土木工事ばっかりだし。これで断ってもフラストレーションが溜まるばっかりだ。
そう言うとカラコさんは嬉しそうな顔をした。やっぱり行きたかったんだな。
「そうなると忙しくなりますね。まず王都までの馬を買わなければいけないのですが」
「そこら辺は任せるよ」
カラコさんに任せておけば間違いはないだろう。そして俺の牧畜が猛威を振るう時がやってきたかもしれない。愛馬の名前は何にしようか。
「じゃあ俺はゴブリンタロウのことを探りに行くついでに装備を受け取ってくるよ」
サボりではない。イベントを進める重要なことだ。装備を受け取るのはあくまでもついで。
「シノブさん、気をつけてくださいね」
気をつけて、暗殺についてだろうか。
「カグノもいるし、大丈夫だ」
『大丈夫!』
カグノも元気よく返事をしてくれたが。花は儚く散るから美しいといっても自ら率先して燃やす必要はないと思うぞ。それはわざと燃やしているのか。
転移魔法陣で飛ぶとそこはいつも通り人でごった返している冒険者ギルド。まだギルドに入ってない人はこれだけいるんだな。
そんな人混みの中でもカグノがいるから俺の周りには人が寄ってこない。お前らもっと火耐性鍛えた方が良いんじゃないか? 俺なんか我慢すればそのまま触れるぜ? それは痛覚軽減度の問題か。
『うわぁ〜』
カグノが人混みに目を輝かせている。
そういえば冒険者ギルドに入るのは初めてだったな。
「邪魔になるからさっさと出るぞ」
こんな所で更に人を密集させるのも、可哀想というよりカグノが目立つからさっさと出たい。
慣れた道を通り、えるるさんの店に来る。
この外見にも慣れたもんだ。
「いらっしゃーいにゃ」
店にはイッカクさんとアレクがいた。
自営業だからこそ、こんなに休めるのだろうか。イッカクさんとても優秀な鍛冶師なんだから、この店なんかにいたら大量の人が押し寄せそうだが。
「初めまして、ですねー。私の名前はイッカクです」
「アレクだにゃ」
『カグツチノカミだよ!』
初対面の人には元気よく自己紹介。しつけがしっかりしている。
ボロボロな俺のローブを見ても特に感想はないのか。
アレクに渡すと一瞬で直してくれた。
「えるるちゃんはログインしていないので、私が装備の説明をしますねー」
イッカクさんが取り出したのは、鱗が要所要所に貼り付けられ、足りない場所は金属でできているスケイルメイルだ。全体的に青を貴重としており、前の鎧よりスマート差を全面に押し出している感じだ。ガッチリしていない。
いくら鎧が素早そうな印象を与えても俺は遅いけどな。スピードアタッカーだと思わせておいて、盾にもなりうる精神力。良いと思う。
「素材の影響かー。水の中での行動がしやすくなってー、水耐性もつく。水中用装備ですねー」
水神の鱗だからか? 確かに形は流線型で水を受け流しそうな感じはある。ヘルメット型の頭装備も水流が流れるように溝が刻まれている。また顔は見えない全身鎧だな。まあ良いが。
「かなり高い防御力、それに耐久値の自動回復。ステータスの増加はできなかったけどーかなりの高性能ですよー」
お、そうだ。鑑定を使ってみよう。
水神の鱗鎧
えるるとイッカクが作った上部な鎧。
動きやすいように作られており、水の中での動きを補助する。
水との相性が非常に良い。
高性能なのはわかった。しかしイッカクさんと俺が見てるものって多分違うよな。
神の素材だからまあ、そりゃ高性能なんでしょうね。
しかし水中戦用とは。水の神だからこうなるってことを予想できなかった。てっきり水魔法に相性が良いぐらいかと思ったら。これって陸でも使えるのか?
というより、俺って火と木を主力にして戦うからな。実際陸で役立つのは水耐性だけか。
「ライチョウの尾羽のネックレスもできたにゃ」
そういや、そんなものも頼んでいたな。
試着として着てみるが中々かっこいい。
『かっこいい!』
「似合ってるにゃ」
「イケメンですよー」
周りの評判も中々……。
イッカクさん、その言葉は棘がありすぎると思うんだ。
「今度王都に行くんだけど、その時にこれ着て行って大丈夫だと思うか?
「防御力でいえば全然大丈夫だと思いますよー。ブーストもついているのでー」
これにもついているのか……。使わない。使わないったら使わない。もう覚醒もあるし、使う必要性を感じない。
「何か今オススメの装備ない? 既製品で良いんだけど」
「全部それより格下になると思いますねー」
それなら、やっぱり陸でもこの鎧使わなきゃいけないのか。というかこんな鎧手に入れたら海に行かなければならないじゃないか。ヴィルゴさんは水中戦は嫌がりそうだけどな。ネコ科っぽいし。いや、カラコさんも塩水だと錆びたりするのか? 水飲んでるんだから大丈夫だと思うけど。
「何かボスの素材があれば、それに匹敵するレベルのものがー、作れるかもしれませんねー」
ボスねぇ。街道のボス以外は発見されてないみたいだけど。一体どこにいるんだか。
「今噂になってるのがー、東の森。何かに一瞬でHPを刈り取られるらしいですー。ボスかも知れませんよー」
どうせ致死性毒持ってる蛇を踏んだとか、食虫植物に食われたとか、上から落ちてきた木の実に当たって死んだとかそんなものだろう。植物学持ってたらわかるけどあそこはモンスター以外が強すぎるからな。最奥には一体何がいるんだろうな。是非とも1番乗りで踏破したいものだ。
仕方ない。神レベルの材料を手に入れたら陸用の装備を作ってもらうか。
「当分はこの装備で行くか。ところでイッカクさん。ギルドに関しての黒い話。聞きたくないか?」
イッカクさんはギルドSランクだからな。何かそういうことを知っているかもしれない。
「何ですかー?」
アレクもいるが……大丈夫か。べらべらと喋るようなやつではないだろう。
俺は簡潔にメールの内容を説明した。生産ギルドが禁じているんだから、それ関連じゃないのかと。
「ギルドの謎の戦力。聞いたことはありますねー。アレク君の方が詳しいんじゃないですかー?」
アレクが? まあ確かに得体のしれないところはあるが。
ギルドの謎の戦力って俺が会ったことのある黒色の服のやつだろうか。
「冒険者ギルドの裏の顔。盗賊ギルドのことにゃ」
アレクは何でもないような顔で話しているが、聞かれたら相当にまずいんじゃないか?
「ギルドによって不都合なことや、治安維持に貢献しているにゃ」
盗賊ギルドなのに治安維持か。それと同時にギルドがバレたら困ることとかも処理していると。犯罪者を捕まえるという名目だったらコソコソ動いていても何も言われないからか。
「毒を以て毒を制すというやつにゃ」
「前に俺たちがあったのも?」
「盗賊ギルドの人間にゃ。盗賊ギルドにあらかじめ許可を得ていればあの木を折ろうが燃やそうが何も言われないにゃ。大量の金が必要だけどにゃ」
アレクはどこか自慢気な顔でひげを撫でている。
要するに、腐っているってわけか。
不老化計画というのも裏である盗賊ギルドがやっているのだろう。普段は歓迎されることだけど、そんな技術を発見してやることと言ったら、独占しか考えられないもんな。
ゴブリンタロウは盗賊ギルドに囚われたっていうのでだいたいあっているかな。単に友達が家に来た可能性もあるが、安否確認のメールの返信は未だにこない。
「そのゴブリンを助けたいのにゃら、貸し1つで案内してもいいにゃ」
案内か。やっぱりこいつも盗賊ギルドの一員か。悪いやつだ。
「そんにゃ顔するにゃ。俺は別に盗賊ギルドに所属しているわけじゃないにゃ」
アレクは不服そうな顔をしているが、信じられん。
「じゃあどうやって入るっていうんだ?」
アレクは得意気に、懐から1枚の真っ黒なコインを取り出して、指の間で器用に回して見せた。猫の手でどうやってやっているんだろうか。
「これにゃ」
1枚だったコインが3枚になった。
何のマジックか、それともスキルか。
「これがあれば盗賊ギルド内に入れるにゃ」
なんでそんなことを知っているのか。そして盗賊ギルドの場所を知っているとは、やっぱりこいつは黒だな。
「じゃあ、3人か」
「私、アレク君、シノブさんの3人ですねー」
俺の言葉の後、間髪入れずに発言してくるイッカクさん。
「足手まといにはなりませんよー」
本当なのか。それにSランクの人が盗賊ギルドなんかに行って大丈夫なのだろうか。
俺は何も言えないし、そもそも誰が行くかを決める人はアレクだけど。
「今からどうかにゃ?」
「いつでも暇ですよー」
「上にならうと」
今から行くのならカラコさんにメールしておくか。
盗賊ギルドに突撃して、ゴブリンタロウ助け出してくるよ☆
これで良し。色々と突っ込みたいところはあると思うが、帰ってからで良いだろう。
今から行くということでアレクが取り出したのはローブと仮面。お揃いのものだ。なんでこんなものを持っているのか。えるるに作ってもらったのか?
俺は頭部装備だけを仮面に変える。
いつも変装ものしないで外を歩き回っているイッカクさんもこの時はキチンと変装している。
完璧だ。
揃った俺達は秘密の諜報員か、どこかの組織のような風体だ。
「カグノは戻っておいてくれ」
『えー』
「また出してやるから」
武器も装備していたら目立つしな。
神弓も一発で身バレするし、カグノも中々に目立つ存在なので出せないだろう。全面的にバレて殲滅! とかになったらカグノには大活躍してもらおう。
あ、床焦げてる。やっべ。大丈夫だよな。ばれないよな。
誰も床なんて注目していない。うん、大丈夫だ。
「では行こうか!」
俺のワクワク感とは裏腹に2人は冷めていた。
「あ、ちなみに入るところまでだけだにゃ、助けるところは」
「私も私で探ることがるのでー」
……え? 俺1人? いや、大丈夫だ。戦闘にならないようにしたら。俺の隠密スキルを最大限活かして切り抜けろ。
「そして行く前に料金」
笑顔で手を出す2人に泣いた。
そして金はもちろんギルドの金庫から。
カラコさん笑顔で俺の借金に追加してそうだな……。
100話まで読んでくださりありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。




