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049. 村だった場所

 そして私は――ペンダントをポーチに入れて、岩の上に横になりました。


 日はすでに高く、青い空が眩しい――


 心にほんの少しのわだかまりは残っているけれど、肩と足の痛みすらも清々しく感じるほどに、気持ちが晴れている気がします……。


 あまりの眩しさに目を細め、光を避けるように顔を背けた時――何かの影が視界に映りました。


「そこにいるのは誰だ⁉︎」


 男の人の声――?


 細めていた目を頑張って開くと、目に映ったのは一人の男性でした。


 短髪に刈り上げの黒い髪。服装は、上は焦げ茶色の甚兵衛、下は動きやすそうな緩い感じの黒くて長いズボン。

 手には木桶を持っていて、どうやらこの滝壺に水を汲みにきたようです。


 近づいてきた男は、訝しげな顔をしてジロジロと私を見ると、言いました。


「怪我……してるのか――?」

「えぇまぁ……でも、放っておいてくれて結構ですよ、対処法はありますので――」


 眩しすぎて、覗き込んでくる男の顔がハッキリとは見えず。私は目を閉じて言いました。


 ポーチの聖水の小瓶が無事なので、それを飲めば良いでしょう……


 すると、はぁ、と大きなため息が聞こえてきました。

 ……。何故見ず知らずのこの男にため息をつかれなきゃならないのでしょう?


 そう思いながら、とりあえず呼吸を整えようと、深めに息を吸いました。


「――そんなわけにもいかんだろう……。

 こんな山奥の人里離れた所で……」


 男は徐に傷ついた肩に触れぬように、私の首を支えて背中に手を回しました。そしてゆっくりとですが、まるで荷物かのように私を担ぎ上げます。


「ちょっ――!」


 肩と足の痛みで文句も言えず。担がれた私は、どこかへと運ばれていきました。


 そして着いた場所は、山中のさびれた


「村――?」

「正確には“村だった”だよ……」


 立ち並ぶ家々は、崩れている所もあったりして、人気が感じられません。


 ……ちょっと不味くないですか? この状況――。

 スーちゃんの力を借りればこの男から逃げ出すことも可能ですが……


 人気のない廃村に男が一人。

 対して私は、怪我をしていて動きが鈍い状態。

 何をされてもおかしくはない状況じゃないですか――。


 と思うものの、あの狐面の男と比べたら、この男からは悪い雰囲気を感じなくて……私は迷っていました。


 村に入って五、六件目あたりで男は歩を止めて言いました。


「……病の子供が一人いるが、うつる病気ではないから心配するな」


 そこには他よりは小綺麗になっている家が一軒。

 男は扉を開けて呼びかけます。


「戻ったぞ。具合はどうだ?」

「お父さん! おかえりなさい……その人は?」


 幼い、女の子の声――


「滝壺の所で拾った怪我人だ。少ないとはいえ獣は出るし、虫も心配だったんで連れてきた」


 あ、そうか……この人はそういうことを心配していてくれてたんですね。


 片手に持っていた桶を下ろして、男は私を板の間に下ろしました。


「――ぅ――」


 肩の痛みに、思わず呻いてしまいます。


「お姉ちゃん、大丈夫……?」


 覗き込んできたのは幼い声の主、薄い橙色で甚兵衛のような上下を着た五歳くらいの少女でした。

 大人しげな声はともかく、その顔色と纏う雰囲気にギョッとしてしまいます。なぜならあの避難所にいた重症の人達と“同じ”だったから――


「――あなたの方が――!」


 胸の奥に、ヒヤリとした何かが走ります。気づけば、体の痛みのことさえ忘れて起きあがろうとしていました。


「――‼︎――」


 左手を支えに起きあがろうとしてしまった私は、もんどりうつことすらできずに、そのままの体制でストップしてしまいました。




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