燃えろ! スーパーエルミリー!!
「おはよう! シャローラ!」
「あ、おはようございます……」
――どよーん……。
「どうした? 暗い顔して。昨日はあんな可愛らしい笑顔だったのに」
「うん……。おにいちゃんと喧嘩したの」
「おにいちゃん?」
「幼馴染のマーティスおにいちゃん」
「なんで喧嘩しちゃったんだ?」
「ええっとね……」
以下、回想。
『おい、シャローラ! また勝手に村の外に出たらしいな!』
『ふえ? う、うん……』
『ダメだろ! 最近はキラーボアがよく出てくるから子どもがひとりで村の外を出歩いちゃいけないって長老様に言いつけられてるじゃないか!』
『ううっ……。ふええええん!』
『泣いても無駄だからな! ダメなもんはダメだ!』
回想、終わり。
「そうか……。しかしどうしてシャローラは村の外に出たんだい?」
「え、ううっ……。それは、その……」
「ん? どうした?」
――タタタタッ!!
「た、たいへんじゃ!」
「あんたは伝令のカイトさんかい? どうした? 息をきらして」
「またキラーボアの大群が現れたのじゃ!」
「なにっ!?」
「今回はクリスタル・ボアキングはおらぬが、このままでは村が危ない! エルミリー殿とマルコ殿の二人は村人たちに家の中に入るように促してから村の外へ向かってくれとルベルガー将軍からの伝言じゃ!」
「おう! まかせとけ!」
「うん! 分かったわ! さあ、シャローラちゃん、急いでおうちに帰りましょう」
――タタタタッ!!
「あ、シャローラ!」
「長老さま!」
「マーティスを見なかったか? どこを探してもいないのじゃ」
「え!? もしかして……」
「シャローラ、なにか知ってるのかい?」
「え、うん……おにいちゃんは村の外に行ったのかもしれない……」
「なんだって!? 心当たりがあるっていうのかい?」
「うん……。わたしが毎日行ってた場所……川沿いにあるお花畑。きっとわたしの代わりにお花の世話をしてるんだと思うの! わたしが村の外にいかなくてもいいように! ねえ、おじちゃんにお姉ちゃん、お願い! マーティスおにいちゃんを助けて!!」
考えるまでもねえだろ……。
(考えるまでもないわ!)
「俺たちに任せとけ!!」
「絶対にマーティスくんを助けるから!」
………
……
――タタタタッ!!
「ねえマルコ! あれを見て!!」
対岸に畑。それにその畑を守るように小さな体をめいっぱい大きくしている男の子がいるじゃねえか。
「おーい!! おまえさんがマーティスか!?」
「おじさんたちはもしかして第一騎士団の人たちかい!?」
「ああ、俺はしがない武器屋のおっさんだが、隣にいるのは騎士のエルミリーだ」
「そっか。よかった……。ねえ、おじさんたちにお願いしたいことがあるんだ!」
「なんだい?」
「この畑を守って欲しいんだ!」
(意外と川幅があるわね。水深もありそう。あ、向こうに橋がある! あそこから渡るのね! でもかなり離れてるわね……)
「分かったよ! だったらそこで大人しく待ってろ! 今からそっち行くから!!」
「マルコ!」
「ああ、あの橋から向こう岸に渡るしかなさそうだな。足元は石だらけだから転ばないように注意しながらいくぞ」
「うん!」
――ドドッ。ドドッ。ドドッ。
「ねえ……。なにか聞こえない?」
「ああ……。こいつはまいったな……」
「グルルル!!」
くっ! イノシシ野郎め……!
都合良く現れやがって!
(どうしよう……。この川を泳いで渡るにはリスクがありすぎるわ。かといって遠くにある橋まで行って、彼のもとまで駆けつけるには時間がかかる……。万事休すね……)
「うああああああ!! こっちくんな!!」
「グルッ!?」
(マーティスくん!? な、なんて気迫なの! イノシシが怯んでる!)
「この畑は死んだシャローラのお母さんが耕してきたんだ!! そして今はシャローラが必死に守ってる。大事な、大事な畑なんだよ!!」
(マーティスくん……)
「だからてめえらなんかに荒らさせてたまるもんか!! 俺が守るんだ!! この畑も! シャローラのことも!! そう約束したんだよ! 天国にいるシャローラのお母さんと!! うあああああ!!」
「グルル……」
(くっ……。今はキラーボアが怯んでるけど、すぐに気を取り直してマーティスくんへ襲いかかるに違いないわ。どうしたらいいの……。マルコ!)
――ぬぎぬぎ!
「ほえええっ!? ま、ま、ま、マルコ!? 何を脱いでるのよ!! 上半身裸じゃない! せ、せ、背中の筋肉が丸見えよ! あ、鼻血でてきちゃった」
――ビリビリビリ!!
「なにやってるの!? それじゃあ、服が着られなくなっちゃうじゃない!? 裸のままになっちゃうよ! あ、鼻血があああ!」
「ええい! うるせえ!! 少し黙ってろ!!」
「ひっ! ひゃ、ひゃい」
川を挟んだ向こう側に敵がいる。
剣は届かねえ。
だがのんびりと向こう岸に渡ってる暇もねえ。
ならば『向こう岸に届く武器』を作るしかねえだろ。
頼む!
もう少しだけ粘ってくれ!
「グルル!!」
「マルコ!! キラーボアが地面を蹴り始めたよ! もう時間がない!!」
「うあああああ!!」
分かってるって!!
細くきった布を織りこんで紐を作る。
中心には四角く切った布を何枚か重ねて……。
「よしっ! できたぁぁ!!」
「マルコ……これは……投石紐!! 石を強く、遠くに投げることができる武器!!」
「さすがエルミリーだ! 知ってるってことは使えるはずだよな!?」
「ふふふ。私を誰だと思っているの? 英雄の騎士、エルミリーよ!」
「よし! なら受け取れ!」
(早くマルコのそばに駆け寄って受け取らなきゃ!)
――ガッ!
(やばっ! 石につまずいちゃった!)
「きゃっ!」
「あぶねえ!!」
――パシッ!
「あっ……」
(こ、これがマルコの背中……。固い筋肉と骨。そして弾力のある肌。一見すると相反する感触が手のひらから電撃のように私の全身を駆け巡り、あらゆる神経を刺激していく!!)
――ドックン!
(なに? なにどうしたの? 胸の鼓動が高鳴っていく……! 力が腹の底からわいてくる! 止まらない! もう止まらないの!)
「うっほおおおおおおお!! 力がみなぎってきたああああああ!!」
「おいおい……いったいどうしちまったんだよ」
「グルル!!」
「畑に入ってくるなあああ!!」
――ザッ……。
「やい、イノシシ野郎……」
「グル?」
「その汚ねえ足を大切な畑に踏みいれたことを後悔しながら死んでいくことね……」
「グルル……?」
――ガッ!
「うりゃあああああ!! スーパージャイロボーール!!」
――ドギュゥゥゥゥン!!
「な、なんてスピードなんだ!?」
――ズシャッ!!
「……イノシシの頭を投石でふっ飛ばしやがった……」
「ふぅ……。背中の筋肉は不可能を可能にするのよ」
「エルミリー! ほっとしている場合じゃなさそうだ! またきやがった!! しかも今度は1頭じゃねえ!」
「なんですって!? マルコ! 背中を貸して!」
「はい?」
――すりすり……。
「ひゃっ! おい!! いきなりなにしやがる!」
「うっほおおおおおおお!! きたきたきたぁぁぁ!! きんにくパワー全開!!」
「な、なんなんだよ? まるでルベルガー将軍みてえじゃねえか」
「ふふふ……。言っておくけど、今、私は将軍を越えたわ。今の私は……。そう、一言でいえば『スーパーエルミリー』ね」
――ゴゴゴゴゴォォォ……。
「グルルルッ!?」
――ザッ……。
「やい、イノシシ野郎ども……。立ち去るなら今よ……。私の理性が残っているうちに……」
「グルルル……」
――ダダダッ!
「あ、逃げ出しやがった!」
「おそぉぉぉい!!」
「へ?」
――ドギュゥゥゥゥン!!
――ドギュゥゥゥゥン!!
――ドギュゥゥゥゥン!!
「ギャオオオオ!!」
――ズシャッ!!
――ズシャッ!!
――ズシャッ!!
「おいおい……。理性がなくなるの早すぎだろ」
「ふふ。イノシシども。またいつでもかかってきなさい。アイル・ビー・バック。訳して、私は再び背中になる……ふふふ」
「いや、絶対に意味違うと思うんだが……。あとけっきょく投石紐を使ってないよな……」




