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最強の傭兵〜VRMMOでも世界最強?〜  作者: ハロウィン
第2階層
99/152

過去⑦

 恭弥は試合が終わり、自分の部屋に戻っていた。

「教官…終わりましたよ」

 恭弥は教官が寝ているベットの前で両膝をついた。

「あ、ああ…キョウヤか…」

「はい…」

「ちゃんと、殺せたか?」

「…はい」

「…嘘はついてないらしいな。目つきが変わった…」

「はい…」

「どうだ?人を殺す感覚は?」

「なんか…胸に穴が開くような感じがしました」

「それは、お前が人間である証拠だ…殺しは1つの手段だ。殺すことに慣れるなよ、キョウヤ…」

「はい…」

「…ここを出ていくのか?」

「はい…妹が待っているので」

「そうか…早いな…時間が流れるのは」

「教官も行きましょう!外に!もうここにいる理由もないでしょう?」

「俺は…うぐっ…」

 教官は胸が苦しそうにおさえた。

「教官!」

 恭弥は咄嗟に教官の手に自分の手を添えた。

「俺は…もう…死ぬ。こんな体でももった方だ…」

「そんなことは…教官は…まだ…」

「いいんだ、恭弥。最後の弟子がお前で…良かった。外に出たら、兄によろしく、な…」

 教官はそう言いきると、すぅーと目を閉じた。

「教官?」

 恭弥が呼びかけても、その後、教官が答えることはなかった。しばらくの間、その部屋に、歯の隙間から漏れ出すような泣き声だけが響いていた。

 そして、教官の死体は教官の兄の使者に引き取られた。恭弥は数人の大物からスカウトしてもらい、この地下武術大会“コドク”から1年ぶりに出ることが叶った。恭弥は一直線に家へ、智美の待っている家へ帰った。


__バシンッ

 智美は帰ってきた恭弥にビンタをかました。

「…ッ!?」

 恭弥は驚いて、手を頬に添えた。そんな恭弥に智美はギュッと抱きついてきた。

「お兄ちゃんの嘘つき…大丈夫って言ったのに!!」

「い、いや、ほら!俺はなんともないじゃん」

 恭弥は両手を上にあげて、自分が無事であることをアピールした。

「1年間も手紙だけで…私がどれだけ心配したか…ッ!!お兄ちゃんが私を心配してくれるように、私もお兄ちゃんが心配なの!お兄ちゃんまで何かあったら、私は…私は…」

 智美は顔を恭弥の胸に押し付け、泣きじゃくっている。

「それは……ごめん」

 恭弥は、帰りたくても帰れなかったと言い訳をしようとしたが、口をつぐみ、静かに智美は抱き返そうとしたが、自分の手を見て止めた。恭弥には、その手に洗い流したはずの真っ赤な血がついているように見えた。

(…そうだ…俺は…人を殺したんだ…この手で)

 恭弥は、智美の腕を振り解いた。

「俺は…俺はお前に触れられない…俺は…人殺しだ」

 恭弥は自分の両手を見つめ、震えていた。

「…私もだよ」

「えっ…?」

 智美は恭弥の両手をギュッと握った。

「私も…私にもお兄ちゃんを行かせた責任がある。無力で非力な私だけど、一緒に業を背負うことならできるよ。自分を責めないで、お兄ちゃん。私にできることは少ないけど、一緒に生きよう…私達は…兄妹なんだから…」

 智美は目を泣き腫らしながら、恭弥に笑いかけた。

「…ごめん…………いや、ありがとう…」

 恭弥は静かに智美を抱き込んだ。そして、恭弥の目からも涙が流れ落ちていた。そんな恭弥と智美を祖母が優しい笑顔で見つめていた。


「やっぱり、お前のハンバーグは美味しいな」

「ありがと」

 落ち着いた恭弥と智美は、食事を始めていた。

「それで、お兄ちゃんは傭兵になれたの?」

「ああ、何人かからスカウトしてもらえたから、なれると思う」

「そう…本当になれるとはね」

「これから、だけどな」

「とりあえず、傭兵になるのはいいけど、ちゃんと帰ってきてよね!少なくとも、電話で連絡してよ!こっちも心配なんだから!」

「…分かったよ」

「もう!本当にわかってるの??」

 その後も、智美がバイトを始めたことなど、1年にあったことをお互いに話しながら、恭弥と智美と祖母は久しぶりの家族の時間を過ごした。

 そうして、恭弥は実家で少し過ごし、その後、アメリカへと傭兵になりに向かった。すぐに恭弥は傭兵として有名になり、大金を稼げるようになっていった。基本的には1人で活動していたが、2年だけ、ある傭兵団に属したこともあった。


(他にも色々なことがあったな〜)

 恭弥は目を開けた。

「さ、帰ろう!」

「そうだな」

「うん!」

 墓参りも終わり、恭弥と智美と明美は帰路についた。

「今日の晩御飯はなに〜?」

 智美と手を繋いで歩いている明美が楽しそうに聞いた。

「うーん…明美は何がいい?」

「明美はね〜ハンバーグがいい!!」

「じゃあ、そうしよっか!」

「やったーー!!」

 明美は無邪気に喜んでいる。

「ほら!お兄ちゃん!行こう!」

 智美が少し後ろを歩いていた恭弥の方を振り向き、笑いかけた。

「おじさん!行こ!!」

 明美もとびっきりの笑顔をしている。

「ああ、今行くよ」

 恭弥は昔を思い出して、少ししんみりとしていたが、自分の前にある現実を、16年間守ってきた2つの存在を見て、少し微笑み、足を早めた。

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