智美の冒険
「やっぱ、ゲームをやるなら冒険しなくちゃね!」
智美は第1階層の[巨大虫の巣穴]がある森に来ていた。
「よろしくね、ネロ」
智美は肩に乗っているネロに挨拶した。恭弥がアインに預けておいたネロの分身を受け取っていたのだ。智美に笑いかけられたネロは、ふんっと顔を背けた。
「嫌われてるのかな…」
ご主人である恭弥と離れ離れになって拗ねているのか、恭弥に贔屓されてる智美に嫉妬しているのかはネロにしか分からない。
「これ、私いるのかな…」
智美が森の中を歩いていて、エンカウントするモンスターをネロが次々と排除していく。なんだかんだ言って恭弥の頼みなので、ネロは仕事しているようである。ちなみに、ネロは【血牙】のイメージが強いが、素の攻撃力もある程度あるのだ。
[巨大虫の巣穴]が近いからか、虫系のモンスターが多い。森の入り口近くはあまりモンスターとのエンカウントが少ない為、ネロだけで捌ききれていたが奥に進むにつれ難しくなったようである。1匹の大きな蜘蛛が智美に襲いかかって来た。
「うわっ、いきなり!?」
恭弥は運動神経がいいが、智美はそうでもない。そんな智美は突然の戦闘に慌てている。
「えいっ!」
智美は咄嗟に持っていた宝魔鎚を振り下ろした。それは真っ直ぐに突っ込んできていた蜘蛛にうまい具合に当たった。伝説級である宝魔鎚を使っても、生産職の智美はSTRは低い。雑魚エナミーでも1発では倒せないようである。
「【分解】!」
智美は運動神経がいい方でないにしても、頭の回転は早い。早速、スキルを使用した。
◇◇◇
スキル【分解】装備品や装飾品を素材の段階まで分解できる。対象がモンスターやプレイヤーの場合、固定ダメージを与える
◇◇◇
固定ダメージは使用者のレベルによって決まる。鍛治や製薬だけでも、生産職はレベルを上げることができる。その為、智美は17レベルまで上がっているのだ。
智美の【分解】が直撃した蜘蛛は、赤いエフェクトに変わった。智美の初めての戦いは勝利を収めた。
「はぁはぁ…」
その後もモンスターの数は増えていき、智美の戦闘も増えていた。AGIの低い智美は1対1が限界で1対複数は難しいのだが、ネロが奮闘しているようである。そんなネロも限界はある。ネロが討ち漏らした3匹のモンスターが智美へと襲いかかってきた。
(もう…無理…)
「【天地創造〈地〉】!」
◇◇◇
スキル【天地創造〈地〉】自身を中心とした一定範囲の地形をイメージ通りに変化させる。その地形変化により相手に与えた影響によりダメージは変わる。1日に1回使用可能。
◇◇◇
1日に1回しか使えないので、智美はすぐに使用しなかったのだが、追い詰められて仕方なく発動したのだ。
__ドガァンンッ
スキルを使用した瞬間、智美を中心として半径50mの範囲に地面から無数の棘のようなものが生えてきた。その棘は、一瞬にしてモンスターだけでなく、大きな木々をも粉々にした。
「うわぁ〜」
想像以上の有り様に智美はポカーンと口を開けている。ネロは小さい目を見開いて驚いているようだ。
《隠しクエスト完了》
◇◆◇
【隠しクエスト】大量発生したモンスターの撃破
報酬 毒蜘蛛の大剣〈中級〉
毒蛾の片手剣〈中級〉
毒蜂の槍〈中級〉
ヴェノム〈上級〉
白蜘蛛の指輪〈特異級〉
◇◆◇
「なにこれ、さっきのクエストだったの?」
どうやら偶然発生していた隠しクエストにより、智美は多くのモンスターとエンカウントしていたようである。
「ドロップアイテムもいっぱいある…」
智美は歩きながら青いパネルを確認していた。クエストの報酬とは別に色々なドロップアイテムも入手したようである。周辺のモンスターを完全に消し去ってしまったのかと思えるくらい、モンスターがいない。そんな中、大量入手したアイテムを確認しながら歩いていた智美は、ある所に着いた。
「ここは…」
智美の着いた場所は[巨大虫の巣穴]である。
__ザッ
白い糸でできたテントの様なそのダンジョンの上に何かがそびえ立っている。その何かの上にはオーロラが輝いており、神の歌声の様な音が鳴り響き始めた。
「一旦、休憩…」
変わらずにウバドス大迷宮で修行していた恭弥は、一息ついていた。
◇◇◇
「助けて」
◇◇◇
そんな恭弥のもとに智美からメッセージが届いた。




