恭弥の装備品
雲、いや煙が消え去ったエンデルの空には、数百年ぶりの太陽といくつもの島々があった。
「この目で見れる日が来るとはな…あれが、エデンだ…」
うるうるとした目で、大教官は指を差した。その指の先には、数多くある空島の中で一際目立っている、世界樹を中心に成り立っている島“エデン”が浮いていた。
「教官、泣いてるんですか?」
恭弥が無遠慮に聞く。
「うるさいっ…」
大教官はズズっと鼻を啜りながら、顔を背けた。
胸がいっぱいになっている大教官は、それ以上話しかけても反応しなかった。仕方なく、恭弥は一礼をして修練場を後にした。
◇◇◇
「渡したいもんあるから来い。」
◇◇◇
(あれ、アインからチャットきてた…って、これだけじゃ分かんねーよ。とりま、鍛冶屋に行くか…)
ウバドス大迷宮に向かおうとしていた恭弥は、目的地をアインの鍛冶屋に変更した。
「おいーすっ。」
鍛冶屋に着いた恭弥は、早速中に入っていった。
「おう!来たか、クロ!」
「…なんでそんな機嫌いいんだ?気色悪いな。」
「大きなお世話だ。」
社交性のあまりない恭弥が、こんな気を許して話せる相手は智美を除いてアインくらいだろう。
「そんなことより、これを見ろよ!」
アインは、カウンターを両手でバンッと叩き、本題に入った。
「…これは?」
恭弥がカウンターの上を見ると、短刀が1つと杖らしきものが1つ置いてある。
「お前から預かってた魔宝石と黒宝骨で作ったやつだ。」
「おおっ!できたのか!?」
恭弥は少し興奮した様にそれらを手に取った。
◇◆◇
宝魔短刀〈伝説級〉
STR+60
スキル【空欄】
宝黒杖〈伝説級〉
INT+40
スキル【黒瘴】
スキル【空欄】
◇◆◇
◇◇◇
スキル【黒瘴】ステータスダウンの効果がある黒い瘴気を放出できる。
◇◇◇
恭弥は黙って、スキルまで確認した。
「えぐいな…」
「だろ?」
アインは、得意げな顔で答えた。
「ありがとな。」
恭弥はそう言って、それらをアイテムボックスにしまった。
「あっ、それじゃあ…」
__バンッ
アインが何かを言おうとした瞬間、エルが慌てた様子で扉を開けて入ってきた。
「兄貴!外見たか??やばいことになってるよ?!!」
「「…………」」
興奮していたのだろう、エルは“兄貴”というワードを使ってしまった。アインと恭弥はエルを、エルは恭弥を見つめて、少しの間沈黙が続いた。その沈黙を破ったのはアインだった。
「…それでエル、どうしたんだ?」
「いや、それでじゃないだろ!兄貴?兄貴って何?」
恭弥は、突っ込まずにはいられなかったらしい。
「あっ、いや、後で説明するからっ!」
エルが慌てた様子で取り繕った。
「で、どうした?」
アインはゴホンッと咳をして、話を戻した。
「あっ、そうなんだよ!空見た??」
「何かあったのか?」
「もしかして煙がなくなったことか?」
恭弥が聞いた。
「そうそう!煙突も運転が止まってるし何か起きてるよ!この2階層で!」
「まじか!」
アインはよりテンションが上がった様子で、外に出た。
「おぉ〜、本当だ。明るいな!」
「これ、絶対何か大きなこと起きるよね?!」
「そうだろうな。あんな怪しそうな空飛ぶ島があるんだしな。」
「あー、早く運営から情報来ないかな〜」
アインとエルは興奮した様子で、肩を並べて空を見上げている。
(…この仲の良さは兄弟だったからなのか。なんだかこの光景、昔も見た気がするな…)
恭弥は、アイン達の後ろで呑気にそんなことを考えていた。
「あっ、アインさんとエルさんだ〜」
外で空を見上げていたアインとエルに、今回の第2階層変化の元凶である智美が手を振りながら近づいてきた。




