41.まずはナルシスト次男から対処しましょう
その後はあまり話をせず二人で馬車に揺られていた。
話題が無かったわけでは無い。ただ口に出すにはとんでもない内容だから沈黙するしか無かった。
前伯爵夫人が私の夫としてフェリクスとラウルの取り換えを計画していたとして、その理由について考えた。
シンプルにラウルの方が息子として好きだから。
じゃあ何故好きかという理由を考えると、どうしても執事アーノルドの顔がちらついてしまうのだ。
前伯爵の死後庭師から突然筆頭執事に抜擢された彼。
ラウルだけを猫可愛がりし、前伯爵夫人との密接さを感じさせる行動。
伯爵家当主のフェリクスを盾の様に扱いラウルの罪を被せようとした忠誠心の無さ。
もしかしたらラウルの父親は前伯爵では無いかもしれない。
けれどまだ不確かな状態でその言葉を口にするのは躊躇われた。
アーノルドは平民で、その子供を伯爵の子と偽って届け出を出すのは普通に大罪だからだ。
ラウルとアーノルドの類似点を考える。アーノルドは白髪交じりの黒髪でラウルも黒髪だ。
でもフェリクスだってそうなのだ。きっと前伯爵も黒髪だったのだろう。
だからこそ前伯爵夫人は元庭師との子を産んだのかもしれない。
幾らでもゲスの勘繰りが出来てしまう。そしてモヤモヤしてしまう。私は頭を振って妄想を締め出すことにした。
私はフェリクスと離婚するのだ。そうしたらアンベールの籍から外れる。他人になるのだ。
あの伯爵家の内情がどれだけドロドロのグチャグチャでも知ったことではない。
寧ろさっさと縁を切った方が良い。
そう考える程、何故か取り残された子供のような表情のフェリクスが胸をよぎる。
これからも名ばかりの当主として弟の踏み台となり尻拭いをして生きていくのだろう。
私は逃げられるけれど、彼はきっと逃げ出せない。
それを救ってあげたいとかどうにかしたいなんて思う程お人好しでは無いけれど、ひたすら嫌な気分だった。
フェリクスだけが嫌な人間だったら良かったのに。
彼と私の話だけで完結できたらシンプルだったのに。ずっとモヤモヤしっぱなしだ。
どちらかというと今は彼よりもラウルの方が不快だし有害であると感じている。
ラウルには嫌な予感しかしないのだ。私とフェリクスが離婚した後も付き纏って来そうな気がする。
離婚したのも自分と再婚する為だとか考えそうな気がする。
だからあのナルシストのアラサー次男はどうにかしなければいけない。
真人間にすることは無理でも女は全員自分に惚れる筈みたいな考えはへし折りたい。
これはフェリクスは関係ない、私の今後の為にだ。
私がそんなことを考えているとアルマ姉さんが日記帳からこちらへ視線を向けた。
「さっきから暗くなったり怒ったり百面相していたけれど、何考えていたの?」
「私そんなに顔に出てた?」
「ええ、今はやってやるぞみたいな表情をしていたわ」
「改めてラウルをどうにかしなければと思っていたの。フェリクスと私が離婚したのは自分と再婚する為だって言い出しそうだから」
「ああ……厄介そうな伯爵家次男の話ね。でも大丈夫よ、顔の良さが根拠ならその自信は簡単に砕けるから」
我が家のカロルの顔面を盛大にぶつけてやりましょう。
長姉は美形で有名な次男の名をあげて嫣然と微笑む。
「カロルにはリンツが連絡を取ってる筈だし、あの子が合流するまでにラウルという男についても詳しく調べさせましょう」
「有難う」
「それと、シスタードロシアにも面会に行くわよ。この日記帳を持ってね」
「わかったわ」
「資料に使いたいから最新のもの以外の日記帳は暫く借りていていいかしら」
姉に言われて私は頷いた。
丁度いいタイミングで御者が公爵邸への到着を伝えてきた。




